
クリエイターと共創する「One Drop」は一見キャッチーなデザインのアパレルを販売するブランドに見えますが、”アートを日常的に”浸透させることを目的にファッションの粋を超えてクリエイターの挑戦を応援しています。「One Drop」を運営している合同会社yuhiloの代表である杉目雄治さんに、ブランドコンセプトを実現しつつ、ファンを醸成するのに必要な視点について伺いました。
この記事の目次
クリエイターと共創するブランド「One Drop」
――「One Drop」の立ち上げの背景や、ブランドコンセプトを教えていただけますか。
杉目さん:「One Drop」を立ち上げる前にアパレルの会社で働いていました。クリエイター(デザイナー)が表に出ることなく、画一化されているものづくりに対して、当時から新しい切り口はないかと考えていたのです。また、そのとき並行してアートに関連するスタートアップメディアのお手伝いをしていたのですが、関心のない方に向けてアートを日常的に浸透させることの難しさを感じていました。
日本は欧米圏と比べるとアートの市場規模が小さいです。理由はそう単純なものではなく、アートを壁に貼るだけの十分な広さを確保できないなど、さまざまな要因が重なった結果が現状です。そんな中、より身近にアートを感じられるのは身につけることができるファッションだと私は考え、「One Drop」を立ち上げました。
「One Drop」はアートを創作するクリエイターにとっては持続可能性が高く、より一般の方にとってアートを日常的に感じていただけるというブランドコンセプトを持っています。持続可能性のひとつにクリエイターが安定した収入を得られることが挙げられますが、「One Drop」では売上の最大15%をクリエイターに還元しています。また、ファッションアイテムを販売するブランドのように見えるかもしれませんが、クリエイターのやりたいことを広く実現できるよう、さまざまな活動に積極的に取り組むよう努めています。

――私自身、杉目さんのお話を聞くことで、誰がデザインした商品なのか意識して購入することがあまりないことに気付かされました。クリエイターと一口に言っても、SNSの発展によりクリエイティブな情報発信をされている方が多い時代になってきた印象ですが、どういった方と一緒にブランドづくりをしているのでしょうか。
杉目さん:商品化することで売れそうかどうかの軸で探し、お声がけすることもありますが、「One Drop」はクリエイターとの共創を大切にしているため、世の中に自分のアートを本気で広めたいと考えている方と一緒にやることを意識しています。
そのため、対面で直接顔を合わせながらじっくりとお話をした上で、「One Drop」のカルチャーにフィットする方なのか、クリエイターの方も納得して継続的にできるかどうかすり合わせています。今はこういった形でお話した方たち20名ほどと一緒に取り組んでいます。
“売れる”アートを世に送り出すためのお客様目線
――その中で杉目さんはどういった役割を担っているのでしょうか。
杉目さん:クリエイターとお客様の間の橋渡し的な役割を担っています。例えば、アートのキャンバスをTシャツにしたとき、クリエイターが自由に作成したデザインではお客様が手に取りづらくなってしまうことも考えられます。独創性を壊さないようクリエイターが考えたデザインのコンセプトをもとに、お客様目線で市場に受け入れられやすいデザインになるような商品企画を行うのです。
――杉目さんのお客様目線がアートの領域でマネタイズするために、ブランドの成長において非常に重要な役割を果たしているかと思います。お客様目線を養うために、具体的に取り組んでいることがあれば教えていただけますか。
杉目さん:実際にお客様と会って、フィードバックを頂いています。ブランドの認知を増やす取り組みとしてオンラインではInstagramを中心に情報発信をしていますが、それと同じくらい直にお客様とお会いする機会を大切にしています。そのために、ブランドを立ち上げた頃からポップアップストアを始めていました。
大手企業ではものづくりをしている人間がお客様から直接フィードバックを頂くのは難しいことだと思います。一方、「One Drop」の運用体制であれば、ものづくりをする人間が直接お客様と対話を重ねて、欲しいと思ってもらえる商品の解像度を上げられるのです。
ポップアップストアで生の声をヒアリング
――ポップアップストアはどういった場所で実施しているんですか?
杉目さん:ブランディングの目的も兼ねて知名度がある大きな商業施設で開催することもあれば、美容室やビジネス系のイベントなどトレンドに敏感な方が集まる場所を間借りすることもあります。
誰もが知る施設でポップアップストアを開催することは、お客様やクリエイターの方にとって安心できるブランドだと思っていただけます。美容室で開催するとオシャレ感度の高い方からフィードバックを頂けますし、ビジネス系のイベントでは商品そのものへのフィードバックに加え、ブランド運営に関するフィードバックを頂けるのです。さまざまな場所で開催することにより視点の数を増やすことに繋がっているように思います。
ブランド立ち上げ当初はキャリーケースに洋服を詰め込んで、各地を転々と周りながらポップアップストアを数多く開催していました。精神的にも肉体的にもなかなか厳しかったですが、一緒に商品化したクリエイターの想いがあったからこそ続けられることができたと思います。今はおかげさまで少し規模が大きくなったので、自らキャリーケースに商品を入れて運ぶ必要はなくなりました。

アートとアパレルの販売を行う
Instagramが店舗と同等以上のブランディングを実現
――商業施設や一室を借りてのポップアップストアはありがちかと思いますが、美容室やビジネス系のイベントに出店するお話は初めて聞きました。オフラインでかなり積極的に活動していますが、オンラインでの集客はどういったことに取り組んでいるのでしょうか。
杉目さん:2019年のブランド立ち上げ時からInstagramに力を入れて集客をしています。当時はインスタ映えやインフルエンサーの流れから商品を掲載するようになっていて、Instagram上に自分自身を表現する場が作られていました。
アパレルの場合、店舗やその店舗で働くスタッフがブランドを表現する役割を持っています。ECでは、その役割をInstagramが果たしていると思うんです。なので、アカウント運用は実際にお店を出している感覚でしています。

杉目さん:オンライン上で実施可能な施策はさまざま行っていますが、ポップアップストアの通りがかりで興味を持ってくれた方にはその場でフォローしていだけるようなコミュニケーションも大切です。一度フォローいただければ、フォロワーは見込み客になり得ます。繋がりを持てているので、新商品のお知らせやスタイリングなど、購入につながるための情報発信を続けることでいずれ購入いただけるのです。
ブランド立ち上げから4年が経ち、Instagramが集客の太い軸であることに変わりありませんが、Twitter(現:X)やTikTokなど他のSNSの運用も必要です。もしInstagramに何か大きな変化が起きる可能性を考慮に入れると、リスクヘッジせざるを得ません。
異業種とアートの掛け算で無限大の可能性を示す
――常設店としてのInstagram、より近い距離でお客様とコミュニケーションを交わすポップアップストアの両輪で「One Drop」は伸びてきたのですね。
杉目さん:アートを社会に実装するために、物販以外の取り組みも積極的に行っています。例えば、「One Drop」のレモンサワーのTシャツを来て、飲食店に行くとレモンサワーの飲み放題が1時間無料になるキャンペーンを実施しました。お客様にとっても、クリエイターにとっても、楽しんでもらえるような、ワクワクする取り組みが大切だと考えています。
嬉しかったこととしては、レモンサワーのTシャツを通じて、お客様同士でコミュニケーションが生まれたことです。アートを通じて一体感が高まり、コミュニティが徐々に広く、濃くなっていく。「One Drop」はその架け橋になれたら嬉しいです。

『レモンサワー着て、飲みいこう』キャンペーン
杉目さん:既に「One Drop」で共創しているクリエイターの個展を開くなど、取り組みの幅が広がり、着実にアートを社会に実装できている実感を得ています。今後は、熱量の高いクリエイターの方ともっと繋がりを増やしていきたいと思っていますし、アパレルに限らず異業種の方とのコラボレーションも積極的に進めていきたいです。ぜひ「One Drop」のInstagramやECサイトをご覧いただいて、少しでも取り組めると思うことがあればお気軽にご連絡ください。
インタビューを通して:アートを社会に実装するためにさまざまな取り組みを続ける「One Drop」
ファッションアイテムの販売にとどまらず、クリエイターの活動を最大限後押しできる形で杉目さんが活動していることが、今回の取材から感じられました。杉目さんがお客様と直にコミュニケーションを交わし、その目線をクリエイターの方に伝える方法によって、余計なノイズを減らし、着実に売れる方向へと導いていることがわかります。
商品を販売することにこだわるのではなく、共創するクリエイターがより世の中から認知されるための活動も積極的に行われています。アートは非常に広い文脈で使われる言葉ではありますが、なにか面白そうなことができそうだと思いついた方は、アイディアベースでも杉目さんに問い合わせをしていただければ思わぬ縁の広がりになるかもしれません。
「One Drop」
・ECサイト
https://one-drop.me/
・Instagram
https://www.instagram.com/1drop_official/
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