
2022年10月12日(水)・13日(木)の二日間、アマゾンジャパンは「Amazon ECサミット2022」を開催しました。本記事では、10月12日11:30~12:00に公開されたセッション「ヤマト運輸とAmazonの物流・フルフィルメントサービス」で語られた要点を紹介します。本セッションでは、ヤマト運輸とAmazonが連携して取り組む物流・フルフィルメントサービスによる販売事業者支援について、対談形式で紹介されました。
【登壇者】
長尾 裕さん
ヤマトホールディングス株式会社 代表取締役社長 兼
ヤマト運輸株式会社 代表取締役社長
吉沢 直大さん
アマゾンジャパン合同会社
セラーサービス事業本部 FBA&MFN事業本部長
この記事の目次
消費者の変化に事業者はどう対応すべきか?
吉沢さん:新型コロナの影響やデジタル化の推進、生活様式の大きな変化があるなかで、ポストコロナを見据えどのような取り組みをされていますか?
長尾さん:当社は創業103年で、宅急便サービスの開始から46年が経ちます。宅急便サービスを開始した頃はCtoC(個人間)サービスとしてのネットワークを構築してきましたが、消費形態は時代とともに変化しています。直近は年間22億個を超える荷物の取り扱いのうち9割が法人顧客からの預かりです。
新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、日本では遅れていたECによる消費が動き始めたのではないかと考えています。そういった消費形態の変化に合わせて売り方をどう変えていくか?物流をどう変えていくか?を考えることが必要です。販売事業者様に当社のネットワークをご利用いただき、消費の変化にどう対応いただくかが肝要だと考えています。
当社は従来、さまざまな機能ごとに事業会社を運営していましたが、昨春から主要機能ごとに会社を統一して、「Oneヤマト」化を進めました。その結果、顧客のビジネスの入口からラストマイルの出口まで一貫してサービスを提供できる営業体制が整いました。
この体制を使い、ラストマイルについては宅急便サービスも然り、都市部では専用の新サービスを提供すると同時に、上流の領域からオペレーションプロセスを再度設計し直しています。ECに特化して簡素化したプロセスによるラストマイルのオペレーションもスタートしています。また、事業ニーズの多い食品について、保冷ネットワークを含めた既存のネットワークをブラッシュアップしながら、ニーズに応えられるサービスを提供しています。
エンドユーザーにとってのメリットが事業者のメリットにもなる
吉沢さん:個人のお客様向けの取り組みとしてはどのようなものがあるでしょうか?
長尾さん:当社の宅急便サービスは、基本的に荷物を受け取るお客様を起点に設計されています。その利便性をさらに増すのが、個人向け会員サービス「クロネコメンバーズ」です。現在、5,000万人以上のご登録があります。このサービスは、スマートフォンなどで荷物の正確な情報を確認でき、受け取りの方法や日時・場所指定などを選択できる仕組みとなっています。
自宅への配達の他に、提携コンビニエンスストア・スーパーマーケット、すでに6,000カ所以上の設置があるオープン型宅配ロッカー「PUDO」なども選択でき、受け取りの利便性を高めています。
また、新型コロナウイルス感染症拡大により顕在化したのが、対面せずに荷物を受け取りたいというニーズです。そこで、自宅の玄関ドア前や車庫など、お客様が指定した場所で荷物を受け取れる「EC向け新配送商品『EAZY』」というサービスを開始しました。
このような選択肢を活用することで、個人のお客様に荷物の受け取りやすさを感じていただくことができます。そして、そこに利点を感じてサービスを導入される販売事業者様が増えています。
さらに、ラストワンマイルでの受け取りだけでなく、ECで荷物をお届けした後に発生することがある返品対応について、ある程度の手続きはスマホで完結するなど、より簡単に手続きができる体験を提供しており、個人のお客様にも販売事業者様にもトータルな利便性を実感いただけているのではないでしょうか。
ヤマト運輸とAmazonの連携により新たに生まれる価値
吉沢さん:Amazonの販売事業者様は、商品の配送に「フルフィルメントby Amazon(FBA)」と自社配送(MFN)を使い分けて利用されています。
FBAは、販売事業者様がAmazonフルフィルメントセンターに納品した商品の注文について、受注、梱包、発送、カスタマーサービス、返品対応のすべてをAmazonが代行するサービスです。FBA商品はAmazonプライム対象商品となり、お急ぎ便・当日お急ぎ便などAmazonプライム会員のお客様に無料でご利用いただける配送特典の対象となります。また、2022年3月より、販売事業者様のコスト負担軽減のために、FBA手数料の一部引き下げを実施するとともにFBA新商品特典プログラムを展開しています。
自社出荷(MFN)では、「配送所要日数の自動化」設定により、配送遅延を防ぎながら最適な配送日数を表示して、オペレーションを効率化できます。この設定では、対象の配送会社が提供している配送サービスごとの配送実績を元に、Amazonが配送スピードを自動的に切り替えます。また、「即日出荷」設定を有効にすることで、より早い配送日数を表示できます。こういった機能を活用することで、お客様の購買体験を改善して、販売事業者様の販促を強化できます。
Amazonとヤマト運輸は、2021年より、FBAを利用するFBAパートナーキャリアサービス・ヤマトオプションや、自社出荷向けのマーケットプレイス配送サービスでの連携を行っています。御社にとって、この連携にはどのような意味があったのでしょうか?

長尾さん:当社ではBtoCの荷物を預かるために従来からAmazonフルフィルメントセンターへのネットワークを毎日稼働させていました。FBAパートナーキャリアサービス・ヤマトオプションでは、Amazonフルフィルメントセンターへの納品にそのネットワークを使えるので、非常にシームレスなサービスを提供できると考えました。
全国約6万人のセールスドライバーのネットワークを活用することで、一定の荷量が貯まってから発送するのではなく、少量多品種でどんどん発送が可能です。これにより、販売までのリードタイムが縮まり、販売機会の増加やキャッシュフローの改善につながるなど、販売事業者様のビジネスにプラスの効果を生んでいると考えています。また、宅急便の配送ラベルとFBAのラベルを一体化することで、バックオフィス業務の手間の削減にもつながっています。
マーケットプレイス配送サービスでも、当社のセールスドライバーのネットワークを利用して集荷を行っています。クロネコメンバーズのお客様への配送であれば、置き配など受け取りの選択肢も広がり、より利便性を実感していただけるのではないでしょうか。また、マーケットプレイス配送サービスでは、「ネコポス」というポスト投函サービスもご利用いただけます。配送情報を追跡でき、配送サービスのレベルが明確なので、荷物を受け取るお客様にとって安心感があり、事業者様からすると幅広い受け取りの選択肢を提供できると好評です。
今後注目の領域を強化するためにも、事業者の声を積極的に聞きたい
吉沢さん:今後、販売可能な商材を増やすためのフルフィルメント拡充のお考えはありますか?
長尾さん:食品の領域がこれから非常に有望です。当社は、クール宅急便を通じて全国の良質な食品の生産者の方々と長くお付き合いがあります。クール宅急便を利用して、鮮度を維持したまま販売機会を拡大できるよう、生産者支援に長く取り組んできました。この領域で、オンラインに適したプロセスを作っていくことが今後大切になると考えています。そのために、クール宅急便のさらなる利便性拡大を検討するとともに、新しい仕組みを徐々に構築していき、事業者様にタイムリーにサービスを提供していきたいです。
当社の宅急便サービスでは、セールスドライバーが集荷を行うだけでなく、販売事業者様のニーズやお困りごとにきめこまかに対応する体制があります。セールスドライバーだけでは対応できないことは、上位の法人組織を含めてタイムリーに情報を連携できる仕組みも作っているところです。
そのなかで、事業者様から、いろいろなニーズやご要望、お問い合わせをどんどん頂戴したいと考えています。当社はこれからも今後も、単に荷物を運ぶだけでなく、販売事業者様のビジネスにいかにプラスになるかということを考えながら、物流を通した価値提供を考えています。そのためにも、ぜひ皆様のご意見を頂きたいです。
サミットに参加してみて
ヤマト運輸の取り組みを振り返り、時代の変化に合わせて柔軟にサービスを対応させてきていることがよくわかりました。
時代の変化という点で、この2~3年ほど、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、消費者のEC利用ニーズが急増したことは、EC市場にとって大きな変化といえます。そのなかでヤマト運輸が展開してきたサービスや体制の変更を知ることは、消費者のニーズを知ることにもつながるかもしれません。
ヤマト運輸とAmazonの連携は、販売事業者の業務を効率化して、販売機会を拡大してくれる可能性があります。すでにAmazonに出品している場合は、自社がこの連携を活かせているか、まだ利用できていない場合はどう利用できるのか見直してみましょう。ECに参入する事業者も増えるなかで、物流の面で消費者の利便性を向上させ、安心して利用してもらえるサービスを提供することは非常に重要です。
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