
2025年7月4日に、『ECの未来』によるオフラインイベントが開催されました。本イベントは、YouTubeチャンネル『ECの未来』を運営するサヴァリ社と、コマースピックによる共催です。テーマは「“売れる”から“選ばれる”へ」。価格競争に巻き込まれず、長期的に愛されるブランドをどうつくるかという課題に対し、EC実践者たちが自身の取り組みを語りました。
LED照明やレーザー彫刻機を手がけるビームテック社の吉田さんと、ANNA SUIやPAUL & JOEなどのブランド展開を担うアルビオン社の榊原さんが登壇。「ブランドをどう捉え、どうつくっているのか」について、具体的な事例とともに紹介が行われました。
進行は、YouTube公式チャンネル『ECの未来』のMCでもある、株式会社柳田織物の代表取締役である柳田敏正さんが務めました。
この記事の目次
ブランドの原点は「お客様からの見られ方」
顧客とのやり取りのなかで得た言葉や印象をヒントに、ブランドの方向性を定めていった事例が紹介されました。実際に接点を持った顧客から得られた何気ない一言が、その後のブランドづくりにおいて核となるコンセプトにつながったと吉田さんは言います。また、商品を通じて顧客にもたらす価値を明確にし、それを営業や商品設計の軸として展開することが、印象に残るブランド体験につながるという実践例も語られました。
一方で、ブランドとは「顧客からどう見られているか」であるという視点も共有され、榊原さんからは「オンライン上であってもリアルと同じような接客体験を提供する工夫が重要である」との話もありました。たとえばチャットツールを活用した即時対応や、ブランドの世界観を損なわない丁寧な対応が、信頼獲得につながっているようです。
デジタル接客は売上を左右する
チャットツールを活用した接客の工夫も話題となりました。チャット経由で寄せられる「サイズ」「素材」「納期」などの質問は、購入直前にお客様が不安に感じている内容といえます。それらにすばやく対応できることで売上に直結するという声がありました。メールでは対応に時間がかかり、購買機会を逃すリスクがある一方、チャットでは即時に返答できるため、CVに与える影響が大きいとのことです。
また、チャットが機能するためには導線設計や文言の工夫が不可欠であり、「ただ設置しただけでは活用されない」という実践的な注意点が共有されました。「チャットを導入するうえで、社内の対応コストが先んじて議論されがちですが、対応コストを意識するほど問い合わせが来ていると、それだけ売上に貢献しているため、コストのことはそこまで気にならなくなるはずだ」と柳田さんは話されました。
情報発信とクチコミ設計の重要性
事業者からの継続的な情報発信や、ファンによる発信も、共通して重視されていました。吉田さんはご自身が顔出しする形でSNSやYouTube、展示会など複数チャネルと接点を持つことで広く認知を獲得しています。そんな取り組みにより、顧客が「あそこに行けば面白い提案がもらえる」と都内からは少し離れた埼玉県川口市の倉庫に吉田さんを訪れるとのこと。また、訪れた方々が「大人の秘密基地」と口々に言い始め、そこでの体験が業界内に広がっていることから、ファンや顧客が自発的に語りたくなるような“言葉”や“体験”を設計することの重要性も指摘されていました。
他方では、「継続できる仕組み」を前提に、チャネルごとのコンテンツ発信や、インフルエンサー・ライバーとの協業を使い分けるなど、無理なく続けられる発信体制の構築についても語られました。情報を一方的に広げるのではなく、顧客やファンが「語りたくなる」仕組みづくりが鍵となるようです。
ワークショップ:「ブランドをつくるために何をすべきか?」

イベント後半では、参加者によるワークショップが行われ、「ブランドをつくるために何をすべきか?」というテーマのもと、グループに分かれて議論と発表が行われました。
グループごとの発表と議論
あるグループでは、多くの企業がブランディングにおいて「発信量が足りていない」という課題を抱えているとの指摘がありました。その背景には、自社の立ち位置やコアが定まっていないことがあるとされ、顧客の声を拾う際には「多数派の声」よりも「尖った声」に注目し、その意見からブランドの価値を深掘りすることが有効だという視点が共有されました。また、熱量の高いファン(“濃いお客様”)とのコミュニケーションを軸に、ブランドを共創していくことの重要性も語られました。
別のグループでは、「ブランディングにはまずコアコンセプトを明確にすることが重要」という提言がありました。自社の商品が選ばれている理由を分析し、そこに価値があることを言語化してから、それに合わせた適切な表現手法を考えていくというステップが提示されました。特に、「商品が選ばれている理由があいまいなまま発信しても、届かない」という意見には、多くの共感が集まっていました。
また、「ブランドの思いがお客様に伝わらない」という悩みが挙がった場面では、「LPやSNS投稿にライブ感を持たせる」「動画や発信に情熱を込める」といったアプローチが有効であるとの意見が出ました。さらに、やるべきアクションを洗い出した上で「まず一度やり切ってみる」ことの大切さも確認され、PDCAを回すだけでなく、まずは実行に移す姿勢の重要性が強調されました。
お客様の質問に丁寧に答えることが、コンテンツ作成につながるという実践的なアドバイスも登場しました。例えば、よくある質問を動画にして発信すれば、問い合わせ件数の削減やCV率の向上に貢献できるほか、長期的にはブランド価値の向上にも寄与するという声がありました。
話し合いから見えたアクションアイテム
今回のワークショップを通じて、以下のような具体的アクションが提案されました。
- 自社商品の本質やポジショニングを明確にする
- 顧客の「尖った声」をブランディングのヒントにする
- コアコンセプトを設定し、商品が選ばれる理由を明確にする
- クラウドファンディングやLPにライブ感を持たせる
- アクションプランを立てたら、一度やり切ってみる
- お客様の質問をもとにコンテンツ化(動画・記事など)する
これらの提案は、ブランディングに悩むEC・D2C企業にとって、すぐに実践可能なものばかりです。イベント全体を通じて、「正解を探す」のではなく「自社なりの答えを見つける」ためのヒントが多く語られていたのが印象的でした。
イベントを開催して:ブランドは“継続”から生まれる
このイベントを通して見えてきたのは、「ブランディングに正解はないが、試行錯誤を続けることでしか得られない成果がある」ということです。 “売れる”から“選ばれる”への転換を目指すうえで、必要なのは派手なプロモーションではなく、日々の接客や情報発信、そして顧客との対話を積み重ねる姿勢です。ブランドとは、そうした“継続の結果”として顧客の心に宿るものなのだと実感しました。
EC事業者が自社にとっての「らしさ」とは何かを再考し、その先にあるブランド価値を描くヒントにあふれていたといえるでしょう。
ワークショップ終了後のネットワーキングの時間では、活発にコミュニケーションが行われている様子が見られ、多種多様な業種のEC事業者様が交流している様子が見られました。
次回は2025年10月頃の開催予定です。イベント情報は詳細が決定次第、メルマガにてお知らせいたします。最新のEC・物販に関する情報から実務に活かせるノウハウなど、幅広い情報を日々配信しているので、ぜひご登録いただけますと幸いです。
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