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商圏データ100点の立地が、なぜ閑古鳥になるのか―データは「通る」を教えても、「入る」は教えない―

商圏データ100点の立地が、なぜ閑古鳥になるのか―データは「通る」を教えても、「入る」は教えない―

ECや物販に携わる方にとって、データは意思決定の土台だと思います。

アクセス数、クリック率、購入率。リアル店舗であれば、商圏人口、通行量、競合状況、購買データ。数字が揃っているほど、「この判断なら間違いない」と考えるのは当然ですし、実際、その判断が正しいことも多くあります。

しかし、私は30年以上にわたり店舗開発に携わり、約2,000件の出店や既存店改善などを経験する中で、データ上では申し分のない場所でも、実際に出店すると想定したほどお客様が来ない、というケースを何度も経験してきました。

なぜ、そんなことが起きるのでしょうか。

この記事の執筆者

石井 昭人
株式会社TUNAGU.
代表取締役

セブン‐イレブン、東進、ローソンで約30年にわたり、店舗開発、新規事業、組織マネジメントなどに携わる。約2,000件の出店・既存店改善などを経験。
2025年に株式会社TUNAGU.を設立。著書に『2000店舗を成功に導いたプロのメソッド 出店戦略の最強技法』(日本能率協会マネジメントセンター)。

「人が通る」と「店に入る」は違う

以前、通行量も多く、商圏人口も十分な、誰が見ても「勝てる立地」に出店をしたことがあります。データを見る限り、悪い理由が見当たりません。普通に考えれば、売れるはずの場所です。

ところが、実際に営業を始めると、想定した売上には程遠い結果でした。数字だけを見ていても、その理由がわかりません。そこで現地に立ち、人の動きを見続けました。

すると、確かに店の前は多くの人が通っています。しかし、その人たちが店の前で足を止めにくい。歩いてくる方向や信号の位置、視線の向きなどを一人ひとり見ていくと、データだけではわからなかったことが見えてきました。

大切なのは、単に「人がたくさん通っている」ということではありません。その人はどこから来て、どこへ向かっているのか。そのとき店はどう見えているのか。そもそも店に気づいているのか。気づいていても、入ろうとは思わないのか。

そこには、お客様の行動心理があります。

データは「そこを何人通ったか」は教えてくれます。しかし、「なぜそこで足を止めるのか」「なぜ店を見るのか」「なぜ店に入るのか」までは教えてくれません。

私が大切にしている「鳥瞰」と「虫瞰」

私は出店を考えるとき、「鳥瞰(とりかん)」と「虫瞰(むしかん)」という二つの見方を大切にしています。

鳥瞰とは、鳥が空から地上を見るように、商圏人口や通行量、地図、競合状況などからマーケット全体を見ることです。一方の虫瞰は、単に「現地を見る」ということではありません。

実際にその場所に立って、お客様と同じ目線で見る。そして、お客様がどう動くのか、その行動の背景にどんな心理があるのかを考えることです。

私は店舗を見るとき、駅から実際に歩いたり、お客様が来る方向から店を見たり、車で店の前を通ったりします。

自分がお客様だったら、この店に気づくだろうか。ここで足を止めるだろうか。道路の反対側にいたら、わざわざ渡ってまで来るだろうか。現場で見るべきなのは、人の数だけではありません。

「なぜ、このお客様はこう動いたのか」お客様の行動の背景にある心理まで考える。そこまで見ることが「虫瞰」だと私は考えています。

立地が良ければ売れる、ではない

もう一つ、長く店舗開発をしてきて強く感じることがあります。

お客様は、立地だけを見て店を選んでいるわけではありません。店構え、看板、商品、価格、店内の見え方、入りやすさ。そして何より、その店が提供している商品やサービスと、その地域のお客様が求めているものが合っているかどうか。

いくら一等地でも、ここが合っていなければ、お客様は来ません。逆に、一見するとそれほど良い立地には見えなくても、その地域のお客様が求めているものと店の商品やサービスが合い、「この店に行きたい」という理由があれば、来店いただけます。

出店の成否は、立地条件の良し悪しだけで決まるものではありません。大切なのは、その店の商品やサービスと、そのマーケットが合っているかどうかです。その判断をするためにも、立地を見ることと、お客様を見ることは切り離せません。

ECでも、数字の向こう側にいるのはお客様

これはリアル店舗だけに限った話ではありません。ECでも、サイトへのアクセス数は多い。広告のクリック率も悪くない。商品ページもしっかり見られている。それなのに、なぜか購入まで至らない。そうしたこともあると思います。

リアル店舗で言えば、「店の前をたくさんの人が通っているのに、店には入らない」のとよく似ています。アクセス数やクリック率は、お客様が行動した結果を数字にしたものです。しかし、その数字を見ているだけでは、クリックした人がなぜ興味を持ったのか、途中でなぜ見るのをやめたのか、最後になぜ購入しなかったのかまではわかりません。

ここでも大切なのは、お客様の行動心理です。店舗であれば、現地に立ってお客様の動きを見ることができます。ECでまったく同じことはできませんが、数字の変化だけを見るのではなく、その数字の向こう側でお客様が何を感じ、なぜその行動を取ったのかを考えることはできます。リアル店舗でもECでも、本質は同じだと考えています。

データを「答え」にしない

もちろん、データは出店判断の重要な基礎です。ただし、データだけで結論を出すことには危うさがあります。

データから仮説を立て、現場でお客様の行動を確認する。そこで見えたことを、もう一度データと照らし合わせる。そうすると、最初に数字だけを見ていたときにはわからなかったことが見えてきます。

私が「鳥瞰」と「虫瞰」の両方を大切にしているのは、そのためです。

約30年、店舗開発を続けてきましたが、どれだけデータが精緻になっても、その数字をつくっているのは一人ひとりのお客様です。なぜ足を止めたのか。なぜ店に入ったのか。なぜ入らなかったのか。その行動の背景にあるお客様の心理まで見る。データでマーケットを「鳥瞰」し、現場でお客様の行動心理を「虫瞰」する。

この二つを行き来することが、出店判断の精度を高めるうえで重要だと考えています。そしてこれは、リアル店舗だけではなく、ECを含めた物販にも共通する考え方ではないでしょうか。

初の著書『出店戦略の最強技法』(日本能率協会マネジメントセンター)発売中

30年以上にわたり、セブン-イレブン、ローソン、東進ハイスクールなどで店舗開発・既存店改善などに携わり、2,000店舗以上、のべ150億人の利用客、約1,600億円規模の出店・運営に携わってきた著者の豊富な実務経験をもとに体系化した「出店戦略のメソッド」を収録。

各章それぞれに「書くことで考えが整理され、判断が前に進む」ことを目的としたA4サイズ1枚の実践シート付。出店を思いつき→ 判断→ 実行→ 安定運営へと進めるために、5つのオリジナルシートを段階的に使用し、記入することで、アイデアを実行可能な事業計画へ落とし込むことが可能です。

出店はビジネスの縮図であり、本書で紹介される考え方は、新規事業開発、スタートアップ経営、中小企業の成長戦略や地方創生にも応用できる普遍的な経営思考となっています。初めて出店を考える人からすでに店舗を持ち、次の展開を考えている経営者まで、出店やビジネスに関わるすべての方に読んでいただきたい一冊です。

『2000店舗を成功に導いたプロのメソッド 出店戦略の最強技法』
(日本能率協会マネジメントセンター)
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