グローバルな不動産サービスを展開する クッシュマン・アンド・ウェイクフィールド(本社:米国イリノイ州シカゴ、日本支社:東京都千代田区永田町、C&W)が、リテール市場に関する最新レポートを発表しました。

2024年第4四半期 市況

経済概況

2024年第4四半期の実質GDPは、定額減税等の影響により民間消費が伸びると見込まれ、前年同期比で年率+1.0%成長する予測です。コアCPIは2023年1月の3.5%のピークを下回るものの、依然として+3.0%という高水準が維持されています。物価上昇の影響を差し引いた勤労世帯の実収入は前年同月比2.9%増加しました。2025年春闘に向けては前年対比で4%後半の賃上げが期待され、名目賃金は3%の上昇が見込まれています。特に若年層における賃金上昇が期待され、2025年1月の消費者態度指数は29歳以下の層が40.9となり、年代別で最も高い消費意欲を示しています。しかし、実質賃金がプラスに転じても、2020年以降の累計を見ればインフレ影響で+9.8%の中、実質賃金の上昇はわずか+0.4%に過ぎません。さらに、高齢者層の消費は全体の約35%を占め、賃上げの恩恵を受けにくい状況が続いています。今後1年間の展望では、コアCPIを大幅に上回る5%以上の物価上昇が予測され、多くの消費者が生活防衛意識を強めています。

一方で、インバウンド消費は最高水準を維持しており、2024年の訪日者1人あたりの消費額は2019年の平均を約4割上回る22.7万円です。年間の訪日消費総額も約8.1兆円に達し、2019年を7割上回る見込みです。しかしながら、航空便を含めた受入態勢が既に不足しており、2025年以降の大規模な消費拡大は期待できない状況です。

1). Moody's Analytics等各社の予測を基にしたもの

2). 内閣府の消費動向調査に基づく

3). 総務省統計局のデータ

4). 観光庁の資料

需給状況

2024年第4四半期の全国小売販売高は前年同期比で2.6%上昇しました。しかし、前年の好況からの反動を受け、自動車や各種商品小売業はコア消費者物価指数の上昇(3.0%)を下回る実質微減となっています。販売業態別に見ると、身の回り品が好調なドラッグストアは6.7%増加し、この中で唯一全体の平均上昇率を上回りました。その他の店舗では、実質ベースで微減となり、コンビニエンスストア(1.0%増)やホームセンター(1.1%増)の成長は鈍化しています。タイプ別の空室率を確認すると、都心型商業施設の空室率はピーク時の12%から3%以下に低下。人流の回復に伴い、コロナ前の水準に近い表参道や銀座のTier 1空室率は1%未満とされています。

新規供給に関しては、「複合系」施設のオープンや計画が目立ちます。ジャパネットホールディングスが開発した長崎スタジアムシティは、2万席のサッカースタジアムを中心に約80店舗が2024年10月にオープンします。延床面積約19.4万平米には243室のホテルやオフィスが併設されます。また、三井不動産が横浜スタジアム近くで開発中のBASEGATE横浜関内にも、2026年春に34店舗の飲食区域がオープン予定で、同様にオフィスやホテルも用意される見込みです。

賃料動向

第4四半期におけるプライムエリアの賃料は、ラグジュアリーブランドが東京を含む地方都市への出店を強化しているため、京都の四条通は前年比50%上昇の坪単価15万円、栄エリアも18%の上昇で13万円に達しています。栄地区では、2026年にオープン予定のザ・ランドマーク名古屋栄の路面店も計画されており、さらなるプライム賃料の底上げが期待されています。他の地方都市では、プライムエリアで出店可能な店舗数が減少している神戸三宮で、坪単価が前年比70%上昇の17万円となっています。訪日観光客の需要を見込んだドラッグストアも出店意欲を高めており、賃料の影響がハイストリート周辺地域にも及んでいます。一方で、郊外店舗では光熱費や人件費の負担が増大しており、テナントの賃料負担能力が低下しているため、賃料水準は概ね現状維持にとどまっています。

移転および売買動向

最近の出退店動向においては、訪日客需要が顕著なエリアでの出店攻勢が目立っています。ユニクロは、2022年に閉店した新宿「ビックロ」の跡地にグローバル旗艦店を再出店しました。それに加え、NikeやARC'TERYX、lululemonなどのアスレジャー系ブランドも出店を目指し、特に若年層の消費増加を見込んでいます。2022年以降、東京、大阪、名古屋のリテールサブマーケットにおける業種別出店動向を過去3年間の平均と比較すると、ラグジュアリーブランドの出店比率は20%から24%へと増加しています。また、併設施設を持つアパレルブランドも出店比率が48%から54%と上昇しています。飲食系テナントの出店も2024年から回復が期待され、テナント・ミックスには生活スタイルの変化が反映されています。

希少性を重視するラグジュアリーブランドは、出店余地が限られる銀座や表参道での不動産購入意欲が高まっており、標準的な賃貸では実現困難な店舗形態を求めるブランドが投資物件の購入を検討しています。主要3区に絞った2024年度の年間売買取引動向を見てみると、クロスボーダー投資家のリスク許容度の回復により、取引金額が前年比53.7%増加し、2015年第3四半期以来の高水準に達しました。

今後の展望

都心商業施設の賃料は上昇傾向:
コロナ渦前の水準を上回る人流回帰が見られる都心型商業施設では、プライム賃料の中央値が上昇する見込みとなっています。今後、地方都市である福岡の天神や名古屋の栄においても大型開発計画が進行しており、さらに人流の変化が期待されています。大型の再開発に伴うエリア全体の賃料底上げにも注目が必要です。

都心商業施設の売買意欲が回復:ラグジュアリーブランドが出店可能な物件数が不足しているため、再開発を視野に入れた売買活動が活発化するでしょう。

リアルタイムデータを活用した店舗戦略を推奨:


テナントには、携帯電話の位置情報や国土数値情報を活用した詳細なマイクロマーケット単位での商圏分析を推奨します。一方で、投資家やオーナーには、同様のデータを基にした顧客動線分析を通じて、テナント・ミックスを定期的に見直し、売上効率を改善することを旨としています。

出典元:クッシュマン・アンド・ウェイクフィールド

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