記事の概要

楽天市場・Amazonなどネットショップ運営代行をはじめ、モール通販を中心にECサポート・ECコンサルティングを行っているサヴァリ株式会社が運営するYouTubeチャンネル『ECの未来』では、ECに関わるさまざまな方をお呼びして、その方たちの得意ジャンルのお話をMCである株式会社柳田織物の柳田敏正さんと対談形式でお届けしています。

今回は、株式会社大都の代表取締役の山田さんに、「理念経営」をテーマにお話いただく回をご紹介いたします。

【ゲストスピーカー】
山田 岳人さん
株式会社大都 代表取締役
工具や塗料などDIY用品のECサイト「DIY FACTORY

【チャンネルMC】
柳田 敏正さん
株式会社柳田織物 代表取締役
ワイシャツ専門店「ozie(オジエ)

歴史ある工具問屋が「理念経営」を取り入れるまで

柳田さん:今回は『理念経営』をテーマにお話を伺います。大都さんは多くの若いスタッフが集まっており、その経営スタイルには人を引きつける魅力を感じます。しかし、現在のような状態に至るまでには、卸売から小売への路線変更など、さまざまな変革があったのではないでしょうか。まずは、これまでの事業展開についてお聞かせいただきたいです。

山田さん:大都は今年で創業85年を迎える大阪の企業です。私が入社したのは1998年頃で、当時、リクルートに勤務していましたが、先代の一人娘である妻との結婚を機に退職し、家業に加わりました。決算書などを確認せずに入社したところ、経営状況は芳しくなく、新たな挑戦が必要な状況だったのです。

入社後から5年間は、毎日トラックに乗り、工具の配達を行います。この期間で工具に関する知見を十分に身につけました。ホームセンターへの卸売業務を通じ、そのビジネスモデルや販売価格についても深く理解します。しかし、知識があっても、問屋事業では収益を上げることが難しい状況でした。

時代の流れを捉えた業態変化・EC参入

山田さん:問屋のビジネスモデルは、かつては社会に求められ、価値を提供していましたが、時代の変化とともにその役割が薄れてきました。そこで、新たな事業として2002年にEC事業を始めたのです。これまで培ってきた知識や仕入れ先との関係を活かし、ホームセンターに卸していた商品を、インターネットを通じて直接お客さんに販売することにしました。

この転換には業界やホームセンターからの強い反発がありました。当時、社員数が約15人で、私が28歳で入社した際、次に若い社員が45歳という環境です。そのような状況下での変革は困難を伴いましたが、ECにシフトしてから売上は着実に伸びていきました。

初めての注文は福島県の方からで、そのとき大阪の下町の工具屋が日本全国、さらには世界と繋がる可能性を感じました。ECは世の中を変えることができると思ったんです。そのため、ECに注力しようと思い、小売業への転換を進める中で、問屋事業は社会的な役割を終え、縮小していきました。

2002年にECを開始してから、2009年の2月までは昨対同月比で売上が減少することは一度もなかったです。当時はクレジットカード決済に対する不安もありましたが、徐々に安心感が広がり、ECが社会に定着していきました。

注文を受けてもハッピーにならない取引からの脱却

柳田さん: 2007年から2009年頃は、まだリアルでの卸売業がそれほど悪化していなかったのではないでしょうか?

山田さん:私たちの業界は非常に厳しい状況でした。工具を配達するためにトラックに乗っていた当時、半ば諦めの気持ちで業務に臨んでいました。形のある商品を仕入れて販売する難しさを痛感し、ホームセンターとの商談でも厳しい要求を受け、最終的には価格を叩かれることが多かったのです。利益が出ず、先が見えない状況でした。しかし、その経験が、ミッション・ビジョン・バリューを強く意識するきっかけとなっています。

弊社では「ハッピートライアングル」という、取引先、私たち、そしてお客さんの全員が幸せになることを目指すミッションを掲げています。過去の経験で、取引先から注文を受けても無理難題を押し付けられると、結果的に赤字になることが多かったです。全くハッピーではなく、公正でもありませんでした。そこで、新たなビジネスを始める際には、自分たちだけでなく取引先も幸せになるビジネスをしようと決意し、現在もその理念に基づいて活動しています。

1年で廃業?伝えられた従業員はどう動いたか

柳田さん:業界に長く身を置くほど、新しいことを考えづらくなり、「そんなことできない」と言い訳を探すことが多くなると思います。転換期はそのような状況だったのではないでしょうか。

山田さん:それは会社のカルチャーに起因すると思います。すべての会社や社員が後ろ向きではありません。実際、私が働いていたリクルートではそうではありませんでした。ただ、経営が厳しい中で、先代に廃業を提案したことがあります。税理士と私、先代の3人で話し合い、申し訳ないのですが廃業させてくださいと伝えました。すると会社のオフィスだけは残してほしいと言われたのです。当時、会社の2階は先代の自宅であり、妻の実家でもありました。

柳田さん:先代が2代目であることも会社のオフィスを残したい理由に含まれていそうですね。

山田さん:「もう1年頑張ります。それで駄目だったらもう一度相談させてください」と伝え、社員に「今年1年頑張りましょう。現在赤字であることは皆さんもご存知ですよね。もし今年も赤字だったら廃業するつもりですので、そのつもりで1年間頑張りましょう」と呼びかけました。しかし、その1年後、見事に赤字となり、退職金を支払い、全員解雇することになったのです。カルチャーの話をしましたが、その1年間では全く変わりませんでした。

柳田さん:今後の世の中や会社、働き方など、さまざまな話を伝えても、結果的に響かなかったということですね。

山田さん:ここで駄目だったら会社が終わりだと、最悪のマネジメントをしましたね。危機感を煽って頑張ってもらおうとしましたが、結局、毎日みんな定時に帰っていきます。それは社員の責任ではなく、経営者の責任です。そこで、カルチャーを作る組織の重要性を痛感したのです。組織が強くなければ、ビジネスで勝つことはできません。

私たちが行っている理念経営や組織作りは、過去のトラウマから来ています。組織をうまく運営できなかった経験があり、あのような思いを二度としたくないため、組織はしっかり作ろう、もしくは組織をどうやったらしっかり作れるのか考えました。誰もが向かう先がわかるような道しるべを作っておかないと、組織は機能しないと当時痛感したのが、今でも強く心に残っています。

残ったEC事業が希望の芽に!三方良しの「ハッピートライアングル」

柳田さん:一気にスタッフがいなくなり、残ったの山田さんだけですか?

山田さん:当時ECを行っていたのですが、そのメンバーが私を含めて5人残りました。いきなり社員が4人になり、平均年齢が20代の組織になりましたね。

柳田さん:その4人の方々は、山田さんの思いを理解してくれていましたか。

山田さん:そうですね。初めて採用した女性社員は今も在籍しており、子供を2人出産して産休を2回取得しています。上の子がもう高校生だと言っていたので、随分長く在籍してもらっていますね。

柳田さん:産休をしっかり取っていただいているのは素晴らしいですね。

山田さん:「ハッピートライアングル」は、社員も幸せにしなければならないというミッションです。社員の幸せとは何かを考えたとき、仕事を続けたいと思う人が続けられるようにすることが重要だと思ったのです。リモートワークの導入もその一環ですね。

柳田さん:理念経営の話を聞いて思うのは、スタッフにまず起点があるということですね。

山田さん:そうですね。結局、ビジネスはチームで運営するじゃないですか。たとえ2人であっても、それは組織です。チームの強さがECの競争力につながると考えています。チームがうまく機能するためには、スタッフが働きやすい環境や、やりがいを感じられることが重要です。最近では、「心理的安全性」という言葉が使われますが、安心して働ける環境や、夢を持てることが、会社の成長エンジンになると思っています。

事業継続のための「論語と算盤」

柳田さん:一方で、安心感だけではなく会社としては利益を上げることも必要ですよね。

山田さん:「論語と算盤」という言葉がありますが、ビジョンとプロフィットのバランスは非常に大切にしています。そうでないと事業を継続することはできません。MVC(ミッション・ビジョン・コンセプト)を強調していた時期があり、その象徴として実店舗を大阪と東京に出店しました。DIYはリアルな体験が大切だと考え、5年間運営しましたが、バランスが取れておらず、最終的には全店舗を閉店することになりました。これは経営のミスですね。

柳田さん:結果として事業は継続しませんでしたが、やってみないとわからないこともあるのではないでしょうか。

山田さん:確かにそうですが、夢と現実のバランスを取らなければ、事業は続かないです。組織や理念も、失敗を通じて学び、活かしていかないといけません。なので、3店舗出したことを反省はしていますが、後悔はしていません。

柳田さん:失敗は成功の元と捉え、経験を活かすことが大切ですね。

山田さん: 2019年の秋に苦渋の決断で東京の店舗を閉店しました。私の経営者人生の中でも本当に最悪の出来事だと思っていたんですが、その後すぐにコロナ禍が訪れたんです。もし閉店が半年遅れていたら、大きな損失を被っていたでしょう。あのタイミングで撤退したことは、今振り返れば良い判断だったと思います。過去の最悪だと思った出来事が、将来的には最善の選択だったと思えることもあるかもしれません。

柳田さん:起こったことに対して後悔するよりも、それを活かしてどう成長するかを考えるほうが良いですよね。

おわりに: 失敗や経験を糧に前向きに取り組む

過去の失敗や経験から、EC運営における経営のお話に繋げてお話しいただきました。うまくいかなかったことがあっても、成し遂げたいことのために挑戦したことであれば、まさに失敗は成功の元になることだと思います。一方で、何よりも重要な事業を継続させるための論語と算盤のバランスについては、非常に難しく重要な点と言えるでしょう。

EC市場の真の発展に貢献をという想いで、「ECの未来」を運営しているサヴァリ株式会社は楽天市場・Amazonなどネットショップ運営代行をはじめ、モール通販を中心にECサポート・ECコンサルティングを行っています。EC運営に不安を抱えている事業者様は問い合わせてみてはいかがでしょうか。

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