
今、買い物のあり方が大きく変わろうとしています。メルカリをはじめとするフリマアプリの普及で、一度買ったモノを売る「リセール」は一気に身近になりました。誰でも簡単に使い終わった商品の売り買いができるようになった今、モノを売ることは特別な行為ではなくなっています。
この流れを受けて、消費者の間ではさらに新しいトレンドが生まれようとしています。それは、新品を買う時点で「将来的に売ること」を前提に選ぶという行動。リセールの浸透が、購買そのものの意味を変え始めているのです。
このトレンドは、ECで商品を売るブランドにとってどのような影響があるのでしょうか。本記事では、変わりつつある消費者の購買行動がブランドに突きつける問いと、その変化を新たなチャンスに変えるための次世代のリテール戦略についてご紹介します。
野田 百詠子
リベロント株式会社
片付けで有名な「こんまり」のスタートアップでマーケティング、マッキンゼーでの戦略コンサルティングを経てフリーに。リベロント株式会社においては、コンテンツ発信やアウトリーチを担当。「モノが眠らず、巡る社会」を目指して、日本初の「バイバック保証」サービスを社会に根付かせるための活動を推進している。
この記事の目次
なぜ、「リセール」を意識してモノを買う人が増えているのか?
リセールを前提に買うという行動は、どういった背景から生まれたのでしょうか。変化の裏には、大きく2つの要因があります。

2次流通市場の急成長と生活圏への浸透
まず一つ目の要因が、冒頭でも挙げたCtoCプラットフォームを中心とした二次流通市場の一般化です。従来の中古品業者がBtoCで販売するリユースショップなどに加え、フリマアプリやネットオークションなどのCtoCで販売する流通経路が盛り上がり、生活圏に浸透しました。メルカリの月間ユーザー数は2,300万人(参考:メルカリ)、Yahoo!オークションはYahoo! JAPANを毎月訪問する5,452万人にリーチする(参考:Yahoo! オークション)規模を誇り、日本の人口の2~5人に1人は毎月リセール市場に触れています。ブランド品に限らず、アパレル、家電、子供用品、アウトドア用品など幅広いジャンルでリセールの取引が日々行われており、二次流通市場は拡大の一途を辿っています。
マクロトレンドが後押しする構造変化
次に挙げられるのが、社会全体における構造的な変化です。昨今の物価高による消費者の購買力の低下や、世界的なサステナビリティに対する意識の高まりなどが、使い捨てない消費という潮流を加速させています。
日本における2024年の消費者物価指数は、前年比2.5%で増加(生鮮食品を除く。参考:総務省)した一方で、実質賃金は0.2%減と物価上昇に賃金の伸びが追いついていない状況です(参考:朝日新聞)。世界的に見ても、31%の人が物価高に日々の買い物が影響されていると回答しており、インフレが購買行動に影響していることがわかります(参考:PwC)。
こんな中、消費者のモノに対する意識も、「消費して終わるもの」から「長く使い、使い終わったらリセールする資産」へと変わりつつあります。2024年の日本国内の調査では、日々の行動の中で社会・環境のためになることを行う「社会行動実践度」は10点満点で5.28点と、過去最高値を記録しました。買い物の際に意識することも、「長く使えるものを買う」人が10代から70代を含む全体で90%と最も高く、その他にも「不要になったがまだ使えるものは人にあげたり売ったりする」が61% 、「環境に負荷をかけない商品を買う」が45%など、「最小限」「長期に使う」「循環」に関する項目が上位を占めました(参考:博報堂)。世界においても、64%の人がサステナビリティを購入時の主要な考慮事項の一つとして挙げています(参考:Simon Kucher)。
「リセールバリュー」が新たな購買判断基準に
こうした潮流を背景に起きたのが、消費者の買い物のあり方の変化です。リセールが浸透したことで、新品の購入時点からリセールバリューを検討し、購買判断基準とする人が増えています。調査によると、商品購入時にリセールバリューを考えたことがある人は7割以上、20代の2人に1人はリセールバリューが高ければ背伸びしてでも購入を考えるという結果がでています。特にZ世代やミレニアル世代では、商品のリセールバリューが購入時の重要な判断基準として定着しつつあり(参考:株式会社コメ兵ホールディングス調べ)、リセールありきの買い物は今後どんどん広がっていくと推測されます。
「リセール前提の購買」がブランド戦略に突きつける問いとは?
ブランドに求められる「競争」か「共創」の選択

リセール市場の拡大と消費者意識の変化を前に、ブランドには「競争」か「共創」の選択が突きつけられています。
従来、ブランドは一次流通、つまり新品販売にフォーカスし、「どう売るか」「どんなストーリーで訴求するか」に注力してきました。しかし、今や消費者は新品だけでなく、自社や他社のリセール品とも比較しながら購入を検討しています。
新品とリユース品が並列の選択肢として並ぶようになった今、ブランドには「一次流通に留まりリユースと競争する」のか、それとも「二次流通と関与し、共創する」のかという戦略的な選択が求められています。これは単なる販路拡大だけでなく、ブランドのあり方そのものを問う選択とも言えます。
前者の場合、ブランドが検討すべき問いは、いかに新品の売上低下を食い止め、新品とリユース品を差別化し、リユース市場の拡大と戦えるか、というものになります。新たな敵として戦う相手とみなす方向性です。
しかし、もし後者、共創の道を選べば、全く新しい問いが開けてきます。リユース市場を取り込むことで、一次流通を購入する消費者に新たな価値を提供し、新品の売上も上げることはできないか?リユース市場のみで購入していた消費者を、新たに惹きつけられないか?リセールまでを含めた一貫したブランド体験をつくることで、消費者との関係をより広く、深く、継続的なものにできる機会が見えてきます。
この大きな転換点において、ブランドがどちらの未来を選ぶのか。その決断が、今まさに問われています。
決断と行動の必要性
消費者のニーズだけでなく、社会的な流れもブランドによるリセール関与を後押ししています。
たとえば、欧州ではEPR(拡大生産者責任)という概念を元に、製品の製造者に対して、生産だけでなく廃棄やリサイクル段階までの責任を求める動きが強まっています。2022年にはフランスで世界初の衣類廃棄禁止法が施行され、衣類の未販売品の廃棄が禁止されて寄付やリサイクルが義務付けられました。2024年には欧州議会でEPRの制度化が可決され、欧州全体で制度設計が進みつつあります。
この潮流はいずれ日本にも訪れると見られており、リセール市場への関与は、今後の持続可能なブランド戦略として避けて通れないテーマとなると思われます。二次流通市場への関与は、遅かれ早かれ決断を迫られるポイントなのです。
今、求められる「循環型ブランド体験」とは?
買い物が転換点を迎える中で、ブランドが持続可能性と競争力を両立させる鍵として注目されているのが、循環型のブランド体験を設計するサービスです。これらのサービスは、製品の設計からリセールに至るまで、ブランドが消費者との関係性を強化するためのサービスを提供しています。
新規の循環サービスの6つのアーキタイプ
これらの循環型サービスは、そのアプローチによって6つのタイプに分類できます。

- サーキュラーデザイン型:素材設計段階から分解・再資源化を前提に製品を設計するアプローチです。研究開発型の企業が中心となります。
- Resale-as-a-Service型:近年注目が高まる「Resale-as-a-Service」は、ブランドが自社の公式リセールチャネルを持つための支援を行うサービスです。ブランドが公式に再販を行うためのEC機能や認証プロセス、在庫管理のインフラなどを提供します。
- マネージド・マーケットプレイス型:ブランドが提携する外部のCtoCプラットフォームとして、顧客同士が売買する公式なリセールの場を提供します。
- リペア&リセール型:ブランドと提携し、製品の回収・修理・再販を担う外部のリユース業者です。製品は品質を回復させた上で、公式なリセール品として再販される点が特徴です。
- 回収&リサイクル型:製品のリサイクルに主眼を置き、不要品の回収や分別を専門に行う企業とブランドが提携します。ブランドは販売後の責任を果たす形で、資源循環に参加します。
- サブスクリプション型:購入ではなくレンタル利用が前提のビジネスモデルです。ブランドは商品をまとめて提供し、繰り返し使用される前提で流通させます。

これらのサービスを活用することで、これまで自社だけではリセールに踏み込むことが難しかったブランドも、新たなリセール戦略を描くことができます。実際に、パタゴニアやLululemonなど一部のブランドは、上に挙げたResale-as-a-Service型のサービスを積極的に取り入れ、自社商品の公式リセールプログラムを購買体験の一部として取り入れています。こうした取り組みは、使用後の商品の流れを作り、消費者のリセールをサポートする仕組みを実現します。
「再販価値を保証する」新しい購買体験の可能性
循環型のサービスの登場が明らかにするのは、一次流通と二次流通の垣根が急速に曖昧になりつつあるということです。これまでは分断されていた二つの領域が、一貫した購買体験としてつながっていくことで、リユースを前提に買う消費者に選ばれる理由の一部になります。
その一方で、これらのサービスを見渡して浮かび上がるのは、一次流通と二次流通の間にはまだ空白地帯があるということです。公式リセールは使用後の再販の場を提供しますが、その手前、消費者の買い物や商品使用時については、まだサポートの余地があると言えます。

この空白地帯にアプローチする事例として出てきたのが、「バイバック保証」という新たなサービスです。世界でもまだ数少ないものの、米国ではCroissantというスタートアップが展開しており、日本ではLiberontが国内初の「バイバック保証」をブランド向けに提供しています。
Liberontの「バイバック保証」は、商品購入時に将来の再販価格を保証するという、リセールを前提にした買い物という消費者の潮流をとらえたものです。消費者はリセール価格が事前にわかることで、リセールの不安や手間から解放され、安心して欲しいモノを購入することができます。ブランド側も自社ECでこの仕組みを導入することで、循環を前提にした販売体験を提供できます。さらに、再販後の買取やブランド価値を担保した販売はLiberontが担うため、企業負荷は低く抑えつつ、持続可能でデータドリブンな販売モデルが実現できます。
このような消費者の買い物に焦点を当てたアプローチは、リセールへの意識が高まる中で、今後より一層広がっていくと予想されます。実際に、Croissantは米国で100以上の企業とパートナーしており、NIKEやCOACHなどの有名ブランドとサービスの場を広げています。Liberontは国内初の事例として、リリース直後であるにも関わらず複数社での導入が進んでいます。公式リセールやバイバック保証といった新しい循環サービスが、消費者の新しい買い物の形を実現しているのです。
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リベロント株式会社
https://liberont.com/
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