
この連載コラムでは、EC事業の転換期に入ったこのタイミングで、ブランドEC事業の成長戦略を再定義し、事業を加速させるプロセスにおいて活用いただける「ブランドEC成長戦略フレームワーク」を提示しながら活用ポイントを解説していきたいと思います。第1回目となる今回は、国内EC市場の現状を踏まえ、2030年を視野に入れたEC未来予測キーワードを7つ提示し、解説していきます。
立川 哲夫
株式会社 久(きゅう)
ブランドEC成長支援室 室長 兼 EC経営コンサルタント
リテール業界に10年従事後、15年以上にわたるECビジネス推進およびECマーケティング支援経験を持つコンサルタント。
主な経歴として、大手EC総合支援企業において、10年以上にわたり経営幹部としてEC事業コンサルティングに関わりながら、企業のブランディング・マーケティング統括を担当。執行役員として東証グロース市場への上場も経験。その後、外資系コンサルティングファームにてECビジネスの変革支援にも関わる。
5冊のECマーケティング関連書籍の執筆・編集に関わり、EC事業戦略・売上アップの法則を凝縮し、知見の普及にも貢献。その他、日経クロストレンド・月刊ネット販売・日本ネット経済新聞などの業界メディアへの寄稿実績も多数。
■久(HP)
https://www.qinc.co.jp/
この記事の目次
- 1 2026年は、ECの再定義が必要なタイミングに
- 2 2030年へ向けて。EC未来予測7つのキーワード
- 2.1 1つ目のキーワード:EC市場は「成長期~成熟期」から「社会インフラとして進化」へ
- 2.2 2つ目のキーワード:EC店舗運営は「EC多店舗運営」から「ブランド公式ECを中心にした運営」へ
- 2.3 3つ目のキーワード:ECサイトは「売上を増やす場」から「ブランドコミュニケーションの場」へ
- 2.4 4つ目のキーワード:マーケティング施策は「売るためのマーケティング」から「ブランドスコアマーケティング」へ
- 2.5 5つ目のキーワード:EC事業経営は「データドリブン経営」から「ダッシュボード経営」へ
- 2.6 6つ目のキーワード:バックヤードは「効率化・コスト最適化のフルフィルメント」から「CX向上のフルフィルメント」へ
- 2.7 7つ目のキーワード:ECデータは「オムニチャネル・OMO(統合)」から「AIを用いたデータの利活用」へ
- 3 まとめ
2026年は、ECの再定義が必要なタイミングに
国内EC市場は約15兆円規模となり、コンビニ(約13兆円)やスーパー(約16兆円)と肩を並べる規模になりました。ECはもはや単なる一つの販売チャネルではなく、「社会インフラ」の一部になったと言えます。これは「ECは事業の一部である」という従来の位置づけを超え、企業・事業・ブランド全体の中で顧客接点としてどのように機能させるかを再定義する必要があることを意味しています。
昨年は各EC販売チャネルの成熟化、物価上昇、そしてAIが誰でも使える環境が一気に進み、AI活用だけでは圧倒的な差別化が難しいことが明らかになりました。
こうした変化を踏まえ、2026年は2030年を見据えた「EC事業の次の姿」を描き直し、戦略を再定義する重要な一年になると提言しています。
そこで、EC再定義と連動する2030年を視野に入れたEC未来予測キーワードを7つ提示いたします。
2030年へ向けて。EC未来予測7つのキーワード

1つ目のキーワード:EC市場は「成長期~成熟期」から「社会インフラとして進化」へ
EC市場が形成されてから約20年続いた高成長期は終わり、ここ2年の成長率は5%を下回り、宅配便取扱個数の推移から見ても成長期から成熟期に入ったと言えます。
一方で物販EC市場規模は15兆円を超え、すでに社会インフラとなっているスーパーやコンビニと同等に日常的に利用される市場規模となり、日々の生活を支える存在になっています。身近な例では、インターネットやスマートフォンが「あると便利。必要なときに利用する。」から「ないと困る。生活を豊かにする。」存在へ変化したのに近い状況です。

2つ目のキーワード:EC店舗運営は「EC多店舗運営」から「ブランド公式ECを中心にした運営」へ
ここ5年は、公式オンラインショップ(D2C)を持ちながら、Amazonや楽天市場をはじめとするモール型や通信キャリア・SNS連携の販売チャネルへ出店・出品し、EC多店舗展開で売上拡大を図る企業が多くありました。

今後もチャネル拡大を進める流れは続きますが、各企業が自社でAI活用が日常化することも踏まえて、顧客データやマーケティングデータを自社で保有・蓄積し、多様化する顧客接点を捉えて継続的な関係性を維持し「ブランドロイヤリティ」を高める活動が重要になります。そのため「公式オンラインショップ=ブランド公式ECサイトを中心とした」運営が主流になると予測します。
3つ目のキーワード:ECサイトは「売上を増やす場」から「ブランドコミュニケーションの場」へ
ECは、インターネット環境を通してオンライン上の販売サイトで販売し売上を増やしていく役割を担ってきました。全国のさまざまな企業にとって、新しい顧客と出会い商品を売ることで売上を増やす機会を作ってきました。

この「売る場」であることには変わりはないですが、ECの大きな特徴は、企業が持つブランドや商品が、サイトで購入した後に購入者の元へ直接「商品が届き、開封、利用・体感を開始する」点にあります。この購買後の体験までを含めて、ECサイトや購入体験、購入後の関係性維持を設計することで、ECは「ブランドコミュニケーションの場」へと位置づけが変わっていきます。
4つ目のキーワード:マーケティング施策は「売るためのマーケティング」から「ブランドスコアマーケティング」へ
ECサイトで売上を伸ばすための代表的な管理指標は「購入客数×購入単価」「新規流入数」「リピート流入数」「購入率(CVR)」「リピート購入比率」「流入経路別購入数」「広告経由の獲得効率(CPO)」などで、これらを向上させる施策が中心でした。これからは、売るための管理指標は押さえながら「ブランドスコアマーケティング」という概念を持ち、自社のブランド公式ECサイトの売上を伸ばしていくことが重要となります。

主な指標例としては「ブランド指名ワード流入数の推移」「AI検索からの流入数」「主要ページ滞在時間」「ページ閲覧数」「2回目・3回目購入率(F2・F3)」「UGC創出数」「SNSのエンゲージメント指数」などがあり、これらを「ブランド資産=ブランドスコア」と位置づけて蓄積し、ファン化の進捗をデータや指標で捉えつつ施策を実行することが重要となると予測します。
5つ目のキーワード:EC事業経営は「データドリブン経営」から「ダッシュボード経営」へ
データドリブン経営はデジタルマーケティング・ECマーケティングの発展とともに約20年で企業活動に浸透してきました。多様なツールでデータを取得・加工して経営判断や業務改善に活用している状況です。

これからはAI技術も含め、重要な情報や指標を一目で把握できるよう視覚的に整理・表示することが標準化すると予測します。関係メンバーが同一画面を見ながら迅速かつ的確に意思決定や業務改善を行う「ダッシュボード経営」が求められます。EC運営においては、顧客別の購入履歴やサイトでの行動、在庫情報など、ブランドマーケティングに必要なデータを統合してダッシュボード化・ECマーケティングにも活用することが必須と予測します。
6つ目のキーワード:バックヤードは「効率化・コスト最適化のフルフィルメント」から「CX向上のフルフィルメント」へ
フルフィルメント(Fulfillment)は受注管理、在庫管理、ピッキング、梱包、配送、返品・交換対応など商品を顧客に届ける一連の業務プロセスを指します。

これからはCX(Customer Experience)視点を持ち、顧客が企業やブランドとの接点で感じるすべての体験を設計することが求められます。単なる商品満足ではなく、購入前から購入後までの一連のプロセス全体を通じて「ファン化につながる感動体験」を生み出す施策や業務改善が主流となると予測しています。
7つ目のキーワード:ECデータは「オムニチャネル・OMO(統合)」から「AIを用いたデータの利活用」へ
オムニチャネル(Omni-Channel)やOMO(Online Merges with Offline)は、オンラインとオフラインの垣根をなくし、どのチャネルでも一貫した体験を提供して顧客体験(CX)を高めていく取り組みです。ここ5年はシステムのリプレイスや新規導入によるデータ統合が主流でした。
これからはオムニチャネル・OMOで蓄積される膨大なデータを、顧客とブランドの接点を軸にブランドマーケティングやファンマーケティングに活用することが不可欠になります。公式オンラインショップ独自の商品企画や購入体験設計、顧客の継続利用促進などにデータ分析を有効利用し、その分析・施策立案・実行にはAI技術を活用して高速かつ高精度のサイクルを回せる体制でECマーケティングを進化させる動きが活発になると予測します。
まとめ
ECは成長期を経て成熟期へ移行し「社会インフラ」として進化していくことは確実です。今後はEC多店舗展開からブランド公式ECを中心とする運営へシフトし、売上拡大中心の施策から、購入顧客と長期の関係性を維持していくための「ブランドスコア」を重視したマーケティングへ転換が必要と考えています。
EC経営はデータの集約・統合を早期に終えて「ダッシュボード化」とAI活用で迅速な意思決定を実現し、ECビジネスを支えるフルフィルメントはCX向上を目的とした仕組みへ進化させていく必要があります。
次回以降は、ブランドEC成長を再定義しながら加速させるためのフレームワークを提示しながら活用ポイントを解説していきます。
■久(HP)
https://www.qinc.co.jp/
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