
株式会社JTBは、2026年における訪日旅行市場のトレンド予測を発表しました。この予測は、観光庁やJNTO(日本政府観光局)などの公的な統計データ、IMF(国際通貨基金)による経済予測、そしてJTBグループの予約状況などを総合的に分析して作成されたものです。
数値はすべて暦年ベースで算出されています。2019年、2023年、2024年における旅行者数はJNTO「訪日外客統計」を、単価および消費額は観光庁「インバウンド消費動向調査」に基づく観光庁の推計値が使用されています。2025年と2026年については旅行者数、単価、消費額のすべてがJTBによる予測値です。消費額は日本国内で支出された金額を指し、単価は旅行者一人あたりの消費金額を示しています。
この記事の目次
概要
- 2026年の訪日外国人旅行者数は前年比97.2%となる4,140万人と予測されています
- 訪日消費額については前年比100.6%の9.64兆円に達する見通しとなっています
- 多くの国や地域で経済成長が続き訪日旅行者は増加傾向にあるものの、中国および香港からの旅行需要の減少により、全体としては前年をやや下回る見込みとなっています
- 旅行に関するコストの上昇傾向に加えて、滞在日数が長い欧米豪方面からの旅行者の増加により、総消費額については前年を上回る予測となっています
- 訪日リピーターの割合が高まることで、旅行先は大都市圏から地方エリアへのシフトが継続して進展するとされています
訪日旅行市場の概況について
2026年における訪日需要については、訪日外国人旅行者数が4,140万人(前年比97.2%)、消費額が9.64兆円(前年比100.6%)になると予測されています(図表1)。コロナ禍からの回復期において二桁成長を続けてきた訪日需要ですが、2026年には各国や地域における経済成長に伴う自然な増加に依存する段階へと移行するため、成長率は低下する見通しとなっています。さらに、中国および香港からの需要減少が見込まれることから、旅行者数については前年を下回ると予測されています。
2024年から2025年にかけて訪日需要が大幅に高まった要因としては、円安の進行や日本国内における物価の割安感に加えて、コロナ禍前と比較した各国や地域における所得水準の向上、そして欧米豪などを中心とした日本への関心の高まりなどが挙げられています。これらの需要押し上げ効果は2025年までにおおむね一巡し、2026年については各国や地域の経済成長に伴う海外旅行需要の自然な増加が、旅行者数増加の主要な要因になると予測されています(図表2)。
需要の下振れリスクとして懸念されているのは、中国および香港からの訪日需要の減少です。また、円レートの急激な上昇も需要に影響を与える可能性があります。韓国や台湾といった日本に地理的に近い市場では、円安が訪日旅行を選択する要因の一つとなっており、仮に円高が進んだ場合には、旅行先が東南アジアなど相対的に割安な方面へシフトする可能性があるとされています。
訪日外国人旅行者の消費単価については、円レートに加えて、宿泊費など日本国内における旅行コスト、そして各国や地域の所得水準の影響を受けます。2024年と2025年の消費単価を費目別に比較すると、円レートが上昇する局面ではショッピングを控える傾向が見られ、消費単価に対してマイナスの影響を与えていると考えられます。一方で、宿泊費を中心とした旅行コスト自体は上昇しており、消費単価を押し上げる要因となっています。
2026年については、年間平均のドル円レート(対USドル)が2025年と大きく変わらず1ドル=150円前後になると想定されており、この前提のもとでは、日本国内の旅行コストの上昇による単価押し上げ効果が継続し、消費単価は上昇が続くと想定されています。
(図表2)市場別にみた海外旅行者総数と対前年比

東アジア4市場は韓国、台湾、香港、中国を指します。東南アジア6市場はタイ、シンガポール、マレーシア、インドネシア、フィリピン、ベトナムを指します。欧米豪ほかは米国、カナダ、メキシコ、豪州、英国、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、ロシア、インドを含みます。2024年の海外旅行者数は、韓国、米国、英国などアウトバウンド統計を公表している国についてはそれぞれの国の統計に基づいています。その他の国については主要な旅行先の国における到着客数を合計した数値などをもとに推定されています。2025年と2026年については上記データに加えてIMFのWorld Economic Outlook(2025年10月)に基づく経済成長率などを参考にJTBが予測したものです。折れ線グラフは対前年比を示しています。
国や地域別にみた動向について
2026年における発地別の訪日外国人旅行者数については、中国および香港からの旅行者数減少の影響を受ける東アジア4市場を除いて、各国や地域における海外旅行者数の増加率と同程度の伸びを見込んでいるとのことです。
2026年の海外旅行者数の伸び率を国や地域別に見ると、中国が最も高く、名目経済成長率(USドルベース)6%台を大幅に上回る15.1%増と予測されています。これは、中国においてコロナ禍後の海外旅行解禁が他国と比べて遅れたことから、2026年もコロナ禍前の需要水準を回復する段階が継続するためとされています。
ただし、中国から日本への旅行者数については減少する見込みであり、中国発の海外旅行需要は、東南アジアなど日本以外の国や地域へと向かい、当該国や地域への旅行者数が大きく増加すると想定されています。
東南アジア6市場については、経済成長率では中国に近い水準であるものの、海外旅行者数の伸び率は9.6%増と一段階下がる見通しです。これは、シンガポールのようにコロナ禍後の需要回復が早かった市場と、タイのように2026年に本格的な需要回復が進む市場が混在しているためとされています。
欧米豪などその他の国や地域については、海外旅行者数の伸び率は経済成長率をやや下回る水準にとどまると想定されています。米国や欧州などでは、コロナ禍後の海外旅行需要の回復はすでに一巡しており、今後の海外旅行者数の伸びは、各地域の経済成長率におおむね収束していくと考えられています(図表3)。
(図表3)市場別にみた2026年の海外旅行・訪日旅行需要成長率

東アジア4市場は韓国、台湾、香港、中国を指します。東南アジア6市場はタイ、シンガポール、マレーシア、インドネシア、フィリピン、ベトナムを指します。欧米豪ほかは米国、カナダ、メキシコ、豪州、英国、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、ロシア、インドを含みます。海外旅行需要、訪日旅行需要、日本選択率の変化はJTB予測です。経済成長率はIMF World Economic Outlook(2025年10月)に基づいています。
高まる欧米豪からの旅行者の存在感
2026年は、大都市における欧米豪からの旅行者の存在感がさらに高まると想定されています。観光庁の統計によると、2025年1月から9月における欧米豪からの延べ宿泊者数は2,995万人泊(前年同期比+609万人泊)と、従来ボリュームの大きかった韓国・台湾・香港(3,186万人泊)に匹敵する規模にまで拡大してきました。このような状況の背景には、欧米豪からの旅行者一人あたりの滞在期間が、アジアからの旅行者のおよそ2倍に及ぶという特徴があります。旅行者数そのものではアジア市場が上回るものの、この滞在期間の長さが延べ宿泊者数を押し上げ、存在感を高めていると言えます。
欧米豪からの旅行者の宿泊地は、アジアからの旅行者と比べて関東や近畿などの大都市部に偏在する傾向が見られる一方で、北陸各県においても延べ宿泊者数が大幅に増加しています。要因の一つとして、北陸新幹線の開通や延伸により、東京から関西間に新たな移動ルートが形成されたことが挙げられています。欧米豪からの旅行者は成田空港や羽田空港から入国するケースが多く、初訪日客の割合も高いことから、東京に加えて関西方面まで足を延ばす傾向があります。従来は東京から東海を経由して大阪へ向かう、いわゆる「ゴールデンルート」が主流でしたが、その一部が北陸経由へとシフトしている状況がうかがえます(図表4)。
なかでも石川・金沢は、北陸新幹線延伸以前からゴールデンルートに次ぐ旅行先として一定の認知度と集客力を有していました。歴史や伝統文化、庭園、城郭といった欧米豪からの旅行者の嗜好に合う観光資源が豊富であることに加えて、金継ぎなどの文化体験コンテンツが高い評価を得ている点も、人気の背景にあるとされています。一方、福井や富山については、宿泊者数の絶対規模は限定的であるものの、伸び率で見ると高い水準にあります。これらの動きは、北陸新幹線の効果に加えて、自治体による継続的な海外向けプロモーションや、震災後の復興に向けた情報発信の成果とも考えられています。
欧米豪からの旅行者の消費傾向としては、宿泊や飲食など旅ナカ消費の割合が高い傾向が見られます。コロナ禍前と比べると、ショッピング関連の支出も増加傾向にあり、円安の影響により酒類などの免税品購入が増えているほか、アジアからの旅行者と比べて衣料品や伝統工芸品などへの支出額が多いことも特徴です。欧米豪からの旅行者は滞在期間が長いことから消費単価も高く、消費額ベースでみた存在感も大きくなっています。

観光庁「宿泊旅行統計」をもとにJTBが作成しています。2024年、2025年ともに1月から9月累計の前年同期比です。
円レートの変動が大きく影響する韓国、台湾市場
韓国や台湾については、コロナ禍後、海外旅行先として日本を選ぶ割合が大幅に上昇しています(図表5)。これらの日本に近い市場は為替レートの影響を受けやすく、日本選択率が高水準で推移している背景には、円安からくるお得感が挙げられています。2026年は円レートが大きく変動しないことを前提としていますが、仮に円高が進んだ場合には、旅行先が日本から東南アジアなど割安な国へとシフトし、訪日外国人旅行者数が下振れする可能性があるとされています。

2010年から2019年のプロットが青、2023年から2025年までのプロットがオレンジで示されています。横軸は各国通貨1単位が日本円でいくらになるかを示しています。プロットが右へ行くほど自国通貨の日本円に対するレートは高くなります。縦軸は各国の訪日外国人旅行者数を海外旅行者数で割ったものです。訪日外国人旅行者数はJNTO、海外旅行者数は各国統計局、為替レートはOANDAのデータが使用されています。
訪問先別の動向について
2024年から2025年にかけての訪問先別訪日需要を見ると、2019年と比較して、東京や大阪などの大都市への偏在が進みました。要因としては、宿泊地が大都市に偏っている欧米豪からの旅行者の比率が上昇したことに加えて、地方訪問率の高いアジアからの訪日リピーターにおいても、コロナ禍後の初回訪日旅行では大都市への訪問率が高まったことが挙げられています。さらに、国内地方空港への国際線直行便の運航再開が遅れていたことも、需要の大都市集中を後押ししたとされています。
2026年は中国および香港からの旅行者数減少により、訪日外国人宿泊者数が前年を下回る地域が一部で見込まれる一方で、大都市と地方の構成比については、地方の比率が上昇すると予測されています。主な背景として、訪日外国人旅行者数全体の伸び率が鈍化することで、地方訪問率の高い訪日リピーターの構成比が上昇することが挙げられています。
訪問先別に宿泊者数を見ると、訪日経験が豊富なリピーターが多い東北や、欧米豪からの旅行者比率が高い中国地方では、宿泊者数の増加が見込まれています。一方で、近畿や中部など、中国からの団体旅行客比率が高い地域では、前年を下回ると予測されています(図表6)。
また、訪日経験回数が増えると、地方での宿泊数も増えることがわかっています(図表7)。さらに訪日回数4回以上のリピーターは訪問先を一つの地域に絞り込む傾向が見られることから(図表8)、今後リピーター比率の増加が進むと、訪日外国人旅行者の周遊エリアは大都市から地方へシフトするとともに、絞り込みも進んでいくと考えられています。

2025年実績は観光庁「宿泊旅行統計」2025年1月から9月累計の前年同期比伸び率です。2026年はJTB予想です。+は前年比101%以上、+/-は同99%以上101%未満、▲は同95%以上99%未満、▲▲は同95%未満を示しています。

JTBグループの予約動向について
JTBが運営する訪日外国人旅行者向け宿泊予約サイト「JAPANiCAN.com」における、2026年1月から4月の予約件数は、前年同期比で台湾161%、韓国138%、米国はほぼ横ばいと堅調に推移しています。
台湾からの旅行者には中部エリアの人気が高く、石川、三重、長野、愛知はいずれも同200%超となっているほか、直行便ネットワークが拡大した大阪や沖縄も大きく伸長しています。韓国からの旅行者は、北海道および九州への需要が高い一方で、宮城、群馬、長野、岐阜、兵庫などでも同200%超となるなど、訪問先の地域分散が進んでいます。米国からの旅行者についても地域分散の傾向が顕著で、なかでも四国エリアが同240%と好調です。一方、日中関係の影響を受けて、中国からの旅行者は同50%、香港は同90%にとどまっています。特に北海道においては、団体旅行に一時的な影響が見られましたが、個人旅行では訪問先として依然高い支持を得ており、旅行形態による傾向の違いが顕著となっているとのことです。
訪日インバウンド事業を専門とするJTBグローバルマーケティング&トラベルの予約状況によると、主力である欧米市場において日本への関心は引き続き高い水準にある一方で、他国と比べて日本の旅行コスト上昇率が大きいことから、2026年にかけて旅行需要の伸びが鈍化する兆しが見られるとされています。また同市場においては、休暇取得の時期が集中型から分散型へと移行しており、混雑回避志向や夏季の暑さに対する懸念が、旅行先の選択や旅行時期に大きな影響を与えていることがうかがえます。さらに安心感や予約の簡便さ、ユニークな体験を理由にパッケージツアーへの関心が高まっていることも特徴として挙げられています。
JTBグローバルマーケティング&トラベルでは、日本国内のさまざまな地域におけるテーマ性の高いツアーや、富裕層に特化して高付加価値旅行を提供するラグジュアリーブランド(BOUTIQUE JTB)などを展開しています。
法人事業における2025年度の状況は、Meetings&Eventsの領域(ミーティング&イベント)が前年度と比較して240%、国際会議が同131%と好調に推移しており、「大阪・関西万博」に関連する需要の増加も顕著に見られました。訪日外国人旅行者を対象としたプロモーション関連事業も同130%と高い成長を見せています。
2026年は、「2026 World Baseball Classic™」や「第20回アジア・アジアパラ競技大会(愛知・名古屋)」といった国際的なスポーツ大会により、アジアをはじめとした世界各国からの注目が集まります。選手はもとより、観戦者や関係者の滞在により、需要が大きく高まることが期待されています。
JTBグループは、「訪日インバウンドVISION2030」をグループ横断で推進するため、「既存事業6領域」と「+1の新領域」を定め、各領域での創客を目指しています。訪日インバウンド共創部を中心に、国内外のグループ連携を強化しています。国内営業拠点における地域対応力を向上させるとともに、NorthStar Travel Groupなどのグループ会社や海外拠点を通じて訪日外国人旅行者のニーズを捉えることで、発地(海外)と着地(日本)双方から訪日インバウンド事業に貢献するとしています。「+1の新領域」については、訪日外国人旅行者が、日本を訪問する目的となりうるサービスやコンテンツの開発や投資、外部パートナーとの積極的な共創による新たな価値創出に取り組んでいます。
出典元:株式会社JTB プレスリリース












