記事の概要

楽天市場・Amazonなどネットショップ運営代行をはじめ、モール通販を中心にECサポート・ECコンサルティングを行っているサヴァリ株式会社が運営するYouTubeチャンネル『ECの未来』では、ECに関わるさまざまな方をお呼びして、その方たちの得意ジャンルのお話をMCである株式会社柳田織物の柳田敏正さんと対談形式でお届けしています。

今回は、有限会社宮川洋蘭の代表取締役である宮川将人さんに、「情報発信」をテーマにお話いただく回をご紹介いたします。

【ゲストスピーカー】
宮川 将人さん
有限会社宮川洋蘭 代表取締役
洋蘭専門店「森水木のラン屋さん

【チャンネルMC】
柳田 敏正さん
株式会社柳田織物 代表取締役
ワイシャツ専門店「ozie(オジエ)

作って終わりじゃない!「サイバー農家」が目指す新しいかたち

柳田さん:森水木のラン屋さんは、「楽天ショップ・オブ・ザ・イヤー」を受賞した店舗としてご存じの方も多いと思います。名刺には「サイバー農家」と記されていますが、これはどのような意味を持つのかお聞かせいただけますか。

宮川さん:私が「サイバー農家」と名乗り始めたのは、2007年に結婚を機にネットショップを始めた頃です。日本の農家は一生懸命に良いものを作ることをゴールと考えがちですが、その点に違和感を覚えました。

私たちはリスクを取りながら農業に取り組んでいますが、生産物が誰に、どこで、いくらで買われ、どのような場面で喜ばれているのかを知ることができない。つまり「出荷したら終わり」という状況です。しかし、人の最大の喜びは「必要とされること」や「ありがとう」と言われることだと感じています。

アメリカでの修行時代に、農家として「ありがとう」を直接感じるにはどうすればよいかを考えました。その結果、地方の農家がBtoCで顧客とつながれるのは、インターネットしかないと確信したのです。そこで「栽培」と「サイバー」を掛け合わせて「サイバー農家」と名乗ることにしました。

柳田さん:アメリカで修行された経験が、日本の農業に対する違和感につながったのでしょうか。

宮川さん:アメリカでは誇り高い農家が多いのです。市場が存在せず、すべて顧客やバイヤーと直接取引をする必要があります。そのため「向こうの奥まで自分の土地だ」と誇らしげに語る農家や、自ら販売まで責任を持つ農家が数多くいました。

私の師匠は、元ゴールドマン・サックス副会長のキャシー松井さんのお父様です。奈良から単身アメリカに渡り、バラで世界一、菊で世界一、さらに65歳からはネットを駆使して蘭でも世界一となりました。そんな背中を見ていると、自然と「自分も日本で挑戦したい」と思うようになったのです。

日本は土地の制約から規模で勝負することは難しいため、「作ること」よりも「売ること」に注力すれば大きな可能性があると考え、ネット販売に踏み出しました。

柳田さん:日本では市場取引が基本です。2007年当時はネットショップも増えつつありましたが、従来とは異なる取り組みに苦労も多かったのではありませんか。

宮川さん:一次産業者が直営でネットショップを運営する事例は、当時はほとんどありませんでした。師匠以外で印象に残っているのは、70代の苗木生産者です。冬に視察した際は葉もない苗木が並んでいたので「これほど大量にどうやって販売されるのですか」と尋ねたところ、「これはプラム、こちらはチェリー、レモン。すべて予約済みだよ」と答えられました。2004年頃の話ですが、そうした販売手法に強い衝撃を受けました。

長男誕生のメルマガが教えてくれた、情報発信に必要なこと

柳田さん:ECを始めてからは、どのような取り組みをされたのでしょうか。当時はD2Cも主流ではなく、認知度が低い中での集客は大変だったと思います。

宮川さん:私が「サイバー農家」として最も心掛けているのは情報発信です。自分がどんな人間で、どんなストーリーを持ち、どんな思いで商品を作り、お客様にどうなってほしいのかを常にプレゼンテーションのつもりで発信してきました。農家がキーボードを使えるようになれば強いと考えていたので、実は2004年にアメリカに滞在していた頃からブログを書き続けています。

柳田さん:農家というと日が昇ってから暮れるまで現場にいるイメージがありますが、キーボードが必要だと。

宮川さん:1999年に北海道で農業実習をしていたとき、「農業に最も大切なものは何だと思う?」と尋ねられました。その答えはパソコンでした。「農業経営にパソコンを活用するのは当たり前。田舎にいても関係なく、世界中が宮川くんのお客さんになるよ」と言われ、その言葉に衝撃を受けました。今につながる大きなきっかけです。

柳田さん:1999年当時にその発想は相当先進的ですね。

宮川さん:そうですね。実は「Google」という言葉を初めて知ったのも、その農家の方からでした。

柳田さん:その方は今も現役で活動されているのですか。

宮川さん:はい。ファーム磯部さんといって、新千歳空港近くで米を作られています。作付け前から予約が入り、毎年リピーターのお客様に支えられながら安定して良い米作りを続けておられます。

柳田さん:宮川さんは人との出会いに恵まれていますね。それだけでなく行動力もあります。そもそもなぜアメリカへ行かれたのですか。

宮川さん:高校3年生のときに短期留学を経験し、海外の面白さに魅了されました。学生時代はバックパッカーとしてインド、エジプト、フランスなど13か国を巡りました。海外で多様なものを見聞きすることで自分が豊かになり、ビジネスチャンスも広がると感じたのです。特に蘭は日本だけでなく、アメリカやヨーロッパ、台湾なども大産地なので、英語を話せるようになり、人とつながるビジネスを作りたいと若い頃から思っていました。

柳田さん:それで海外に足を運ばれていたのですね。そして帰国後にECを立ち上げ、楽天市場に出店。当時の楽天市場であればすぐに売れそうな印象ですが、情報発信ではどのような点を意識されていたのでしょうか。

宮川さん:実際には2年間まったく売れませんでした。同業のネットショップ運営者もおらず、熊本の人口1,000人ほどの島に住んでいたため相談できる相手もいませんでした。転機となったのは2009年、長男が誕生したときです。出産したのは店長でもある妻になります。

私は「サイバー番長」としてメルマガにも登場していたのですが、喜びのあまり妻と赤ちゃんの写真を載せ、「今日、私たちは父と母になりました」というメルマガを配信しました。それがバズり、売上がその月に200万円規模まで伸びたのです。

当初は「カフェのようなお店にしたい」と格好をつけていましたが、そこが強みではないと2年かけて気づきました。情報発信=セールスだと思い込んでいましたが、実際にお客様が求めていたのは「どんな思いで花を作っているのか」という農家の姿でした。長男誕生をきっかけに視点を切り替えられたのです。

柳田さん:ご長男誕生のメルマガが売上につながったのは、どうしてだと思いますか。

宮川さん:おそらく「縁起物」と捉えて購入いただいたり、「同世代の子どもがいるから」と共感いただいたり、ご祝儀のようなお気持ちで買っていただいた方もいたのだと思います。私たち自身も喜ばれた実感を得て、「生活のことや自分たちの言葉を発信し、喜ばれるアクションをすれば、さらに喜ばれる」というプラスのスパイラルに入ったのが2009年の転機でした。自分たちの生き方を伝えることの大切さを掴めた瞬間です。

大ヒットの裏で倒れた夜。「足るを知り」、他人のために動き出す

宮川さん:情報発信について、もう一つお伝えしたいことがあります。2012年、母の日に総合ランキング1位を獲得するという出来事がありました。

70代の農家さんが引退される際に蘭を託していただき、その花を母の日向けに育てようと決意しました。周囲からは「母の日はカーネーション以外は難しい」と反対されましたが、無名の蘭に「母想い」と名付け、2年間育て続けました。しかし結果は、従業員への給料が遅れそうになるほどの大失敗でした。

それでも諦めきれず、想いだけで栽培を続けました。3年目にようやく良い花が咲いた話を先輩農家にしたところ、「なぜその話をお客様に伝えないのか。失敗も含めた努力こそが人に響く」と言われたのです。その言葉を受け、すぐにパワーポイントで想いをまとめ、動画を制作しました。すると、普段は10%程度だった転換率が翌日には29.7%に跳ね上がったのです。

柳田さん:3人に1人が購入されたということですね。驚異的です。

宮川さん:1,000万円を目標にしていたところ、一気に5,000万円を売り上げました。

柳田さん:在庫は足りたのでしょうか。

宮川さん:父が始めた蘭の産地だったので、仲間の農家が分けてくれました。ただ、受注体制は完全にキャパオーバーでした。母の日に間に合わせるために、妻と2人で3日間寝ずに作業を続け、出荷を終えたと思ったら、大量の二重出荷が発生していました。届けば2つでも問題ないと思っていましたが、実際には多くのお叱りを受け、ギフト商品を扱う責任の重さを痛感しました。

柳田さん:二重出荷はどれほどあったのですか。

宮川さん:何百件も発生しており、全体の1割以上でした。その後3週間は電話やメール対応、返金作業に追われました。ようやく一段落した瞬間、心臓が止まり、AEDで蘇生していただきました。あのとき、AEDがなければ、今ここにいないと思います。そのとき、妻は2人目の子どもを妊娠していました。

振り返ると、私は「なんとかやってやった」と結果に固執し、「足るを知る」ことができていませんでした。

柳田さん:確かに、ビジネスでは資金も成果も必要ですが、無理をすれば命を削ることにもなりかねませんからね。

宮川さん:自分たちのキャパシティを超えないことは本当に大切です。当時34歳でしたが、それを理解していませんでした。死に直面したことで「自分のためだけでなく、他人のためにできることをしたい」と考えるようになりました。熊本ではサイバー農家の塾を何度も開催しています。研修に来た若い観葉植物農家は、私たちが2年かけて達成した月商100万円を初月で達成しました。

柳田さん:宮川さんのノウハウと、各種ツールが普及した時代背景も相まってですね。

宮川さん:農家が「2本足で立つ」ようになるのは素晴らしいことです。一度手応えを掴めば、挑戦を重ねられます。

柳田さん:失敗を経て取り組まれている点が素晴らしいと思います。失敗も、後に「あの経験があったから」と思えるのであれば財産ですよね。まさに宮川さんにとってはそうした経験だったと感じました。貴重なお話をありがとうございました。

おわりに:想いを伝え、共感を育むネットショップ

宮川さんの歩みには、農業という一次産業に“物語”と“消費者とのつながり”を持ち込む挑戦がありました。単に良いものを作るだけでなく、その背景にある想いや人柄を発信することで共感を生み、それが売上にも直結しています。

こうした取り組みは農業に限らず、すべての事業者さんに通じる学びだと思います。商品そのものの説明だけではなく、「誰が」「どんな思いで」届けているのかを伝えることが、顧客との長期的な関係づくりにつながるのではないでしょうか。

EC市場の真の発展に貢献をという想いで、「ECの未来」を運営しているサヴァリ株式会社は楽天市場・Amazonなどネットショップ運営代行をはじめ、モール通販を中心にECサポート・ECコンサルティングを行っています。EC運営に不安を抱えている事業者様は問い合わせてみてはいかがでしょうか。

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