【ゲストスピーカー】
林 啓成さん
株式会社林商店 代表取締役社長
インポートセレクトショップ「Octet(オクテット)」
【チャンネルMC】
柳田 敏正さん
株式会社柳田織物 代表取締役
ワイシャツ専門店「ozie(オジエ)」
この記事の目次
お客様のワードローブを目指して。コーディネート提案に込めた想い
柳田さん:林さんが運営されている「オクテット」は、自社ECサイトと名古屋に実店舗を展開されています。かつてはモールで大きく売上を伸ばしていた時期もありましたが、近年は品揃えを見直し、自社ECが再び伸びてきているとお聞きしました。ただ、品揃えの転換は非常に勇気がいることだと思います。また、並行輸入から正規代理店への切り替えとなると、価格帯が大きく変わりますよね。
林さん:そうですね。全体として価格が2倍になるわけではありませんが、たとえば「JOHN SMEDLEY:ジョンスメドレー(英国ニットブランド)」などの一部ブランドでは、正規価格で2倍に近い設定でも販売できる場合があります。
柳田さん:正規代理店経由の仕入れであれば、発注したサイズやカラーを確実に揃えられるというメリットはありますが、単純に値上がりになりますし、品揃えを変えたからといって必ず売れるとも限りません。それでも成果につながっているのは、林さんの情報発信力によるところが大きいのではないかと感じています。これまでどのような発信をされてきたのか、教えていただけますか?
林さん:もちろん単品で売れる商品もありますが、私たちはやはり「コーディネート提案」に力を入れてきました。アイテムを単体ではなく、組み合わせて着ていただくことを意識しています。
柳田さん:現在取り扱っている商品は、ブランドやファクトリーが異なっていても、コーディネートしやすいように仕入れているのですか?
林さん:そうですね。コーディネートのしやすさは意識して仕入れています。私たちの特徴は、その幅の広さにあると思っています。スーツのようなフォーマルから、「DSQUARED2:ディースクエアード(ラグジュアリーカジュアルブランド)」のような遊び心のあるカジュアルアイテムまで揃えていますし、スニーカーからドレスシューズまで靴も幅広く取り扱っています。その中で、「このゾーンなら組み合わせられるだろう」と考えながらセレクトしています。
柳田さん:その幅広さは、なんとなく仕入れているのではなく、狙いがあってのことですよね。
林さん:はい。私たちのコンセプトは「お客様のワードローブになりたい」。つまり、「何か欲しいと思ったらオクテットを見ればいい」と思ってもらえる存在になりたいと考えています。カジュアルな気分の日もあれば、冠婚葬祭やフォーマルな場に出席する日もあると思います。そうしたさまざまなシーンに対応できる品揃えを目指しています。
柳田さん:楽天市場で大きく売上を伸ばしていた頃から、コーディネート写真を多く掲載されていますよね。
林さん:はい。メールマガジンや商品ページでも多数掲載してきました。
柳田さん:カメラを持ち、自分たちがモデルになり、街中で撮影しているのも印象的でした。まさに「自分たちが売ろうとしている世界観」をそのまま表現されていると感じます。
林さん:そうですね。自社で扱っている商品だけを使って撮影しているので、ページ上に掲載しているコーディネートはすべて実際にご提案できるものです。
将来の顧客とファンを育てるオクテットのYouTube活用
柳田さん:仕入れがうまくいくと、すぐにコンテンツにも活かせるのだろうと感じました。メールマガジンなどの情報発信を継続されているのを拝見してきましたが、最近のオクテットといえば、やはりYouTubeの印象が強いです。YouTubeを始められた当時、すでに自社ECの売上は伸びていたのでしょうか?
林さん:いえ、頻繁にYouTubeを更新するようになったのは、まだ自社サイトの売上が伸び悩んでいた2年ほど前からです。今では基本的に毎日更新しています。
柳田さん:私の印象では、オクテットはモールに強いお店というイメージがあり、そうした店舗が積極的に情報発信に注力するというのは、少し意外でした。モールでの販促は、どちらかというとポイント施策に寄るケースが多いように思います。
毎日更新しようと考えた理由や、どのように継続されているのか、ぜひお聞かせください。
林さん:お客様からの反応が見えてきたことがきっかけです。更新頻度を上げたほうが良いと判断しました。
柳田さん:ということは、最初から毎日更新していたわけではないのですね。
林さん:そうです。基本的には毎日更新を目指していたのですが、実際にはなかなか大変です。
柳田さん:適当に話したり撮ったりして済むわけではありませんからね。事前にシナリオなどは準備されていますか?
林さん:ほとんど作っていません。一応、月ごとのスケジュールで「今月はこれを話そう」と決めていますが、話す内容は基本的にアドリブです。
柳田さん:私もYouTubeで情報発信をしていますが、週1回の更新でも話がそれてしまうことがあるので、大まかに内容をまとめないと難しいと感じています。ですが、事前準備をすると今度は時間がかかるんですよね。
林さん:その通りですね。最初の頃は台本を作っていたのですが、逆に準備に時間がかかりすぎていました。現在は事前に軽く練習し、意見をもらってから本番撮影に臨むようにしています。
柳田さん:つまり、2回撮っているのですね。それは参考になります。
林さん:はい。軽くリハーサルしてから本番を撮っています。ただ、スタッフのスケジュール次第では一発本番で収録することもあります。
柳田さん:YouTubeやブログを継続するうえで大変なのは、やはり“ネタ切れ”ですね。オクテットは幅広い商品を扱っているとはいえ、セレクトショップとして取り扱いブランドが極端に多いわけではありません。それでも毎日更新できているのは、なぜなのでしょう?
林さん:1つは、ファッションは毎シーズン新しい商品が入荷するので、それを紹介すれば良いという点です。もう1つは、たとえ同じ内容を話したとしても、新しいお客様が動画を見てくださるので、意外と困ることはありません。
柳田さん:たしかに、同じ商品でも40〜50代向けに伝える場合と、若年層に向けて伝える場合では表現が変わりますよね。
林さん:そうですね。伝え方も異なりますし、出演者も異なります。私自身は50代なので、アラフォーからアラフィフの方々に向けて「どう着れば格好良く見えるか」という視点で話すことが多いです。
柳田さん:オクテットでは年齢の異なる3人でYouTubeを運営されているからこそ、同じ商品でもそれぞれ異なる切り口で紹介できるのですね。
林さん:はい。ただ、視聴者の多くは40代の方々ですので、若い出演者が話す場合でも、その世代を意識して話すように工夫しています。
柳田さん:価格帯の高い商品が多いと、実際の購入者は40代以上が中心になりやすいですね。私もワイシャツを扱っていますが、平均購入価格が少し高めなので、やはり購入者は40代以上が多くなります。ただ、YouTubeのアナリティクスを見ると、視聴者には20〜30代も少なくありません。
林さん:オクテットのチャンネルでも、成人式やスーツ関連の動画は若い方に多く視聴されています。とはいえ、スーツのコンテンツ全体では再生回数はあまり伸びないんですけどね(笑)。
柳田さん:YouTubeは、実際の購買層と視聴者層にギャップがあることがよくありますよね。だからこそ、アナリティクスから得られる情報は、コンテンツ作りのヒントになります。今後、現在の主な購買層である40〜50代の方々も、やがては60代となり、スーツやワイシャツが不要になる可能性もあります。
林さん:そうですね。質の良い洋服は、60代までに買い揃えれば長く着ることができますし、買い足しの頻度も減っていきます。
柳田さん:そう考えると、若い層へのアプローチは避けて通れないですね。
林さん:おっしゃる通りです。ブランドの正規代理店の方とも、よく同じ話になります。特に雑誌メディアは、高価格帯商品の意味や価値を伝える役割を、もっと果たしてもよいのではと感じています。
私たちがYouTubeで発信しているのも、将来のための取り組みです。ただ、雑誌やブランドホルダーは“今売りたいもの”を主眼にしている傾向があるため、なかなか将来を見据えた動きにはなりにくいかもしれません。
イタリアの高級アパレルブランドは、このままだと将来的に厳しくなると感じています。それを防ぐには、若い人たちに「まず一度着てもらう」という体験が必要です。それを“誰が担うのか”という課題は、確実に存在しています。
柳田さん:今売るための商品ページと、将来の顧客を育てるYouTube。両輪で展開されているのですね。雑誌に期待しづらい今、YouTubeは非常に有効な手段に思えます。
林さん:そう思います。再生回数も着実に伸びていますし、紹介した商品が実際に売れたり、お店に来てくださる方が増えたりと、YouTubeの効果は実感しています。
柳田さん:短期的な売上だけでなく、中長期的にファンを育てる発信になっているのですね。並行輸入をされていたときのような“バジェット買い”とは異なり、オクテットというフィルターを通して商品を選ぶファンが増えている印象です。
林さん:それは間違いなくあります。私たち自身を見てくださるファンを増やしたいという思いがあります。
柳田さん:アパレルは価格競争に陥りがちな業界ですが、ファンがいることで差別化され、競争からも一線を画すことができますね。
林さん:そうですね。毎日更新することや、内容にこだわるという点では、自分との戦いのようなところもあります。成果が出るまでには時間がかかりますし。
柳田さん:これからは何事にも時間がかかる時代かもしれませんね。以前のように、ただ商品を並べるだけで売れる時代ではないでしょう。
オクテットは2年間YouTubeを続け、チャンネル登録者数も1万人を超えています。これは、毎日投稿を地道に続けてきたからこそ得られた成果であり、ファンを増やし、売上にもつながっているのだと思います。
お客様とつながる場を広げていく。チャネルを超えた発信のこれから
柳田さん:最後に、今後の展望についてお聞かせいただけますか?
林さん:自分たちが「これは良い」と思ったものを、きちんと発信してお客様に届けられる形をつくっていきたいと思っています。そのうえで、もっとお客様と直接コミュニケーションが取れるような場も増やしていきたいですね。
柳田さん:具体的には、どのような場をイメージされているのでしょうか?
林さん:それは、どこでも構わないと考えています。YouTubeやSNSのコメント欄を通じて、もっと多くの方と交流しながら何かできたらいいなと思っていますし、もちろん店舗での接客もそのひとつです。
柳田さん:私自身もショールームを持っていますが、ECだけでは限界があると感じていて、リアルな接点の重要性を改めて感じています。必ずしも店舗でなくてもよいですが、リアルを絡めた接点づくりが今後は必要になってくるかもしれませんね。
オクテットの場合は、豊富な品揃えによって認知を高め、ファンを増やすというアプローチが可能かもしれません。
林さん:日本のおじさんは、正直あまり格好良くないと思うんです(笑)。でも、イタリアのおじさんたちは本当にお洒落で格好良い。日本のおじさんたちももっとファッションを楽しんでくれるようになると、高齢化社会のなかでも明るく前向きな日本になるんじゃないかと本気で思っています。
服装や表情は、その人の気持ちにも影響すると思っていて。だからこそ、自分たちにできることは、まだまだあるはずだと感じています。
柳田さん:そうした思いがあると、自然と次の一歩につながりますよね。目標を持っていると、新しい情報や出会いも引き寄せられる気がします。
林さん:最近ローンチ予定のプロダクトもそのひとつです。お腹が出ている方でも着やすいサイズ感の服や、男性向けの化粧品など、“おじさんが気軽にファッションを楽しむきっかけ”になればと考えて開発しています。
柳田さん:イタリアに通われる中で、何か大きな影響を受けたと感じたことはありますか?
林さん:イタリアのおじさんたちは本当に明るく、人生を楽しんでいるように見えます。それに比べて、日本では通勤電車や新幹線で見かけるおじさんたちが皆、下を向いて辛そうに見えてしまうんです。
柳田さん:ライフスタイルそのものを変えていくようなアプローチですね。それが、オクテットの情報発信や商品開発にもつながっていると感じます。
林さん:その通りです。私たちが目指しているのは、YouTubeや実店舗を通じて、より多くのお客様とコミュニケーションを取ることです。
柳田さん:今回お話を伺って、オクテットがECだけで運営されているお店ではないことがよくわかりました。ECとリアルをうまく組み合わせながら、「おじさんを元気にする」という明確な目標を持って行動されているのが印象的でした。
林さん:今後は、チャネルにとらわれない時代になっていくと思います。ECだから、リアル店舗だから、という区分けではなく、自分たちが持っている価値をどれだけ多くの人に届けられるか。その一点にかかっていると感じています。
おわりに:将来の顧客を見据えた情報発信が、顧客層の拡大につながる
毎日YouTubeを更新し続け、多くのファンを獲得してきたオクテット。ネタ出しから撮影・編集までの工数を考えると、それは明確な目標を持ち、覚悟をもって取り組まなければ成し得ないことです。
今回の対談では、現在の購入者層にとどまらず、将来の顧客となり得る若年層にも向けて情報発信を行っている姿勢が印象的でした。こうした“未来を見据えた発信”は、顧客層の拡大を目指すEC事業者にとって、大きな示唆を与えてくれるのではないでしょうか。
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