【ゲストスピーカー】
天沼 聰さん
株式会社エアークローゼット
代表取締役社長 兼 CEO
ファッションレンタルサービス「airCloset」
【チャンネルMC】
柳田 敏正さん
株式会社柳田織物 代表取締役
ワイシャツ専門店「ozie(オジエ)」
この記事の目次
エアクロのスタートはサブスクでもレンタルでもない?
柳田さん:今回はエアークローゼットの代表取締役である天沼さんをお迎えし、早い段階からサブスクリプションサービスとしてファッションレンタルを始められたお話を伺います。
天沼さん:エアークローゼットは、私を含めて3人で創業しています。最初から「サブスクの事業をやろう」「ファッションのレンタルサービスをやろう」と思っていたわけではありませんでした。時系列としては、2013年にどんなサービスを提供するのか話し合いを始め、2014年にサービスを発表し、2015年からサービスリリースをします。振り返ると当時は「サブスクリプション」や「シェアリング」といったキーワードが日本ではまだあまり知られていない頃でした。
誰にどんな価値を届けるか
天沼さん:サービスの方向性を話し合っていたとき、一時的に流行ってすぐ消えるようなものではなく、ライフスタイルや生活を豊かにできるサービスを目指そうと考えていました。しかし、具体的に何をやるかはすぐには思いつかなかったのです。
何をしたらライフスタイルが豊かになるのか、何度も議論を重ねました。その結果、「時間の価値」に行き着いたんです。時間は全ての人に平等に与えられていますが、その使い方や感じ方によって大きく変わります。たとえば、「面倒くさい」と感じる時間と「ワクワクする」時間を比べると「ワクワクする」時間のほうが価値は高いのではないでしょうか。そこで、本来やらなくてもいいことに割く時間を減らし、ワクワクする時間を増やせれば、時間の価値を高められるのではないかと考えたのが始まりです。
そこから、「どんなことで時間の価値を高められるのか」を、衣・食・住の観点で考えました。創業メンバー3人ともファッション業界の経験はありませんが、「衣(ファッション)には人の心をワクワクさせる力がある」と感じたんです。例えば、気に入った服を着て街を歩き、ショーウィンドウに映る自分を見たら少し嬉しくなる。ファッションにはそんな不思議な力があると思います。
また、「時間の価値を実感しやすいは誰か」と考えたときに、一番は女性だと思いました。男性と同じ24時間でも、朝の準備に時間がかかることや、ライフステージの変化が多いことから、女性は自分の時間の使い方や価値を考える機会が多いと感じたのです。例えば、仕事が忙しくてファッション誌を見る時間が減ったり、結婚や育児でライフスタイルが変わったりと、女性は特に時間の制約を感じる場面が多いのではないでしょうか。
こうした背景から、特に忙しい女性の方向けにファッションサービスを作ろうという話になりました。「我慢しているけれど」「本当は使いたいけれど」、そんな時間を解放したいと考えたのです。例えば、ファッションについてゆっくり考えたり、トレンドを学んだり、新しいブランドと出会ったりする時間です。日々の生活を大きく変えずに、新しい服やブランドと出会えるようなサービスを提供する。それが私達のスタートの議論でした。
提供価値から逆算して導かれた解は?
天沼さん:この段階では、まだ「サブスクリプション」や「レンタル」といった具体的な話は出ていません。私はライフスタイルの大きな変化や理想の形を考えて、ビジネスモデルやITテクノロジーの活用はあくまで手段として考えればいいと思っていました。忙しい女性の日常を大きく変えずに、どのように新しい洋服に出会えるかを考えたときに、レンタルでさまざまな服を試着し、その中で本当に気に入った服を購入してもらう仕組みが最適だと考えたのです。
また、商圏が限られる実店舗ではなく、日本全国にその出会いを届けたいと考え、オンラインでサービスを提供することにしました。お客様自身が借りたい服を選ぶスタイルだと、トレンドを学ぶ時間がない方や、探す時間がそもそもない方には、あまり解決策にならないなと思ったからです。そこで、スタイリストが服を選び、少し新しいスタイルとの出会いを提案する形を取り入れました。
最初はレンタルした方に返却期限を設定し、クリーニングをして返していただければ、次のお客様にスムーズにお届けできると社内で話していました。しかし、それでは忙しい女性の方に時間の制約を増やしてしまうことに気づき、返却期限を設けない方針に切り替えます。好きなときに返却いただき、クリーニングもこちらで対応することで、服との出会いに集中していただけると判断しました。
ただ、当然コストがかかるため、月額制のサブスクリプションモデルを採用し、好きなタイミングで自由に服を楽しめる仕組みにしました。このとき、初めて月額制にすることに決まったのです。
前例なきサービスを作り上げる組織文化
柳田さん:当時、ファッション関連のサブスクサービスは他にもあったのでしょうか?
天沼さん:ファッション分野でサブスクサービスを始めたのは、私達が一番早かったですね。
柳田さん:まだ類似サービスがない中で、ファッションでサブスクサービスを考えたのは凄いですね。特に、皆さんがファッション業界の経験がないにも関わらず、ユーザーにとって、最大限有用なサービスを論理的に構築された点が印象的です。サブスクを選ぶきっかけとなったヒントはあったのでしょうか?
天沼さん:返却期限をなくすことを考えた際に、自然と月額制が良いという結論に至りました。例えばTSUTAYA DISCASのようにDVDをサブスク形式で提供している事例がヒントの一つになっているかもしれません。直接参考にしたわけではありませんがが、当時、欧米ではネットを活用した定額制サービスが増えているという話も耳にしていました。
ファッション業界の知識がない状態でスタートしたことは、ある意味良かった点もあります。バイアスがなく、消費者目線で「これからの社会にとって必要なもの」をフラットに考えることができました。ただし、理想を形にする難易度は実は非常に高かったです。
柳田さん:レンタルやサブスクを支えるシステムや仕組みがほとんどない中で、1から作り上げた点にも驚きです。
天沼さん:「決めたらやりきる」という組織文化が形を作れた理由かもしれないですね。例えば、倉庫会社様に協力をお願いしても、ほとんどが断られる状況でした。ファッションについての知識がなかったため、業界の方々の意見を聞きに行こうとしましたが、創業メンバー3人とも知り合いにファッション業界の関係者がいなかったんです。
それでも少しずつご縁をいただき、さまざまな方からご意見を伺いました。多くは「難しい」「無理ではないか」といった否定的な意見でしたが、私たちはそれを課題として受け止めました。その課題に明確な答えを出すことで、一歩ずつ実現に近づけると信じていたのです。
例えばブランド様、メーカー様とのコミュニケーションでは、「レンタルのために服を提供するのは難しいのでは?」というご意見をいただきました。私たちは「レンタルを通じて、より多くの方に服を着ていただける。その出会いがブランドのプロモーションにつながり、試着までのマーケティングコストを削減できるはず」と提案しました。こうしたやり取りを重ね、一つひとつ仕組みを設計していったのです。
柳田さん:その結果、非常にうまくアライアンスを進められたのですね
天沼さん:私たち経営陣の基本的な考え方として、自社だけで何かを完結させるのではなく、パートナー企業にとってもプラスになる形を追求しています。例えばクリーニング事業者様とは、新しい洗浄方法や技術、洗剤の開発について協力することで、新たな知見を得られる場を提供しました。また、参画いただいたブランド様やメーカー様には、プロモーションの価値が増すなど、ご一緒いただくことでお互いがWin-Winでプラスになっています。誰かが損していたり、我慢していたりする関係値では持続性がないと思います。
1社で全てをやるよりは、それぞれの企業の強みを活かす経営が今後、スピード感や変化変容を考えると圧倒的に低リスクです。パートナー企業様が弊社とではなく、別の選択肢を選ぶ場合、そのほうが良ければ、私たちは構わないと考えています。常にフェアな関係を基盤に、理想を実現できる最適なパートナーとアライアンスを組むことを意識しています。
~後半に続く~
おわりに:叶えたい世界の実現に向けて未知の領域にチャレンジする精神
エアークローゼットの事業は、未知の領域への挑戦と人々の生活を豊かにするという信念に基づいています。創業当初、ファッション業界やサブスクリプションモデルについての知識がない中でも、既存の枠組みに捉われず、利用者の視点から理想のサービスを追求しました。その過程で多くの困難や否定的な意見に直面しましたが、それらを「課題」として受け止め、一つずつ解決策を見出す姿勢が革新を可能にしました。さらに、パートナー企業とWin-Winの関係を築き、協働で価値を創造する柔軟な経営スタイルも特徴です。この挑戦心と協働の精神は、新しい価値を生み出し続ける原動力となり、「時間の価値を高める」という理念を具現化しています。新しいことに挑戦するときに、天沼さんの考えはきっと参考になるのではないでしょうか。
EC市場の真の発展に貢献をという想いで、「ECの未来」を運営しているサヴァリ株式会社は楽天市場・Amazonなどネットショップ運営代行をはじめ、モール通販を中心にECサポート・ECコンサルティングを行っています。EC運営に不安を抱えている事業者様は問い合わせてみてはいかがでしょうか。
■サヴァリ株式会社へのお問い合わせはこちら
https://savari.jp/contact/
あわせて読みたい