
この記事の目次
本記事寄稿の背景:同梱物施策を実施するシステムがない?!
現在、EC業界、とりわけ健康食品/化粧品の市場では、顧客獲得コストの高騰が続いています。この要因は大きく分けると2つあります。
2021年3月のアフィリエイターの摘発
2021年3月17日、アフィリエイターの方が薬機法違反の疑いで書類送検されました。
元来から薬機法では、「何人規制」といい、広告主に関わらず販売/プロモーションに関わった全ての人が対象となるという法律にはなっていましたが、これまではどのような違反があっても摘発されるのは広告主となっていました。しかし、本件で初めてアフィリエイターが摘発対象となったのです。
これにより各広告代理店が摘発を恐れ自主規制を強化しましたが、特に影響が大きいのはアフィリエイター側の考えの変遷です。「クリーンな商品しか取り扱いたくない」「報酬が安い案件では割に合わない」という考えへと変化し、安価な案件が取り扱われなくなり、アフィリエイト広告の単価高騰に繋がりました。
2021年8月の薬機法改正
2021年8月1日より薬機法改正がありました。当改正では、薬機法違反時の課徴金として売上の4.5%が発生するなど、規制が強化されました。各広告代理店の自主規制が更に強くなり、グレーな表現での広告露出が制限されたのです。広告主の目線としては攻めた広告が打ちづらくなり、結果としてありきたりで似通った表現の広告が増えました。
2021年8月の薬機法改正についての詳細はこちらの記事で取り上げられていますので、ぜひご確認ください。
これらの改革により、グレーな表現は限りなく0に近付き、業界はある意味健全な体制へと変化しました。
一方で、獲得単価(CPA/CPO)が高騰したことによって、従来の獲得コストを前提としたプロモーション戦略が通用しなくなり、たくさんの通販事業者が事業構造の見直しを余儀なくされたのです。採算が見合わないため、撤退を決めた事業者のお話も何社か聞いています。
これらの変革で、昨今EC事業者側に2つの価値観の変容が起きたと感じています。
1.商品開発段階から、プロダクトアウトではなくマーケットイン型で顧客インサイトに根ざした商品/事業の企画を行う
2.通販の基礎であるCRM(特に同梱物施策)の見直しをより行うことでLTV最大化を図る
私がCOOを務める株式会社chipperでは事業共創パートナーとして、1を中心にサポートをさせていただくことが多いです。
本記事を書くきっかけとなったのが、今回私のクライアントでシステム移管に携わる中で2について課題となったことです。同梱物の設計については以前も携わったことはありましたが、実現するためのシステム構成について調査を行いました。
独自リサーチの結果、EC業界において同梱物対応を行うシステムのホワイトスペースが存在しており、困っていらっしゃるEC事業者が多いのではないかと考えました。こちらの記事を読んでいただいた方からご意見や情報をいただきたく、本記事を寄稿させていただきました。
同梱物とは何か
まずは同梱物対応について説明させていただきます。会社によっては「封入物」と呼ぶケースもありますが、本記事では「同梱物」で統一させていただきます。
同梱物とは、商品を梱包している段ボールの中に、商品と共に収められている物全てを指します。例としては、
- 挨拶状(お礼の手紙)
- ブランドブック(商品に込めた想い)
- 商品カタログ(他商品の案内)
- キャンペーンチラシ(X月X日まで商品AがX%オフ)
- 商品おまけ(定期継続初回の人にだけパウチが無料)
- サンプル(定期継続5回目のユーザーに他商品のサンプルをプレゼント)
などが該当します。
同梱物のメリット
同梱物施策を行うメリットは大きく分けて3つあります。
開封率が圧倒的に高い
メルマガ施策の場合、開封率は約10%〜15%程度が業界平均となっています。2010年代は20%〜30%が平均でしたが、GmailとLINEの圧倒的普及によって現在は低下傾向にあります。
Gmailはオートフィルタリングされる仕様になっているため、メルマガは「プロモーション」タブに自動で振り分けられ開封率が低くなります。また、LINEは開封率60%が平均といわれていますが、弊社が独自で行った定性調査の結果、「一瞬開いて読まない」という人が非常に多かったです。業界各社がLINEによる施策を行った結果、消費者に「LINE疲れ」「LINE施策慣れ」が蔓延しているというインサイトが発見できました。
これらの施策に対して、同梱物施策の開封率は限りなく100%に近いといえます。少なくとも商品と同時に手に取るため、「手に触れる確率」は100%といえるでしょう。圧倒的な開封率こそが他施策と比較した時の大きな利点となります。
商品と一緒に送られるため「強制された感」がない
昨今の消費者が最も嫌うことの一つは「強制されること」です。各々が自由に選択ができるという価値観を持つ人が増えてきているため、強制されることを何より嫌う傾向があります。
同梱物に近しい施策として「DM」というプロモーション手段がありますが、皆さんDMを送られたとき、その企業への不信感が発生し、逆にマイナスイメージになってしまったような経験はありませんでしょうか?
最近はこの質問にYesと答える人が多くなってきたと感じます。これは取捨選択ができる時代になってからより顕著に表れています。
この感情が発生する要因は、自分が頼んでいない物を送られることによって「強制された感」が生まれるためです。DMと比較すると同梱物は商品と同時に送られるために心理的な抵抗感が少なく、LTV向上に起因しやすいと考えられています。
D2Cの世界観とマッチしやすいためロイヤルカスタマー化しやすい
通常のECに比較し、D2Cにおいてはよりブランドのファン醸成の施策が重要視されます。消費者は自身の選択するブランドをファッションの一部と考え、SNSでシェアを行う傾向があります。だからこそ、事業者は「消費者にシェアを強制すること」ではなく、「消費者がシェアしたくなるブランドの世界観を担保し続けること」が重要です。
それらを表現する一つの手段として、商品を購入した人が開封した瞬間にしか得ることのできない感動体験を演出するために、同梱物施策は非常に有効な手段であるといえます。
同梱物施策のコツ
購入回数によって同梱物を出し分ける
こちらは私が最近購入した商品であったことなのですが、初回購入者に他商品の案内(クロスセル)のチラシが同梱されており、肝心の購入した商品の詳しい使い方の案内がなかったことがありました。
初回購入者は必ずしも商品やブランドへのエンゲージメントが高いわけではありません。その状態で他商品の案内をした際にエンゲージメントが更に下がってしまうことは容易に想像ができます。
そのため、初回購入者には「ブランドの想い」と「商品の使い方・使用者レビュー」を入れ、2回目の方は「レビュー評価依頼」、3回目の方は「他商品と併せて使った際の効果(結果としてクロスセル訴求になる)」など、購入回数に応じたステップによって出し分けることこそが、効果を最大化するために重要となります。
購入履歴によって同梱物を出し分ける
購入回数同様、購入履歴に応じて出し分けることも、リピーター化を促す上では重要です。「以前商品Aを購入した方限定、商品B定期購入XX%OFF(X月X日まで)」という案内が来たとき、前半の限定案内がない場合と比較し、購入率が高くなる傾向があります。
また、この例では既に商品Bを定期購入している消費者に送ってしまうとトラブルの発生源になってしまうため、「商品Bの購入歴がある方には送らない」という除外条件も重要となります。
以前30%OFFキャンペーンの同梱物を入れたお客様には50%OFFキャンペーンは案内しないなど、同梱履歴での出し分け対応も必要です。
一回の同梱物は多くて3つまで
稀に一度の発送で大量の同梱物を入れているケースがありますが、何を見せたいのか不明瞭となり効果が薄まってしまいます。メルマガでいうと超長文のメルマガを送ることと同じです。適切な数量としては一回の発送で2つ、多くても3つまでとしましょう。
同梱物のデメリット
ここまで読んでいただいた方は、同梱物施策がなぜ重要かということはご理解いただけたかと思います。これらのメリットがある同梱物ですが、当然メリットだけではなくデメリットもあります。
設計/管理が難しい
同梱物の設計は総合的なスキルが必要となるため、非常に難易度が高いです。
- ブランドの世界観を表現しつつ顧客の心を捉えて利益率が高い状態でリピーター化してもらうか(ブランディングとマーケティング)
- 誰にどういった同梱物を入れるのか(ターゲティングとカスタマージャーニーマップ)
- 定期通販の利益設計とPDCA(ユニットエコノミクス=LTV/CPOとF2転換)
これらの知識に加えて、健康食品/化粧品/食品では必ずついて回る、消費期限在庫問題も同梱物でカバーすることがあります。在庫一掃キャンペーンとして、特別値引きを同梱物で案内するケースです。
これらの一時的なキャンペーンも含めた同梱物を管理すると、管理コードが膨大となり非常に大きな管理コストとなり得ます。多くのEC事業者が同梱物の重要性は理解していながらも踏み込んだ施策を行っていない背景としては、こちらの理由が最も大きいと考えています。
効果分析が難しい
Web施策と異なり、正確な数字が測れないという課題は、オフライン施策には必ずついて回ります。同梱物にQRコードをつけて、そこからのアクセス数や購入率を測る方法もありますが、間接コンバージョン(QRコードからの直接購入以外での購入)も考慮しますと正確な計測はできません。
そのため、同梱物施策がどれだけ売上やロイヤルカスタマーのエンゲージメントに貢献しているかは、厳密にはわからないという課題があります。
対応システムが少ない
同梱物はDMやメルマガとは圧倒的に性質が異なります。その大きな違いは「リアルタイム性」です。

こちらの画像を見るとお判りいただけますが、DMと同梱物を比較すると事前準備として行うことは同じですが、
1.発送フェーズで出力するCSVファイルが異なる
2.フローが異なる(DMでは特定のチラシを特定の顧客リストに送付するというシンプルなフローだが、同梱物では商品に明細行が追加されるというフロー)
3.緊急度が異なる(DMの発送が遅れてもクレームにはならないが、商品配達が遅れるとクレームになるリスクがある)
という違いがあります。
そのため、毎日の運用となり、かつ作業緊急度の高い同梱物対応にこそ、自動化が求められます。システムによるオートメーションが必須条件なのです。
一方で私がリサーチした限り、全てを満たすことのできる同梱物対応システムが存在しませんでした。市場としてニーズが高いにも関わらず、対応システムが少ないこと、これこそが私が本記事を通して課題提起をしたかった部分なのです。
システム的な実現性
システム的な観点からどのように自動化を実現するのかについてまとめます。

こちらの画像は一般的なECのシステム連携図を図示した物です。厳密には他にも様々なシステムが関わってきますが、煩雑化してしまうため今回はデフォルメしています。
①モール:楽天市場・Amazonなど
②自社ECカート:Shopify・ecforceなど
③OMS(受注管理システム):ネクストエンジン・アシスト店長など
④WMS(倉庫管理システム):ロジザードZERO・ロジクラなど
最近のD2Cでは②と④の組み合わせのみでEC事業をまかなうケースもあります。
さて、EC事業者に選択権があるのは①〜③です。④のWMSは単体で販売しているケースは少なく、倉庫が独自で導入しているケースが多いため、物流倉庫の選定と同時に自動選択となります。このうち、上述の「同梱物運用のコツ」として取り上げた条件を満たすことができるシステムがどれだけ存在するか調査をしてみました。
①モール
モールは、当然ですが対応不可でした。Amazonではそもそも同梱物の運用を禁止しています。楽天市場では2016年に同梱物の条件を緩和し、同梱物にも楽天店以外の表記を可能としましたが、システムとして機能が内包されているわけではありません。
②自社ECカート
自社カートも、様々なカートを調査しましたが、総じて言えるのは、フロントでの販売機能での柔軟性は高いのですが、バックヤードの出荷に関わる機能は非常に弱いという印象でした。そのため、過去の注文データや顧客データを参照し、定期回数に応じて同梱物を出し分けて出荷指示を行うような機能はありません。あったとしても、CRMとしての目的を満たすようなことができる物ではないです。
③OMS(受注管理システム)
OMSが最も機能としては充実していました。こちらで具体的な製品名を取り上げてしまうと、そちらの製品のプロモーションに取られてしまうためあえて取り上げませんが、実現性がありそうなOMSは存在しました。一方でOMSの課題として、自動で注文データを取り込むことができるカートシステムはOMSを開発している会社側の裁量となるため、同梱物機能がせっかくあっても、そもそも自社の利用しているカートシステムが対応していないということがあります。
また、自社カートのみで運営しているEC事業者では、あえて間にOMSを挟ませることでコストが増大してしまい導入メリットが少なくなってしまうという懸念もあります。
④WMS(倉庫管理システム)
実際は物流倉庫と事前に同梱物設定条件の調整を行い、WMSへ渡した段階で同梱物をセットするケースが多いと思います。しかし、ここで最大の課題が発生します。それは、私が知る限りの全てのWMSでは、過去の注文データを保持しておく機能が存在していないことです。あくまでもカート側から渡された注文データに記載されている情報のみを参照して同梱物の出し分けの判断を行います。
そのため、購入回数についてはカート側からデータが渡されれば参照することが可能ですが、購入履歴についてはDBが膨大となるため、多くのWMSでは対応ができませんでした。
次に考えた案は、OMSとWMSの間に一つシステムを入れて、そのシステムで同梱物の設定を行うことです。そのシステムでは過去の顧客データや注文データを保持していることが条件となります。

このようなシステムが存在しないか探しましたが、私が調べた限り存在しませんでした。
同梱物対応はどのようにするのがいいのか
あくまで私の調査結果ですが、OMS側で行う方法が最も合理的であると考えます。ECで利益を上げるためには、モール展開は欠かせない戦術の一つであるため、モールでの注文履歴も含めて同梱物施策を練るためには、OMSの導入は必須であると考えています。
一方で、商品によってはモール戦略が必ずしも吉と出ないこともある点と、個社ごとに異なる複雑なEC運用に耐えられる柔軟性の高いOMSが市場に存在していないと考えているため、一概にOMSを推奨することができないという考えも持っています。
そのため、本記事を読んでいただいた方から「自社ではこのように対応している」「弊社のシステムを使えばこのような対応ができる」という情報提供をいただきたいです。こちらが本記事を寄稿させていただいた目的となります。
株式会社chipperは、クライアントのミッションにコミットする形で、EC/D2C事業の戦略からクリエイティブ領域やバリューチェーン選定まで、トータルでの事業構築を行う事業共創パートナーです。
皆様の情報提供をお待ち申し上げております。
▼情報提供はこちら
合わせて読みたい