ライブコマースだけじゃない?ECにおける動画活用の新しい形「ショッパブルビデオ」とは?

近年、SNSを中心に、縦型ショート動画コンテンツの普及が急速に進んでいます。

その象徴はなんといってもTikTokでしょう。そしてTikTokが全世界で人気を得たことをきっかけに、InstagramやYouTubeなどの既存のSNSも短尺の動画フォーマットを自身のプラットフォームに取り込むようになりました。

それに伴い、ECブランドにおいても縦型ショート動画の活用の重要性は年々増しています。そしてSNSだけでなく、縦型ショート動画はECサイト内で活用することで、顧客体験や売上の向上につなげることもできます。

グローバルでは「ショッパブルビデオ」と呼ばれる、短尺の動画コンテンツからシームレスに商品を購入できるような動画体験をECサイトに実装するブランドが増えています。

今回は、このショッパブルビデオについて解説をしていきます。

この記事の執筆者

西村 祐輔
アナグラム株式会社
縦型ショート動画事業 事業責任者

大学卒業後、不動産・人材業界での営業職、リユースバイヤーなど経て、 2019年に運用型広告を軸にしたマーケティング支援を行うアナグラム株式会社に入社。
EC、人材サービス、BtoBなど幅広い業種で広告運用を支援。
現在は縦型ショート動画事業の事業責任者を務める。

Tolstoy(トルストイ)
https://gotolstoy.jp/

縦型ショート動画コンテンツの普及

短尺の動画コンテンツの重要性を知るために、まずは国内の主要SNSにおける縦型ショート動画のシェアの動向を見ていきましょう。

TikTok

縦型ショート動画SNSの筆頭であるTikTok。ユーザー数は2021年時点で約1,700万人まで増加しています。

参考:「2021年に活用を始めないと乗り遅れる」電通天野氏に聞くTikTok活用の今

数年前のTikTokを知っている方だと「ダンスやエンタメ動画のSNS」というイメージを持たれているかもしれません。もちろん今もそういった動画は多くありますが、現在ではライフログ(Vlog)、料理レシピ、コスメや日用品などの商品レビュー、グルメや旅行などおでかけスポットの紹介など、動画のジャンルはかなり多様化しています。

こうしたコンテンツが増えていることと関連し、利用手段が単なる娯楽目的だけでなく、ユーザーが自分にとって有益な情報を得るための手段としても活用されるようになってきています。

実際にモバイル社会研究所の「モバイル社会白書Web版」における2022年のアンケートでは、TikTok利用者のうち「生活情報を収集する」ユーザーの割合は17.5%でLINEの16.6%よりも高く、「世間で話題になっているモノ・コトを把握する」ユーザーの割合は34.2%とTwitter(現X)の41.1%、Instagramの36.9%に次ぐ水準です。

「モバイル社会白書Web版」における2022年のアンケート

ここからTikTokが「トレンドや自分に役立つ情報を知る」ツールとして浸透しつつあることが読み取れます。

またTikTokはZ世代を中心に若者向けのSNSというイメージも強いですが、2023年の調査では国内のTikTokユーザーの平均年齢が約36歳と、既に若者以外の幅広い年齢層に普及していることがわかります。

参考:TikTok ユーザーの平均年齢が「36歳」に上昇:博報堂のコンテンツファン消費行動調査にみる、日本におけるTikTokユーザーの実態とは | DIGIDAY[日本版]

Instagram

Instagramにおいても縦型ショート動画「リール」の利用ユーザーが急速に増えています。

リールは、Instagram内で投稿・視聴ができる15秒~最長90秒の縦型フォーマットの動画です。TikTokと近しい視聴体験のリール専用タブをはじめ、フィードや発見タブ、アカウントのプロフィール欄など、Instagram内のさまざまな場所で動画を視聴することができます。

グローバルでの調査によると、2023年時点で約75%のInstagramユーザーがリールを視聴しているとのデータがあります。

参考:https://www.businessinsider.in/tech/news/instagram-and-facebook-are-reeling-in-tiktok/articleshow/100848378.cms

実際に直近のInstagramに触れている方であれば、以前よりもフィード投稿や発見タブへの動画の表示割合が増えている、それも自分のフォローしていないアカウントの動画が増えていることを実感されているのではないでしょうか?特に普段からリールをよく見るユーザーには、おすすめとして表示されるコンテンツのほとんどが動画になることもあります。

Instagramの責任者であるAdam Mosseriも、Instagramを動画中心のSNSにシフトしていく方針を表明しており、新機能のリリースもリールに関するものが中心となっています。今後もその流れは継続していくでしょう。

YouTube

YouTubeの短尺動画フォーマット「YouTubeショート」も年々その存在感を増しています。グローバルでは2022年から2023年にかけて、YouTubeショートの視聴ユーザー数が15億人から20億人30%以上増加しています。

参考:Google says 2 billion logged in monthly users are watching YouTube Shorts | TechCrunch

また国内のYouTubeショートの動向を知るうえでは、YouTube事業を営むUUUM社の2023年7月の決算説明資料が非常に象徴的です。

資料によると、同社に関連するYouTuberの動画再生回数におけるYouTubeショートの割合は直近約1年で約2.4倍に増加、そして最新のデータでは、ショート動画の再生回数が通常動画の再生数を上回るまでに伸長しています。

こうしたデータを見ると、YouTubeにおいても、縦型ショート動画であるYouTubeショートが主流のフォーマットになる流れは避けられないものとなりそうです。

グローバルにおける動画コマースの主流の一つは「ショッパブルビデオ」

日本において、ECにおける動画活用(動画コマース)といえば、ライブコマースをイメージする方が多いのではないでしょうか?

ライブコマースは、オンライン上のライブ配信を通じて商品を販売・購入する手法です。特に中国では爆発的に市場規模が伸びており、日本およびグローバルでも徐々に広がりを見せています。

一方で、ECにおける動画活用は必ずしもライブ配信だけに限りません。グローバルでは、非ライブ型の「ショッパブルビデオ」という形式が、動画コマースの一つとして普及しています。

ショッパブルビデオとは、動画の視聴から商品の購入までシームレスな体験が可能な動画フォーマットを指します。その中でも、動画を視聴しながら紐づいた商品の情報をページ遷移なく閲覧し、カートに追加できる形式の動画が特に普及しています。

TikTokにおけるショッパブルビデオ

SNSにおけるショッパブルビデオの代表例が TikTok Shopです。TikTok Shopは、TikTokアプリ内で商品を購入できるEコマース機能です。ユーザーはアプリから商品を見つけ、外部サイトへ離脱することなくそのまま決済まで完結することができます。

TikTok Shopではライブコマースだけでなく、短尺の動画コンテンツから直接商品を購入できる非ライブ型のショッパブルビデオも主なフォーマットの一つです。ブランドやインフルエンサーが発信する動画コンテンツから、動画に紐づいた商品をアプリ内で購入することができます。

TikTokにおけるショッパブルビデオ

なおTikTok Shopは、2022年時点で6,500億円のGMVと急成長しており、そして今後もTikTokの運営元であるByteDanceはTikTok Shopに注力する方針であると述べています。現在は東南アジア、アメリカ、イギリスなどで利用可能ですが、今後日本も含め、さらに利用できる国の拡大が期待されています。

Amazonでもショッパブルビデオが始まる

またECモールのAmazonも、アメリカでInspireという動画コマース機能を提供開始しています。これはいわば「Amazon内のTikTok」とも言える機能で、クリエイターが特定の商品を紹介する縦型動画から、商品を直接購入することができます。まだアメリカ以外の国には展開されていませんが、今後拡大する可能性は十分あります。

Amazonでもショッパブルビデオが始まる

自社ECにおけるショッパブルビデオの重要性が高まっている

グローバルでは、こうしたSNS・ECモールにおける短尺動画コンテンツの普及から、自社のECサイトにもショッパブルビデオを導入するブランドが増えています。海外ではECサイト内にショッパブルビデオを実装できるツールが複数あり、そうしたツールを活用するケースが多いです。

ブランド自身がTikTokやInstagramなどのSNSで投稿している動画や、SNS上の動画のUGC(ユーザーがブランドのハッシュタグなどをつけて投稿したコンテンツ)を、サイト内のコンテンツとして活用しています。

ショッパブルビデオの活用事例

日本でも自社のECサイトにショッパブルビデオを導入するケースが徐々に増えています。ここでは、当社が導入サポートを行っている動画コマースツール「Tolstoy」の事例を元に、実際のブランドにおける事例をご紹介します。

Tolstoyとは?

Tolstoyは、ECサイトに手軽にショート動画を埋め込み、動画コマースを導入できるイスラエル発の動画コマースツールです。グローバルで5,000以上のShopifyブランドに採用されています。

商品の使用イメージを動画で詳しく伝えることができ、かつ動画から直接購入できる導線もあるため、 ECサイトの滞在時間やCVR、顧客単価の向上が期待できます。

Tolstoyとは?

事例1:Frene(フラーネ)

FreneはInstagramのフォロワーが40万人を超える、SNSを中心に人気のレディースアパレルブランドです。

FreneではTolstoyを活用して、商品ページにコーディネートに関する動画を複数埋め込み、商品の素材感やサイズ感、着こなしのイメージを伝えています。

Tolstoyのショッパブルビデオは、タップすると全画面に表示されます。ユーザーは上下のスワイプで次々と新しい動画を視聴できるため、まるでTikTokやInstagramリールのような体験が可能です。

商品に関心を持つユーザーに購入の後押しとなる動画コンテンツを見せることで、Freneでは動画経由のCVRが57%向上しました。

事例1:Frene(フラーネ)

事例2:objcts.io(オブジェクツアイオー)

レザープロダクトブランドのobjcts.ioもTolstoyを活用するカルーセル形式に動画を掲載できる「Homepage Spotlight」という機能を実装しています。

この機能を活用することで、ユーザーはページに滞在したまま動画を左右にスワイプして次々に視聴することができます。動画下部に紐づいた商品情報から商品ページに遷移することができるため、動画を起点とした商品への興味喚起やサイト滞在時間の向上につながるでしょう。

さらにTolstoyでは、AIによるレコメンド機能があります。それにより再来訪したユーザーに対しては、商品詳細ページの閲覧データをはじめとしたサイト内の行動データを元に、そのユーザーが興味を持ちそうな商品の動画が優先的に表示されるようになります。

事例2:objcts.io(オブジェクツアイオー)

最後に

SNSを中心に動画が広く普及し、さらに今後は動画から商品を購入するという体験が当たり前になる時代が来ると思われます。そのためECブランドにとっても動画は「あればよいもの」から「なくてはならないもの」に変わっていくでしょう。

一方でECで動画を活用すると一口に言っても、その活用の選択肢はさまざまです。ライブコマースはもちろん、今回紹介したような短尺動画を活用した非ライブ型のショッパブルビデオもあります。

自社の商品の特性や社内リソースを加味したうえで、最適な動画活用の方法をぜひ考えてみてください。

Tolstoy(トルストイ)
https://gotolstoy.jp/

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