
2023年12月7日(木)に、ふるさと納税サイト「ふるさとチョイス」を運営する株式会社トラストバンクは記者向けに「2023年ふるさと納税振り返りおよびトレンド予測」の説明会を開催しました。本記事ではその説明会の要点をまとめて、お伝えしていきます。

この記事の目次
2022年度ふるさと納税の全国受入金額概要と2023年度予測
ふるさと納税の現状

2022年度は約891万人が控除の申請を行いました。住民税の支払い対象人数が約6,000万人ということから、ふるさと納税の利用率は15~17%ほどと言われています。トラストバンク代表取締役の川村さんは「(ふるさと納税市場は)まだ伸び代があると捉えています。2022年度比で約1.2倍となり、今年度は1兆円を超える見込みです」と話しました。

堅調に市場が成長する理由に、一度寄付をした方の大半が翌年も実施することが挙げられています。そういった現状を鑑みて、今年度の1兆円超えは堅いそうです。しかし、2023年10月からふるさと納税に関するルールの変更がありました。
【変更される3つのルール】
- 地場産品基準の見直し
- ふるさと納税業務に付随する経費関連ルールの厳格化
- セット品における地場産品の価値割合を厳格化
このルール改正により「より地域に寄付が残る形になり、好意的に捉えています。ふるさと納税制度がより発展するために、ルールは必要です」と川村さん話しました。
2023年の寄付動向振り返りと年末トピックス
本年度の寄付動向として次の3つが挙げられていました。
- 行動制限緩和に伴い、観光・体験型の人気が加速
- 10月施行のルール改正に伴う「駆け込み寄付」現象
- 海産物支援・物価高騰を背景とした寄付
では、それぞれについて見ていきます。
行動制限緩和に伴い、観光・体験型の人気が加速

2019年から2023年の体験型のお礼の伸び率は約1.8倍、2022年比で約1.2倍とコロナ禍に一度凹みはしたものの、その後は右肩上がりで寄付が増加しています。特に行動規制の緩和が後押しし、パッケージ旅行については2022年比で約15.9倍と圧倒的な伸びを見せる結果となりました。
観光・体験型のお礼が広まることで次の2点が期待できると川村さんは言います。
- 地域の活性化に繋がる
寄付先に実際に足を運ぶため、ふるさと納税以外の地域への経済効果が期待。
また、地域の方々との交流などを通じて、地域活性化に重要な関係・交流人口に繋がります。 - 特産品が少ない自治体も魅力発信
「肉」「魚貝類」「果物類」などの特産品を持つ自治体に寄付が偏ってしまう傾向にありますが、観光産業に強みのある自治体にも寄付募集のチャンスが広がります。
10月施行のルール改正に伴う「駆け込み寄付」現象
トラストバンクの調査によると、ふるさと納税のルール変更を8割が認知し、そのうち6割が駆け込み寄付をしたと回答しました。通常あれば年末までに寄付しているはずが、9月末に寄付を前倒ししたことがデータから見えているとのことです。また、8月末移行続いているトレンドとして、輸出禁止の影響を受けて「ホタテ」が特に人気になりました。

駆け込み寄付を行った約6割のうち、ほぼ上限まで寄付を行った方が約1/4となっています。それ以外の方は、寄付が可能な上限額まで余裕を持っているため、「年末に向けて寄付額がまだ伸びるのではないか」と川村さんは話しました。
海産物支援・物価高騰を背景とした寄付
海産物支援では、ホタテへの寄付が特に集中し、処理数位放出の報道後3週間(8月24日~9月13日)の寄付額の動きを昨年と比べたところ約3.6倍伸長しています。また、ふるさとチョイスでは9月1日から漁業支援のための特集ページを公開したことも、寄付の後押しとなっているでしょう。
物価高騰もふるさと納税の寄付先を考えるうえで影響しています。トラストバンクの調査によると、半数以上の方が物価高を背景にふるさと納税を活用した経験があると回答しました。トイレットペーパー(昨年比約1.5倍)、卵(昨年比約1.5倍)、バター(昨年比約1.3倍)、食用油(昨年比約1.2倍)などのお礼の品に寄付が集まったとのことです。
2023年12月トピックス
駆け込み寄付×寄付額調整
前述の通り、駆け込み寄付があった一方で、上限まで寄付をした方は少ないです。そのため、「12月には寄付額の調整が起きる」と川村さんは話します。トラストバンクの予測では、まだ上限まで寄付をしていない3/4の方は例年通り年末に上限まで寄付をする割合が多いと見られています。例年との違いとして、すでに一定の枠を利用している方が多いため、1万円未満、5,000円未満の寄付の動きが多く出るといった見立てです。
“イマ”寄付して”あとで”たのしいお礼の品
ふるさと納税では、年末にまとめて寄付をして冷蔵庫がパンパンになるのはよく聞く話です。さらに今年は9月にその経験をしている方が少なくありません。そこで、まとめて届くお礼の品よりも、毎月お礼の品が届く定期便や旬の時期に果物類などが届く先行予約の活用も増えています。
また、冷蔵庫がいっぱいになってしまうのを回避する方法の一つとして、体験・観光型の寄付についても言及されていました。翌年でも使用できる地域ならではの体験が可能な宿泊券やチケット、ポイントを選ぶことも可能です。体験型においては特に20~30代の関心が高いと調査から明らかになっています。
トラストバンクとして「体験・観光型は強化しており、自治体にも提案を進めています」と川村さんは話しており、ポータルサイトとしても力を入れている体験・観光型のお礼の品の今後の伸びに注目が集まることでしょう。
2023年から読み解くふるさと納税のトレンド予測
今後のトレンドとして下記の3つのキーワードが挙げられていました。
- 第一次産業支援
・気候変動
・世界情勢リスク
・物流問題 - 20代
・寄付者として
・活用側として - 価値重視
・品質や地域貢献性など
・+αの価値
第一次産業支援

相次ぐ自然災害、世界情勢から農業や漁業への関心が高まっています。その関心がふるさと納税にリンクし、寄付が行われているとのことです。上記の左グラフからも農業・漁業に対して8割の方が関心の高まりを感じており、さらに右グラフを見ると36.1%の方が実際に海産物への寄付を行っています。「今年、来年とその傾向は高まっていく」と川村さんは話されていました。
また、第一次産業支援の文脈では、ガバメントクラウドファンディングが出ています。ガバメントクラウドファンディングとは自治体が行うクラウドファンディングで、寄付はすべてふるさと納税の対象になります。昨年対比で寄付件数は1.7倍、寄付額は1.3倍と増加しており、特に、飼料や光熱費の高騰、異常気象による農作物への被害などの影響を受けた農家や漁業関係者を支援する傾向にあるとのことです。
20代

左グラフはふるさと納税するときに地域の事業者・生産者への応援を意識して寄付をしているか、右グラフは海産物を生産している事業者をふるさと納税で応援する動きに関連して、海産物のお礼の品をもらったかという世代別の調査結果です。右グラフについては顕著に20代が寄付を行っており、左グラフについても最も高い割合になっています。「地域を応援、他者を応援する傾向が他の世代と比べて高い20代の関心度に注目しています」と川村さんは話しました。

20代の特徴的な動きが上記のグラフから確認できます。寄付傾向のポイントをまとめると下記の3点といえるでしょう。
- ふるさと納税を地域応援の手段として認知
- 社会情勢・経済状況に強く影響を受ける
- ふるさと納税でしか出会えない特産品や体験に比較的関心がある
20代においては、寄付者としてのみならず主体者として自治体と共創クラウドファンディングのプロジェクトを立ち上げている事例が多数登場しているとのことです。若者のアイディアをもとにしたふるさと納税の活用が進んでいます。

価値重視
2,023年の調査ではふるさと納税が「お得」だけではなく、+αの価値が重要になっていることが明らかになっています。お礼の品選びにおいて「地域貢献性(79.7%が重視)」「品質(78.7%が重視)」「こだわり(69.7%が重視)」が重視されているのです。「今まではお得さが強く出ていましたが、そこに加えて、品質や地域貢献性が高まり、価値中心になってきています」と川村さんは話しました。

“+αの価値”を持つお礼の品として、品名に「限定」「希少」「エコ」「応援」と入っている品への寄付件数は上昇傾向であり、寄付者の関心度の高まりと同時に掲載の数も伸びています。また、家具のような国産の地場産品は高品質である認識が広まりつつあり、SDGs・サステナブル消費・エシカル消費の意識の高まりも相まって選ばれているのです。
これからのふるさと納税
寄付者の約7割が寄付金の使い道を意識していることが調査からわかっています。同様に、寄付金がどの用途に使われたかを知りたい方も約7割と、お礼の品を受け取って終わりではなく、寄付者がその先まで関心を持っていることがわかる結果となりました。

寄付金を使って解決を期待する課題テーマは2022年から変わらず「教育・子育て」が最多です。そこでこれからのふるさと納税では”次世代のための寄付”をキーワードとし、「未来にどのようにつながっていくのか寄付者に伝えられるお礼の品が必要です」と川村さんは締めくくられました。
説明会に参加して
ふるさと納税は地域経済にお金が循環する仕組みであることに加え、寄付者が実質負担2,000円でさまざまなお礼の品に触れられるという魅力があります。各地域に根ざした物販をしている事業者の方が多くいらっしゃる中で、本説明会で話があがったように、食品以外の地場産品にも脚光を浴びる機会が出てきているのです。
最近では、化粧品メーカーが生産工場を構える地域からお礼の品を提供するなど、知名度の高いメーカーのふるさと納税活用事例も出始めています。イチ寄付者として、ふるさと納税の制度を活用する一方で、事業者視点として、より多くの方に商品の良さを感じてもらい、生産拠点とする地域への還元を同時に行えるふるさと納税の制度は活用できるのではないでしょうか。
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