
片岡 賢太
ジオテクノロジーズ株式会社
ダイナミックデータBU マーケティング アドバタイジング
マネージャー
ネット専業代理店、総合広告代理店、SaaSスタートアップを経て現職。15年以上にわたり運用型広告の最前線に携わり、現在は広告組織の立ち上げを担う。クライアントへの広告運用支援と自社のインハウスマーケティングを兼務し、代理店としての「専門スキル」と、事業主としての「予算に対するシビアな視点」を両立。プランニングから実運用まで成果に直結する一気通貫の支援を行い、現在は人流データを用いた新たなデジタル広告の価値創造に奮闘中。
企業HP:https://geot.jp/
この記事の目次
数億円規模の広告投資、その効果測定が困難な理由
屋外広告(OOH)や交通広告は高い効果を持つメディアですが、「どれだけの人が広告を見たのか」「実際の来店や購買意欲にどう結びついたのか」が不明確なままでは、広告投資のROIを客観的に説明できません。
また、EC事業者のポップアップストアなどのオフライン施策も、最終的なオンライン購買やブランド意識向上への貢献を把握することが困難です。
この課題を解決するソリューションとして、人々の動きをデータとして捉える「人流データ(人流分析)」が注目されています。
人流データの基礎:「人の動き」を数値化する仕組みとは
人流データの定義と取得方法
人流データとは、「どのくらいの人がいつ、どこにいてどう移動したのか」を示したものです。人の位置を緯度・経度の点として記録し、それらを時系列でつなぐことで、人々の動きと滞在場所を把握できる仕組みとなっています。
人流データの取得方法は主に3種類あります。
- Wi-Fi/Beacon:店舗内など限定的なエリアでの詳細な動きを把握
- 携帯電話基地局:広範囲のデータを取得できるが精度は粗い
- GPS:データ量と位置把握精度のバランスに優れる
この中で、スマートフォンのGPS情報を利用する方法が、精度とデータ量のバランスから最も一般的に活用されています。
人流データは、広告配信の最適化から集客、まちづくり、観光振興、出店計画まで、幅広い領域に活用してビジネスを加速することができます。本記事では、特に広告効果測定とEC事業者のリアル戦略における活用に焦点を当ててご紹介します。
プライバシー保護と匿名化の原則
人流データは、ユーザー一人ひとりのデータと詳細な訪問場所まで取得可能ですが、プライバシー保護の観点から必ず匿名化した状態で扱われます。
具体的には、個人情報保護法に基づき、他の情報と関連付けたとしても個人が特定できないよう匿名加工処理が施されます。一般的な処理方法としては以下のようなものがあります。
個人特定につながるデータの削除・加工
- ユーザーの居住地周辺と推定される位置情報データの削除
- 少数サンプルの位置情報データの削除
- 識別子などのハッシュ化
データの粒度調整
- 連続する位置情報データの間引き処理
- 位置情報データの矩形メッシュや道路単位への統計処理化
このような多層的な匿名化により、個人のプライバシーを保護しながら、マーケティングに有用なデータとして活用できる仕組みが、業界全体で構築されています。
高精度データの特長と分析の優位性
人流データの分析の質は、位置情報の「取得頻度」によって大きく左右されます。
取得間隔が長いデータでは「この時間帯にこのエリアにいた」という大まかな情報しか得られず、人々の移動を「点」でしか捉えることができません。一方、取得間隔が短い高精度なデータであれば、人々の移動を「線」で捉えることが可能になります。
これにより以下のような高度な分析が実現できます。
- 短時間滞在の正確な判定:コンビニエンスストアのような短時間滞在でも見逃さない
- 複雑な回遊経路の把握:商業施設内での詳細な移動ルートも追跡可能
- 広告接触の精緻な推定:進行方向まで考慮した視認確度の高い分析
特に、取得間隔が10秒程度の高精度な人流データサービスでは、「どのルートを通って、何分滞在し、次にどこへ向かったか」まで詳細に把握できます。この時間分解能と空間分解能の細かさが、分析の優位性を生み出し、より精緻なマーケティング戦略を可能にします。
行動の背景を読み解く属性情報
人流データは、緯度経度による位置情報と時間軸の情報があるだけでは、十分な価値を発揮できません。その情報が「どのような人のものであるか」までわかることで、初めて戦略的な分析に活用できるデータとなります。
一般的な人流データ基盤では、位置情報に加えて以下のような基本的な属性情報が付与されています。
- 基本属性:性別、年齢
- 居住地・勤務地エリア:メッシュ単位での大まかなエリア情報
これらの基本属性と位置情報を組み合わせることで、「20代女性がどのエリアを回遊しているか」といった基本的なターゲット分析が可能になります。
さらに、高度な人流データサービスでは、アンケートを通じてより詳細な属性情報を取得・保持しているものもあります。
- 経済属性:年収、家族構成
- 心理属性:興味関心、ライフスタイル、価値観

このような豊富な属性情報を持つサービスを活用すれば、顧客が「どこへ行ったか」だけでなく「なぜその行動をしたのか」という深層ニーズやインサイトまで分析することが可能になります。
例えば、「30代・年収600万円以上・健康志向の高い女性が、平日夕方にどのエリアを回遊しているか」といった、より具体的で戦略的なターゲット分析が実現できるのです。
より高度な活用:アンケート調査との組み合わせ
人流データは「行動」を定量化できますが、その背景にある動機や意識変化(「なぜそこへ行ったのか」「認知したか」「購買意欲が変化したか」)は、位置情報だけではわかりません。
この課題に対応するため、より高度な人流データサービスでは、人流データとアンケート調査を組み合わせた手法を提供しているものもあります。
具体的には、人流データをもとに、来訪歴や滞在歴など特定の場所に居たという事実に基づいて調査対象者を正確に抽出し、アンケートを実施します。これにより、事前スクリーニングの手間を省きながら、「行動」と「意識」の両面から顧客を深く理解することが可能になります。
こうしたアプローチを活用すれば、単なる行動の把握を超えて、顧客の深層心理や動機まで含めた包括的な分析を実現できます。
屋外広告の効果測定を革新する:「真の接触者」を特定する技術
人流データとアンケート調査の融合は、屋外広告(OOH)や交通広告のROIを客観的に数値化し、これまで困難だった効果検証を可能にします。

移動軌跡を活用した「接触者推定」の高度化
高精度なGPSデータで移動を「線」で捉え、進行方向を考慮することで、「広告が視認できるエリア内にユーザーが訪れているか」を加味した確度の高い接触者群を特定できます。
また、移動軌跡と属性情報を分析することで、広告主のターゲット層が最も多く通る動線を特定し、効果的な広告ロケーションの選定や最適化に活かせます。
行動変容と意識変容の定量化
高精度に抽出された広告接触者群に対し、その後の行動や意識を測定することで、広告投資の客観的な評価を行います。
来店計測によるROI可視化
広告接触者群と非接触者群の行動データ(来店率、来訪時間帯など)を比較することで、広告が来店にどれだけ結びついたかというリフトアップ効果を定量的に可視化できます。
アンケートによる意識変容の測定
リサーチを組み合わせることで、接触者を対象に「認知度向上」「購買意欲の変化」といった意識変容をスコア化できます。これにより、OOH広告への投資を「リアル行動 × 意識変容」の両面から評価し、客観的な投資判断基準を得ることが可能となります。
EC事業者のリアル戦略:機会損失を「見える化」する手法
人流データは、OOH測定だけでなく、EC事業者がリアル店舗やポップアップ戦略を練る際にも、データドリブンな意思決定を可能にします。
最適なリアル接点ロケーションの選定
人流データと属性情報を分析することで、ユーザーの移動経路や回遊状況が詳細に把握できます。これにより、自社のターゲット層が多く通る動線を特定し、ポップアップストアやイベントの最適なロケーション選定をデータに基づいて行うことが可能です。
従来の立地選定が経験や直感に頼りがちだったのに対し、人流データを活用することで、科学的根拠に基づいた戦略的な出店判断が実現できます。
機会損失層の特定と動機解明
リアルな集客施策の成功には、「なぜ来店しないのか」という機会損失の理由を知ることが不可欠です。
人流データを用いることで、「競合店舗には行ったが自社店舗には来ていない層」や「店舗周辺に居るにもかかわらず来店していない人」を正確に抽出できます。
抽出したユーザーに対してアンケート調査を実施することで、行動の背景にある動機やニーズを深く理解できます。これにより、EC事業者は、リアルな場でのサービスや、来店を促すための商品・施策に関するインサイトを獲得し、リアル行動を促すための戦略的な意思決定を行うことが可能となります。
導入企業の成功事例:データドリブンな意思決定の実践例
事例1:小売業における「来店しない顧客」のインサイト解明
スーパーマーケットを展開するA社は、「店舗周辺に住んでいるにもかかわらず来店しない人」の理由を探る調査を実施しました。
調査手法
人流データを用いて、「店舗の半径2km内に10分以上滞在したが、店舗内に30分以上の滞在がない」20代から50代の女性を抽出し、アンケートを実施しました。
調査結果と戦略変更
その結果、来店しない女性客の多くが、日中都心で働いており、帰宅時間が遅くなるため、会社の近くや駅近くのスーパーで買い物を済ませているという、行動の背景にある理由が判明しました。これにより、企業は平日の販促努力よりも、休日や週末に対象の年代を意識した販促を行うという、費用対効果の高い施策へと戦略を転換しました。
この事例は、人流データとアンケートの組み合わせにより、従来の推測に基づく施策から、客観的なデータに基づく戦略的意思決定への転換を実現した好例です。
事例2:新規インフラ整備の効果検証
人流データは、大規模な公共投資やインフラ整備が人々の行動に与える影響を客観的に評価する際にも貢献します。
LRT開業効果の検証
宇都宮市においてLRT(次世代型路面電車)が開業した後、人流データを用いた自主調査が行われました。分析の結果、LRTの路線沿いや周辺地域で人流が増加したことが確認され、一方で周辺道路では旅行速度に変化がなく、渋滞が発生していないこともわかりました。

休日(土日祝)におけるLRT路線から徒歩20分圏内でLRT開業後の人流増加エリア
LRT路線から徒歩20分圏内では、滞在人口が最大40倍増加しているエリアが確認できました。


データドリブン時代の到来:確実な成果を生む新しいマーケティング
人流データは、位置情報、属性情報、意識調査を組み合わせることで、デジタルとリアルをつなぐ技術として機能します。広告評価が「インプレッション」から「リアル行動」へとシフトする中、これまで効果が"測れなかった広告"や、不確実性の高かったリアル戦略に、データと客観性をもたらします。
こんな課題をお持ちではありませんか?
- 屋外広告や交通広告の効果が見えず、投資判断に迷いがある
- ポップアップストアやイベントの立地選定を、より科学的に行いたい
- 競合に流れる顧客や、来店しない潜在顧客の理由を知りたい
- リアル施策とオンライン施策の連携効果を数値で把握したい
人流データは、これらの課題に対して具体的な解決策を提供します。
ジオテクノロジーズでは、高精度な人流データの提供(https://business.mapfan.com/service/geo-people/)から、アンケート調査との融合、広告配信・来店計測まで、データドリブンな意思決定を支援するソリューションを提供しています。
推測に頼る時代から、データで確実に成果を出す時代へ。その第一歩を、人流データとともに踏み出してみませんか。
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