金沢の食文化を全国へ!市場の通販サイト「イチバのハコ」が地域を巻き込んで伸びた理由
インタビューの概要

新型コロナウイルスの感染拡大による外出・渡航自粛により、大きく打撃を受けた観光業界。金沢を拠点に着地型体験ツアーの企画・運営をしている株式会社こはくも例外ではありませんでした。そのような状況で、代表を務める山田滋彦さんは市場の食品を通販で販売することを決意し、2020年4月に金沢市の近江町市場から旬な食材を届ける通販サイト「イチバのハコ」をWixで立ち上げます。通販サイトをオープンしてから2年経った今を振り返り、事業を立ち上げる際の苦労や売上を伸ばすための工夫について伺いました。

新規事業立ち上げに必要な3つの意識

――コロナ禍で既存事業が打撃を受け、新しく通販事業を始めた方は多くいらっしゃいます。その中で、継続して売上を伸ばしている事業者様は非常に少ない印象ですが、事業の立ち上げに際して、どのようなことを意識したか教えていただけますか。

山田さん:「イチバのハコ」の立ち上げから約2年半経ちましたが、こんなに大変ならやってなかったんじゃないかと思うくらい非常に難しいことに挑戦していると思っています。立ち上げに伴い、3つのことを意識していたので、順番にお話していきますね。

1.方向性を決める意義

山田さん:まず、金沢や近江町市場を中心とした地域にとって意義があるかどうか、やる必要があるのかどうかということを考えました。「イチバのハコ」が近江町市場や地域の課題解決に繋がらなければ、理解と協力を得られず継続できないためです。

郊外に大手資本の利便性の高い商業施設ができたことなどにより、市内中心部の市場に行って買い物をする地元客は徐々に少なくなっています。この課題を解決するにあたって、約170店舗ある市場のお店それぞれで工夫をされていますが、大きな流れは変わっておらず、また小規模な店は後継者不足で廃業される店も少しずつ増えているのです。そして、新型コロナウイルスで外食や観光産業が大きな打撃を受けたことにより、その業界と取引する店は益々厳しい経営環境に置かれています。

「イチバのハコ」は、各店の既存の取り組みと被らない領域で、既存顧客を取り合うのではなく、新しい顧客をターゲットとして事業を展開し、市場の各店と持続的な協力関係を築いています。「イチバのハコ」のようなオンラインストアを持たれている店もありますが、持たれていない店も多く、また対面販売が中心の文化であるためオンラインストアに力を入れている店は限られています。これまで近江町市場とは距離があった地元の方々に、イチバのハコをきっかけに市場を身近に感じてもらい、足を運んでもらえるような取り組みを意識しています。

方向性を決める意義

2.市場のホワイトスペースを突く戦略

山田さん:次に戦略です。「イチバのハコ」では市場で販売されている鮮魚、青果、精肉、加工品などを、多品種で少量を組み合わせて商品を作っています。季節や月によってお届けする商品の内容が変わる、いわゆる頒布会やサブスクボックスと呼ばれるような形態に近いです。こういった売り方は手間がかかるのでやりたがる事業者さんがあまりいないのですが、お客様からのニーズは強くあります。

通販自体の市場は激化していますが、競争が激しくても情報を見極めて整理することで意外とホワイトスペースがあるのです。しかし情報収集の段階では、世の中にある情報ではバイアスがかかっていたり、肝心な情報が出ていなかったり、もしかしたら情報が古かったりと、確かな情報かどうかの見極めすら難しいといえます。前職のコンサルタント時代は、お客様に必ずヒアリングをし、鮮度の高い一次情報を伺った上で何事も判断していました。

「イチバのハコ」を始める前は、食品事業やオンラインストアは完全に未経験でしたが、前職の経験と同様に、地域の方や私の知人など、経験者に上手くいったことや失敗したことを深掘りしました。すると、なぜ成功したのか、どうして失敗したのか、自分なりに答えを出して整理したことで実装すべき項目が浮き彫りになったのです。

他の事業者さんがやりたがらずお客様からニーズのある多品種少量の商品を取り扱うことや、地元の商品を扱うサイトでありながらオシャレで使いやすいサイトデザインにすることなど、ヒアリングをもとにお客様に喜んでもらえるオンラインストアを作ることを心がけました。

時期によって変わる旬の食材をお届けしている
時期によって変わる旬の食材をお届けしている

3.意義と戦略をやりきる意志

山田さん:最後はやりきることです。「イチバのハコ」は社内のチームだけではなく、市場の方や生産者の方、利用しているカートシステムのWixなど、さまざまな方の協力で事業は成り立っています。

それだけではなく、やると決めた戦略は他の事業者にとって苦労が多いから避けられていた道です。難しい局面にぶつかることはもちろんですので、やりきる強い意志を持っていることが事業を伸ばすためには欠かせないのです。

そして、最終的には1人でやりきるのではなく、最初にお伝えした意義を持って、みんなが同じ方向を見ていなければいけません。関係者全員が連携して、実行することが重要なのです。

立ち上げを決めてからデザイン性のあるサイトを1ヶ月で公開した理由

――「イチバのハコ」で約170店舗ある近江町市場の方をはじめ、多くの人を巻き込んで、協力し合いながら運営できているのは、立ち上げ時に意識した3つのポイントが非常に重要であることがわかりました。では、オンラインストアを立ち上げるにあたって、どのような点を重要視したのでしょうか。

山田さん:この事業では特に時期を重要視しました。2020年3月は新型コロナウイルスの真っ只中で緊急事態宣言により世の中が騒がしくなっている頃です。十分な広告費を用意できなかったことから、パブリックリレーションズに力を入れることに決めます。そのために、世の中の動きに合わせて、社会性や地域性のある新しい取り組みを素早く打ち出す必要がありました。

以前から現地のメディアとは日常的に話していたことから、4月に間に合わせられればきっと取り上げてもらえるのでは、と思ったのです。そこに間に合わせるためにはスピードが必要だと感じて、急いでオンラインストアを作ることにしました。

立ち上げを決めてから公開までわずか1ヶ月
立ち上げを決めてから公開までわずか1ヶ月

――その状況でWixを活用してオンラインストアを構築したのはどういう理由からなのでしょうか。

山田さん:他社と差別化をする上で、UIにおいてデザインは欠かせない要素でした。デザインを表現しやすく、通販未経験の社内体制でその後の運用を簡単にできるという理由から、デザイナーと相談しながら決めたのがWixです。

作ると決めてから立ち上げるまでは約1ヶ月しかかかっていません。サイトを作りたいタイミングに無事間に合わせることができ、地域の新聞や全国放送のテレビなど幅広いメディアに取り上げていただくことになりました。また、サイトを立ち上げてから2年間経ちましたが、社員3名体制で負担なく運用できているので、Wixを選んでよかったと思っています。

独自性のある地元のコンテンツが認知の拡大に

――少人数で負担なく運用できることで、他の業務にかけられる時間が増えるので売上を伸ばすことに集中できそうですね。「イチバのハコ」を認知してもらい、サイトに来てもらうために、どういった取り組みをしたのでしょうか。

山田さん:弊社では他社と比較して広告宣伝費をあまり使っていません。売上に対しての販促比率は時期にもよりますが、10%取ることはほとんどないでしょう。その代わり、メディアバリューが高いことをやって、メディアに掲載してもらうよう心がけています。ただメディアに載せてもらうだけではなく、コンテンツ化するにあたって弊社がお伝えした内容の方向性がブレないように良い形で仕上げていただけるライターに書いてもらうことが大切です。

メディアリレーションの肝は熱量だと思います。「載せてください!」と一方的にお願いされるとメディアとしていい気持ちはしないですよね。あくまでフェアな関係を築かなければいけません。弊社の場合ですと、観光の動向について情報を提供したり、インバウンド解禁にあたって質問された際に周囲にもヒアリングした回答をお伝えしたりと、質の高い情報をお伝えしつつWin-Winな関係を構築しています。

また、それ以外には他にはないコンテンツを作ることにこだわっています。金沢にはいろいろな面白いものがありますが全然知られていません。「イチバのハコ」では特に人に焦点を当てたコンテンツを作っています。自分たちで取材をしてSNSやブログを通じて発信する。そういったコンテンツを積み重ねることが、 “人”を応援したいと思える感性を刺激して、認知だけではなく購入にもつながっているのだと思うのです。

スタッフが体験したり見聞きしたりした地元の情報を発信している
スタッフが体験したり見聞きしたりした地元の情報を発信している

ギフトに有効な適正価格で販売される高品質な商品

――「イチバのハコ」を通じて市場の方々やメディア、お客様などさまざまな人がつながる機会を作れているように感じました。次に、お客様に商品を買ってもらうため、また、継続してもらうために取り組んでいる工夫について伺えますか。

山田さん:商品のコスパの良さにはこだわっています。金沢は安くて美味しいものに溢れているため、地元の方は県外に出ると魚を食べられなくなるというくらい食に厳しいといわれています。そんな地元の方が良いと思える商品を買っていただける価格で提供できるかが肝です。コスパの良い商品提供を継続することは今でも苦労していることではありますが、ここにこだわれないと一度買ってもらっても次にはつながりません。

そこで食材の原価を高くできるよう、他の費用を削って商品の品質管理にとことん注力しています。さきほどお伝えした広告費を抑えているのは、こういった理由からです。

リピーターになっていただくには、お客様に飽きが来ないよう新しい商品、サービス・取り組みをやり続けることです。新しい商品開発をするだけでも大変なことですが、最近では新たなサービスとしてライブコマースをしてみました。市場の様子や商品をライブ配信しながら、視聴者には欲しい商品をチャットで伝えてもらい購入いただきます。数名規模ですが、ご覧いただいている方の熱量は高いため、近江町市場の応援につながるのです。

ギフトに有効な適正価格で販売される高品質な商品

――商品の質と価格を徹底的にこだわり、お客様を飽きさせない取り組みで売上を伸ばしているのですね。他に「イチバのハコ」ならではの取り組みはありますか。

山田さん:実は「イチバのハコ」では普通に注文いただく以上にギフトの売上が大きいです。個人・法人合わせて10兆円以上あるギフト市場において、地方の特産品を扱っているオンラインストアは数多くありますが、法人向けのギフト対応に強く、商品力もある事業者は限られており、そこに目をつけました。

近江町市場から仕入れた金沢グルメを選べるカタログギフトを販売していますが、こういった取り組みをしている企業は少ないかと思います。カタログギフトから商品を選んで交換する仕組み自体はWixのコンテンツマネージャーというデータベースを触ることで簡単に作れました。

「イチバのハコ」のカタログギフト
「イチバのハコ」のカタログギフト

充実した標準機能のWixが事業者様とお客様に快適な体験を

――市場の商品でカタログギフトを作るという発送はなかったので驚きです。カタログギフトの仕組みはWixで簡単に作れたとのことですが、他に活用しているWixの機能はありますか。

山田さん:メルマガの機能はかなり活用しています。Wixに搭載されているMA(マーケティングオートメーション)機能を活用して30種類ほどのメールを自動化しています。受注後のお礼メールやカタログギフトの商品交換をしていただいたタイミングなど、人の手が介在すると間違いが出たり、負荷がかかったりするため、カスタマイズの自由度が高いMA機能が標準搭載されているのは非常にありがたいです。

また、お客様の購入状況によってロイヤルカスタマーなど、会員ランク付けのようなことができるので、お客様のランクごとに内容を変えてメールの配信をします。ロイヤルカスタマーには通常のメルマガにはない付加価値を提案しています。例を1つ挙げると、オフラインのイベントに招待する内容です。一番売れる金沢おでんで重要な味が染みやすい源助だいこんという大根があるのですが、この大根の種まきから参加できる体験会を催しました。

他のカートシステムを使う合理性もわかりますが、システム開発の費用など諸々のコストを考えるとWixに標準搭載されている機能を活用することが、今の規模では最もコストパフォーマンスが良いと考えています。

Wixにはパートナー制度があります。Wix パートナーとは、Wixが規定した基準を満たしたフリーランサーや制作会社で、サイト制作やデザイン、広告運用などさまざまなスキルを持っています。弊社では立ち上げの頃からパートナー制度を活用し、デザイナーとSNSの広告運用でWix パートナーを各1名ずつお願いしています。自社では解決できないポイントを気軽に相談できるパートナーがいることもWixの魅力といえるでしょう。

――最後に、今後取り組んでいきたいことについて教えていただけますか。

山田さん:「イチバのハコ」としてはWixの機能をどんどん活用していきたいです。特典プログラムなど、リリースされて間もない機能なども活用しながら先駆者としてお客様に新しい体験を提供できればと思います。

加えて、現在はロイヤルカスタマー向けに行っている参加型のイベントを広げて、ファンの方々と接点を持つ場を創出していきたいです。イベントのようなオフラインのコンテンツの力を進化させて、オンラインストア専業の事業者には出せない価値を磨いていけたらと思います。規模を拡大することよりも、ユニークな存在として地域にとって価値ある存在になりたいです。

インタビューを通して:地域とのつながりを全国に広げられるオンラインストアの可能性

近江町市場がオンラインストア化した「イチバのハコ」は豊洲市場に続き2番目にできた市場のオンラインストアのようです。こはくでは約170ある店舗の方々とコミュニケーションを取りながら、商品だけでなく”人”に焦点を当てた記事コンテンツが発信されています。

今までは金沢市内の方や観光客にしか届かなかった”人”の良さを商品とともに全国に届けられるのは、オンラインストアが秘める可能性を感じられることでした。

Wix パートナーの活用によって専門的な知識が求められる変更はパートナーへ、自社で対応可能な変更や日々の運用は社内で完結できることがWixの魅力かと思います。手軽に短い期間でオンラインストアを立ち上げたい方はぜひWixに登録してみてはいかがでしょうか。

▼「イチバのハコ」通販サイト
https://www.ichibanohako.com/

▼「イチバのハコ」法人向けギフトサービス
https://www.ichibanohako.com/corporategift

▼Wixでサイトを作成する方はこちら
https://ja.wix.com/html5ja/websitebuilder

合わせて読みたい

コマースピックLINE公式アカウント

コマースピックメルマガ