
右:Women's Health SHOP 荒井利佳さん
株式会社ハースト婦人画報社は世界55ヵ国で展開するウェルビーイングにフォーカスしたライフスタイルWebメディア「Women's Health(ウィメンズヘルス)」を運営しています。2021年にそのメディアと連動する日本向けECサイト「Women's Health SHOP(ウィメンズヘルス ショップ)」をオープンしました。メディア発のECサイトとして、情報発信力を高め、顧客と良好なコミュニティを形成するために、どういった取り組みを行っているのか、Women's Health編集長の影山桐子さんとWomen's Health SHOPを担当する荒井利佳さんに伺いました。
この記事の目次
「Women's Health SHOP」立ち上げの軌跡
――まず、「Women's Health SHOP」の立ち上げについて伺えますか?
影山さん:今の形で「Women's Health SHOP」が立ち上がったのは2021年9月です。新型コロナウイルスが流行し始めた2020年2月頃に、まずは弊社で運営している「ELLE SHOP」の1コーナーとして販売を始めました。

影山さん:弊社で運営している数あるメディアの中でも「Women's Health」はラグジュアリーな路線というよりは健康意識の高い方に愛読いただいているメディアとなっています。読者がより良いライフスタイルを送れるように、おすすめのアイテムやグッズを紹介することも多いです。そこでAmazonの商品を紹介したとしても読者に違和感なく、むしろ便利になるのではないかと考え、まずは2018年末からアフィリエイトを始めました。
好調なアフィリエイトから物販へ
――今でこそ物販をしていますが、まずはアフィリエイトから始まったんですね。始めてみての反響はどうでしたか?
影山さん:想像以上に反響がありました。US版やUK版の「Women's Health」から情報が入ってくるため、日本では耳にすることのない海外のトレンドをどこよりも早く、詳しく取り上げていることが理由の一つだと思います。
例えば、「月経カップ」や「筋膜リリース」が日本で流行り始めた頃は、「Women's Health」がいち早く詳しい情報を扱っていたため、検索経由で興味のある方が訪れてくださり、自然とアクセスがどんどん増えていきました。そこに、エディター(編集者)が実際にアイテムやグッズを使用して細かくレビューをした記事があることで、読者の方は気に入ったものが見つかればそのまま購入してくれます。
この一連の流れが、アフィリエイトと相性が良かったのでしょう。月経カップは初年度で500個以上売れ、筋膜リリースの記事は年間で最も読まれたトピックとなり、記事経由で多くの関連アイテムを購入いただきました。
今まで当たり前に作っていた記事に商品をおすすめするリンクを載せたことで、読者の方のニーズに合っていれば購入していただけることがわかったのです。これだけ売れるなら、アフィリエイトではなく、「自分たちで販売しても良いのでは?」と考え、今では自社で在庫を持ちながらECサイトで販売しています。
社内リソースを活用し、スムーズなサイト立ち上げを実現
――アフィリエイトから物販に切り替えた際はスムーズに移行できたのでしょうか?
荒井さん:最初は「ELLE SHOP」に商品を掲載することから始めました。「ELLE SHOP」はファッション系のアイテムを中心に12年以上運営していた実績があるため、ノウハウが蓄積されています。そのため、物販を始めようとなったときは「ELLE SHOP」チームの協力体制により、スムーズに立ち上げることができたのです。
まずは1年半「ELLE SHOP」で販売し、十分な売上が見込めることがわかったので、「Women's Health SHOP」を立ち上げました。最初のうちは編集部内で仕入れも対応していましたが、立ち上げから3ヶ月ほどで私が参画し、中心になって動いています。

「売りたい!」よりも「おすすめしたい!」商品ラインナップ
――社内に既に運営ノウハウが蓄積されていたのですね。仕入れる商品の選定はどのようにされているのでしょうか。
荒井さん:バイヤーのいるECチームだけでなく、「Women's Health」の編集部を含めて、日々の生活で気になったものを取り扱っています。例えば、最近だとヘナの白髪染めや筋膜リリースなど、エディターが実際の生活の中でさまざまな商品を試した上で、本当に気に入った商品の仕入れを行います。
同時に、エディターはおすすめしたい商品について深掘りをしたコンテンツを作成します。そのコンテンツは「売りたい!」という気持ちよりも「おすすめしたい!」という編集者魂が先立って作られているため、読者の方からの信頼が高く、安心して購入していただけるのでしょう。
エディターから「なんとしてもサイト内で買えるようにしたいから仕入れて欲しい」と高い熱量で依頼を受けても、仕入先メーカーや小売企業の方に掛け合うと「そこまでたくさん生産できない」と言われることもあります。しかし、実際にコンテンツをご覧いただいたり、商談にエディターが同席したりすることで、本気度を感じていただき、条件面に折り合いをつけてもらえることもあります。熱量の高いコンテンツによって、後から売上がついてくるのはメディアならではの特徴だといえるでしょう。
メディア発のECサイトならではのこだわり
――「売る」ことを目的におすすめされると、お客様が一歩引いてしまうのはよくあることかと思います。エディターの方々が本当におすすめしたい気持ちで仕入れているのは「Women's Health SHOP」が持つ大きな魅力の1つですね。メディア発のECサイトだからこそのこだわりはあるのでしょうか?
荒井さん:どの商品にもおすすめしているエディターの一言が入っているのはこだわりです。”編集部の顔が見えるECサイト”がコンセプトのひとつなので、ただ商品が並んでいるサイトではなく、メッセージが伝わるようなサイト作りを目指しました。商品ページにスタッフの似顔絵と吹き出しでコメントが入っているので、その商品を誰がなぜおすすめしているのかわかります。

荒井さん:また、「Women's Health SHOP」は4つのテーマを設けています。トップページの上部にある「心と向き合う」「体を鍛える」「食で整える」「地球を想う」を軸にコンテンツやショップの商品ラインナップを揃えているのです。商品カテゴリだけでなく、テーマに分けてメッセージ性を訴える作りは弊社ならではの特色だといえるでしょう。

コミュニケーションによるお客様との接点がリピートの秘訣
――「誰が紹介しているか」という点は信頼が増しますし、その人のおすすめと相性が良ければ継続的な購入にもつながりそうです。リピート率を高めるために取り組んでいることはあるのでしょうか。
荒井さん:多くのお客様にリピートいただいている理由はコミュニケーション面ではないでしょうか。記事だけでなく、インスタライブも頻繁にやっていて、「顔が見えているこの人から買いたい」と思っていただけるのは大きなポイントです。
人にファンが付くので、エディターがある日ヘナの白髪染めを紹介することで、お客様が今まで気に留めていなかったカテゴリの興味のきっかけになるのはユニークですよね。
影山さん:メディアの存在はとても大きいです。365日常に新しい情報を届けているため、運動や健康、メンタルヘルスやダイエットなど、何かしらの「Women's Health」にあるトピックに興味がある方が、SNSやメディアを定期的に見てくれています。
私たちと接点を持ち続けている方が「Women's Health」が紹介してくれているなら良い商品だろうとある種、メディアをフィルターとして考えてくださっている。これはモノを売ることを目的にやっていないことが良いのかもしれないです。
――そんな読者でもお客様でもある方々と編集部が接点を持つために、どんなことを実践しているのでしょうか。
影山さん:メディアのコンテンツは記事だけでなく、体験も含まれていると思います。もともと読者の方をお呼びする座談会や1,000人規模のフィットネスイベントなど、リアルな場で接点を持つ場所を設けていました。新型コロナウイルスの流行により、オフラインのイベントができなくなったことでオンラインでの取り組みも始めています。
最初の取り組みは緊急事態宣言が発令された2日後から100日間連続でインスタライブを始めたことです。家から出られなくなると、運動不足になり、気持ちが落ちてしまいますよね。きっかけは読者のそんな気持ちを少しでも上げたかったからです。毎朝8時にフィットネスやヨガの専門家と弊社のエディターでコラボしてトレーニングの様子を配信しました。
当時は配信を毎日楽しみにしてくださる方が多くて、日に100人ずつフォロワーが増え、100日後には1万人が増えていました。結構ハードなトレーニングの場合は、エディターが一緒にやると肩で息をするくらい疲れてしまいます。そんなリアルな様子に応援のコメントが付くことや、コメントを読み上げてコミュニケーションを取ることで読者との距離が縮まったのではないでしょうか。
――等身大であることが視聴者の方にとって、ほど良い距離感になっているのかもしれません。
影山さん:45,000円以上の参加費となっている「みんなでファスティング祭り」は毎回100名以上に参加いただいています。イベントの期間中、LINEのオープンチャットを活用し、常時専門家が参加者の質問に答えられる体制を取っています。このオープンチャットがインスタライブ以上に活発なコミュニケーションを生み、オンラインイベントであるにも関わらず、満足度は98%と非常に高い評価を頂いています。

荒井さん:最初に担当エディターから「みんなでファスティング祭り」というイベントタイトルを提案されたときは「祭り!?」と思いましたが(笑)、参加者全員が同じ期間に1つのことに取り組む、まさに「祭り」の雰囲気です。編集部や専門家だけではなく、参加者同士のコミュニケーションも生まれます。
あくまで匿名のグループではありますが、「Women's Health SHOP」が主催するイベントにリピート参加してくださる方同士が、回を重ねるごとに見知った仲になることもあります。すると、One to Oneに近いコミュニケーションの雰囲気が初めて参加した方にも伝わり、楽しい雰囲気が広がっていくのです。

――物販のみでなく、体験を通して参加者が楽しめるコミュニティを作っているのは他にはない「Women's Health SHOP」の強みだと思いました。最後に、今後さらに注力したい取り組みがあれば教えていただけますか。
影山さん:今年は既存のオフラインイベントを復活しながら、宿泊を伴うイベントを開催し、読者の方々とより深くコミュニケーションを取る予定です。
現時点でも社員の「Women's Health SHOP」利用率はかなり高いですが、まだまだ日常の中で私たちエディターが愛用している商品、紹介したい商品を取り扱いきれていないため、商品ラインナップの拡充も注力していきたいです。将来的な理想は自分たちの買い物すべてが「Women's Health SHOP」でできるようになったら良いなと思っています。
インタビューを通して:個の力で「売る」のではなく「おすすめ」することの強さ
いわゆるECサイトは「売る」ことが目的であるため、基本的には「売る」ことを起点にさまざまな考えを巡らせていることでしょう。一方、「Women's Health SHOP」においては情報発信を主とするメディアをベースに、コンセプトとなるライフスタイルに則った生活を送っている編集部の方々が良いと感じた商品を「おすすめ」することが目的になっているのです。「Women's Health SHOP」においては個々が顔と名前を出しながら自信を持っておすすめできる商品が陳列されているため、お客様は安心して買い物できます。
また、お客様との接点はECサイトのみでなく、メディア上の記事やSNS、ライブ配信にイベントなど、非常に多岐に渡っていることから、密なコミュニケーションを育める環境を提供できるのです。個の色を強く出しながら、コンセプトに合ったコンテンツを発信し続けることが共感を生み、コミュニティを築くことになっているのではないかと感じられました。
自社のECサイトに個性を出し切れていないと感じている事業者様は、ぜひ「Women's Health SHOP」をご覧になり参考にされてはいかがでしょうか。
▼Women's Health SHOP
https://shop.womenshealth-jp.com/
▼Women's Health
https://www.womenshealthmag.com/jp/
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