
日本広告審査機構(JARO)は、2025年度における広告への苦情受付状況を公表しました。同年度の苦情総数は12,589件となり、過去最多を記録したことが明らかになりました。これは新型コロナウイルス感染症の影響下にあった2020年度の11,560件を上回る数字です。
ネット広告への不快感が大幅に増加
2025年度は、インターネット上における広告や表示に対する苦情が前年比1.7倍と大幅に増加しました。特筆すべきは、広告の表現に関する苦情が2.4倍、広告の手法(掲載方法)に関する苦情が2倍となり、他の媒体と比較して極めて高い伸び率を示したことです。
性的表現を含む不快な広告への批判が集中
苦情が急増した主な要因として、性的な広告への苦情の増加が挙げられています。レシピサイトなどに性的な広告が掲載される事例が社会的な関心を集め、2024年6月から7月にかけてメディアで報道されたことをきっかけに、一部の業界団体が自主的な取り組みを開始しました。この動きによって、広告に関する苦情はJAROに伝えることができるという認識が広まり、結果として苦情件数が急増する形となりました。
性的表現以外の不快感も大幅増加
増加したのは性的な広告への苦情だけではありません。気持ち悪いと感じられる表現や、恐怖心を抱かせるような表現に対する苦情も多数寄せられ、広告表現全般に関する苦情が増加する結果となりました。
広告主別に見た場合、最も多くの苦情が寄せられたのは医薬部外品などをECサイトで取り扱う事業者で、737件の苦情が集まりました。主な苦情内容は、腸や膀胱、耳内部などのイラストが気持ち悪い、GIFアニメーションが鬱陶しいといったものでした。
電子コミックに関しては、業界団体の対応により5月以降、裸体や性行為を描いた露骨な広告への苦情は減少しましたが、6月から7月の報道をきっかけに苦情が再び急増しました。ただし、苦情内容はそれまでと異なり、セリフなどで性行為を暗示するような着衣の広告や、業界団体非会員企業の広告が中心となりました。広告表現への苦情は上半期がピークとなり、その後は落ち着きを見せています。
広告掲載方法への不満も増加傾向
2025年度は不快な表現だけでなく、広告の掲載方法についても苦情が増加しました。件数は1,027件と全体から見れば多くはありませんが、前年比163%と大幅な増加となりました。増加したのはほぼインターネット上のもので、前年度の405件から809件へと倍増しています。
主な苦情内容は以下のように分類されます。
第一に、広告の量や大きさ、表示頻度、点滅、動きに関するものです。GIFアニメーションなどがチラチラと動いて鬱陶しい、様々なサイトで同じ広告が表示されるといった苦情が含まれます。「ゲームの至るところで動画が表示されて目障り」「気持ち悪い広告がページ内の何か所にも表示される」「画像が動いたりチカチカする色で目に負担がかかる」などの声が寄せられました。
第二に、非表示設定の不備に関するものです。閉じるボタンが存在しない、見つけにくい場所に配置されている、極端に小さくて誤タップを誘発するといった閉じるボタンに関する苦情や、非表示設定を何度行っても毎日しつこく表示されるといった内容が含まれます。
第三に、誤認や誤誘導に関するものです。閉じるボタンに見せかけた偽装や、誤タップを誘う配置などが該当します。「広告が動いて誤タップしてしまう」「煽情的な見出しで詐欺サイトに誘導される」「×ボタンを押しているのにリンク先に飛ばされる」などの苦情がありました。また、ログインしたサイトで「メッセージが届いています」「確認」と表示された広告や、記事閲覧中に「続きへ」「次の内容へ移動」とだけ書かれた広告で「記事本文と間違える」などダークパターンに関する指摘もあります。
第四に、視聴や閲覧の妨害に関するものです。広告が画面を覆って記事や動画が見られなくなる、スキップできない動画広告、広告のせいで元の記事に戻れないといった声が寄せられました。
第五に、ステルスマーケティングや「広告」表示の不備に関するものです。広告である旨の表示(PR表記等)がない、インフルエンサーのSNS投稿など広告であることを隠していると思われるものなどが含まれます。
苦情全体の状況
2025年度は不快な広告表現への苦情増加により、苦情総数は12,589件となりました。これは設立以来の過去最多件数です。これまでの最多記録は新型コロナウイルス感染症の状況下にあった2020年度の11,560件でしたが、それを上回る結果となりました。称賛や照会などを含めた総受付件数は14,723件で、2020年度の15,100件に次ぐ件数となっています。
業種別の苦情状況
2025年度は多くの業種で苦情が増加し、特に広告表現に関するものが増加しました。
電子書籍・ビデオ・音楽配信は1,171件の苦情があり、そのうち909件が性的な表現への苦情でした。電子コミックでは性行為やレイプなどを明示・暗示したバナー広告が不快という声や、掲載場所が不適切というものが6月から9月にかけて急増しました。
性的な広告への苦情は全体で1,937件寄せられました。多かったのは電子書籍・ビデオ・音楽配信909件、オンラインゲーム382件、医院・病院122件などです。電子書籍・ビデオ・音楽配信についてはインターネット上の電子コミック広告が大半を占めますが、テレビにおいても動画配信サービスの番組名に性的な言葉が含まれていることに対して197件の苦情が寄せられました。
医薬部外品、医薬品についても広告表現への苦情が増加し、前年度の倍以上の件数となりました。医薬部外品の苦情のうち692件(64.3%)、医薬品の251件(62.8%)が広告表現に対するものです。腸や筋肉、内耳などのイラストが気持ち悪い、おならやガスなどの表現が汚いという声が目立ちました。
オンラインゲームも広告表現への苦情が554件(77.2%)を占め、性的表現のほか、人が殺される場面がグロテスクで気持ち悪い、怖いといった苦情も寄せられました。医院・病院は包茎手術やED治療の動画広告で性的な表現が不快というものがありました。また、医院・病院については「○kg痩せる」「脂肪を溶かす」など医療の内容に関する大げさな標ぼうへの苦情が82件、「痩せなければ全額返金」「○○円のお試し体験」とうたいながら実際は高額契約になるなど価格・取引条件に関する苦情が184件寄せられています。
その他、クレジットカードのテレビCMに対して回転する表現で気分が悪くなるといった苦情が297件寄せられました。生成AIを使った投資詐欺と思われる苦情を含む証券・債券・投資その他は158件で前年比478.8%となりました。
媒体別の苦情状況
インターネットの苦情が急増し、前年度の1.7倍となりました。電通が発表した「日本の広告費」でインターネット広告費が2025年に50.2%と初めて過半数に達しましたが、同年度にJAROでも初めてインターネットが苦情全体の6割を占めました。性的な広告への苦情の8割以上がインターネット上の広告でした。
媒体別ではインターネットが急増し、初めて苦情全体の60.9%を占めました。主に増加したのは表現で前年比241.2%でした。手法(掲載方法など)も件数は多くないものの増加しており(同199.8%)、広告が閉じられない、オプトアウトしても何度も表示される、チラチラと動くGIFアニメーションが鬱陶しいなどの苦情が寄せられました。
インターネットの上位業種は医薬部外品935件、電子書籍・ビデオ・音楽配信934件、オンラインゲーム653件、医院・病院471件で、いずれの業種も性的、グロテスクなどの苦情が寄せられました。
第2位のテレビも増加し前年比123.2%となりました。内訳はクレジットカード324件、電子書籍・ビデオ・音楽配信232件、団体148件、医薬部外品132件、買取・売買128件などでした。

苦情の内容別分類
苦情は内容により、表示、表現、手法に大別されています。表示は価格・品質・成分・効能効果など商品やサービスの機能、性能、特徴に対して虚偽、誇大、まぎらわしい等と主張する苦情です。表現は広告の表現物が不快、差別的、社会的・倫理的に問題、子どもへの影響などに意見を表明する苦情です。手法は頻度、音量、映像の点滅、表示する仕組みなど広告のやり方に対する苦情です。
近年では新型コロナウイルス感染症の状況下にあった2020年度を中心に表示が表現を大きく上回っていましたが、2025年度は表現が急増し逆転しました。
表示で多かったのは医薬部外品326件、医院・病院268件、化粧品198件、買取・売買198件などでした。医薬部外品ではシミや育毛など効果に関するものが多くなっています。医院・病院では美容医療の料金や契約条件が倍増し(184件、前年度91件)、「見解」も4件発信されました。
表現は6,749件、前年比184.1%と著しく増加しました。表現で多かったのは電子書籍・ビデオ・音楽配信1,029件、医薬部外品692件、オンラインゲーム554件、クレジットカード333件、医薬品251件などです。不快のほか、時間や場所を考えてほしい、子どもに見せたくないなどの苦情が多数寄せられました。
手法は1,027件と件数は多くないものの、前年比163.8%と急増しました。その約8割がインターネット上のものでした。最も多いのは同じ広告が繰り返し表示されることで、非表示にしても改善されないという不満もありました。そのほか、閉じられない・強制的に遷移、誤タップ誘導、全画面を覆うなど閲覧を妨害するものなどがありました。苦情対象は広告主だけでなく、サイト運営者やプラットフォーム事業者などに向けられたものも目立ちました。

20代から30代の苦情が増加、男女比も縮小
2025年度は10代から70代以上のすべての年代で増加となりました。増加率が目立つのは30代(213.1%)、20代(170.5%)で、男性は10代から30代が、女性は20代から60代が大きく伸びました。
男女比では例年男性が6割以上を占めていましたが、今期は女性からの苦情が増加し、男性54.4%、女性45.3%と差が縮小しました。20代から50代は女性が上回りました。
女性からの苦情が増加した要因の一つは性的な広告への苦情増であり、1,937件のうち申立者の4人に3人が女性(1,470件・75.9%)でした。
苦情対応の状況
2025年度は、広告主への苦情情報提供を前年度を大きく上回る33回、苦情2,470件分行いました。このうち非会員企業は32回2,432件でした。
性的な広告については電子コミックとオンラインゲームで複数事業者に苦情が寄せられていたため、それぞれの業界団体にも情報提供を行い、自主的な取り組みを進めていただきました。
「見解」発信については20件(厳重警告9件、警告11件)で、委員会での審議を経ずに発信する「事務局からの文書発信」は5件でした。「見解」は今期もインターネット上のものが多く、17件を占めました。美容医療を中心に医療機関の苦情が増加しており、「見解」も4件発信されました。いずれも安価でサービスを受けられるかのように表示しているものの、実際に行ってみると高額な契約の1回分の支払額にすぎない内容だったというものです。

広告の自主規制を一歩前へ
JAROは、消費者から寄せられた苦情や意見を業界や企業へ真摯にフィードバックし、広告の健全性と信頼性の向上に寄与する役割を担っています。
2025年度の苦情を分析すると、例年とは異なるいくつかの顕著な傾向が見られました。具体的には「インターネット上の広告・表示に関する苦情の急増」「30代・40代女性からの申し立ての増加」そして「不快感を伴う広告表現や、消費者の意に沿わない誘導的な手法に対する苦情の増加」です。広告市場が拡大を続ける一方で、消費者との信頼関係における課題が浮き彫りになっていると考えられます。これは特定のメディアに閉じられた問題ではなく、広告全体に対する忌避感や不信感、ひいては広告を遠ざける消費者の増加へと、これまで以上に急速につながっていく予兆ではないかと指摘されています。
広告の適正化に向けた取り組みは、これまでも企業や団体などの関係者が志高く進めてきましたが、多様な要因や環境の変化により、いまだ道半ばである部分も少なくありません。こうした状況を前に、JARO自身はもちろん、広告主、媒体社、プラットフォーマー、広告会社など、広告に携わるすべての者がそれぞれの立場から社会的責任をより一層自覚し、消費者の声に真摯に耳を傾けながら、協調して大きな力を生み出すことが強く求められています。現時点で着手できていない領域には主体的に取り組み、生じている課題には自主的な解決策を模索しながら、広告の自主規制を一歩前へ進めていく必要があります。
2026年以降が消費者の広告体験の向上に向けた確かな転換期となるよう、JAROも皆さまとともに努めてまいります、と同機構は述べています。
出典元:日本広告審査機構(JARO)













