寄附が販路を広げる。EC事業者のふるさと納税参加方法と活かし方

はじめに

ふるさと納税は、「納税」という名が付いているものの実際には自治体への寄附制度です。自分が生まれ育った地域や応援したい市町村に寄附すると、その地域の特産品を返礼品として受け取れる仕組みで、寄附額のうち2,000円を差し引いた金額が所得税や住民税から控除されます。2008年の制度開始から利用者は右肩上がりで増えています。規模の大きな自治体では200億円を超える寄附を集めており、返礼品ビジネスが地域経済を支える大きな柱となっていることを物語っています。

個人の節税策として定着しつつあるふるさと納税ですが、近年はEC事業者がこの制度を販売チャネルとして活用する動きが活発になってきています。事業者が返礼品を提供することで、全国の寄附者に自社商品の魅力を伝え、販路を広げられます。ふるさと納税制度を新しい販路にするうえで、通常のネット通販とは違うルールや手続きが存在するため、正しく理解しておくことが重要です。本稿では、ふるさと納税の基本ルールから事業者登録の手順、運営上のポイントまでを紹介します。

ふるさと納税の基礎知識とルール

3割ルールと5割ルールの意味

返礼品を提供する事業者が最初に押さえるべきは、寄附額の設定に関するルールです。総務省の告示では、返礼品の調達費用は寄附額の3割以下、返礼品代に加えて送料やポータルサイトの手数料、決済手数料などすべての経費の合計は寄附額の5割以下と定められています。この「3割ルール」「5割ルール」は寄附者への過度な還元競争を抑え、制度の公平性を保つ目的で2019年に導入されました。

経費にはポータルサイト利用料や決済手数料、配送にかかる費用、中間事業者(自治体から委託を受けて返礼品登録や在庫管理、寄附情報の処理などを担う代行会社)の委託料、自治体職員の人件費(事務処理や寄附者対応に要した分)、広告費などが含まれており、これらを合計した総費用が寄附額の50%を超えてはいけません。例として、税込3,000円の商品を返礼品とする場合、自治体は返礼品代を30%に設定して寄附額を10,000円に調整しています。

返礼品は“地場産品”に限られる

返礼品にできる商品には厳しい基準があります。総務省の定める地場産品基準では、自治体内で生産されたもの、主な原材料が自治体内で採れるもの、主要な加工工程を地域内で行って付加価値を生み出しているものなど、7つの要件のいずれかに該当する必要があります。

例えば、地元の米や野菜、果物、鮮魚のように一次産品そのものはもちろん、米粉麺や日本酒など主要原料が地域産の加工品も対象となります。また、自治体のキャラクターグッズやゆるキャラグッズなど広報目的の商品、地場産品と他地域の付帯品を組み合わせ、主要部分の価値が7割以上を占めるセット商品も認められています。

農産物や水産物だけでなく、木工品や伝統工芸、宿泊や体験といったサービスも返礼品になり得ます。ただし、商品の重量や付加価値の半分以上を地域内の工程が占めていなければならないため、単に外部で加工した商品を持ち込むことは認められません。加えて、熟成肉や精米といった一部商品は、原材料が同一都道府県内で生産されていることなど、別途細かい条件が付けられています。

地場産品基準を満たすか判断が難しい場合、自治体担当者に事前相談することが推奨されています。EC事業者にとっては、原材料の調達先や加工工程を見直すきっかけにもなり、地域とのつながりを深める契機になるでしょう。

送料と経費は自治体が負担

ふるさと納税では、返礼品代以外の費用を自治体が負担する仕組みです。サイト利用料や決済手数料、送料はすべて自治体の経費として計上されるため、事業者はこうしたコストを心配する必要がありません。ただし、これらの経費は先述の5割ルールに含まれるため、送料が高い商品を出品すると寄附額の設定に影響を与えます。特に重くて大きい商品や冷凍品は配送コストが嵩むため、適正な寄附額を自治体と相談して決める必要があります。

寄附額から経費を差し引いた残りの50%以上が自治体の歳入となり、寄附者が指定した用途に活用されます。返礼品代は中間事業者を通じて事業者に支払われるため、事業者は通常の通販よりも少ない費用負担で商品を販売することができます。

返礼品提供事業者になるまでの手順

登録条件を満たしているか確認

事業者が返礼品を提供するには、自治体が設ける登録条件を満たす必要があります。自治体によってルールに若干違いがあるため、出品の際は自社と関連が深い自治体の情報を確認することが必要です。

十日町市の例では、市内に本社や工場、販売所などの拠点があり、各種法令を順守して事業を行っている法人や個人事業主が対象とされています。市税の滞納がないこと、暴力団と関係がないこと、公序良俗に反しないことも条件に挙げられています。これらの条件は自治体ごとに若干異なる場合がありますが、地域経済への貢献やコンプライアンスを重視する姿勢は共通しています。

申し込みから掲載までの流れ

登録手続きは次のように進みます。まず、返礼品提供を希望する事業者は自治体の専用フォームから登録の意思と出品予定商品の詳細を連絡します。自治体は事業者が条件を満たしているか審査を行い、結果を通知します。

承認後は中間事業者との契約に進みます。中間事業者は各自治体と契約を行い、出品管理システムの提供や寄附情報の連携を行っています(稀に中間事業者に業務を委託せず自治体が中間事業者の業務を行っている場合があります)。事業者はこの中間事業者と契約を結び、返礼品登録や在庫管理、発送体制の整備など実務的な準備を行います。

返礼品の内容は総務省の審査を受ける必要があり、審査は年に4回行われます。審査スケジュールは自治体から随時連絡されるため、そのタイミングに合わせて申請を行うことが重要です。

審査を通過した返礼品はポータルサイトに掲載され、寄附受付が開始されます。掲載後も、商品情報や在庫数の更新、寄附者からの問い合わせ対応など運営業務が続きます。自治体によっては、出品後も定期的な報告や情報更新が求められる場合があるため、登録の際に確認しておきましょう。

通常のEC運営と比較した場合のポイント

価格設定とキャッシュフローの違い

ふるさと納税では寄附額の設定を自治体が決定するため、事業者が自由に価格を変更することはできません。市場価格や原価を考慮しながら自治体が3割ルールを守って寄附額を算定するため、値引きやキャンペーン価格の設定も行えません。これは通常のECサイトにおける柔軟な価格戦略とは大きく異なる点です。商品価格に合わせて自治体が寄附額を調整するため、他社との価格競争よりも商品の魅力や地域性を訴求することが重要になります。

キャッシュフロー面では、売上の入金タイミングが遅れる点に注意が必要です。返礼品を発送したあと、代金の支払いは月末締めで翌月に中間事業者から支払われます。通常のECでは注文から数日で売上が入金されることもあるため、ふるさと納税では資金繰りを考慮した在庫管理が求められる事業者もいるでしょう。ただし、送料や手数料の負担がないため利益率は比較的高く、安定した収益源となり得ます。

運営上の業務と注意点

ポータルサイトに掲載する際には、見栄えの良い商品画像や魅力的な商品説明が欠かせません。各サイトには検索キーワードやテーマが設定されており、寄附者はサムネイル画像や商品名で興味を惹かれます。競合が多いカテゴリでは、容量や産地、こだわりの製法などを盛り込んだタイトルや画像を工夫することが結果につながります。自治体の資料でも、「新米予約」や「訳あり」などの訴求ワードを活用した返礼品が人気を集めていることが紹介されています。

事業者が行う業務には、返礼品画像の用意、説明文の作成、管理システムの操作、メールでの注文受付、在庫管理、発送用梱包の準備など、通常のECと共通する作業が多くあります。一方で、返礼品代の支払は中間事業者経由で月ごとにまとめて行われるため、支払いまでに一定の期間が生じる点が特殊です。

業務の一部を代行する会社も存在し、商品登録や画像制作、発送までを委託できるサービスも提供されています。自社のリソースに応じて適切に外部パートナーを利用すると良いでしょう。

マーケティング面では、ふるさと納税ポータルサイト自体が大きな集客力を持っていることが利点です。楽天ふるさと納税やさとふる、ふるさとチョイスといった大手サイトは年間数千万単位のアクセスがあり、そこでの掲載がそのまま広告効果を生み出します。さらに自治体が掲載しているサイト内広告や外部広告の恩恵を受けられるため、自社で広告費をかけなくてもブランド認知を広げられます。

ただし、肉や海産品など人気のジャンルは過当競争に陥り、ランキング上位は常に似たような顔ぶれが並んでいます。寄附額の規模が大きな自治体は使える広告費も大きく、ランキング上位を維持するために多大な広告費を投下しています。一方で、規模が小さい自治体は使える広告費が限られているため、販促を行うことができないふるさと納税においてどのようにして寄附を集めるのか、通常のEC運営とは違った切り口で戦略を考えることが重要です。

ふるさと納税で得られる多様なメリット

ふるさと納税に参加することで、EC事業者は複数のメリットを享受できます。

第一に、寄附額の3割以内で設定された返礼品代がそのまま収益になる点が挙げられます。寄附者は税込み数万円の寄附を行い、実質2,000円の負担で返礼品を受け取るため、人気の品には安定した需要が見込めます。事業者側は送料や手数料を負担せずに済むため、利益が確保しやすい仕組みです。

第二に、全国への販路拡大です。ふるさと納税のポータルサイトは日本中からアクセスされるため、地方の中小企業でも一気に全国の潜在顧客へリーチできます。自治体のメルマガなどを通じてリピーターを獲得し、返礼品をきっかけに自社ECサイトでの直販につなげることも可能です。同梱物など寄附者と接点を作ることができるような仕掛けづくりができると良いでしょう。

第三に、新商品のテストマーケティングが行えることです。返礼品を通じて寄附者の反応を得ることで、商品の品質やパッケージデザイン、価格帯などを見直す材料になります。成功すれば通常のECや店舗販売にも展開できるため、開発リスクを抑えつつ市場調査が行えます。

第四に、無料のPR効果です。ポータルサイト掲載自体が広告の役割を果たし、自治体が発信する広告の恩恵も受けられるため、一般的なインターネット広告よりも費用対効果が高いと言えます。加えて、ふるさと納税の返礼品ランキングに取り上げられると、マスメディアやSNSでの露出が増え、話題性が生まれます。

最後に、地域貢献という社会的意義も忘れてはいけません。返礼品の売上は事業者の収入になり、寄附金は自治体の歳入として地域課題の解決に充てられます。農家や漁師など地域産業の支援につながり、若手就農者の確保や雇用創出にも寄与すると報告されています。事業者にとっても、自社の成長と地域の活性化を同時に実現する持続可能なビジネスモデルとして魅力的です。

返礼品を魅力的にするための工夫

寄附者の心をつかむには、商品の質だけでなくストーリーテリングや付加価値の伝え方も重要です。例えば、生産者のこだわりや歴史、地域の風土を紹介するパンフレットや手書きのメッセージを同封すると、寄附者に特別感が伝わりリピーターにつながることがあります。

季節ごとに内容を変えた定期便や、量やサイズを変えたラインナップを用意するなど、寄附者のニーズに合わせて柔軟に対応することも大切です。また、返礼品と相性の良い商品を組み合わせたセット販売は、付加価値を高める有効な手法です。

ポータルサイトでの見せ方も工夫が必要です。サムネイル画像は寄附者が最初に目にするポイントであり、商品のサイズ感や内容量、調理例などをわかりやすく伝える写真が効果的です。商品名にはキーワードを盛り込み、検索にヒットしやすくすることも欠かせません。

また、セールやお得をうたえないふるさと納税では「緊急支援品」「限定」「訳あり」などのフレーズが寄附者の関心を引くとして使われています。

おわりに

ふるさと納税への参入は、地方のEC事業者にとって単なる販売機会にとどまらず、自社ブランドを全国に発信し、地域社会とともに成長するための戦略的な選択肢です。3割ルールや地場産品基準、申請手続きといった制度の特徴を理解し、自治体や中間事業者との連携を密にすることで、費用負担を抑えながら安定した売上を確保できます。

寄附者との接点を活かしてリピーターを増やし、通常のECビジネスへ波及させることも可能です。地域の魅力を全国に届けたいと考える事業者にとって、ふるさと納税は販路拡大と地域貢献を両立させる最適なプラットフォームです。

まずは地元自治体の担当窓口に相談し、自社の商品やサービスが地場産品基準を満たしているか確認するところから始めてみてはいかがでしょうか。

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