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運賃を上げただけでは、ドライバーは増えない——EC事業者にできる本当の物流支援

運賃を上げただけでは、ドライバーは増えない——EC事業者にできる本当の物流支援

「運賃を改定させてください」から始まるメールを受け取り、やむなく飲んだ。これで現場で働くドライバーの生活も少しは楽になるはずだ——そう考えたEC事業者は多いと思います。

ところが、その前提は成立していません。

X Mileが2026年4月に物流業界従事者354名を対象に実施した「法改正・DXに関する意識・実態調査」では、仮に運賃交渉が成功して売上が増えたとして、すぐに給料や手当に反映できると答えた事業者は「13.8%」にとどまりました。値上げを飲んでも、そのお金がドライバーの手元に届くとは限らない。つまり、支払う金額を増やすだけでは、荷物を運ぶ人は増えないということです。

X Mileは全国2万社を超える運送事業者と取引し、採用や労務等の支援を続けてきました。今回は、その過程で蓄積してきた調査データをもとに、EC事業者に何ができるのかを整理していきます。

この記事の執筆者

野呂 寛之
X Mile株式会社
代表取締役CEO


物流・建設・製造をはじめとするノンデスク産業を対象に、業界特化型のHRプラットフォーム「クロスワーク」や、DXを推進する経営管理SaaS「ロジポケ」などを展開。深刻な人手不足という構造的課題に対し、人(HR)と仕組み(IT)の両面からアプローチすることで、日本の基幹産業を支える新たな産業インフラの構築に挑んでいる。


クロスワーク
https://x-work.jp/

ロジポケ
https://logipoke.com/

値上げを飲んだのに、状況が変わらない理由

前回寄稿させていただいた記事で、配送会社から値上げを打診された経験のあるEC事業者は少なくないはずだと書きました。今回はそこからさらに一歩踏み込んだ視点で語りたいと思います。

値上げを受け入れたあと、集荷や配達の状況は改善したでしょうか。多くの場合、体感としてあまり変わっていないのではないかと思います。これは委託先が不誠実だからではなく、値上げ=現場ドライバーの利益上乗せに直接はつながっていないからです。

このことが、以下で示す当社の調査からわかっています。

X Mileの調査が示す、待遇還元の壁

2026年4月に実施した物流業界従事者354名に聞いた調査によれば、「仮に(運賃)交渉がうまくいき売上が増えたとして、待遇に還元できるか」という設問に対し、「すぐに給料や手当に反映できる」と答えたのは13.8%に留まりました。

一番多かった回答が「その他費用の増加分に消えてしまう」で24.0%、続いて「車両の買い替えなどを優先せざるを得ない」が11.9%と、ドライバーの給与に反映する前に、会社の運営費として消えてしまう場合が多いことがわかります。

※調査データから引用

また、同じ調査で「自社の原価を把握できている事業者」について調べたところ把握している割合は約5割強にとどまりました。つまり適正価格を算出する土台がないまま交渉に臨んでいる会社が、半数近くあるということです。

さらに、待遇改善のために必要なことは何かを尋ねたところ「適正原価を守らない荷主への厳しい罰則」「高速道路代や燃料費の公的補助」がそれぞれ2割を超えました。この結果に示されている外部の強制力に期待する声の大きさは、自社での価格決定権の弱さの表れではないかと分析しています。

ここまで見てきたように、運賃を上げればドライバーの給与も上がり、担い手が戻って人手不足が緩和されるという因果は、簡単には成り立ちません。

現場を動かしているのは、価格ではなく時間

それではどの領域であれば、荷主の皆さんの取り組みが大きく影響しうるのでしょうか。

そのヒントが、当社がトラックドライバー720名を対象に実施した「クロスワークしごと白書2025」にありました。

近い将来「必ず転職したい」「ゆくゆく転職したい」と答えた520名のドライバーにその理由を尋ねたところ、「給与が低い」53.1%に次いで、「拘束時間が長い」27.2%、「肉体労働で体力的にきつい」23.1%が挙がりました。給与面の理由が最多である一方、2位以下の内容については荷主の皆さんが関与できる領域の項目です。

ドライバーの拘束時間の相当部分は、運転していない時間です。待機、付帯作業、納品時間帯の集中。X Mileが現場で聞いてきた話の多くは、走っている時間ではなく待っている時間の話でした。

EC事業者の皆さんの場合、その時間を決めている変数のほとんどが、御社のサイトの設定画面の中にあります。出荷締め時間、送料無料ライン、時間指定の枠、セール日程、置き配のデフォルト。いずれもマーケティング判断として、どのように設定するかを決めているものではないでしょうか。これらは調整を行えば、変更可能な項目だと考えられます。

カート設定の見直しは、物流現場の「配送計画」と繋がる


EC側で何気なく設定している項目は、皆さんが想像している以上に物流現場とつながっています。

例えば下記のような影響が想定できます。

  • 出荷締め時間を30分前倒しする → 集荷時刻と幹線便の出発に余裕が生まれる
  • 時間指定の枠を絞る → 再配達と待機の発生率が下がる
  • 置き配を初期選択にする → 不在による持ち戻りが減る
  • セール日程を委託先に事前共有する → 荷量の波を事前に吸収できる
  • 送料無料ラインを引き上げる → 1件あたりの配送コスト比率が改善する

今業界全体で最大の壁となっているのは「ドライバー人員の不足」です。すぐにドライバー人材が増えることは見込めません。であれば、荷主の皆さんにできるのは1人あたりの負荷を下げることです。

CVRへの影響を無視して配送現場を優先しろという話ではありません。むしろ配送も顧客体験の一部として考え、より現場とスムーズにつながり、かつCVRへはネガティブに影響しない項目に少しずつテコ入れしていくのがよいでしょう。

配達日を明瞭にすればドライバーの負荷を減らせる

ぜひ荷主の皆さんに気を配っていただきたいのが「荷物の配達日を明瞭にする」ことです。このことがドライバーの負荷削減に大きくつながることが、国の調査からわかっています。

令和8年4月期の調査によると、宅配便の再配達率は約7.6%でした。つまり13個のうち1個は、一度では届いていない計算になります。

この再配達を労働時間に換算すると、年間で約4.2万人分のドライバーの労働力に相当するという試算があります。人手不足が悩まれている中、これは現場にとって大きな負担です。

では、なぜこれだけの再配達が発生してしまうのでしょうか。

国土交通省の調査(2022年)によると、再配達になった理由の約2割(約20%)が「配達されることを知らなかった」という回答でした。

この背景としては、例えば下記のような事情が考えられます。

  • 発送連絡がない・わかりにくい
    • 注文元の事業者から発送通知が届かない、またはメールを見落としてしまうケース。
  • 入荷待ち・取り寄せ商品
    • 注文から配送までに時間がかかり、正確な到着日を把握できないケース。
  • 送り主と受け取り手が異なる
    • 贈り物(プレゼントやカタログギフトなど)で、受け取り側に事前連絡がいかないケース。

国交省がこのような事案を減らすために、下記の取り組みを推奨していますが、これはまさに荷主の皆さんが、運送現場のために、すぐできる取り組みなのではないかと思います。

  • 配送アプリ・メール通知の標準化
    • 事前通知で日時変更や置き配指定を促す仕組みの拡大。
  • 非対面受取(置き配・宅配ボックス)の活用
    • 不在時でも受け取れる環境を整えることで、受取側の「在宅リスク」そのものを解消する取り組み。

小さな取り組みかもしれませんが、この積み重ねが再配達率を押し下げ、結果としてドライバーの負荷を下げることにつながっていくのではないかと考えています。

「選ばれる荷主」であることが、配送品質を守る

現場は日々、ドライバー不足と戦っています。

受けられる荷物の総量に限りがある以上、どの荷主を優先するかという判断が現場で日常的に行われている。ある意味、運送会社は仕事を選ぶ側に回ったということでもあります。

こういった状況で、価格だけでつながっている関係では対応の優先度が下がりやすいでしょう。逆に、荷量の波を事前に共有し、無理のない条件で発注する荷主は、繁忙期にも後回しにされにくくなります。

運賃を上げることは、もちろん現場にとって良い影響があります。現場の環境そのものの改善や、高騰している原料費などに充てることができ、物流現場の経営者は助かっていることでしょう。

しかし、運賃向上がそのまま物流現場の状況改善につながっているかは、別の話です。荷主の皆さんの協力により、より持続可能な物流現場の実現を目指していけることを、願っています。

当社は今後も、運送会社と荷主の双方にとって持続可能な取引のあり方を、データと現場の両面から発信していきます。

クロスワーク
https://x-work.jp/

ロジポケ
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参照元

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