ジャパネットたかた措置命令から学ぶ「二重価格表示」の罠。EC事業者が陥るセール価格の落とし穴とは?

「ジャパネットのニュース、他人事ではないかも…自社のセール価格表示は本当に大丈夫?」そうお考えではありませんか?

本記事ではジャパネットたかたへの措置命令を専門家が分析し、EC事業者が遵守すべき二重価格表示の2つの鉄則を解説します。

法的リスクを避け、顧客の信頼を失わない価格プロモーションの要点が学べます。こちらを読み終える頃には、自社の価格表示を自信をもって見直せるようになっているはずです。

この記事の執筆者

山本 達巳
つきみ株式会社

静岡市出身、関西学院大学卒。地元医療系の企業で修行後、父親の経営する医療介護系企業に入社。経営とバックオフィス業務を学ぶ傍ら、留学がきっかけで以前から関心が高かった輸入品雑貨のネット販売事業を開始。令和元年に独立し、複数の海外メーカー取引きの経験を経て、自社アウトドアブランドを展開。

その後、自社ブランドを伸ばしていきたい事業者を応援したいという思いから、令和6年につきみ株式会社を設立。商品ページ作りや広告運用、SNSなどECに関係する領域を幅広く対応しつつ、商品ブランディング支援を行っている。

つきみ株式会社
https://tsukimi.ne.jp

【X:https://x.com/tatsumin_ec
【note:https://note.com/tatsumin_ec

ジャパネットたかたに措置命令 - おせち販売で何が起きたのか?

(出典:消費者庁|株式会社ジャパネットたかたに対する景品表示法に基づく措置命令について

2025年9月12日、EC業界に大きなニュースが飛び込んできました。消費者庁が、大手通販企業の株式会社ジャパネットたかたに対し、景品表示法(以下、景表法)に違反するとして措置命令を下したのです。誰もが知る同社が厳しい行政処分を受けたという事実は、多くの事業者に衝撃を与えました。(出典:消費者庁/ジャパネットたかたに景品表示法違反で措置命令

問題の中心は、同社の公式通販サイトで販売された2025年正月用の「特大和洋おせち2段重」です。

(出典:消費者庁/ジャパネットたかたに景品表示法違反で措置命令

具体的には、2024年10月から11月にかけて実施された「早期予約キャンペーン」での価格表示が問題視されました。サイト上では「ジャパネット通常価格29,980円が」「1万円値引き」され、「値引き後価格19,980円」になると大きく表示されていました。(出典:ジャパネットたかた、「大人気おせちが今ならお得」の表示で措置命令

多くの消費者はこれを見て「今だけお得に買える」と判断し、購入に至ったことでしょう。

しかし、消費者庁の見解は異なります。調査の結果、比較の基準とされた「通常価格29,980円」は、キャンペーン終了後にその価格で販売する合理的かつ確実な計画がなかったと認定されたのです。(出典:「ジャパネットたかた」値引き表示を巡り消費者庁が措置命令 再発防止求めるも会社側は反論

これは、販売予定のない架空の価格を基準に割引を謳い、消費者にお得感を誤認させた「有利誤認表示」に該当すると結論付けられました。

(出典:消費者庁からの景品表示法に関する措置命令に対する当社の見解 | ジャパネットグループサイト

この事件がEC事業者にとって特に重要なのは、2020年に策定された二重価格表示に関する新しい規制が、全国で初めて適用された画期的な事例だからです。

これまで曖昧さが残っていた価格表示のルールが、この一件で明確な判例として示された形となりました。

実は、ジャパネットたかたが景表法で指摘を受けるのは初めてではありません。過去にはエアコンなどの価格表示でも措置命令や課徴金納付命令を受けており、規制当局が価格表示の適正化へ厳しく臨む姿勢の表れとも考えられます。(出典:ジャパネットたかた 二重価格表示で消費者庁の措置命令

(出典:消費者庁/ジャパネットたかたに景品表示法違反で措置命令について

今回の措置命令は、すべてのEC事業者に対し、価格プロモーションのあり方を根本から見直すことを迫る、重要な転換点と言えるのです。

なぜ「有利誤認」に?セール価格の根拠と「幻の将来価格」問題

(出典:消費者庁/ジャパネットたかたに景品表示法違反で措置命令について

では、なぜジャパネットたかたの価格表示は「有利誤認」と判断されたのでしょうか。その核心は、キャンペーンで「通常価格」として表示された29,980円という価格の”正体”にあります。

消費者庁が問題視したのは、この価格が、あたかもキャンペーン終了後に適用される「将来の販売価格」であるかのように消費者に認識させた点です。これにより、消費者は「今買わなければ1万円も損をしてしまう」という強い切迫感を抱き、購入を急ぐ心理状態に置かれます。(出典:ジャパネットたかた おせち料理「二重価格表示」で公取委が措置命令、同社は反論 | NetIB-News

しかし、調査によって、ジャパネットたかたにはキャンペーン終了後に当該商品を29,980円で販売するための「合理的かつ確実に実施される販売計画」が存在しなかったと認定されました。

その結果、表示されていた「通常価格」は、割引のお得感を不当に強調するためだけに用意された、実態のない「幻の将来価格」であったと結論付けられたのです。(出典:株式会社ジャパネットたかたに対する景品表示法に基づく措置命令について

この判断は、EC事業者が価格戦略を立てる上で極めて重要な基準を示しています。ジャパネットたかた側は「キャンペーン期間中に完売しなければ通常価格で販売する予定だった」と主張しました。(出典:消費者庁からの景品表示法に関する措置命令に対する当社の見解 | ジャパネットグループサイト

(出典:消費者庁からの景品表示法に関する措置命令に対する当社の見解 | ジャパネットグループサイト

しかし、行政はこの主張を退けました。つまり、「もし在庫が残れば値上げする」といった、キャンペーンの販売実績のような不確定な要素に依存する”条件付きの計画”は、法が求める「確実な計画」とは認められない、という厳しい姿勢が示されたわけです。

EC事業者は、キャンペーンの成果に関わらず、表示した将来価格で実際に販売するという、積極的かつ文書化された、実現可能性の極めて高い意思を持っている必要があります。

この一件は、「早期予約」や「先行販売」といった一般的な販促手法にも、新たなレベルのリスク管理が求められることを浮き彫りにしました。セール価格の根拠となる比較対照価格の設定が、いかに厳密さを要求されるかがおわかりいただけたのではないでしょうか。

明日は我が身?EC事業者が遵守すべき価格表示2つの鉄則

ジャパネットたかたの一件は、EC事業者にとって他人事ではありません。セール表示の運用を誤れば、誰もが法的なリスクに直面します。自社を守るために遵守すべき2つの鉄則を解説します。

【鉄則1】比較価格の根拠を明確にし、証拠を保管する

割引の根拠となる比較価格は、正当性を証明できることが重要です。「過去の販売価格」を根拠にする場合、通称「8週間ルール」(セール直前8週間のうち過半で販売した実績など)を遵守せねばなりません。実績作りのための短期的な価格吊り上げは違反です。(出典:二重価格表示とは?8週間ルールや不当表示の事例を解説

また「将来の販売価格」を比較に出す際は、ジャパネット事件の教訓から「確実な販売計画」の文書化が生命線となります。日付入りの社内文書として証拠を保管しておくべきです。

【鉄則2】違反コストを理解し、防ぐ仕組みを作る

景表法違反の代償は甚大です。違反事実が公表される「措置命令」はブランドの信用を毀損し、金銭的ペナルティの「課徴金」は対象売上の3%にも及びます。過去にジャパネットは5,180万円の課徴金を命じられました。(出典:二重価格表示とは|景品表示法や違反事例について

これを防ぐには、価格表示のチェックリスト導入や、違反事例を学ぶ社内研修といった「仕組み」作りが不可欠です。攻めの販促には、こうした守りの体制構築が求められます。(出典:ECサイトにおける二重価格表示の景品表示法違反について弁護士が解説

まとめ:ジャパネット事件に学ぶ、顧客と信頼を築く価格表示とは

ジャパネットたかたの措置命令問題について解説しました。この事例が示すのは、比較価格の明確な根拠と、違反を防ぐ社内体制の重要性です。

短期的な売上を追うための誇大な価格表示は、企業の最も大切な資産である「信頼」を失うリスクを伴います。本記事で解説した2つの鉄則を参考に、消費者に誠実な価格表示を実践し、持続的な成長を目指しましょう。

つきみ株式会社 https://tsukimi.ne.jp/

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