
コマースピック読者の皆様、IFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)の田井治と申します。3年前に大手証券会社を退職し、現在は資産運用アドバイザーを務めております。
前回の記事では新規開業から一時的な緊急資金、事業を継続するにあたりどういった資金調達の方法があるのか、代表的なものについて解説させていただきました。
今回は最近、資金調達を行ったD2Cをはじめとするスタートアップ企業を実例にあげながら、考察を行っていきたいと思います。皆様の今後の資金調達のご参考になれば幸いです。
デットファイナンスを行った企業
前回の記事で紹介したように日本企業の9割以上は融資を活用して資金調達を行っております。一般的には土地や設備を担保に、かつキャッシュフローが黒字である企業が融資を受けやすい傾向があるのですが、D2CビジネスはJカーブ型の成長戦略を描くことが多いので、デットファイナンスを行うのは難しいイメージがあります。
しかし、以前と比べると状況が変わってきています。例としてアルバイト仲介アプリを手掛けるタイミーの事例をご紹介します。日経新聞にも取り上げられていたので、知っている方も多いのではないでしょうか。
タイミーは2022年11月にみずほ銀行や三菱UFJ銀行など計8の金融機関から、融資枠を含めて183億円の借り入れを行いました。メガバンクを含めた銀行から非常に好条件・かつスタートアップ企業へデットファイナンスによる資金調達ということで注目を集めました。
この大型デットファイナンスが成功した背景には、融資を行う銀行側(投資家)の評価体制が変わってきたという点があげられます。債権の流動化や技術力、事業の成長性を評価する手法が開発されたことで、赤字企業への融資も以前と比べ、緩和される流れとなりそうです。
米国ではすでにベンチャー企業へのデットファイナンス活用が進んでいますが、日本ではまだまだ一般的ではないため、国としてもこのようなファイナンスを後押しする法案を提出する方向とのことです。
前回の記事では融資を受けるステップとして、創業当時は
- 日本政策金融公庫
- 信用保証協会による保証付き融資
- プロパー融資
という順で資金調達のステップアップを説明しましたが、今後日本でもD2Cをはじめとするスタートアップ企業が自社のビジネスモデルや技術を担保に融資が受けやすい環境整備が進むと考えられます。
変貌スタートアップ金融(上)新興支える「赤字でも融資」 大手銀、スキーム多様に 成長性担保、年利1%以下も :日本経済新聞 (nikkei.com)より抜粋
エクイティファイナンスを行った企業
次にエクイティファイナンスを活用し資金調達を行ったD2C企業の代表例をご説明します。
・バルクオム
ニッセイ・キャピタル株式会社、株式会社丸井グループ、DIMENSION株式会社、きらぼしキャピタル株式会社を引受先とした第三者割当増資および日本政策金融公庫などからの融資を合わせて総額約15億円の資金調達を実施。
化粧品ベンチャーのバルクオム 約15億円の資金調達 国内マーケティング強化およびグローバル展開推進による事業拡大を加速 (bulk.co.jp)
・FABRIC TOKYO
既存株主であるニッセイ・キャピタル、グロービス・キャピタル・パートナーズをはじめ、新規株主として、AAファンド、Bonds Investment Group運営のひょうご神戸スタートアップファンド、FFGベンチャービジネスパートナーズ、ちゅうぎんインフィニティファンドからの出資、および静岡銀行からの新株予約権付融資により資金調達を実施。
10.3億円の資金調達を実施しました | 株式会社FABRIC TOKYO (fabric-tokyo.com)
・ベースフード
シニフィアン株式会社及びみずほキャピタル株式会社が共同で運営するグロース・キャピタル「THE FUND」を引受人とする第三者割当増資により、10億円の資金調達を実施。
同時に、株式会社三菱UFJ銀行、株式会社商工組合中央金庫、株式会社りそな銀行、株式会社三井住友銀行と総額10億円の融資契約を締結し、第三者割当増資と融資を合わせて総額20億円の資金調達を実施。
完全栄養食のパイオニア ベースフード、総額20億円の資金調達を実施|ベースフード株式会社のプレスリリース (prtimes.jp)
昨年は米国のインフレ率上昇による政策金利の引き上げが影響し、ナスダックを中心とした成長企業の株価が大きく下落しました。その結果、資金調達を行う際にエクイティファイナンスに加えてデットファイファイナンスを併用した資金調達が見受けられました。
この背景には、資金調達をすべてエクイティファイナンスによって行うと、企業が想定していたよりも資金調達できないという点があったと考えられます。未上場企業の時価評価も上場している企業のマルチプルを用いて算定するため、上場している類似企業の株価が下落していると資金調達の金額も少なくなってしまうからです。
一方で、資金提供を行うプレーヤーは年々増加しており、以前は一握りのVC、CVC、エンジェル投資家による資金提供に限定されておりました。直近は大学などの公的な資金もスタートアップ企業へ資金を提供する流れが加速しています。
冒頭でもお伝えしたように、D2C企業のビジネスモデルを特徴にあげさせていただくと、創業数年間は広告費への投下が多くなる傾向があるため、キャッシュフローの赤字が続く傾向があります。もちろん投資家側もそのようなビジネスモデルを理解しているものの、将来的にリターンが出るのか、資金を回収できるのかといった点を重視して出資検討をします。
よって、エクイティファイナンスにより資金調達を検討されている企業は、資金調達の機会があった際には、自社のバリューや付加価値が何なのか、他社との差別化についてしっかりと説明できる必要があります。特にエクイティファイナンスによる資金調達の機会は増えているので、是非資金調達に繋げていただければと思います。
クラウドファンディングを行った企業
クラウドファンディングの業界大手のFUNDINNOのデータを基に説明していきます。FUNDINNO の公表データによると2020年クラウドファンディングによって成約した件数は307件となっております。また、同年の累計成約額は94億円という結果でした。年度別参加者数は7,935人、年度別約定金額1億8,071万円、年度別累計ユーザー数116,991人となっております。
株式市場の冷え込みにより、多少影響があったと思いますが仮に株式市場が好調であれば成約件数、成約金額はさらに増えていたのではないかと思います。
興味深い点としては自分の投資したお金が社会課題解決の手助けになってほしいというソーシャルベンチャーへの出資や地域活性化を願う地方創生企業への出資が増えており、実際にクラウドファンディングを成功させる事例も増えています。加えて、ユーザーの投資目的では【高い投資リターンを得るため】の出資(14.6%)を抑えて【企業の成長を応援したいから】の出資(38%)が大多数を占めるデータもでております。(※)
必ずしも上場や事業売却によるリターンを求める投資だけではなく、純粋に企業を応援したいという投資家が増えている表れかといえます。
※参照…数字でわかるFUNDINNO
さいごに
今回の記事では資金調達を行った企業とその解説を行いました。特にデットファイナンス、エクイティファイナンスの例はスケールが大きいこともあり、自分とはかけ離れたものと受け止められた読者様もいらっしゃったのではないかと思います。しかし、今回の記事で資金調達を行った企業も創業当時は皆様と同じように、こつこつと歩んでこられたものと思います。
ワクワクするかどうか
とあるエンジェル投資家の方にお会いした際、どういった企業に投資するのか選定基準を質問したところ、「もちろん自分の仕事とシナジーあればいいと思うけど、一番の基準は話を聞いていて、ワクワクするかどうかだよね!」と仰られていました。皆様のご参考になれば幸いです。ありがとうございました。
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