
前回の記事ではサヨリ商店街株式会社(以下、サヨリ商店街)がネットショップの運営を始めてから自社で縫製工場を立ち上げるに至った歴史を記した内容になっています。後半となる本記事では、お客様に喜んでもらうために顧客視点を持って事業を推進したことで開かれた施策や販路について同社の代表である千葉小織さんにお伺いしています。
この記事の目次
緊急事態宣言の影響でバレエ商品が売れない!
――新型コロナウイルスは良くも悪くもEC事業者全体に大きな影響を与えたかと思います。レオタードを中心にバレエの関連する商品を取り扱っていますが売上への影響や取られた対応策について教えていただけますか?
千葉さん:2020年の4月頃にバレエのイベントやお稽古がなくなりました。それに伴って、レオタードやイベント用のウェアが一切売れなくなってしまいました。1日20万円はあった売上が1万円になるまで落ち込みます。お取引していたバレエ教室の7割が関東だったので、緊急事態宣言の影響はとても大きかったです。
教室に通ってのお稽古ができなくなっても、バレエの場合は1週間休むとすぐに身体が固くなってしまうので継続的な練習が欠かせません。若い先生はすぐにオンラインレッスンに切り替えていったので、バレエ教室の変化に合わせて家で練習することを考えた商品を揃えていきました。トイレに行きづらいレオタードを上下セパレートにして家用レオタードを作成したり、自室でトウシューズを履いても練習しやすいようにバレエマットやレッスンバーを仕入れたり、オンラインレッスン用の商品展開にすぐに取り組みました。

千葉さん:しかし、オンラインの需要に合わせた商品を展開しても市場全体が縮小したこともあり、お稽古のオンライン化に対応しても売上を元に戻すには全然足りていませんでした。売上に大きな影響を与えたのは並行して進めていた、オリジナルのマスクを生産して販売したことです。
開発から発売までわずか1ヶ月!オリジナルマスクで売上が過去最大に
――マスクの販売は今までのバレエに関連する商材とは別の商材に挑戦する形になったかと思いますが、影響はいかがでしたか?
千葉さん;レオタードを作るときに裁断すると生地が結構余るのですが、その生地を使ってマスクが作れるんじゃないかな? なんて話を緊急事態宣言になる前の2020年3月頃にしていました。4月になって、どこに行ってもマスクが買えなくなり、当社の売上も大きく落ち込んでいたため、マスクを作ってみようということになります。
試作品を作成してからFacebookでモニターを募集して100名様分配布するまで1週間。4月中旬には付け心地などモニタリングでもらった意見を参考に、試作品を微修正して販売を開始しました。地元の人にモニター募集をしたこともあり、すぐに地域に情報が広がっていきました。このスピード感でマスクの販売を開始できたのはミシンもパタンナーも製造体制が社内にある縫製工場を持っていたからこそだと思います。
NHKや地元のメディアに取り上げられて、そのときに「ロゴのプリントもできますよ」とFacebookなどで告知したところ、5月早々に愛媛県、地元や隣接の自治体、各種公共施設から10,000枚近い発注が来ました。マスク自体は雇用維持のための利益率で販売をしていましたが、この月はここ数年で最も売上の高い月になりました。

高品質をお届けするサヨリ商店街の信条
――市場にマスクが不足していたところで、縫製工場の技術力と質感の良いレオタード生地で作られたマスクの販売が結果として会社を救う形になりました。環境に合わせて柔軟に対応してきたサヨリ商店街ですが、変えずに続けている信条はありますか?
千葉さん:会社を運営する上で、「お客様に喜んでもらうこと」と「顧客視点」を常に意識しています。インターネットの中でどれだけお客様を喜ばせられるかということをいつも思い、喜んでもらえる商材をお披露目することばかり考えています。また、お客様への想いと同時に、会社や店舗名に入っている「サヨリ」が親からもらった名前だからこそ、親にも誇れるような商売を続けていこうという自分に対しての気持ちは欠かさずに持ってきました。
商品の品質には社内の人の質が直結しています。プロフェッショナルとして自分たちが質の高い商売をすることでお客様にも、より高い価値をお届けできます。我々の商品を使っていただくことで、お客様を巻き込んでみんなで前進していくんです。
社員一同商品の質に自信を持っていることもあり、何年経っても使い続けてもらえるという自負があります。自社で縫製工場を持ち始めてから、衣類にも関わらず3年保証をつけています。この取り組みを始めたときは他の縫製工場から「衣類に保証をつけるなんて!」と怒られてしまいました(笑)しかし、それだけ自分たちの商品に誇りを持っているからこそできることなんです。

海外展開に向けた新しい挑戦
――1人でも多くのお客様に商品を利用してもらうことで喜びを届けられると良いですね。今後の展開としてはどのようにお考えでしょうか?
千葉さん:生産体制を強化し、海外販売を進めています。今まで手で生地を裁断していました。それでは月間800枚ほどですが、裁断機を導入することで月々2~3万枚の裁断が可能になります。並行する形で縫製の体制強化として、来年再来年でベトナムから4名の実習生を受け入れる予定です。縫製の技術としては中国とベトナムが高いと言われています。日本で縫製技術を学んだ実習生はベトナムに戻ると、現地の一般的な給与と比較して2~3倍ほど高くなるようです。日本で縫製工場の求人募集をしてもなかなか人が集まらないため、製造業は海外の若い力を借りていかないと継続していくのが難しいでしょう。
また、現在ベトナムではECの利用率が非常に伸びています。JETROに紹介いただいたベトナム人やマレーシア人のインターン生に現地の状況を調べてもらって、ShopeeやLazadaの状況やベトナム、マレーシア国内やASEAN各国のバレエ市場など情報を共有してもらいます。
こういった取り組みを通して、ベトナムとサヨリ商店街でwin-winな関係を築いて行こうと思っています。ベトナム以外にもインド、フィリピン、カンボジアなど、JETROを通してインターン生と関わりを持つ企業が増えているようです。能動的で情報感度が高く優秀な方がインターン生には多いので、海外展開に興味のある方はJETROのメルマガを購読してみると良いかもしれませんね。

千葉さん:海外への展開を含めて、もっと魅力的な会社にしていきたいと思っています。あと7~8年先にはなりますが、最終的には縫製工場やECサイトを譲渡できたらと考えています。もちろん、スタッフが今以上の環境で働けることが条件にはなりますが、そのためには、より生産性や利益の上がる会社にしていかなければなりません。
私がこの事業を始めたきっかけは海外に憧れて、海外の商品を仕入れたところからでした。しかし、これからは日本製の私達の商品を海外の人達から求められるようにしていきます。モノづくりをする会社として、不満・不便・不安のようなお客様の「不」を取り除いて、満足・便利・安心へと変えられるような付加価値の高い商品を発信していきたいです。
インタビューを通じて:素早い意思決定と大胆な行動力で未来を拓く
サヨリ商店街は緊急事態宣言の影響を受け、売上は壊滅的な状態になったにもかかわらず、世の中の状況を見ながらスピード感を持ってマスクの販売を成功させました。前半の記事からもわかるように千葉さんはたとえ危機的な状況になったとしても、常に前進し、新しいことに取り組んでいます。それは未来に向けて動いている海外展開についても同様です。
既にShopeeに店舗を構えて、海外への新しい販路を作り始めたサヨリ商店街の今後をコマースピックとして応援しています。
■サヨリ商店街
・web本店
https://www.sayori.co.jp/
・楽天市場店
https://www.rakuten.ne.jp/gold/sayori/
・Yahoo!店
https://store.shopping.yahoo.co.jp/ballet-sayori/
・Amazon店
https://www.amazon.co.jp/s?me=A3DR2LGPDCN235&marketplaceID=A1VC38T7YXB528
・auPAYマーケット店
https://wowma.jp/user/43623229
・Shopeeシンガポール店
https://shopee.sg/shop/538794280
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