
NFTという言葉を聞くと、「高額な“画像”を売買するもの」というイメージが先行しがちです。しかしECにおけるNFTの本質は、画像そのものではなく“所有権(保有)を示すデータ”として使える点にあります。
会員証や購入証明のように、従来は「企業のDBで管理するしかなかったもの」を、ユーザー側が“持てる”形にできる。これが、NFTがEC文脈で再評価される理由です。
この記事では、EC担当者が「まずここだけ押さえればOK」というレベルに絞って、デジタル会員証/購入証明の使い方を中心に整理します。
上田 剛大
Tempura technologies株式会社
共同創業者 / 取締役
2020年にSansan株式会社へ中途入社し、個人向け名刺管理アプリeightの新規ソリューションのBizDevとして従事。その後、2022年にTempura technologiesを共同創業し、web3やAIを活用したソリューションを提供。自社プロダクトとしてロイヤリティプラットフォームやマーケットプレイスを構築し、エンタメ、化粧品、日用品、電化製品メーカーの海外支援(GMV最大化)を支援。現在はドバイ子会社設立と韓国企業への出資も踏まえTempura technologies Groupとして主に中東エリアへの海外支援を注力している。
会社ホームページ:https://tempuradao.xyz/
この記事の目次
NFTの基礎:「画像」ではなく「所有権データ」
NFTを一言でいうと?
NFTは、ざっくり言えば、“一点もののデジタル所有権(保有)を示す証明書”です。画像・動画・デジタルグッズなどが話題になりやすいですが、実際に価値を持つのは「このIDのNFTを、いま誰(どのウォレット)が持っているか」という保有記録です。
EC担当者向けに“超ざっくり分解”
NFTは主に、次の3つでできています。
- トークン(ID):会員番号やシリアル番号のようなもの
- 保有者(ウォレット):そのIDを誰が持っているか
- メタデータ(表示情報):画像や説明文など(※ここは“見た目”)
重要なのは、保有者が変わった履歴を追えることです。
つまりNFTは「画像」ではなく、会員証・購入証明・参加券の“台帳”として考えると腹落ちしやすいです。
よくある誤解:NFT=暗号資産投機?
ECでNFTを使う目的は、投機を煽ることではありません。むしろ成功しやすいのは、価格上昇を目的にしない設計(=“ユーティリティ”中心)です。たとえば「会員証として持っていると特典が解放される」「購入者限定で先行販売に参加できる」といった使い方です。
会員証/購入証明のユースケース(限定特典・先行販売)
ECで効くNFT活用は、大きく2タイプに分けると整理がラクです。
- A:デジタル会員証(Membership)
- B:購入証明(Proof of Purchase)
どちらも共通して、やりたいことはシンプルです。「買った人/持っている人だけが得をする」体験を、継続的に設計すること。
A:デジタル会員証NFTでできること
典型的な特典例
- 限定コンテンツ:会員限定記事・動画・レシピ・使い方講座
- 限定オファー:会員限定クーポン、送料無料、同梱特典
- 先行販売・優先購入:新作の先行案内、抽選参加権、優先枠
- 限定イベント:オンラインイベント、店舗イベント、コミュニティ参加権
- “保有期間”特典:持ち続けるほどランクが上がる/特典が増える
ポイントは、「入会時だけ得」ではなく、持っている間ずっと関係が続く設計にすることです。
ECで強いのは「先行販売」との相性
ECでは新商品・限定カラー・コラボなど、「瞬間風速の需要」が生まれやすいですよね。NFT会員証を使うと、次のような設計ができます。
- 先行販売ページは一般公開しない(URLを知っていても入れない)
- NFTを持っている人だけ購入ボタンが出る
- 先行枠→一般枠の順に開放する
これにより、単なる“値引き”ではなく、参加権・優先権でファンの熱量を育てやすくなります。
参考として、海外ではブランドがNFTをロイヤルティ(会員体験)に取り込む実験が行われてきました。たとえばStarbucksはNFTを用いたロイヤルティ施策「Starbucks Odyssey」を実施し、のちに終了しています(2024年3月に終了が公表)。成功/失敗の評価は分かれますが、少なくとも「NFT=アート販売だけではない」ことを示した象徴的事例です。(Starbucks Odyssey: What the short-lived NFT beta tells us about loyalty schemes:Econsultancy)
B:購入証明NFTでできること
購入証明は、言い換えると「買った事実を“持てる形”にする」ことです。ECの購入履歴は通常、企業のDBにあります。購入証明NFTにすると、購入者がその証明を保有でき、次のような用途が広がります。
典型的な特典・運用例
- 保証の簡素化:保証書やレシート管理を減らす(※設計次第)
- 真贋・正規購入の証明:転売対策や、正規購入者の限定対応
- 買い替え・下取り優遇:購入証明がある人だけ下取り増額
- アップデート権:購入者に後日、限定データや特典を配布
- 購入者限定コミュニティ:同じ商品を買った人同士の導線を作る
特にD2Cでは「一度買って終わり」になりがちですが、購入証明を起点にすると、購入後の体験(使い方・参加・継続購入)を設計しやすくなります。
二次流通とロイヤリティの考え方(シンプル解説)
ここは混乱しやすいので、“できること/できないこと”を分けて押さえます。
二次流通とは?
NFTは基本的に、保有者が他者へ譲渡・販売できます。これが二次流通です。ポイントやクーポンと違い、「ユーザーが持つ資産として移転できる」設計が可能になります。
ただしECの会員証・購入証明で重要なのは、二次流通を“推奨するか”ではなく、二次流通を「許す/制限する/禁止する」どれが適切かを最初に決めることです。
- 限定コミュニティを健全に運用したい → 譲渡制限が欲しい
- 中古市場と連動したい(所有者が変わる商品)→ 譲渡OKが便利
- 「本人性」が重要(年会費・サブスク会員)→ 原則譲渡NGが安全
ロイヤリティ(継続収益)って何?
NFTには「転売されたときに、作り手へ一定割合が入る」ロイヤリティ(クリエイターフィー)という考え方があります。Ethereum(イーサリアム)では、ロイヤリティ情報を参照するための標準仕様(EIP-2981)が定義されています。(ERC-2981: NFT Royalty Standard:Ethereum Improvement Proposals)
ただし超重要な注意点があります。
- ロイヤリティは“常に自動で入る”とは限らない
- 実際の支払いは、マーケットプレイス側の仕様・方針に依存しやすい
たとえばOpenSeaは、クリエイターフィー(ロイヤリティ)を原則「任意」にする方針転換を行ったことが報じられています。またBlurも手数料・クリエイターフィーをめぐる方針変更が報道されています。
EC視点の結論:ロイヤリティを“売上の柱”にしない
ECの会員証・購入証明でNFTを使うなら、ロイヤリティは「入ったらラッキー」くらいに置き、基本は
- 一次(自社EC)での体験価値
- 保有している間に得られるメリット(継続特典)
- コミュニティ導線でLTVを上げる
に寄せたほうが、再現性が高いです。
体験設計:買う→持つ→参加する(コミュニティ導線)
NFTは“発行したら終わり”ではありません。ECで効かせるには、買う → 持つ → 参加するを、ひとつのストーリーとして設計します。
ここからは、導線をそのまま使える形で紹介します。
ステップ1:買う(ハードルを下げる)
最初の離脱ポイントは「難しそう」「ウォレットがない」です。
超入門の鉄則:NFTを前面に出しすぎない。ユーザーにはまず、「デジタル会員証」「購入者限定パス」として提示し、裏側の技術は必要最低限にします。
実務でよく効く工夫
- ECアカウントのマイページに「デジタル会員証」を表示
- 初回はメール認証だけで受け取れる(ウォレットは後からでもOK)
- 購入完了画面で“受け取り”導線を完結させる(別サイト遷移を減らす)
ステップ2:持つ(持っている理由を作り続ける)
会員証も購入証明も、「持っている意味」が薄れると放置されます。そこで、“持ち続けるメリット”を定期的に供給します。
例(運用負荷が比較的軽い順)
- 月1回の限定クーポン/限定コンテンツ
- 新商品アンケート(投票・意見募集)
- 保有期間に応じたランクアップ(半年で特典増など)
- コミュニティ内での称号・バッジ
ここはポイント施策と似ていますが、NFTの場合は「持っていること」が外部連携(イベント、コミュニティ、提携ブランド)にも使えるため、施策の広げ方が変わります。
ステップ3:参加する(コミュニティ導線を一本化する)
最後に効いてくるのがコミュニティです。コミュニティと言っても、必ずしもDiscordである必要はありません。ブランドの文脈に合わせてOKです。
- LINEオープンチャット
- 会員限定メールマガジン
- 会員限定ライブ配信
- 店舗イベント
- 自社サイト内コミュニティ(掲示板、レビュー強化)
大事なのは「NFTを持つと、参加資格が“自動で解放される”」体験にすること。
つまり導線はこうです。
購入 → マイページに会員証 → 限定ページ解放 → 参加(継続接触)
明日から検討できる「最小構成」チェックリスト
最後に、EC担当者が社内で検討を進めやすいように、論点を“最小構成”に落とします。
① まず決める(コンセプト)
- 会員証型か、購入証明型か(もしくは両方か)
- 特典は「割引」ではなく「参加権/優先権」にできるか
- 譲渡(転売)を許可するか、制限するか
② 次に決める(体験)
- 受け取りは購入直後に完結するか
- ウォレットなしでも始められるか(導線の摩擦を減らせるか)
- どのタイミングで“参加”まで連れていくか
③ 必ず注意する(運用・リスク)
- 個人情報や注文情報を“そのまま公開領域に書かない”設計にする
- 価格上昇を煽る訴求に寄せない(会員体験中心にする)
- 失くした/ログインできない等のサポート導線を用意する
- 法務・規約・景表法・資金決済など、関係部署と早めに握る(※個別論点は要確認)
まとめ:NFTは“ファンを育てる会員体験の器”として使う
ECでのNFT活用は、派手なコレクション販売よりも、会員証・購入証明として「関係を続ける仕組み」を作るほうが成功確率が上がります。
- NFTは「画像」ではなく「保有(所有権データ)」
- 会員証/購入証明で「買った人が報われる」体験を継続設計できる
- ロイヤリティは理想論だけで組まない(マーケット側の影響が大きい)
- 導線は「買う→持つ→参加する」で一本化する
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