Shopifyの越境EC支援機能を徹底解説:InternationalとManaged Marketsの違いと活用戦略

はじめに:なぜ今、越境ECなのか?

世界のEコマース市場は年々拡大を続けており、日本のEC事業者にとっても「国内市場だけに依存しない戦略」が求められる時代に突入しています。特に円安の影響や海外での“日本製品”への信頼感もあり、商品やブランドの魅力をそのまま武器に、グローバル市場に挑戦するチャンスが広がっています。

しかし、越境ECのハードルは決して低くありません。言語や通貨の違いだけでなく、関税、輸送コスト、現地法規制、そしてトラブル対応まで、事業者の負担は多岐にわたります。こうした課題に対して、Shopifyが用意しているのが「International(旧 Shopify Markets)」と「Managed Markets(旧 Markets Pro)」という2つのソリューションです。

本記事では、それぞれの機能や違い、日本のEC事業者がどのように活用すべきかを詳しく解説します。まずは基本機能から始めて、最終的には自社の戦略や成長段階に応じた選択ができるような構成を意識しました。

ShopifyのInternationalとは:多通貨・多言語対応を簡単に

Internationalは、越境ECの“ファーストステップ”として位置づけられる機能群です。主な目的は、国や地域ごとに最適な購入体験を提供できるように、自社ストアをローカライズすること。たとえば、アメリカからアクセスしたユーザーには米ドルと英語で、フランスからならユーロとフランス語で、といった具合に、自動的に最適な表示へと切り替えてくれます。

加えて、国別に価格調整を行ったり、販売地域ごとの在庫や商品公開範囲を制御したりすることも可能です。これにより、競合が激しい市場では価格を戦略的に設定し、関税や送料が高くつく地域では販売を抑制する、といったきめ細やかな対応が可能になります。

日本の事業者にとって嬉しいのは、このInternationalが追加コストなしで利用できる点です(※利用中のShopifyプランによる制限はあり)。これにより、初めて越境ECに挑戦する企業でも、比較的リスクを抑えながら海外販売をテストできます。

ただし、あくまでローカライズの「入り口」としての機能であり、関税やVATの計算・徴収、配送遅延の補償、決済リスクの回避といった高度な領域まではカバーしていません。より包括的な越境対応を求める場合は、次に紹介する「Managed Markets」が検討対象になります。

Managed Marketsとは:越境ECの手間を“まるごと”肩代わり

Managed Marketsは、Shopifyが提供する越境販売支援の中でも、より高度かつ包括的な機能を担うプレミアムソリューションです。ローカライズ機能にとどまらず、関税・VATの自動計算と徴収、国際決済、チャージバック保証、さらには物流手配までを一括で担うのが最大の特徴です。

従来であれば、各国の法規制や税務に関して自社で調査・設定し、通関や返金処理にまで対応する必要がありました。しかしManaged Marketsでは、こうした煩雑なプロセスをShopify側が引き受ける形になっており、販売者側の負担が大幅に軽減されます

たとえば、以下のようなケースにも自動で対応可能です。

  • 米国の消費者に発送する際、商品にかかる関税と州税を自動計算し、購入時に徴収
  • ヨーロッパ向けに販売した商品が通関で止まらないよう、HSコードを適用して配送手配
  • 決済時に不正利用が発覚した場合でも、チャージバック対応をShopify側が補償

まさに「販売に集中するだけでよい」環境が整備されていると言えるでしょう。

ただし、日本企業には“使えない”

このように理想的とも言える機能が揃っているManaged Marketsですが、残念ながら現時点では日本の事業者は利用できません

Shopify公式が提示している利用条件には以下のような制限があります:

  • 米国本土に登記された法人であること
  • 米国内に倉庫または実店舗(PO Box不可)を持っていること
  • Shopify Paymentsを利用していること
  • 米国拠点から発送できる体制があること

つまり、Managed Marketsは“米国法人専用”のサービスとして設計されており、日本国内のEC事業者が直接導入することは現実的ではありません。

もちろん、米国に法人を設立することで利用可能になるケースもありますが、設立・運営コスト、税務・法務対応の難易度を考えると、多くの中小EC事業者にとってはハードルが高いのが実情です。

International・Managed Markets・外部ソリューションを比較する

越境ECを展開するうえで、Shopifyが提供する越境EC支援機能は大きな武器となりますが、それ以外にもGlobal-eのような外部連携型のソリューションも選択肢に入ります。ここでは3つの代表的な選択肢を並べて比較し、それぞれの特徴を明らかにしていきます。

比較項目InternationalManaged MarketsGlobal-e(他社ソリューション)
多言語・多通貨対応
関税・VAT自動計算×(手動または外部連携)◯(Shopifyが自動対応)◯(自社システムで対応)
決済・チャージバック対応△(基本は事業者対応)◯(Shopifyが保証)△〜◯(プランにより異なる)
物流・配送連携△(DHLなどとの外部連携)◯(DHLを標準で統合)△〜◯(外部委託が一般的)
日本国内からの利用×(米国法人のみ)
導入・運用の難易度中(ただし日本からは不可)中〜高(要カスタマイズ・契約)
費用感(目安)中〜高(取引手数料あり)高(初期費用・月額費用あり)

このように比較してみると、Internationalは「最も気軽に始められる越境対応」であり、Managed Marketsは「すべて任せて効率よく展開したい中〜大規模事業者」向け。Global-eのような外部ソリューションは「カスタマイズ性が高いがコストも高い」ことがわかります。

日本企業が今すぐに選べるのは「International」か「Global-eなどの外部ソリューション」であり、Managed Marketsは中長期的に視野に入れておく選択肢です。

自社に合う選択肢はどれ?導入判断とステップ

越境ECを始めるにあたって、いきなり完璧な体制を構築しようとする必要はありません。むしろ、段階的にスモールスタートを切り、少しずつ市場の反応を見ながら拡張していくほうが、成功の確度は高まります。

現時点で日本国内のEC事業者が現実的に選べるのは「International」です。まずはこれを使って以下のような手順で進めると良いでしょう。

  1. 販売対象国の選定
    現地での競合状況や需要を事前に調査し、リスクの少ない市場から始める。
  2. 通貨・言語のローカライズ設定
    Internationalの自動変換機能を使って、現地に合わせた表示・価格調整を行う。
  3. 配送・返品体制の確認
    DHLやFedExなどとの連携設定や、国ごとの送料ポリシーを整備する。
  4. 初期テスト販売の実施
    一部SKUやキャンペーン商品で越境テストを行い、CS・物流などのオペレーションを検証。
  5. 外部ソリューションや法人設立の検討
    本格的に収益が見込めるようになった段階で、Global-eなどの導入や米国法人化も視野に。

Shopifyのプラットフォームは段階的な越境対応を前提に設計されているため、途中で方針転換をする場合でも大きなシステム変更を伴うことなくスムーズにスケール可能です。

まとめと今後の展望

Shopifyが提供する「International」と「Managed Markets」は、越境ECに挑戦する事業者にとって、それぞれ異なるニーズに応えるソリューションです。ローカライズの基本機能を手軽に導入できるInternationalと、販売・決済・通関・配送まで一気通貫で任せられるManaged Markets。それぞれの立ち位置と役割は明確であり、どちらが優れているかではなく、「今の自社に合っているのはどちらか」を見極めることが最も重要です。

現時点ではManaged Marketsの地域制限により、日本からの利用は実質的に難しい状況ですが、Shopifyがグローバルにサービス展開を進めていることを踏まえると、将来的にアジア太平洋地域への提供範囲が広がる可能性も十分にあります。

また、Shopifyは今後AIや自動化機能を強化する方針も示しており、越境販売における運用負荷をさらに軽減する環境が整っていくことが期待されます。したがって、今の段階では「まずInternationalで足場を固める」→「ニーズに応じて他サービスや法人設立を視野に入れる」という段階的なアプローチが現実的な戦略です。

越境ECは一足飛びに成功するものではなく、検証と改善の積み重ねによって成果が生まれます。Shopifyのツールをうまく使いこなして、自社らしいグローバル展開のかたちを築いていきましょう。

よくある質問(FAQ)

Q. Managed Marketsはいつ日本でも使えるようになりますか?
A. 現時点では提供予定に関する公式発表はありませんが、将来的な拡大の可能性はあります。

Q. 米国法人を作らずにManaged Marketsと同等の体制を構築できますか?
A. Global-eやZonosなどのツールと連携することで、類似の機能を実装することは可能です。

Q. Internationalを使えば関税やVATの徴収も自動になりますか?
A. Internationalでは関税・税の自動計算には対応しておらず、手動での設定または外部ツールとの併用が必要です。

Q. 日本から発送しても海外配送できますか?
A. Internationalを使えば日本からでも海外発送は可能です。DHLやFedExとの連携で国際配送の自動化も行えます。

Q. 越境ECで最初に重視すべきポイントは?
A. 販売対象国の選定、現地でのニーズ検証、返品対応体制の整備、言語・価格の最適化が基本です。

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