【海外ニュース】TikTok Shopで高単価商品の購入が拡大、EUは小口輸入を見直しへ――欧州ECの変化を読み解く

欧州ECでは、販売チャネルの変化と制度面の見直しが同時に進んでいます。TikTok Shopは英国で高単価商品の売上を伸ばし、ソーシャルコマースが「安価な衝動買いの場」から一段進んだ様子を見せています。一方、EUでは中国発を中心とする小口輸入の急増を受けて、関税ルールの見直しが進行中です。さらに、配送だけでは差別化しづらくなるなか、夜間対応や返品対応といった購入後の顧客接点が、EC事業者の競争力を左右し始めています。今回は、欧州ECの変化を読み解くうえで押さえておきたい3つのニュースを取り上げます。

TikTok Shop、英国で100ポンド超商品の売上構成比が41%に

「低価格な小物の衝動買い」から脱し、高単価商材の販売チャネルへ

英国のTikTok Shopでは、100ポンド超の商品が売上の41%を占めたとされ、ソーシャルコマースの使われ方が変わりつつあることが示されました。一般的にセールが強まりやすい時期であっても、高価格帯商品の購入が進んでいる点は象徴的です。調査元のRithumは、英国市場でTikTokが「高単価商材の購入先」として機能し始めていると見ています。

これまでTikTok Shopといえば、低価格帯の雑貨や“ついで買い”されるアイテムの印象が強かったはずです。しかし今回のデータは、その前提が崩れつつあることを示しています。動画視聴中に偶発的に買う場所というより、一定の比較や納得を経て購入する場へと変化しているわけです。ソーシャルコマースの評価軸が、単なる話題性や拡散力から、販売効率やLTVまで含めた本格的な収益チャネルへ移り始めていると見ることもできるでしょう。

世界平均の15倍という突出ぶり、背景に「信頼」と「実用性」

世界全体では、TikTok上で100ポンド超の商品支出比率は2.8%にとどまる一方、英国はその約15倍に達しました。さらに、100〜200ポンド帯の商品だけでも売上の29%を占めており、世界平均1.7%を大きく上回っています。購入されている主なカテゴリーは、ホーム&ガーデンや衣料・靴類など、生活実需に近い領域です。

ここで重要なのは、「高いものが売れた」こと自体より、何が売れたのかです。娯楽性の高いアイテムではなく、実用性があり、比較検討の対象になりやすいカテゴリーが伸びているという点に、利用者心理の変化が表れています。Rithumは、クリエイターへの信頼とブランドの正当性が組み合わさることで、ユーザーが高単価商品でも購入ボタンを押しやすくなったと説明しています。動画コンテンツが興味喚起だけでなく、信頼の補完装置として働き始めているのです。

TikTokは「集客媒体」ではなく「販売設計」の対象に

日本の事業者にとって示唆的なのは、TikTokを認知獲得の入り口としてだけ見る段階が終わりつつあることです。高単価商品が売れるなら、重要になるのは再生数そのものより、動画で何を伝え、どこで安心させ、どう購入につなげるかという設計です。価格が上がるほど、コンテンツの役割は感情喚起から理解促進へと変わります。

たとえば、家電や美容機器、ファッションの高単価商材では、見た目の魅力だけではなく、使用シーン、比較ポイント、返品や配送の安心感、ブランドとしての裏付けまで一体で見せる必要があります。日本でもTikTok Shopの立ち上がりが注目されるなか、英国の事例は、TikTokが低価格帯の衝動買いを促す場にとどまらず、比較検討を伴う商品の販売チャネルとして育つ可能性を示しています。

今後は再生数の多さだけでなく、商品理解を促す動画設計や、購入時の不安を和らげる情報の見せ方が重要になりそうです。TikTok専用商品を作る発想だけでなく、既存の商品群をTikTok向けにどう再編集するかが問われる局面に入っています。

参照:Brits buying expensive products on TikTok

EU、150ユーロ以下の小口輸入に新たな関税ルールを導入へ

急増する小口輸入に対し、EUが競争条件の是正へ動く

EU理事会(EU加盟国側で構成される機関)は、150ユーロ以下の輸入小口荷物に関する新たな関税ルールを承認しました。これまで同価格帯の荷物は関税免除の対象でしたが、7月1日以降は小口荷物に含まれる商品カテゴリーごとに一律3ユーロの関税が課される予定です。制度の背景には、中国発を中心とする低価格EC商品の大量流入があります。

この改正は、単なる徴税強化ではありません。EUが問題視しているのは、安価な海外商品が大量に流入することで、域内事業者との競争条件が歪み、さらに安全性の低い商品が市場に出回りやすくなっている点です。価格だけで市場を押し切るモデルに対し、通関・検査・安全基準の観点からブレーキをかける動きだと捉えるべきでしょう。

年間58億個の荷物が流入、税関の処理能力を超える規模に

EUには昨年、58億個の低価格EC小口荷物が流入し、2024年比で26%増、2022年比では4倍超に達しました。加盟国の税関当局は、これほど大量の荷物を十分に検査することが難しく、結果として安全基準や製品ルールを満たさない商品が市場に入り込む余地が広がっていると言います。欧州委員会も、EC主導の輸入拡大が管理体制の整備を上回るスピードで進んでいると指摘しています。

しかも、今回の3ユーロ課税はあくまで暫定措置です。将来的にはEU Customs Data Hub(EUが将来的に税関手続きを一元管理するためのデータ基盤)の稼働後、域内に入るすべての商品に関税を適用していく方向が示されています。AliExpress、SHEIN、Temuのような越境プラットフォームにとっては、価格優位性を支えてきた前提条件が少しずつ変わっていくことになります。たとえば1つの荷物に異なる2カテゴリーの商品が入っていれば、6ユーロの関税がかかるという考え方で、細かな同梱設計にも影響が及びかねません。

越境ECは「安く送る」発想からの転換が必要

日本企業にとっても、この動きは他人事ではありません。今後の欧州向け越境ECでは、単に小口で安く送り、価格優位で取るモデルが通用しにくくなります。送料、関税、通関対応、返品コストを含めた総コスト設計がより重要になり、商品力より前に物流設計で負けるケースも増えるでしょう。

裏を返せば、品質やブランドの説明ができる事業者にとっては、安値競争一辺倒の市場から一歩抜け出す機会でもあります。EUでは、商品の安全性やルール適合性も競争力の一部として扱われつつあります。日本の事業者が欧州に売るなら、「価格を抑える」より「安心して買える」をどう作るかも重要です。規制強化局面では、コンプライアンス対応そのものが差別化要因になります。

参照:New customs rules for imported parcels

ベルギー・オランダの大手EC、72%が夜間の顧客対応なし

配送品質は高い一方、購買後体験の整備が追いつかない

ベルギーとオランダの大手オンラインストア100社を対象とした調査では、夜間にカスタマーサービスを提供しているのは28%にとどまりました。さらに、生活者に広く使われているWhatsAppを問い合わせ窓口として使っている事業者も44%にすぎません。調査では、こうした対応不足が購入機会の損失につながっている可能性が指摘されています。

興味深いのは、物流面そのものはかなり高水準であることです。ブラックフライデーの繁忙期に実施された配送テストでも、91%の店舗が約束通りに配送し、58%が1日以内、27%が2日以内に届けていました。つまり、配送はすでに一定水準まで整っている一方で、その先の体験、特に不安や不満が生まれやすい購入後対応に課題が残っているのです。

返品の説明不足と選択肢の少なさが、再購入を阻む要因に

調査では、返品プロセスで返金に関する情報が不十分な店舗が36%に上ることも明らかになりました。また、返品時の選択肢も限定的で、88%が返金のみ、交換対応は6%、ストアクレジットやクーポン対応は4%にとどまっています。つまり、返品は受け付けていても、その体験設計が十分ではなく、顧客と事業者の双方に追加コストを生んでいる状況です。

ECの競争は長らく「価格・品揃え・配送速度」で語られてきましたが、アジア勢との競争が激しくなる中では、それだけで優位性を保ちにくくなっています。調査でも、ECはもはや価格と配送だけで差がつく時代ではなく、顧客体験、とりわけポストパーチェスが重要だと整理されています。配送が当たり前になった市場では、「問題が起きたときにどう感じさせるか」がブランド評価を左右するのです。

CVR改善の余地は接客時間帯と返品設計にもある

日本でも、問い合わせ対応は営業時間内に限定する前提で設計されがちですが、購買のピークは夜間に集中することが少なくありません。夜間に質問したい、返品条件を確認したい、配送日を把握したいといったニーズに答えられないと、離脱は静かに起きます。広告やUI改善だけでCVRを追うのではなく、接客可能時間や問い合わせ導線まで含めて見直すべき段階です。

とくにLINEやチャットは、日本では導入しやすく、生活者の利用ハードルも低いチャネルです。夜間は有人対応が難しくても、FAQ、返品条件、配送目安、交換可否をすぐ返せる仕組みがあるだけで、購入直前の不安を大きく減らせます。日本のEC事業者にとって、配送改善の次に着手すべきテーマは、接客チャネルの最適化と返品体験の再設計だと言えそうです。

参照:No customer service in the evenings at 72% online stores

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