
前回は、多軸コミュニティ分析の「ヒト軸」に着目し、誰がブランドを語っているのかを把握する方法についてご紹介しました。
自社ブランドと競合ブランドのUGC投稿者を同じ観点で分析することで、自社が相対的に強い層と、競合が強い層が見えてきます。その結果をもとに、どの層を狙い、どの層はあえて狙わないのかを判断しやすくなります。
ただし、狙う層が決まっても、その層に何を伝えるべきかまでは、ヒト軸分析だけではわかりません。
そこで今回は、2つ目の軸である「コト軸」、つまり「ブランドがどのような文脈で語られているのか」に関する分析を掘り下げます。
柴岡 幸輝
株式会社ホットリンク
ソリューション営業部 部長
新卒で広告代理店に入社し、デジタル領域のマーケティング支援に従事。その後、インフルエンサーマーケティング専業会社でのクライアント支援を経て、2022年にホットリンクへ入社。アカウント運用・SNS広告・UGC活用を横断した支援経験を積み、現在はソリューション営業部の部長として新規案件の獲得を牽引。2026年6月には、現場で得た知見とノウハウを凝縮した書籍『SNSマーケティング「超」攻略事典88』を発売。
同じカテゴリでも、ブランドによって語られ方は異なる
同じ商品カテゴリに属するブランドでも、生活者から語られる内容は同じではありません。
たとえば、冷凍宅配弁当であれば、「仕事が忙しい日の夕食を手軽に用意できる」と語られるブランドもあれば、「たんぱく質やカロリーを管理しやすい」と語られるブランドもあります。
また、「家族の食事を短時間で用意できる」「冷凍庫にストックしておくと安心」といった文脈で選ばれている場合もあります。
どのような文脈で語られているかは、生活者がそのブランドを思い出す場面や、選ぶ理由と深く関係しています。
企業が同じように「手軽でおいしい冷凍宅配弁当」と訴求していても、生活者の中では、「残業で料理をする時間がないときに選ぶブランド」「食事管理を続けたいときに選ぶブランド」「家族の食事を効率よく準備したいときに選ぶブランド」と、異なる意味づけがされている可能性があります。
この違いを把握するのが、コト軸分析です。
UGCを文脈ごとに整理する
コト軸分析では、自社ブランドと競合ブランドのUGCを、共通する話題や利用場面、体験ごとに分類します。
冷凍宅配弁当のUGCであれば、たとえば次のような文脈が考えられます。
- 残業や仕事で忙しい日の夕食
- 在宅勤務中の昼食
- たんぱく質やカロリーの管理
- ダイエット中の食事
- 家族の食事準備の時短
- メニューの豊富さや味への評価
- 急な残業や体調不良に備えたストック
このように、似た話題や体験を含むUGCをまとめたグループを、ここでは「文脈クラスタ」と呼びます。
各ブランドについて、どの文脈クラスタが多いのかを確認することで、そのブランドがどのような場面、課題、価値と結びついて語られているかを把握できます。
また、自社ブランドと競合ブランドを同じ条件で分析することで、自社が相対的に強い文脈、競合が先行している文脈、新たに参入する余地がある文脈が見えてきます。
コト軸分析でわかる3つのこと
コト軸分析では、主に次の3つを確認します。
自社ブランドがすでに強い文脈
競合と比べて、自社ブランドのUGCが多く生まれている文脈です。自社ならではの強みや、生活者からすでに支持されている価値として、継続的に強化する候補になります。
競合が先行している文脈
競合ブランドが多くのUGCを獲得し、生活者との結びつきを形成している文脈です。
その文脈で自社が優位性を発揮できるのであれば、競合とは異なる訴求から参入することを検討します。一方、商品特性やブランドイメージの面で勝ち目が薄い場合は、あえて同じ文脈で競わないことも戦略です。
新たに参入する余地がある文脈
自社ブランド、競合ブランドのいずれも、まだ明確なポジションを確立していない文脈です。生活者のニーズやUGCが存在していても、特定のブランドとの結びつきが強くなければ、先行して想起を形成できる可能性があります。こうした文脈を「ホワイトスペース」と呼びます。
ただし、ホワイトスペースだからといって、必ず参入すべきとは限りません。自社の商品特性や顧客層、事業上の優先度との相性を見極める必要があります。
事例で見る、コト軸分析の使い方
前回と同じく、架空の冷凍宅配弁当ブランドを例に考えてみます。
ヒト軸分析では、自社ブランドは忙しい会社員や在宅勤務者、競合A社は筋トレ・ボディメイク層、競合B社は子育て中のファミリー層から多く語られていることがわかりました。
それぞれのUGCを文脈ごとに分類したところ、次のような違いが見えてきたとします。
・自社ブランド:
「残業後でも短時間で夕食を用意できる」「会議が続く日の昼食に便利」といった、忙しい平日の食事を手軽に済ませる文脈が中心
・競合A社:
「たんぱく質を取りやすい」「カロリーを計算しやすい」といった、筋トレやボディメイク中の食事管理に関する文脈が中心
・競合B社:
「家族の食事をまとめて準備できる」「人数分を用意しやすい」といった、家族の食事準備を効率化する文脈が中心
自社ブランドの強みを確認する
自社ブランドでは、「仕事が忙しく、料理をする時間がない日に、自分の食事を手軽に用意できる」という文脈のUGCが、競合2社よりも多く生まれていました。
この結果から、自社ブランドは単に「手軽な冷凍宅配弁当」としてではなく、「忙しい平日の食事を支えるブランド」として語られていると捉えられます。
この文脈が自社ならではの強みであれば、残業後の夕食や在宅勤務中の昼食など、実際にUGCが生まれている利用場面を、投稿や広告でも継続的に伝えることが考えられます。
競合が先行する文脈への参入を判断する
競合A社では、たんぱく質やカロリーなど、「食事の栄養管理」に関する文脈が多く見られました。
自社商品にも、たんぱく質量や栄養バランス、メニュー構成などで競合A社と戦える強みがあるのであれば、「忙しい日でも栄養バランスを整えやすい」といった訴求から、この文脈への参入を検討できます。
一方、商品の栄養設計やブランドイメージの面で優位性を発揮できないのであれば、無理に同じ文脈を取りに行く必要はありません。
競合A社と正面から競うよりも、自社がすでに強い「忙しい平日の食事」という文脈を深めるほうが、効果的な場合もあります。
競合B社が強い「家族の食事準備」についても、同様です。自社商品が一人分の食事や個食に適した設計であれば、「家族全員の食事を用意する」という文脈は、自社の強みと合わない可能性があります。
競合が強い文脈をすべて取りに行くのではなく、自社が勝てる文脈と、あえて競わない文脈を分けて考えることが重要です。
ホワイトスペースへの参入を検討する
分析の結果、たとえば「急な残業や体調不良に備えて、冷凍庫にストックしておく安心感」という文脈のUGCが一定数ある一方、3ブランドのいずれにも集中していなかったとします。
この場合、特定のブランドがまだ明確なポジションを確立していない、ホワイトスペースである可能性があります。
自社ブランドが、保存しやすさや注文のしやすさ、日常的にストックできる価格などの強みを持っていれば、この文脈への参入を検討できます。投稿や広告で「忙しい日に備えておける食事」という利用場面を伝え、狙った文脈のUGCが生まれるかを小さく検証することが考えられます。
一方で、商品やサービスの特徴と合わないのであれば、ホワイトスペースであっても参入を見送る判断が必要です。
文脈ごとに「強化する・参入する・狙わない」を決める
コト軸分析の役割は、UGCを文脈ごとに分類することだけではありません。自社がすでに強い文脈、競合が先行する文脈、まだ特定のブランドとの結びつきが強くない文脈を把握し、どこで戦うのかを決めることです。
- 自社がすでに強い文脈は、継続して強化する。
- 競合が先行する文脈は、自社が優位性を発揮できる場合に限って参入を検討する。
- ホワイトスペースは、自社の商品特性や事業方針との相性を見極めたうえで、小さく検証する。
すべての文脈に接点を広げるのではなく、どの文脈を強化し、どの文脈には参入しないのかまで判断することで、SNS施策の優先順位が明確になります。分析結果は、投稿テーマ、広告訴求、インフルエンサー選定、キャンペーンなどに反映できます。
たとえば、自社ブランドが「忙しい平日の食事」という文脈で強いのであれば、実際のUGCを参考に、残業後や会議が続く日など、生活者が商品を必要とする場面を投稿や広告で具体的に伝えます。
競合が先行している文脈へ参入する場合は、競合と同じメッセージを繰り返すのではなく、自社の強みを活かした入口をつくります。
今回の例であれば、「高たんぱく質」を正面から訴求するのではなく、「忙しい日でも栄養バランスの整った食事を短時間で用意できる」といった、自社の強みと結びついたメッセージが考えられます。
また、新たに参入する文脈については、まず投稿や広告で小さく検証します。施策後には、その文脈に関するUGCが増えたかだけでなく、狙ったターゲット層から語られるようになったかも確認します。
ヒト軸とコト軸を行き来しながら分析することで、「誰に、何を届けるか」を、より具体的に設計できるようになります。
まとめ
同じカテゴリのブランドでも、生活者から語られる文脈は異なります。
コト軸分析では、自社ブランドと競合ブランドのUGCを共通する話題や利用場面、体験ごとに分類し、自社がすでに強い文脈、競合が先行している文脈、新たに参入する余地がある文脈を把握します。
その結果をもとに、どの文脈を強化し、どの文脈へ参入し、どの文脈はあえて狙わないのかを判断します。
次回は、ヒト軸とコト軸を掛け合わせ、「どの層に、どの文脈で、どの程度投資するか」という施策の優先順位を決める方法についてお伝えします。
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