【海外ニュース】Amazon、欧州で販売手数料を大幅引き下げ/DACH地域事業者の8割が返品率「改善しない」/Temu、欧州で物流提携を拡大

本記事では、欧州を中心としたEC関連の最新トピックをお届けします。今回は、次の3つのニュースを紹介します。

Amazon、欧州で販売手数料を大幅引き下げ

低価格帯を中心に手数料を広く引き下げ、競争力を強化

Amazonは、欧州の複数カテゴリーで販売手数料を引き下げると発表しました。今回の改定では「Fulfillment by Amazon(FBA)」の配送手数料も多くの国で下がり、衣料・ホーム用品・日用品などの売れ筋カテゴリーが中心です。同社は「業務効率化と継続的な改善により、欧州全体で1点あたり0.17ユーロの引き下げが可能になった」と説明しています。

値下げは段階的に適用され、2025年12月15日および2026年2月1日から開始されます。とくに重要なのは、20ユーロ以下の低価格帯にのみ値下げが適用される点です。たとえばホーム用品では、20ユーロ以下の商品に限り販売手数料が15%から8%へと大幅に下がり、SheinやTemuが得意とする低価格市場での競争力強化につながります。

Haulの欧州展開と“ローカル販売者支援”の並行戦略

今回の取り組みは急成長する中国発の低価格プラットフォームへの対抗策でもあります。Amazonは2023年に米国で超低価格ストア「Haul」をスタートし、その後英国・ドイツ・フランス・スペイン・イタリアへと拡大。Haulは欧州市場の主要5か国で利用可能となり、多くの商品は中国のパートナー企業から供給され、Amazonが一次販売者として扱うケースも増えています。

一方で、今回の値下げは欧州と米国のなかでローカル企業を活性化する狙いも。EU域内の中小企業は昨年、Amazonを通じて13億点以上の商品を世界へ販売しており、同社は「これまでで最大級の値下げにより、販売者の成長を後押しする」と強調しています。

低価格競争の本格化と中小ブランド支援の行方

今回の欧州での大幅値下げは、日本市場でも同様の動きが起こり得ることを示唆しています。TemuとSheinの台頭により価格競争が激化する中、Amazonが日本でも低価格帯施策を強化する可能性は十分あるでしょう。また「ローカル販売者支援」の文脈は、日本の中小ブランドにとって越境ECの追い風となる一方、低価格圧力による利益率低下の懸念も大きく、販売者側はSKU設計、原価改善、物流効率化など総合的な収益管理が必要な局面になりつつあります。

参照:Amazon reduces seller fees in Europe

返品率、DACH地域のEC事業者の8割が「改善しない」と予測

ファッションは返品率が突出して高く、事業者の負担が深刻化

オンライン注文における返品率は、多くのEC事業者の収益を圧迫する構造的課題となっています。ドイツ・オーストリア・スイスのDACH地域では、ファッション領域で87.7%の事業者が「返品率50%以下」と回答したものの、12.2%は「50%超」と回答し、高止まりが続いています。EHI Retail Instituteが124社を対象に行った調査では、売上10億ユーロ超の大規模企業も含まれており、返品問題が業界規模を問わず広がっている点が浮き彫りになりました。

EHIの担当者は「テキスタイル業界では8人に1人が受注の半数以上を返品されており、収益圧迫は避けられない。AIや自動化の活用余地は大きい」と指摘します。一方で、電子機器では85.7%が「返品率10%以下」と回答。家具でも93%が10%以下と、カテゴリー間で大きな差がみられます。玩具や本・メディア分野も比較的低水準で推移しています。

返品コストを把握できていない企業も多く、改善投資が進まない現状

返品処理にかかるコストを「把握していない」と回答した企業が27%にのぼり、改善の前提となる現状分析が進んでいない点も課題です。53.3%は「返品1件あたり10ユーロ前後」と見積もる一方、20ユーロに達すると回答した事業者も13.9%存在します。コストが不透明なままでは、改善投資の判断が難しい状況にあります。

データ活用状況にも地域差・企業差があり、返品理由の記録を「手作業で行っている」が34.4%、「完全自動化」できているのは29.5%にとどまります。将来的にAIによる返品予測・分析が重要になると考える企業は45.5%に増えている一方、35%は「AI活用には距離を置く」と回答するなど、DXの進度にばらつきがあります。

総じて、返品率改善への期待値は低く、調査対象の80%が「今後3年で改善しない」と回答。さらに17%は「悪化する」と予測しており、返品問題は長期的な経営課題として定着しつつあります。

返品コストは“可視化”が最重要テーマに

日本のEC市場でも、ファッションを中心に返品率の高さが顕在化していますが、欧州同様「返品コストを正確に把握できていない」事業者は少なくありません。物流費高騰が続くなか、1件あたりの返品コストは利益を大きく左右します。まずは返品理由・SKU・顧客別のデータ収集を体系化し、AI分析やABテストを通じて“返品を未然に防ぐ運用”へシフトすることが急務です。レビュー生成AIやサイズ推定モデルの活用など、日本でも改善余地は非常に大きい領域といえます。

参照:80% online sellers think return rates will not improve

Temu、欧州で物流提携を一気に拡大。Royal Mail・bpostと合意

欧州主要配送企業と相次ぎ提携、現地配送基盤の強化を加速

Temuは欧州における配送体制を強化するため、多数の物流事業者との提携を急速に進めています。英国のRoyal Mail、ベルギーのbpostとの協業が新たに発表されました。Temuは2023年春の欧州進出以来、急速に存在感を強め、今年上半期には月平均1億1,600万人の欧州市場ユーザーを獲得。ドイツで1,900万人、フランスで1,600万人が利用するなど、Sheinと並ぶ“低価格ECの巨大勢力”となっています。

その一方で、商品の安全性やユーザー誘導手法を巡って欧州内では議論が続き、EUは「免税枠の廃止」や「小包税の導入」を進めるなど制度面の見直しを加速。こうした規制強化を受け、Temuは欧州域内発送へのシフトを明確化し、「欧州注文の80%を現地倉庫から配送する」方針を掲げています。

地域販売者向けの支援を強化し、“ローカル出品拡大”が最優先テーマに

Temuは昨年夏から欧州販売者が出品できる「Local Seller Program」を開始しており、中国発・直送モデルから“欧州内ローカル販売者の参画拡大”へ軸足を移しつつあります。しかし成長率は鈍化しており、物流インフラの整備は競争力維持の生命線となっています。

今回の提携の詳細として、英国ではRoyal Mailの「Click & Drop」とTemu Localが連携し、出品者がTemu注文を自動取り込みできる仕組みを提供。ベルギーのbpostとはMoU(覚書)を締結し、大型荷物対応や店舗受け取り網の強化、現地間配送・欧州横断配送を一体的に支える物流ソリューションの共同開発を進めるとしています。

TemuはこれまでにもドイツのDHL、フランスのLa Poste、スペインのCorreosなどと協力しており、欧州全域で“低価格・高速配送”を実現するエコシステム構築を急いでいます。

Temuの“物流インフラ戦略”が国内EC競争を変える

Temuの欧州戦略は、日本市場においても重要な示唆を含みます。単なる「低価格アプリ」ではなく、物流網そのものを整備し、国内配送品質を引き上げたうえで競争に挑む構造が明確になってきました。日本でも倉庫開設・ラストワンマイル強化が進めば、既存ECモール(Amazon・楽天市場・Yahoo!ショッピング)との競争軸は価格だけでなく“配送品質×SKU供給力”へ広がる可能性があります。国内事業者は、在庫配置・リードタイム短縮など物流戦略の再構築を迫られる局面に入っていくでしょう。

参照:Temu expands European delivery network

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