
プライバシーDXを推進する株式会社Acompany(アカンパニー、本社:愛知県名古屋市西区、代表取締役CEO 高橋亮祐、以下「Acompany」)と株式会社博報堂DYホールディングス(東京都港区、代表取締役社長:水島正幸、以下「博報堂DYホールディングス」)は、生活者のプライバシーを保護しつつ、個人の嗜好などをAIによって分析するための技術「統計合成データ」の有用性と安全性を評価する目的で実証実験を行ったことを発表しました。
実証実験の背景
従来の広告配信や市場分析においては、利用者のプライバシー保護の観点から「統計データ」が主に使用されてきました。統計データとは、アンケート調査やパネルデータから得られた情報を基にした統計的な処理を施したもので、多種多様な情報が商業目的で有償提供されるほか、政府や研究機関によって無料で公開されています。これにより、広告関連企業は市場分析や消費者行動予測に大きく貢献することができました。
しかし、統計データだけでは個人ごとの詳細な嗜好や行動を把握することが難しく、近年急速に進化しているAI技術の学習データとしての利用においても限界が指摘されています。
このような課題を乗り越えるため、Acompanyと博報堂DYホールディングスは「統計合成データ」生成技術に関する実証実験を行うことを決定しました。
「統計合成データ」とは、プライバシーテックの手法の一つで、実データを統計処理した後に個人データを“擬人化”し、新たなデータを生成する技術です。本実証実験では、博報堂DYホールディングスが保有する生活者データを基に生成された「統計合成データ」の有用性と安全性を、実データと比較して評価しました。

実証実験の結果
実証実験の結果、「統計合成データ」は実データと比べて、高い精度を維持しつつ利用できることが確認されました。また、安全性については、差分プライバシー技術を用いることで、個人情報の特定リスクを低減できることが明らかとなりました。
博報堂DYホールディングスは、今後この統計合成データの活用を進め、より精緻な分析を行うとともに、AIモデルの学習データとしての利用を目指しています。また、Acompanyはプライバシーテックにおける専門家として、合成データや秘密計算を通じて安全なデータの利用促進を図り、顧客の事業価値向上に寄与することを目指しています。
両社は本実証実験を基に、市場ニーズに応じた統計合成データの活用を推進し、デジタルマーケティング分野における安全かつ高精度なデータ利用を実現することで、顧客の体験価値と社会的な価値の向上に努めます。
(※1)合成データ:アルゴリズムによって生成された、実データに極めて近い人工の「仮想データ」と定義されます。
(※2)実証実験においては、表形式のデータへの適用に焦点を当てて実施したため、利用するデータの特性に応じた有用性と安全性の評価が必要となる場合があります。
(※3)差分プライバシー:個々のデータに意図的にノイズを加えることで、数学的に安全な状態で有用な統計情報を引き出す技術であり、個人が特定されるリスクを下げることができます。
本実証実験におけるデータの性質に応じた有用性と安全性の評価の必要性についても留意が求められます。
協力者コメント
この実証実験は、個人情報保護法に精通した光和総合法律事務所の弁護士渡邊涼介氏、及び合成データ技術に詳しい群馬大学の准教授千田浩司氏の協力を得て進められました。
<光和総合法律事務所 渡邊涼介弁護士のコメント>
統計合成データの仕組みを活用すれば、実データを加工しつつもその価値を維持することが可能になるのではないかと考えています。統計合成データは、データ活用の優れた手法の一つとなり得るでしょう。
<群馬大学 千田浩司准教授のコメント>
使用された統計合成データの仕組みは、差分プライバシーを利用して個人データの安全性を数学的に説明できるため、安全性と有用性のバランスが取れた手法の一つと考えています。
プライバシーテックについて
プライバシーテックは、個人のプライバシーを守るための高度な技術です。今日では、企業が大量の個人データを保有しているため、それに対する安全な保護及び利用が求められています。こうした課題解決のためにプライバシーテックが進化してきた背景があり、例えば、データを暗号化した状態で複雑な分析が可能な「秘密計算」や、オリジナルデータに似たデータを生成する「合成データ」、個人特定を難しくする「k-匿名化」といった技術がその一例です。
出典元:株式会社Acompany プレスリリース