
2025年5月に発表された楽天グループの2025年度第1四半期決算は、売上収益は過去最高を記録した一方で、最終赤字は前年よりも拡大する結果となりました。
本記事では、楽天モバイルの収益構造の実態や、楽天市場を含むインターネットサービスの現状を解説するとともに、中期目標『流通総額10兆円』に向けた展望や今後注力すべき施策についても詳しくご紹介します。
この記事の目次
楽天グループ全体の業績と注目ポイント

2025年5月14日に発表された楽天グループ株式会社の2025年第1四半期決算(対象期間:2025年1月〜3月)では、売上収益が過去最高を記録した反面、最終損失は前年よりも拡大したことが明らかになりました。
連結売上収益は5,627億円となり、前年同期比で+9.6%と力強い成長を示しています。特に広告収益やサービス手数料など、楽天エコシステム全体で広告収益や手数料収入が増加したことが寄与しています。営業損失は154億円で、前年同期(332億円)から大幅に改善しています。
しかしながら、親会社に帰属する四半期純損失は734億円と、前年同期の損失424億円から悪化しました。この損失の要因としては、楽天モバイル関連の設備投資や減価償却費の影響が大きいと考えられます。
今期もまた、成長と投資の狭間で収益性をどう確保していくかが、楽天グループ全体の重要なテーマであることが明確になった決算といえるでしょう。
インターネットサービスセグメントと楽天市場の現状

楽天モバイルは、今期の決算でも多くの注目を集めるセグメントでした。売上収益は1,107億円で、前年同期比+10.9%の成長となっています。
決算では、「固定資産税支払い含むEBITDA」が▲65億円であるにもかかわらず、調整後のEBITDAを黒字として開示するなど、利益構造の見せ方に工夫が見られました。このような調整は、楽天モバイルの経営改善が進んでいることをアピールしたい意図が感じられます。

また、今回新たに「正味ARPU(Average Revenue Per User)」という指標が登場しました。これはエコシステムによる間接的な収益を除外した実質的なARPUを示しています。正味ARPUは2,430円となり、前回の2,408円から22円上昇、前年比では+118円の改善となりました。一方で、従来のARPUは2,827円と、前回より30円減少しています。

このように、楽天はARPUの開示方法を工夫することで、収益改善の側面を強調していますが、依然として単体での黒字化には時間を要する見通しです。今後も継続的な投資とARPU改善の両立が求められる局面が続きます。
中期目標「流通10兆円」への現実的な視点

楽天市場を含む「インターネットサービスセグメント」は、楽天グループ全体の売上の約半分を担う基幹セグメントです。

2025年Q1の売上収益は3,055億円(前年比+6.9%)、Non-GAAP営業利益は132億円(前年比+25.8%)となり、収益面では好調に推移しています。楽天市場、楽天トラベル、楽天ブックス、ラクマ、楽天GORAなどの複合的なサービスが支えとなっています。

国内EC流通総額は1.4兆円(前年比+3.0%)を記録しました。なお、前年はうるう年で1日多かった影響を加味すると、実質成長率は+4.4%となります。これは、楽天市場を含む国内EC事業が前年度のマイナス成長(▲1.5%)から回復基調にあることを示しています。

ただし、2年前(2023年Q1)の流通総額は1.45兆円であったことから、まだコロナ禍の特需を超えるには至っていません。売上収益の伸びが+6.2%である点を踏まえると、広告出稿の増加や手数料収益の拡大が、流通額以上にグループ収益を押し上げたと解釈できます。


楽天グループはかねてより、2030年までに国内EC流通総額10兆円を達成するという中期目標を掲げてきました。しかし、2024年の通期決算時点ではその期日表記が消え、「中期的に目指す」という表現に変更されています。
これまでの推移を見ると、
- 2013年:2兆円
- 2017年:3兆円
- 2020年:4兆円
- 2021年:5兆円
- 2023年:6兆円
- 2024年:5.95兆円(前年比マイナス)
と進み、近年はコロナ特需の反動でやや鈍化しています。仮に2025年の年間成長率を+5.0%と想定した場合、2025年の流通総額は約6.25兆円、2030年には約8兆円に届く計算となります。
つまり、残り約5年間で+2兆円の上積みが必要となる見込みであり、市場としては依然大きな成長余地があるといえるでしょう。今後の楽天市場の戦略次第で、この目標達成の現実性は大きく変わってきます。
楽天市場が今後注力する3つの重点施策
2025年Q1決算では、楽天市場が今後強化していく具体的な施策として以下の3点が挙げられました。
① モバイルユーザーへの施策強化

楽天モバイル契約者は、非契約者に比べてEC流通額が+47.5%高いとされており、今後この層の活性化が重要な戦略となります。モバイル会員限定のセールや企画も増加しており、楽天エコシステムを活用した囲い込みが進んでいます。
② 物流改革(最強配送)

2024年7月より「最強配送」が本格稼働し、テレビCMを含む大規模なプロモーションが展開されています。最強配送の対象商品は、検索順位での優遇も確認されており、楽天市場での競争力を高める要素として注目されています。今後の運営においては、最強配送対応が選ばれる条件の一つとなる可能性が高いです。
③ AIの活用と検索改善

AIによる「セマンティック検索」の導入により、検索意図をくみ取った精度の高いレコメンドが実現し、検索経由GMS(流通額)は前年比+10.7%と大きく成長しました。
また、近日リリース予定の「パーソナライズ検索」は、ユーザーIDごとに検索結果を最適化する仕組みであり、従来のSEO対策に加え、パーソナライズに対応した戦略が求められるようになります。

RPP広告においても、表示ロジックの最適化や外部配信の拡大が進んでおり、今後も運用における変化への対応力が試される局面が続くと見られます。
最後に
2025年Q1の楽天グループ決算を読み解きながら、楽天市場の現状と未来を展望してまいりました。国内EC市場全体は中期的に見て確実に成長が見込まれる領域です。楽天市場においても、今から戦略的に施策を講じていくことで、大きな成長チャンスを掴むことができるでしょう。 これから楽天市場に本格的に取り組む方にとっても、決して遅すぎることはありません。基本に忠実な運営と、市場の変化を捉える柔軟性こそが、次のステージへ進むための鍵となります。
ジャグー株式会社では、楽天市場をはじめとする各種ECモールの最新情報の発信を行っています。また、無料相談も行っていますので、今後の施策や店舗運営についてお悩みがありましたら、お気軽にご相談ください。
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