
2023年8月3日に「Zホールディングス株式会社 2023年度 第1四半期 決算説明会(以下、本説明会)」が開催されました。EC関連では大きな動きはありませんが、下期に向けて全体の流れを押さえておきたい状況となっています。この記事では、本説明会の内容より特にEC事業者にとって関心の高い情報を重視しながら、要点をまとめて紹介していきます。
この記事の目次
全体感について

2023年度 第1四半期のZホールディングスの業績は、売上収益4,305億円(YoY+10.2%)、調整後EBITDA 999億円(YoY+15.6%)とともに2桁成長で、Q1として過去最高を記録しています。
売上収益の主な成長要因として、PayPay連結やメディア事業の増収があげられています。調整後EBITDAの主な成長要因としては、固定費の削減やPayPay事業の黒字化など、前年度から続く「選択と集中」の効果があげられています。
選択と集中の進捗

「選択と集中」に、第一四半期に金融事業の再編が行われました。LINE FinancialとZフィナンシャルの事業はZフィナンシャルに集約され、LINE証券・LINE CreditはZフィナンシャル傘下へ移管されています。
生成AIの取組み

Zホールディングスでは、あらゆる部署の社員が生成AIを活用することで、業務の生産性向上、サービスの品質の向上、新サービス創出を目指しているとのこと。
たとえばPayPayフリマでは、OpenAIの生成AI活用により、出品時の説明文サポート機能が2023年8月に提供開始となりました。ヤフオクへの導入も検討中とのことで、Yahoo!ショッピングでもいずれ生成AIの活用があるかもしれません。
参考:PayPayフリマ、出品時の商品説明文の作成を生成AIがサポートする機能を提供開始
2023年度 連結業績ガイダンス

本説明会では、セグメント別の業績について、新たにメディア事業の広告売上収益とコマース事業の売上収益が開示されました。
セグメント別業績・トピックス
メディア事業
広告関連売上収益

メディア事業の広告関連売上収益は、主にディスプレイ広告で市況の影響を受けた減収があったものの、ショッピング広告を除く広告関連売上収益はYoY+1.2%と増収で、近年の下降傾向に底打ちの兆しが見られます。
ディスプレイ広告 増減分析

ディスプレイ広告の減収に関しては、市況の他にも、ショッピング広告でコマース事業における販促費効率化を戦略的に推進している影響、予約型広告で構造的に運用型広告へのシフトが続いている影響を受けています。
今後短期的には、ヤフーとLINEのID連携と営業組織統合によるシナジーが見込まれ、両者のプラットフォームを横断した分析、総合的なソリューションの実施を進める予定とのこと。また長期的には、広告プラットフォーム統合による売上向上への取り組み、動画広告の市場取りこみが図られるようです。
コマース事業

コマース事業では、前四半期から続くYahoo!ショッピングなどでの販促費削減により、収益性が大きく改善しています。調整後EBITDAマージンも20%超えとなりました。

また、eコマース成長率、特に国内物販系取扱高は、近年の成長率下降傾向に底打ちの兆しが見られます。

国内ショッピングは、前四半期から成長率が回復しており、想定内の着地とのこと。国内リユースは、ユーザーベースの拡大やPayPayフリマの牽引により、安定的に成長を続けています。国内サービスは、依然としてトラベルが好調を維持しています。
コマース事業の集積性改善と施策

コマース事業全体として、継続率・収益性の改善、プロダクト強化が順調に進み、Yahoo!ショッピングでは粗利率が伸びています。また、新規ユーザー向け販促やアプリ利用の促進、優良配送ストア優先表示施策の継続実施などサービスの本質強化を進めており、新規顧客の継続率や優良配送比率が伸びる結果となりました。
2023年11月にはYahoo!アカウントとLINEアカウントのID連携によるグループ横断の会員プログラムである「LYPプレミアム会員」が始まります。下期の成長に向け、サービスの基盤整理が順調に進んでいるそうです。
戦略事業

戦略事業の売上収益は、主にPayPayとPayPayカードの成長により前年比で大きく成長しました。また、調整後EBITDAには、PayPayの収益性改善に加え、金融事業再編など「選択と集中」の効果も表れています。
今後も、PayPayの成長に加え、コスト最適化や赤字事業の削減や見直しにより、収益性改善に努める方針です。
PayPay

PayPayは、登録ユーザー数、連結取扱高、連結売上高いずれも拡大を続けています。高い成長継続が固定費や獲得費を賄い、連結EBITDAが初めて黒字化しました。
今後、PayPayカードとの一体的な経営を推進し、スマホアプリを起点としたシームレスな決済体験を提供することで、さらなる事業の拡大・多層化を進める方針です。
また、PayPayカード、PayPay銀行も順調に成長しています。
2023年度の経営方針について
Zホールディングスの2023年度の経営方針のひとつである事業の効率化は、固定費の削減および「選択と集中」ともに順調に進み、利益にも表れています。
もうひとつの経営方針である、2024年以降の再成長に向けた基盤づくりでは、2023年10月のヤフーとLINEのID連携、11月のLYPプレミアム会員などの取り組みに関する準備が予定通り進んでいます。
広告市況も底打ちの兆しが見えつつあり、2023年度のスタートは総じて順調なようです。
説明会に参加してみて
Zホールディングスの2023年度 第1四半期では、大きな動きはありませんでしたが、前四半期から続く「選択と集中」の効果が着実に表れてきていることがわかります。
2023年下期には、10月にID連携、11月にLYPプレミアム会員の開始とZホールディングス全体で大きな動きを控えており、そこに向けた準備が進められているのが2023年度 第1四半期といえます。ID連携やLYPプレミアム会員開始によるYahoo!ショッピングへの集客効果やサービスの強化は、EC事業者にとって注目したい点です。
前四半期までのeコマースの国内取扱高や成長率の下降傾向の底打ち、Yahoo!ショッピングの粗利率の改善などから、どう大きな成長に持っていくのか、下期のタイミングで大きな施策が打たれることも考えられます。
Yahoo!ショッピングに出店しているEC事業者にとっては、下期に期待される新規顧客を確実にリピートにつなげるための準備が求められるのが今なのかもしれません。物価高や配送コストの拡大が続く昨今ですが、今のうちに無理のない価格設定や運営体制を整えておくことは重要といえます。
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