中国で大人気 POLAと語るW11攻略法【セミナーレポート】
イベントの概要

2022年11月25日、中国EC市場の年間最大のショッピングイベントである11月11日の「独身の日」=W11(ダブルイレブン)の攻略法についてセミナーが開催されました。中国市場でのマーケティング支援を手掛ける株式会社unbotの福積さんと、中国で人気のスキンケアブランドを展開する株式会社ポーラの佐藤さんより、W11の攻略法から、中国EC市場の現状と今後の勝ち筋について対談が進みました。本記事では、その様子をポイントごとに紹介します。

【登壇者】
福積 亮さん
株式会社unbot
Global Sales Department. Leader

佐藤 秀彦さん
株式会社ポーラ
電商部 経理

登壇者&会社紹介

株式会社ポーラ

登壇者&会社紹介 株式会社ポーラ

佐藤さん(ポーラ):弊社では、B.A、リンクルショット、ホワイトショットなどさまざまなブランドを持ち、一般貿易において百貨店、エステ店、ECそして越境ECの4チャネルで中国に展開しています。基本的に商品の製造は日本で行っているので、中国側と日本側とで互いに協力してコミュニケーションを取り合うことが大切になってきます。

株式会社unbot

登壇者&会社紹介 株式会社ポーラ

福積さん(unbot):unbotでは中国関連マーケティングを全方位的にカバーしています。実務運用部隊はすべて上海にあり、ほとんどのECプラットフォームやSNS、キュレーションのクリエイティブ制作や運用を内製しています。ライブコマースにも対応できます。AIPL(認知・興味・購買・ロイヤリティ)という顧客の心理と行動に基づいたうえで施策を行っているため、特にリピート商材でLTVを最大化する支援が得意です。

(右)佐藤秀彦・株式会社ポーラ 電商部 経理
(左)福積亮・株式会社unbot グローバル営業統括
(右)佐藤 秀彦さん・株式会社ポーラ 電商部 経理
(左)福積 亮さん・株式会社unbot グローバル営業統括

W11と今年の傾向

2022年のW11の傾向

W11 年度別GMV推移

福積さん:W11は、毎年過去最大の売上を更新することで注目されていますが、2022年は天猫(Tmall)/京東(JD.com/ジンドン)ともに売上は未発表です。ただ、さまざまなデータからおおよその予測は出ています。

佐藤さん:さまざまな分析や調査を見ると、天猫は横ばい、京東は前年を超えているのではないかと思います。抖音(Douyin/ドウイン)などの新興ECプラットフォームもおそらく前年より売上を伸ばしているのではないかと考えています。

今年のW11スケジュール

福積さん:ポーラさんは天猫(Tmall)/京東(JD.com/ジンドン)/抖音(Douyin/ドウイン)/拼多多(Pinduoduo/ピンドゥオドゥオ)に展開していますが、プラットフォームごとにW11の特徴はありますか?

佐藤さん:2022年のW11は単純な前年比較が難しかったです。販売期間に変化があり、京東は前年同様でしたが、天猫は前年に比べて販売期間が短くなりました。

こういったプラットフォームの流れはもちろん重要なのですが、自らが流れを作っているブランドも多く存在するので、自社の状況を踏まえた上でプラットフォームの流れに乗るのが良いのではないでしょうか。

福積さん:物流まわりはどのように対応されていますか?

佐藤さん:物流まわりでは、商品の確保が難しいと感じます。W11が近づくと保税倉庫も混みあうので、9月までには商品を入庫しておかなければなりません。そのため2022年のW11が終了した時点で、もう来年の予測を始めています。日本で商品を製造している場合、必要な数の商品が確保できるよう注意して日本側と調整することが必要です。

福積さん:W11の他にも、3月8日の国際女性デーや、6月18日の618商戦も大きなイベントです。これらの準備も早めに進める必要がありますよね。W11が終わったら国際女性デーの準備を始め、618商戦の展開も考えはじめる。有名人を起用する場合は翌年一年間の予定がそれで決まることもあります。

中国EC市場の今年のTOPICS

中国EC市場の今年のTOPICS

福積さん:2022年の中国EC市場では、ライブコマースが続伸しており、売上に占める割合は、前年の5%から11%へと増加しました。また、玩具/ペット/アウトドア/宝飾の4カテゴリの売上が伸びており、アウトドア市場はもうすぐ5兆円に届くといわれます。さらに、メタバース空間でのバーチャルショッピングも登場しています。

ライブコマースについて

W11期間のライブコマースランキング

福積さん:ライブコマースにはどのように取り組まれていますか?

佐藤さん:ライブコマースは、目的と役割の位置づけに注意して取り組んでいます。例えば有名人のライブコマースを販売機会と捉えるのであれば、利益確保のために値引きや特典の交渉が必須です。また、事前にキャンセル率や返品率を注視しておきます。一方、PRと捉えるのであれば、採算度外視で視聴数やアクティブ数に注目します。

ライブコマースに有名人を起用するか自店舗で行うか、どちらが良いかは一概に言えず、ライブコマースの目的によって異なります。弊社では、自店舗で行うライブコマースに力を入れています。

福積さん:ライブコマースは一日に何時間くらい行っていますか?

佐藤さん:日本の感覚では考えにくいかもしれませんが、中国EC市場のライブコマースは、4時間程度は日常的で、商戦期になると8時間~12時間程度展開することもあります。弊社も同様です。さまざまなライブ配信の会社があり、会社によって強いプラットフォームが異なります。

福積さん:24時間配信を行っているところもありますよね。長時間露出を取ることで、アルゴリズムに学習させる狙いかと思います。

佐藤さん:2019年頃から、アリババのアルゴリズムがライブコマースに寄っていると感じます。2022年のW11におけるライブコマース経由の売上の増加を見ても、ライブコマース活用の流れが加速している印象です。

今年のW11を受けて今後やるべきこと

今年のW11を受けて今後やるべきこと

ライバーGMVを瞬間最大風速で終わらせない

福積さん:W11では、GMV(流通取引総額)が瞬間最大風速で吹きやすいのですが、ブランドが見落としがちなのがその後です。店舗や商品詳細ページを訪れた消費者をその後どのようにフォローし、どうやって購入いただくかが重要です。

インタレストコマースへの参入

福積さん:レコメンドシステムで消費者の興味関心に沿ったコンテンツを表示することでECでの購買につなげるインタレストコマースを、抖音が提唱しています。ポーラさんは抖音にも展開していますが、反応はどうですか?

佐藤さん:勢いはすごくあると感じます。もともとSNSとして成功しているところにECのショッピング機能を付けているので、閲覧する人はとても多いです。また、これまでのデータでは、想定よりも天猫や京東と客層が重なっていません。そのため、認知拡大やシェア拡大という点で、参入すると良いのではないでしょうか。

福積さん:露出する面を広げることで、新しいお客様とタッチポイントを持ち、購入まで持っていけると良いですよね。

商品戦略の構築

福積さん:中国EC市場における商品戦略の構築は、イメージしにくい部分ではないかと思います。

佐藤さん:W11などの大型イベント時期になると、各プラットフォームに非常に集客力の強い特設ページができます。特設ページに掲載されるためにプラットフォーム側から条件が提示されます。たとえば、特典の数量や価格帯など、さまざまです。そういった条件やルールに基づき、商品の露出やPRの展開を組み立てる必要があると考えています。

福積さん:プラットフォームに言われたから特典をつけるのではなく、キャンペーン時期に合わせて、どのキャンペーンでの購入だとLTVが長いかなど、戦略を立てることが重要です。

佐藤さん:そのためにも、代理店などを通して常に何が起きているか把握する必要があるでしょう。

大型キャンペーン攻略法

大型キャンペーンで波を作るために

ある外資系ブランドの直近一年間の売上構成比

福積さん:こちらの図は、ある外資系ブランドの直近一年間の売上構成比です。3つの大型キャンペーンがあり、それらの売上の合計が年間の売上の45.9%を占めています。大型キャンペーンで大きな波を作るためには、キャンペーン前のどのタイミングで初回の接点を持つか、そこからどうやって購入してもらいたい商品をキャンペーンで購入してもらうかという、波の作り方が重要です。

佐藤さん:商戦期以外の通常月の取り組みが、商戦期の売上につながります。大型キャンペーン以外のタイミングで、PRや広告展開をコツコツ行うなど、いかに種まきができるかが鍵となるでしょう。

福積さん:大型キャンペーンは混みあって物流の遅れが生じやすいこともあり、消費者のなかには、安いから買うというより、平日にライブコマースで商品について十分理解した上で自分のタイミングで購入したいという方もいます。弊社としても、キャンペーンのときだけでなく、キャンペーン以外で何をやるかということにも注力しています。

38までに新規獲得のために行うこと

38までに新規獲得のために行うこと

キャンペーンに向けた種まきが重要

福積さん:W11の次の大型キャンペーンが、3月8日の国際女性デーです。

佐藤さん:一般的には3月に売上の山場を持ってくるための事前の種まきとして、12月~1月頃から、ブランドの露出により消費者の興味喚起を行っています。具体的に何を行うのかは、各社の状況に合わせて対応する必要があります。共通して言えるのは、部署間の連携といった社内コミュニケーションが重要ということです。中国側だけでなく、物流や日本の海外事業部との連携がうまく取れるようにしましょう。

福積さん:我々のお客様の多くは日本にいる海外事業部で、中国の部署や商品企画、マーケティングチームなどがぶつ切りになっている会社も多く見られます。中国と日本では状況が違い過ぎて、なかなか理解してもらえないこともあります。また、商品の在庫や素材の確保に苦戦することも多いのですが、ポーラさんでは日本への報告や説明をどのように行っていますか?

佐藤さん:愚直に続けるしかないと思っています。私の場合、前任者が不在でしたので、最初は何が起こっているのかを把握することに努めました。それに2~3年はかかりましたし、さまざまな失敗もありました。そのなかで、「中国のEC市場とは」というところから、日本側への説明を日々続けています。

小紅書・抖音の活用

福積さん:もし今、ブランド認知がない状態で、天猫国際と天猫に展開したばかりの状況だとしたら、佐藤さんは特に何に取り組みますか?

佐藤さん:小紅書(RED BOOK)や抖音での種まきを重視します。種まきはKPI設定が難しく、売上につながっているのか日本側も気にしますし、現地側も効果を感触として抱きづらいところがあります。そのなかでいかに意思を持って続けていけるかが重要です。

福積さん:小紅書についての流行や変化はありますか?

佐藤さん:もともとはライフスタイルに関する投稿を楽しむ印象でした。そこにEC機能が入って、どのプラットフォームで買うのがお得なのかを比較する投稿も増え、現在は第三者視点の立ち位置となっている印象です。

福積さん:ユーザーのモチベーションとしても、購入するものを決めておらず、参考を比較する場所になっている感じですね。

佐藤さん:以前のような投稿もありつつ、新しい機能や比較の投稿もあり、コンテンツが多様化しているようです。

福積さん:抖音で刺さりやすいコンテンツはありますか?

佐藤さん:開始2~3秒で反応がわかる初速の面白さが重要な認識ですが、今後成熟してどうなるかわからない状況です。いろいろ試してみるのが一番良いかと思います。2022年のW11の特徴として、いろいろなアプリやプラットフォームが連携してきているところがあるので、自社の主軸をどこにするのか決めつつ、バランスを取ることが大事でしょう。

福積さん:プラットフォーム間でユーザーを送り合うようになってきていまよね。

佐藤さん:今後、プラットフォーム間の連携が進むと、CRMが広がる可能性があると考えています。ここ数年、そういった変化が少しずつ起きており、今後、マーケティングの幅がさらに広がるのではないでしょうか。

中国での勝ち筋

中国での勝ち筋

福積さん:今後、微信(WeChat)や微博(Weibo)などECプラットフォームの外部のSNSやキュレーションから認知を広げ、検索してECに入ってきてもらうという勝ち筋ができるのではないかと、私は考えています。

複数のプラットフォームがあるなかで、重要なのがPOS分析です。POSのデータと分析を基にリピートを追いかけます。電話番号をキーIDにして、微信のアカウントに注文データを蓄積できれば、そのデータを基にリターゲティングをかけるなど、One to Oneマーケティングに近いことができます。

中国のEC市場はサードバーティ―によるミニプログラムが豊富です。それらを活用して、リピートとLTV向けの施策を充実させ、売上と利益を指数関数的に伸ばすことが重要だと考えています。中国EC市場ではプラットフォームが強く、出店しないと勝てません。しかし、プラットフォームでは売上に比例して手数料も大きくなるため、利益を伸ばすのが難しい状況です。

そこで、初回購入はプラットフォーム、二回目以降の購入はサードパーティーのミニプログラムを活用してLTVとロイヤリティを高めていくことはできないかと考えています。導入事例はまだ多くありませんが、この仕組みを提供することができれば新しい動きになるのではないかと思います。

佐藤さん:これまでの経験から、中国EC市場に決まった攻略法はなく、挑戦と失敗を繰り返すしかないと感じています。そのなかで、福積さんの考えは理想パターンの一つではないでしょうか。ブランドによってはオフラインとも連携して、ブランドを理解していただく体験を足すことができれば、それは勝ち筋の一つだと思います。

質疑応答

質疑応答

-W11の期間中、オフラインはどのように対応されていますか?

佐藤さん:基本的にW11期間中といえどオフライン・オンライン共に値引きはしません。ただし、異なる特典を付けて、なるべくバランスをとるようにしています。

-抖音の費用対効果はどうですか?

佐藤さん:弊社は抖音のECを2022年に開店しましたが、想定より良い数字で推移しています。基本的にEC事業だけで利益確保できて黒字となるよう、広告や手数料などのバランスをとりつつ調整しています。

-小紅書はどのように運用されていますか?また一般貿易と越境ECをどうすみ分けていますか?

佐藤さん:小紅書はSNS運用のみで出店はしていません。

また、天猫をはじめとする一般貿易のECでは主力化粧品、天猫国際といった越境ECにおいては主力健康食品と一部化粧品というように取扱う商品を変えており、競合しないようにしています。天猫と天猫国際で最初はお客様の層が違いましたが、連携できるようにすることで双方を利用してくださる方が少しずつ増えています。

-W11で成功したクライアントの事例はありますか?

福積さん:高いKPI設定にも関わらずクリアできた事例がいくつかあります。それらの成功事例のポイントとして、ライブコマースがうまく働いたことがあげられます。

ある店舗では、ライブコマースを動的LP、商品詳細ページを静的LPとして、動的LPを経由して購入に至った人の数をKPIに設定しました。その結果、ライブ配信中は購入に至らずとも後日購入に至った人が、ライブコマースの45%を占め、KPIを達成できました。この事例は、ライバーを起用するのではなく自店舗でのライブ配信で地道にお客様に理解していただくという方針でした。

セミナーに参加してみて

中国EC市場で今、何が起きているのかということは、日本にいるとなかなかリアルタイムにつかめないところがあります。今回のセミナーは、現地のECの現場にいるお二方から、率直に今の状況を聞くことができる場だったのではないかと思います。

大型キャンペーンで売上の波を作ること、そのための種まきをすることは、日本のECモールでも同様ですが、そこで動く金額や、プラットフォームやSNS、キュレーションなどの事情は、中国独自のところがあります。ライブコマースの活用法もそうでしょう。

そういった違いを、日本側に理解してもらうこと、在庫などを調整することが大変だと、セミナー中にも話がありました。これから中国EC市場への参入を考えているEC事業者は、そういった中国側の事情について積極的に情報を得ることに努め、日本側の常識にとらわれずに理解していくことが大切だと感じました。

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