【ゲストスピーカー】
林 啓成さん
株式会社林商店 代表取締役社長
インポートセレクトショップ「でらでら」
【チャンネルMC】
柳田 敏正さん
株式会社柳田織物 代表取締役
ワイシャツ専門店「ozie(オジエ)」

この記事の目次
紳士服店がセレクトショップを開店。雑誌通販からECへ参入
柳田さん:家業の紳士服店を継がれていると伺っております。林さんは何代目にあたるのですか?
林さん:当社は創業70年の紳士服店で、私は3代目にあたります。2002年に入社したのですが、当時は青山さんや青木さんのようなロードサイド型の紳士服専門店として、6店舗を展開していました。
柳田さん:ECを始めたのは2003年。林さんが入社してすぐのことですよね。どのような経緯だったのでしょうか?
林さん:入社した瞬間に、「これはまずいな」と感じました。というのも、私は祖父に頼まれて入社したのですが、事前に会社の内情をよく知らずに飛び込んでしまったんです。
柳田さん:「内情を知らずに家業に入った」という方は、多いですよね(笑)。
林さん:スーツの需要がすでにピークアウトしていて、大手の青山さんや青木さんはまだ伸びていたものの、当社の売上は頭打ちの状態でした。
当社は倉庫を改装した店舗で、製造直販を掲げていました。今で言うOEMのような形で、低価格のスーツを扱っていたのですが、その分、とにかく在庫が多かったんです。
柳田さん:たしかに、ロードサイドのアパレル店は在庫がないと商売にならないですよね。
林さん:おっしゃる通りです。ただ、それにしても在庫が多すぎました。製造販売なのでロットも大きく、私が入社したときには倉庫がパンパンでした。
柳田さん:状況の厳しさは伝わりますが、それでもすぐにECに踏み切るわけではなかったんですよね?
林さん:はい。実際にECを始めるまでには2年ほどかかっています。その間、これまでと異なる商材を扱ってみようと考える中で、インポート商品と出会い、まずは雑誌通販で販売をスタートしました。
柳田さん:インポート商品との出会いには、どんなきっかけがあったのですか?
林さん:セレクトショップを経営している知人と話していたときに、「こういうのを売ってみたら?」と勧められたのがきっかけです。実際に店舗を見に行き、いろいろな業者の方とも話す中で、スーツとの相性も良さそうだと感じ、挑戦してみることにしました。
柳田さん:そして、その商品をECで販売することになるわけですね。林さんといえば楽天市場のイメージがありますが、最初は自社ドメインだったのですね。
林さん:そうです。当時は広告代理店の方に依頼してシステムを作ってもらい、ASPカートを使って自社ドメインでスタートしました。ただ、1年間ほど運営しても思うように売上が伸びず、楽天市場に出店することに。
当時の自社サイトは、雑誌通販との連動がメインで、URLを見てアクセスしてくれたお客様だけが購入するような状況でした。売上は良い月でも月商100万円に届かなかったですね。
柳田さん:私も当時は年間で100万円くらいしか売れませんでした(笑)。楽天市場に出店されたのは、どんな理由からですか?
林さん:まわりのショップを見ていて、「楽天のほうが売れそうだな」と感じたからです。注目していたお店も楽天市場で販売していたので、これは出すべきだなと思いました。
柳田さん:実際に出店して、どうでしたか?
林さん:すごく売れました。最初は本当に驚きましたね。当時は「誰でも売れるんじゃないか」と思うくらい簡単に売れた印象があります。ただ、在庫をあまり用意していなかったので、すぐに商品切れを起こしてしまいました。あのとき、十分な在庫があれば、どれほど売れたのだろうかと今でも思います。
柳田さん:インポート商品は新たに始めた事業だったから、仕入れ体制もまだ整っていなかったんですね。
メルマガ20年。着こなしの発信で、仕入れにも変化が
柳田さん:林さんは情報発信力が高いという印象があります。最初に始めた情報発信は何だったのですか?
林さん:個人ブログですね。2000年頃からやっていました。商売を始める前から、サイバーエージェントの藤田さんがアメブロなどで発信しているのを読んで、「自分もやってみよう」と思ったのがきっかけです。なので、最初は商品の紹介ではなく、完全に個人の発信でした。もともとネットには慣れていたので、ECにも比較的スムーズに馴染めたのかもしれません。
柳田さん:商売としての情報発信では、どんな取り組みをされてきたのでしょうか?
林さん:ずっと続けているのはメールマガジンですね。もう20年近くになります。今でも週に1回書いています。
柳田さん:メルマガではどんな内容を発信しているのですか?
林さん:いろいろなパターンはありますが、コーディネートや着こなしについて書くことが多いです。
楽天市場での売上がピークを過ぎた頃、自分たちでもしっかりファッションの情報を発信していかないとダメだと思い始めました。それまでは、商品を紹介するだけで十分に売れていたんですよ。
柳田さん:着こなしやスタイルを発信するようになってから、仕入れの考え方にも変化がありましたか?
林さん:かなり変わりました。それまでは「売れるもの」「売れているブランド」を仕入れていればよかったんです。特に当時はイタリアブランドが中心で、細かい商品選びというよりも、バジェット(金額の枠)でまとめて買うようなやり方でした。
柳田さん:そのやり方は、売れているときはいいけど、売れなくなった途端に通用しなくなりますもんね。
林さん:そうなんです。7~8年前からは「売れるものを売る」だけでは立ち行かなくなってきて、在庫は積み上がるし、値下げしても売れず、「どこまで安くすれば売れるのか」と悩む時期が続きました。正直、在庫を捨てたほうがいいんじゃないかと思ったこともあります。
柳田さん:そうした中で、やり方を変えていったのですね?
林さん:そうですね。商売としては、それまで現地で買い付けていた並行輸入品を、正規輸入に切り替えました。
柳田さん:そもそもインポーターでもセレクトショップでもなかったのに、どうやって並行輸入をされていたんですか?
林さん:並行輸入をしている業者さんがたくさんいたので、そういう方たちと一緒に現地へ行って買い付けさせてもらうことが多かったです。
柳田さん:現地での買い付けの様子を楽天市場店のページにも載せていましたよね。これはいいなと思って、見ていました。ところで、並行輸入の商品って選べるものなんですか?
林さん:選べるには選べるんですが、現地サイズが多かったり、注文しても入ってこないことがあったりで、なかなか思い通りのラインナップにはなりませんでした。
柳田さん:入ってきたものをベースに販売を組み立てる感じですか。
林さん:そうなんです。希望を伝えても入ってこないこともあるので、結局は「この金額分でなんとか商品を揃える」といった仕入れ方になります。現地の日本人の方や、日本から調整しながらやっていました。
今思えば、セレクトショップというよりディスカウントショップに近かったかもしれません。自分ではセレクトしているつもりだったのですが、並行輸入なので正規代理店より安いですし、人気の小さいサイズはすぐ売れてしまう。そんな状況に違和感を覚え、7~8年前から徐々に正規代理店の仕入れへと切り替えたのです。
今では、ほとんど全て正規代理店の商品を取り扱っています。展示会でオーダーすることもありますし、直接工場に注文を入れるケースもありますね。
ファッションで生きていくために、「良い」と思ったものを届けるお店へ
柳田さん:並行輸入から正規代理店に切り替えると、希望通りの仕入れができる一方で、価格は格段に上がります。そのギャップを埋めなければならない切り替えの時期は、大変だったのではないでしょうか。
林さん:そうですね。リアル店舗のお客様が当店に求めていたのは「安さ」でした。でも、ネットのお客様は直接声が聞けないので、売上が落ちていくことでしか変化に気づけません。リアルでは「なんで並行輸入をやめてしまったの?」と、はっきりご意見をくださるお客様もいて、それは非常にありがたかったです。
柳田さん:それでも、切り替えていこうと思った理由をお聞かせいただけますか?
林さん:あの時点で、「自分たちはファッションで生きていこう」と決めました。そもそも、自分たちが選んだ商品が手に入らない状態では、セレクトショップとは言えませんよね。やはり、自分たちが「良い」と思ったものを、きちんとお客様に届ける店にしないと、この先は生き残れないと感じたのが大きな理由です。
柳田さん:売上や在庫の現実に直面して、強く感じられたのですね。
林さん:そうですね。20年前は、ブランドのタグがついていれば売れる時代でした。
柳田さん:たとえば、アルマーニが典型的ですよね。
林さん:そういったブランドは、今では取り扱わなくなりました。そもそも、以前ほど売れなくなってきているんです。時代の潮目が変わってきているなと感じました。
柳田さん:そのときに気づけたのは大きかったですね。
林さん:気づけていなかったら、今とはまったく違う商売をしていたと思います。
柳田さん:時代の変化に応じて、しっかり変化できていますね。
林さん:実は最初から、正規代理店でやりたいという気持ちは少しあったんです。でも、並行輸入と正規代理店の両方を取り扱うことを許容してくれるような、名の通った正規代理店は当時なかったんです。それもあって、完全に切り替えるまでに時間がかかりました。
柳田さん:今は正規代理店に舵を切れているのですね。「売れるものを仕入れる」というのは商売の基本のようでいて、実際には誰にでもできることではない。今のような時代では特に難しい。それでも、「自分たちが売りたいものを売る」と決断できたからこそ、今ここに立っていらっしゃるのだと思います。
「売れるもの」を探すのではなく、「自分たちがどうありたいか」「何を届けたいか」をはっきりさせることが、今のアパレルには特に必要になってきていると感じます。
林さん:ECについて言えば、初期の頃は、丁寧に接客すればお客様はついてきてくれました。でも今は、同じようなお店がたくさんある。「じゃあ、なぜ当店で買うのか?」と考えたときに、自分たちはその答えを持っていなかったんです。
だからこそ、商品や見せ方など、「服屋としてお客様に何を伝えたいのか」を、きちんと発信しないと伝わらないんだと実感しました。
売上が徐々に下がっていったことで、ある程度時間的な余裕があった。そこまで急激に落ちなかったのも、うまく方向転換できた理由のひとつだと思っています。
おわりに:変化する市場に求められるショップになるための大きな決断
これまで売上を立て、お客様からも求める声が上がっている並行輸入をやめ、正規代理店に切り替えるという決断は、勇気がいるものだったと思います。お客様のニーズや市場状況を敏感に感じとり、求められているあり方が変わっていることを察知できたからこそできた決断だったのではないでしょうか。林さんは「自社で買ってもらえる理由を考えたときに、自分たちには答えがなかった」とお話されていますが、競争が激しいECショップの中で選ばれるために自店の強みを改めて確認するきっかけになるのではないでしょうか。
EC市場の真の発展に貢献をという想いで、「ECの未来」を運営しているサヴァリ株式会社は楽天市場・Amazonなどネットショップ運営代行をはじめ、モール通販を中心にECサポート・ECコンサルティングを行っています。EC運営に不安を抱えている事業者様は問い合わせてみてはいかがでしょうか。
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