
マーケティング支援事業を手がける株式会社ネオマーケティング(東京都渋谷区)は、一般社団法人社会調査支援機構チキラボ(代表理事:荻上チキ氏)と共同で、2025年10月17日から24日にかけて「接客サービス」をテーマにしたインターネット調査を実施しました。この調査は全国18〜79歳の男女を対象に行われ、接客サービスへの期待や商品購入における意識について年代別の違いを明らかにしています。
この記事の目次
- 1 調査背景
- 2 調査概要
- 3 主な質問と回答
- 4 詳細結果
- 4.1 儀礼的・自己犠牲的なおもてなしは求めていないものの、シニア層はクレーム時の対応への期待値が高い
- 4.2 若年層ほど、接客における従業員の過度な負担を懸念
- 4.3 サービス料金にはどの年代も消極的な反応だが、最も許容可能性が高いのは若年層
- 4.4 髪色、ピアスは年代問わず概ね抵抗なし。椅子に座ってのレジ打ちに抵抗感を抱く割合は年代によって32.7ポイントもの開きあり
- 4.5 若年層は多様性を受け入れやすい一方、自身の振る舞いにも寛容な傾向
- 4.6 70代は商品の背景にある生産環境や倫理性も重視。国産へのこだわりは意見が二分
- 4.7 CMタレントの炎上・CM表現での炎上だけでは、不買にはつながりにくい
- 5 一般社団法人社会調査支援機構チキラボ コメント
調査背景
近年、多様性尊重の価値観が広がる中で、接客サービスのあり方も変化しています。かつては「おもてなし」が一律の理想とされがちでしたが、現場ではサービス提供者側の感情労働の負荷やカスタマーハラスメントなどによる「働きづらさ」も顕在化しています。さらに、人権意識の高まりから企業の倫理性を重視する購買行動も見られるようになりました。
このような背景から、今回の調査では全国の18歳以上の男女を対象に、接客への期待や店員の見た目・振る舞いに対する許容度、カスハラ的行動の自己認識、商品の倫理性や社会問題が購買行動に与える影響などを広く調査。多様な背景を持つ人々が共生する社会における「労働者の人権を侵害しないサービスの境界線」について、年代差に着目して分析されています。
調査概要
調査の方法:インターネットリサーチ
調査の対象:全国の18~79歳の男女
有効回答数:1,000名
調査実施日:2025年10月17日(金)~2025年10月24日(金)
主な質問と回答
スーパー・コンビニ・小売店等で接客を受ける際に必要だと思う対応
「クレーム対応の際に冷静に対応」「顧客の怒りを受け止めつつ穏やかに返答」といった場を荒立てない振る舞いを求める割合が、60〜70代のシニア層では他の年代より高く、若年層(18~29歳)とはそれぞれ12.1〜12.5ポイント・30.4〜34.5ポイントの差があることが明らかになりました。店員に対して客側のイライラや不安な気持ちに寄り添ってほしいという期待が、シニア層でより強いことがうかがえます。
接客サービスに対する気持ち
シニア層(特に70代)では、様々な接客サービスに対し「お客様との良好な関係を築くため」に必要であるという立場が目立ちました。これは昔ながらの商店街のような「人対人」で気さくに関わってくれる店員像を求める傾向があると考えられます。一方、若年~中年層では「店舗や企業のイメージ向上のため」「職業人としての責任だから」といった、仕事の役割・ルールとして位置づける回答に分散していました。
これに対し若年層(18~29歳)は、「従業員に過度な負担をかけている」ことを理由に接客サービスを「不要」と考える傾向が他の年代より強く、特に「雑談や世間話まで笑顔で応じる」「顧客の怒りを受け止めつつ穏やかに返答する」といった感情面の対応に対して、シニア層との差が顕著であることが示されています。若い世代ほど、店員も一人の生活者であり、過剰な笑顔や我慢を当然視すべきではないという感覚が強いようです。
詳細結果
儀礼的・自己犠牲的なおもてなしは求めていないものの、シニア層はクレーム時の対応への期待値が高い
スーパーやコンビニ、小売店等で接客を受ける際、どのような対応が必要だと思うかを調査したところ、「クレーム対応の際に冷静に対応」「顧客の怒りを受け止めつつ穏やかに返答」といった場を荒立てない振る舞いは年代を問わず約70~90%(※1)が「必要」と捉えていることがわかりました。しかし、この2項目について「必要」と回答した割合を比較すると、60〜70代のシニア層は他の年代よりも高く、若年層(18~29歳)とはそれぞれ12.1〜12.5ポイント・30.4〜34.5ポイントもの開きがあることが判明しています。店員に対し、客側のイライラや不安な気持ちに寄り添ってほしいという期待がシニア層でより強いことがうかがえます。
一方で、「過度に丁寧な敬語」「雑談や世間話まで笑顔で応じること」は賛否が分かれ、「深いお辞儀」や「自身の直接のミスではないのに過度な謝罪や謙遜をする」といった儀礼的・自己犠牲的なおもてなしは約70〜80%(※2)が「不要」と見なしていることが明らかになりました。
※1「絶対に必要」「どちらかといえば必要」の合算
※2「不要だと思う」「どちらかといえば不要」の合算



若年層ほど、接客における従業員の過度な負担を懸念
接客対応の必要性についての理由を尋ねたところ、シニア層(特に70代)では必要と答えた理由に「お客様との良好な関係を築くため」が目立つことが確認されました。これは昔ながらの商店街のように「人対人」で気さくに関わってくれる店員像を今も求める人が多いことを示唆しています。一方、若年〜中年層では「店舗や企業のイメージ向上のため」「職業人としての責任だから」といった、仕事として求められる役割・ルールとして位置づける回答に分散していました。
一方、不要だと回答した理由では、若年層(18~29歳)ほど「従業員に過度な負担をかけているから」を選ぶ割合が多く、特に「雑談や世間話まで笑顔で応じる」「顧客の怒りを受け止めつつ穏やかに返答する」といった感情面の対応に対して、シニア層との差が大きくなっています。若い世代ほど、店員も一人の生活者であり、過剰な笑顔や我慢を当然視すべきではないという感覚が強いことが調査結果からうかがえます。


サービス料金にはどの年代も消極的な反応だが、最も許容可能性が高いのは若年層
スーパーやコンビニ、小売店等で接客サービスを受けるための追加料金について尋ねたところ、全体として「接客のために追加料金までは払いたくない」という意識が根強いことが明らかになりました。特に「笑顔や穏やかな態度での接客」「安心感や信頼感を与えてくれる接客」は、有料サービスというより「それくらいは通常サービスとして当然」という前提で受け止められているようです。
一方で注目すべきは、全項目において「サービス料金・チップは払いたくない」割合が18~29歳で最も低く、追加料金への許容度が高い点です。SNSネイティブで、オンラインで情報を取りやすい世代だからこそ、対面での丁寧な説明や、気持ちに寄り添う対応の「付加価値」を認めている可能性があると分析されています。


髪色、ピアスは年代問わず概ね抵抗なし。椅子に座ってのレジ打ちに抵抗感を抱く割合は年代によって32.7ポイントもの開きあり
店員の外見や接客態度に対する抵抗感を調査したところ、多くの項目で年代が下がるほど「全く抵抗はない」の割合が段階的に高くなっていることがわかりました。例えば「椅子に座ってレジ打ちをする店員」では18~29歳で50.0%が「全く抵抗はない」と回答したのに対し、70代では17.3%と32.7ポイントもの開きがあったことが報告されています。
一方で、「名札に本名ではない名前が入っていたり、そもそも名札がない」「カスタマーハラスメントの注意喚起をするポスター」といった迷惑行為の抑止策は、いずれの年代でも肯定的な回答が約60~80%を占めました。これらは従業員を守る取り組みとして広く受け入れられていることが調査から明らかになっています。
外見の自由については若年層を中心に比較的寛容ですが、「タトゥーを入れている」については別の傾向が見られました。18〜29歳の「全く抵抗はない」が28.7%で最も高い一方、60代・70代では「かなり抵抗がある」が40%前後で最多となるなど、世代間の価値観ギャップが明確に表れていることがわかります。


若年層は多様性を受け入れやすい一方、自身の振る舞いにも寛容な傾向
接客される場面で、これまで店員に対して行ったことがある行動について調査したところ、いずれの行動についても「まったく行なったことがない」が約80〜90%を占めており、少なくとも自己申告ベースでは、日常的にカスハラ的な行為を繰り返す人はごく少数にとどまっていることが明らかになりました。
しかし注目すべきは18〜29歳の若年層で、「少し行なったことがある」「頻繁に行なっている」を合わせた割合が、全項目において年代別で最多となっていた点です。前述の調査では、若年層は店員の見た目や接客に寛容であり、従業員への過度な負担にも敏感な傾向が見られましたが、その一方で、自ら不満を強く表明したり、線引きを越えた振る舞いに出る割合も相対的に高いという矛盾した傾向が調査から浮かび上がっています。
日頃は他者の多様性を受け入れつつ、「ここから先は許せない」というラインを越えたときには感情を強くぶつけやすい世代とも考えられると分析されています。


70代は商品の背景にある生産環境や倫理性も重視。国産へのこだわりは意見が二分
買い物をする際に重視する商品の性質・要素について調査したところ、多くの生活者にとって、価格や商品の機能だけでなく、「自分や家族の安全が脅かされないか」も商品選びで重要な要素であることが判明しました。「健康を害する成分・物質がないか」「アレルギー成分・物質がないか」といった、直接不利益が生じる可能性のある要素は、いずれの年代でも40%以上が重視していることがわかります。
多くの項目においてシニア層の重視度が高くなっていましたが、最も顕著だったのが70代です。「フェアトレード認証があるか」「適正な労働環境(児童労働・強制労働がない、適正な賃金など)をもつ会社の商品かどうか」「戦争・紛争に加担している国や会社の商品かどうか」「自然環境や動物福祉への配慮がなされた商品かどうか」「うなぎなど絶滅のおそれがある食べ物ではないか」では他の年代と10ポイント以上の差が見られました。70代は特に、価格や機能だけでなく、背景にある生産環境や倫理性も含めて商品を選ぶ姿勢が強いことが示されています。
「日本産かどうか」については、若年〜中年層でも重視派とそうでない層がはっきりと分かれており、物価高の中で「絶対に国産にこだわる」というよりも、内容や価格とのバランスで柔軟に判断する人が増えている可能性が考えられると分析されています。




CMタレントの炎上・CM表現での炎上だけでは、不買にはつながりにくい
購入したいと思った商品やサービスに問題となる情報が加わった場合の購入意欲の変化について調査した結果、商品や企業に何らかの問題が見つかった場合でも、「気にはなるが購入はやめないと思う」「そもそも気にしない」といった回答がどの項目でも一定数あり、必ずしも不買には直結していないことが明らかになりました。特に若年層(18~29歳)ではその傾向が強く、「社会的に問題視されているかどうか」よりも、「自分にとってその商品が良いかどうか」を優先している姿勢がうかがえます。
「CMに起用したタレントにスキャンダルが発覚した」「CMの表現が差別的であると問題視された」場合でも、購入を控える人は多数派とは言えず、SNS上では大きく炎上するテーマであっても、生活者全体の購買行動への影響は限定的である可能性が示されました。
ただし、企業としてはネガティブなイメージを助長するリスクは存在します。短期的に大きな影響がなくても、中長期的な顧客との関係性を重視するなら、炎上対策はより重要な取り組みと言えるでしょう。


一般社団法人社会調査支援機構チキラボ コメント
今回の調査から浮かび上がったのは、消費行動・場面で、「人権・倫理をさほど重視しない」傾向にあるのは中高齢層よりも若年層という結果です。
「店員との良好な関係」を希望し、客の感情をケアする接客を高齢者は若年層より求める傾向にある一方で、若年層の方が「店員」の自由な振る舞いにも許容的で、感情的なケアは店員の労働負担になるという配慮も見られます。
この結果について、接客の現場は多様な年齢・ジェンダー・外国ルーツを持つ人々などで担われている現実があり、「丁寧な接客」が当たり前と思っているのは中・高齢層だけで、若年層にとっては「丁寧な接客」がもはや当たり前ではないという接客文化の変化を反映している可能性があると分析されています。あるいは好意的に解釈すれば、人権教育や共生社会に向けた様々な取り組み・啓発が若年層ほど行き届いている結果とみることも可能かもしれません。
しかし、調査全体を見ると、若者の人権意識の高さが要因となって得られた結果とは言い難い側面もあることが指摘されています。例えば、店員に対する理不尽な行為の実行経験率は若年層の方が高く、「店員」と「客」という役割関係を踏み越える、あるいは過剰に「客」の優位性を前提とした振る舞いが見られました。
全体としてはいわゆる「カスハラ」にあたる行為を行ったことのある人は少ないですが、経験者は若年層に偏る傾向にあります。店舗外で店員を待ち伏せしたり、店舗から出てきた店員の後をつけたりといった、ストーキング行為にあたる行為をとってしまう若年層もいることが調査で明らかになりました。「丁寧な接客」は店員の労働負担になるという理解はあっても、店員の人権に対する本質的な理解はともなっていない可能性があると分析されています。
消費行動・場面における若年層の人権や倫理への無頓着さは、年を重ねればある程度解消していく面もあるでしょう。しかし近年、SNSを中心に反ジェンダー、反移民等のキャンペーンが行われ、ヘイトスピーチが横行してしまっている状況もあります。人権・倫理の無頓着さを助長しかねない情報環境に若年層はさらされやすいという特徴もあると指摘されています。
今回の調査で明らかになった消費行動・場面における人権・倫理をさほど重視しない若年層の傾向が、単なる世代の問題なのか、特殊な情報環境との関係、あるいはそれ以外の要因が関係しているのかは、今後の課題として探求していく必要があると結論づけられています。


出典元:株式会社ネオマーケティング プレスリリース












