ふるさと納税に関する現況調査結果2021年度版の振り返りと自治体様好事例まとめ

2022年7月末に総務省から、2021年度の「ふるさと納税に関する現況調査結果(以下、総務省レポート)」が公開されました。本記事ではレポートのサマリーと、その中で新しく出てきた項目や各自治体の取り組みについて、また今後のふるさと納税の方向性について書いていきたいと思います。

2021年度の総務省レポート概要

2021年度は寄附額8,300億円(昨年対比120%超)、寄附者は740万人で過去最多となりました。

自治体別の数字比較については様々な情報が出ているのでこちらでは割愛します。ふるさと納税研究所の西田社長の記事がよくまとまっていますのでそちらを掲載します。

引用:『ふるさと納税分析レポート』令和3年度ふるさと納税寄附額の自治体別対前年度伸び率を分析しました。

本記事では大枠の基礎数値のおさらいと前年からの変化点について書いていこうと思います。(2020年度の総務省レポートに関する記事はこちらをご覧ください。)

ふるさと納税業界の基礎数値まとめ

引用:ふるさと納税に関する現況調査結果(令和4年7月28日公開)
※引用:ふるさと納税に関する現況調査結果(令和4年7月28日公開)

総額8,302億円(2020年比較:123%)
寄附件数4,447万件(2020年比較:127%)
内、ワンストップ特例申請をおこなった件数1,401万件(使用件数率31%)

引用:ふるさと納税に関する現況調査結果(令和4年7月28日公開)
※引用:ふるさと納税に関する現況調査結果(令和4年7月28日公開)

控除額5,672億円(寄附総額のうち68%)
寄附実施人数:741万人
内、ワンストップ特例申請をおこなった人数375万人(使用件数率50%)

次に最大規模についてです。ふるさと納税の控除額は所得税と住民税から算出されますが、約2割がふるさと納税の控除額に充当するものです。日本国民全体の住民税はおよそ12兆円、そのうちの2割ですのでざっくり計算すると市場規模は2.4兆円あることになります。

ふるさと納税の利用人数の観点からもみてみましょう。少し古いデータですが、2019年の日本の全世帯数は5,178万世帯、うち73%(3,800万世帯)が住民税課税世帯となります。今回実施は740万人のため実施率は20%。従って、寄附額で見ると最大3倍、寄附人数でいうと最大5倍というのが規模想定になります。

厚生労働省「2019年国民生活基礎調査」より(黄色は筆者)
※厚生労働省「2019年国民生活基礎調査」より(黄色は筆者)

まとめると、

  • 現在8,300億円であり、最大で3倍まで成長余地がある
  • 人数で見ると最大5倍まで増加する成長余地がある
  • トレンドとして、昨年比120%超のペースで成長中

除外になった自治体

この1年間で残念ながら2つの自治体がふるさと納税から対象除外が決定されています。どちらも寄附額上位であり、影響力の強い自治体です。

宮崎県都農町

宮崎県都農町

<除外理由>
都農町が掲載の返礼品「宮崎牛の赤身肉切り落とし計1.5kg以上」への寄附が過度に集中し受託業者が対応困難に。かつ返礼品調達のルールを超過していた。

総務省は2022年1月14日、宮崎県都農町を同月18日から2年間、ふるさと納税制度の対象から除外すると発表した。返礼品の牛肉の調達費が「寄附額の30%以下」との国の基準を超え、60~85%に達していた。除外は2020年7月の高知県奈半利町以来。都農町は20年度の寄附額が全国5位の82億6800万円で、町の財政運営に痛手となりそうだ。(本文ママ)

引用:宮崎・都農町、ふるさと納税除外 返礼品基準超で総務省

兵庫県洲本市

兵庫県洲本市

<除外理由>
調達ルールを逸脱した温泉利用券の返礼品。

総務省はふるさと納税制度の対象から兵庫県洲本市を除外すると発表した。期間は2022年5月1日から2年間。返礼品の基準に違反し、調達費が寄附額の30%を超える温泉利用券を贈っていたと認定した。除外は全国で3例目。洲本市への寄附額は2020年度は約54億円で、財政運営や地域の観光業に悪影響を及ぼす可能性がある。(本文ママ)

引用:ふるさと納税、洲本市除外 年間54億円の財源失う

付随して、総務省からの除外決定の後に、洲本市が直近の寄附者に電子マネーカードを送った件も不穏な空気が流れています。2021年度以降に寄附した約48万人に対して1人300円分、総額約1.4億円。受け取った人の一部から疑問の声が上がり、市は「おわびの気持ちだったが、『対応としてふさわしくない』という意見ももっとも」と釈明したものとなりました。

求められる適切な運営とは?

上記のような除外が出てしまうことは業界としても非常に残念です。これらの事例に限らず、規模が大きくなるにつれ、ふるさと納税自体の文脈理解が浅い広告代理店や運営を丸投げしてしまう自治体により、機能的価値で過度に競い合う事態が起こっています。お得感の強調や広告出稿量を強めるのではなく、適切に地域の魅力を発信し、寄附者からのフィードバックをもらうことで改善を重ねていくような働きかけが業界として必要なタイミングだと感じています。

では、地域の魅力を発信するという本来の文脈に沿って運用するにはどうすればよいのでしょうか。現状の課題整理と大局観の変化、求められる姿の順で見ていきたいと思います。

現状整理

現状整理

お礼の品が前面に出ている状態であり、自治体目標も寄附額最大化が最重要課題となっています。その中で広告競争や差別化(機能的な価値による競争:値下げや増量などによるお得感の引き上げ)が横行しています。自治体の中にはふるさと納税がメインの歳入となっている地域も多く、この流れはある程度仕方のない状態ともいえます。

大局観の移行

大局観の移行1

寄附額は2021年度8,300億円(2020年度比:123%)とかなり大規模になってきました。100億円を超える自治体も6つとなり、10億円超えは190自治体と増加しています。

※2020年度は100億円超え3自治体、10億円超え153自治体

市場規模は約2.4兆円と想定されており、2022年度は1兆円を超えるペースで進捗中ではありますが、寄附額の伸びは徐々に鈍化していくものと考えられます。

また通常のECとは違い、毎年ふるさと納税をする動機があるため、自治体として、まだ寄附をいただいたことがない寄附者より、過去自治体寄付者に対してコミュニケーションを深める方がはるかに効率的といえるでしょう。

大局観の移行2

※ふるさと納税は年間の控除額に対しての寄附のため、毎年決まった金額を任意の自治体に寄附可能。通常購入に比べて再利用率が圧倒的に高い。

求められる姿

求められる姿

上記の大局観の変化からも「リピート寄附」をどう集めるかが非常に重要だと考えています。様々な自治体職員の方とお話しして強く感じることは、

「首長がやる気の自治体さんは伸びている」、「寄附を集めた先の用途まで考えた運用ができているところは強い」ということです。

“寄附を募る”から自治体の本来の目的である”再現性のある地域経済作り”へのシフトのために、関係人口の創出や自治体認知の増加など地域課題をより意識した運用にしていく必要があります。

自治体の好事例まとめ

繰り返しになりますが、ふるさと納税の制度は「ふるさとの魅力を発信すること」が本質的な目的として作られています。返礼品だけに魅力をつけて寄附ではなく「購入」の文脈が強い昨今の状態は少し異常と言わざるを得ません。

一方で寄附者を大事にする動きや、事業者育成・産業振興の動きも活発化してきています。素敵な自治体の取り組みをご紹介していこうと思います。

その1:きっとミート

きっとミート1
きっとミート2

2021年度は2位となった宮崎県都城市の事例。2021年度寄附額146億円。申し込みをした寄附者に食材を送付、当日Zoomで焼酎の蔵元を生中継で放送や、食材の美味しい食べ方をご紹介するコンテンツを提供。

参考:https://kitmeaet.furusen-miyakonojo.com/

その2:ふるさと納税返礼品アイデアコンテストvol.1

ふるさと納税返礼品アイデアコンテストvol.1

2021年度64億円の寄附を集めた兵庫県加西市の事例。

様々な地域資源を掘り起こしその資源を活かして地域活性化に寄与する事を目的として、ふるさと納税返礼品のアイデアコンテストを実施。市民・寄附者にアイデアを募り、集まったアイデアを市内協力事業者に提供・協議。単純な商品自体の魅力だけでなく、ストーリーのある返礼品が期待できる取り組み。

参考:https://www.pursuit-inc.jp/service_list/entry/post_12/

その3:「写真の町」ひがしかわ株主制度

「写真の町」ひがしかわ株主制度

2021年度9.5億円の寄附を集めた北海道東川町の事例。

東川町を応援しようとする方が町への投資(寄附)によって「株主」となり、まちづくりに参加する制度。この投資は、自治体への「寄附」に該当するため「ふるさと納税」として住民税など税法上の控除を受けることができるほか、「特別町民」への認定や、「株主証」の発行、さらには、宿泊優待も受けることが可能に。

参考:https://higashikawa-town.jp/kabunushi/about

その4:新たな産業振興としての「ホタテ」養殖事業

2021年度125億円の寄附を集めた北海道白糠町の事例。

記録的な不漁の中、転換期を迎えている漁業振興施策の推進にあたり、町が事業主体となって海洋調査を実施。その取り組みの中でホタテ増養殖事業として稚貝放流を開始。今後の産業の柱育成を目的にしたプロジェクト。

参考:https://www.town.shiranuka.lg.jp/section/kikaku/h8v21a000000gjm7-att/h8v21a000000gknm.pdf

その5:「山形心のふるさと県民」に認定

画像は同県のホームページより抜粋
画像は同県のホームページより抜粋

2021年度25億円の寄附を集めた山形県の事例。

3年連続山形県に寄附いただいた方を「山形心のふるさと県民」に認定し、特典として体験型返礼品のモニターの募集や山形ファンクラブ会員カード100ポイント付与券の贈呈を行っている。

参考:https://www.pref.yamagata.jp/110010/kensei/zaisei/zei/furusatonouzei/index.html

今回ご紹介したような、地域の魅力を高めるもの、伝えていくものが自治体発で増えていくことを期待しています。そのためにポータルサイトや中間事業者の方々が切磋琢磨し業界を盛り上げていくことを求めていきたいと考えています。

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