
本記事では、欧州Amazonの最新トピックをお届けします。今回は、「新配送サービス「FBM Ship+」を開始」「ハンドリングタイム(出荷準備期間)を短縮、販売者に負担」「ドイツ裁判所、Prime会費の値上げを無効と判断」の3つのニュースを紹介します。
この記事の目次
販売者向け新配送サービス「FBM Ship+」を開始
ニュースの概要
Amazonは欧州の主要市場で、販売者自身が発送する形式(FBM:Fulfilled by Merchant)でもPrime並みのスピード配送を実現できる新サービス「FBM Ship+」を正式に導入しました。倉庫機能を持たない中小販売者でも、翌日または翌々日配送を実現できる仕組みとして注目されています。
「自社発送でも最短翌日」を実現する仕組み
FBM Ship+は、Amazonの物流網を利用しない販売者でもスピーディーな配送を実現できるよう設計された配送支援プログラムです。これまで、Primeマークを付けて出荷スピードを保証できるのはFBA(Fulfilled by Amazon)を利用する販売者に限られていました。しかし、FBAには保管料・在庫移動コストなどの制約があるため、中小事業者からは「自社発送でもスピード優遇を受けたい」という声が上がっていました。
新サービスでは、販売者がAmazon提携キャリア(DHL・DPD・GLSなど)の配送ラベルを利用し、営業日翌日以内に出荷すれば、自動的に「早期配送ラベル」が商品ページに表示されます。Amazonはこれを高評価の指標として扱い、販売者の露出度やBuy Box獲得率にも反映させるとしています。
また、一定の発送実績を積んだ販売者にはキャッシュバック特典も用意され、迅速な出荷を奨励するインセンティブ設計が導入されました。配送遅延が発生した場合でも、提携キャリアを利用していれば販売者の責任が軽減される「遅延保証制度」も同時に適用されます。
欧州5か国で先行展開 中小事業者の参入を促す
FBM Ship+は現在、ドイツ・フランス・イタリア・スペイン・英国の5市場でテスト展開されています。Amazonによると、対象エリアは今後さらに拡大予定で、2026年にはポーランドやオランダなど北中欧地域への導入も検討されています。また、欧州の成果を踏まえ、米国・日本でも同様の仕組みが順次導入される見込みです。
背景には、配送網をAmazon倉庫(FBA)だけに依存しない販売者支援の拡充があります。コロナ禍以降、物流コストの上昇や在庫リスクの増大で、FBAを敬遠する事業者が増えており、Ship+はその受け皿として期待されています。Amazon側も、FBA倉庫の逼迫を緩和できるため、「販売者・Amazon双方にメリットのある構造」としています。
「柔軟な配送選択」を武器に、欧州EC競争の主導権を握る狙い
欧州のEC市場では、翌日配送が消費者の標準的な期待値になりつつあります。TemuやSHEINといった中国系企業が価格で攻勢をかける中、Amazonは「スピード」と「信頼性」で優位を維持する戦略を強化しています。FBM Ship+は、Amazon自身の物流網を拡張せずに配送スピードを高めるための柔軟な施策といえます。
Amazonはリリース声明で次のように述べています。
「私たちは、すべての販売パートナーがPrime品質の配送体験を提供できる世界を目指しています。自社倉庫から出荷しても、顧客は最短翌日に商品を受け取ることができるのです。」
販売者にとっては、倉庫コストを抑えながらも顧客満足度を維持できる新たな選択肢が生まれた形です。欧州のEC競争がスピードと効率の両立を求める中で、Amazonが再び“配送スタンダード”を塗り替える可能性が高まっています。
参照:Amazon launches FBM Ship+ in Europe
Amazon、ハンドリングタイムを1日に短縮―スピード競争の裏で販売者に波紋広がる
ニュースの概要
Amazonは2025年9月、欧州で販売者が設定できる「出荷準備期間(ハンドリングタイム)」のデフォルト値を、従来の「2日」から「1日」へと短縮しました。一見すると、消費者にとっては配送スピードが改善される好ましい変更に見えますが、現場の販売者からは「突然の仕様変更で混乱している」との声が相次いでいます。通知なしで一部アカウントに自動適用されたケースもあり、Amazonの“スピード最優先方針”に対する懸念が再び浮き彫りとなりました。
「2日→1日」へ自動変更 出荷期限の前倒しでオペレーションに影響
Amazonのハンドリングタイムとは、注文を受けてから商品を発送するまでの準備期間を指します。従来は標準で「2営業日」と設定されていましたが、今回の仕様変更により、新規出品やSKU更新時のデフォルト値が「1営業日」に変更されました。また、既存の出品に対しても自動的に適用された事例が確認されています。
この変更によって、販売者はこれまでより1日早く発送処理を行う必要があり、在庫管理や梱包体制に大きな影響が出ています。特に、倉庫を外部に委託している販売者や、商品カスタマイズを行うショップでは、対応が間に合わずキャンセル率が上昇するケースも見られました。一部では「Amazonが出荷条件を一方的に更新した」として、販売者フォーラム上で議論が続いています。Amazonは「顧客体験を改善するための措置」と説明していますが、事前告知の不十分さが問題視されており、情報共有体制の見直しを求める声が強まっています。
一部アカウントでは“即日発送”へ移行 競争激化の裏で中小販売者に負担
さらに一部地域の販売者には、ハンドリングタイムを「1日」から「0日(即日出荷)」に切り替える案内が届きました。この新ルールでは、午前11時までに入った注文を当日中に発送する必要があり、実質的に「当日処理」が義務化されます。こうしたスピードアップ施策は、配送競争が激化する欧州市場では有効ですが、人員・体制に余裕のない販売者にとっては負担が大きくなります。
ドイツのEC専門誌「OnlineHändlerNews」は、Amazonがこの施策を「テスト導入」と説明したと報じていますが、販売者の中には自動的に設定変更されたと訴えるケースもありました。「前触れもなく当日出荷設定に変わり、在庫調整が追いつかない」「発送期限違反でパフォーマンス指標が下がった」といった投稿がSNSでも拡散しています。
Amazonは販売者向けサポートページで「設定は手動で戻せる」と案内していますが、SKU単位での変更が必要なため、商品点数が多い事業者ほど作業負担が増大しています。このような“実質強制”ともいえるスピード改善は、Prime配送や新サービス「FBM Ship+」と整合させる狙いがあるとみられます。
顧客満足度と販売者体験、揺れるバランス
配送スピードの向上は、消費者にとって大きなメリットです。
欧州では、翌日配送がもはや「当たり前」の水準になっており、遅延が発生すると即座に評価に影響します。Amazonとしても、SHEINやTemuなど新興勢力の台頭を前に、スピードで優位を保ちたいという思惑があります。
ただし、販売者にとっての負担は無視できません。
「少人数運営のショップでは、夜間作業や休日出荷が常態化してしまう」といった声もあり、Amazonが“顧客満足のために販売者を犠牲にしている”との批判も広がっています。一方で、迅速な発送対応によって検索順位やBuy Box獲得率が上がるメリットもあるため、販売者はリスクとリターンの狭間で対応を迫られています。
Amazonのスピード戦略、どこまで続くのか
今回の変更は、Amazonが欧州全体で進める「配送時間の標準化」の一環とされています。
新サービス「FBM Ship+」によって配送スピードを引き上げる一方で、個別販売者の出荷体制にも同じ水準を求める動きが強まっています。Amazonにとって、ハンドリングタイム短縮は単なる設定変更ではなく、「全販売者をPrime品質に近づける」ための布石といえるでしょう。
とはいえ、スピードの追求が過ぎれば、販売者離れを招くリスクもあります。今後Amazonがどのように販売者との対話を進め、透明性の高い運用ルールを整備できるかが問われることになりそうです。
参照:Amazon removes default two-day handling time
ドイツ裁判所、AmazonのPrime会費値上げを無効と判断
ニュースの概要
ドイツの裁判所は2025年秋、Amazonが実施したPrime会費の一方的値上げについて、「利用者の明確な同意なしに契約条件を変更したのは違法」と判断しました。この判決により、Amazonは欧州最大級の市場で法的課題を抱えることになり、サブスクリプションモデルの在り方そのものに波紋を広げています。
背景:年会費を20ユーロ値上げ 利用規約の“自動改定条項”が焦点に
問題となったのは、Amazonが2022年に実施したドイツ国内でのPrime会費の引き上げです。年会費は69ユーロから89.50ユーロへと約30%値上げされ、Amazonは当時、インフレや配送コストの上昇を理由として説明していました。しかし、値上げ手続きにあたり利用者から個別の同意を得ることなく、利用規約の「価格改定に関する包括条項」に基づいて自動適用したことが問題視されました。
ドイツの消費者保護当局(Verbraucherzentrale NRW)は、「契約者の意思確認なしに料金を変更できる規約は無効」として、2023年に訴訟を提起。デュッセルドルフ地方裁判所はこれを支持し、「価格調整条項は透明性を欠き、消費者に不利益をもたらす」と指摘しました。Amazonは控訴しましたが、2025年に上級審でも同様の判断が下され、最終的に消費者側が勝訴しています。
判決のポイント:透明性と「同意」の扱いを厳格に定義
裁判所は、利用者がAmazonの値上げに“暗黙的に同意した”というAmazon側の主張を退けました。利用者が通知を受け取っても、明確な意思表示を伴わない限り同意とみなすことはできないと判断したためです。また、Amazonの規約文言が抽象的で、「どのような理由や期間で値上げされるのか明記されていない」として、透明性の欠如も違法性の根拠とされました。
判決文では次のように記されています。
「消費者契約は明確な同意を前提とすべきであり、一方的な条項による価格変更は、企業の都合による契約改変にほかならない。」
この判断は、単にAmazonの会費にとどまらず、サブスクリプション型サービス全般に影響を及ぼす可能性があります。SpotifyやNetflixなど他のプラットフォームでも、同様の「自動改定条項」が存在するため、今後は明示的な同意手続きを求められる動きが強まりそうです。
返金請求の動きも ドイツでクラスアクション準備進む
判決を受け、ドイツの消費者団体はPrime会員に対する返金請求を準備しています。
法的手続きが進めば、2022年の値上げ以降に支払われた差額分が返還対象となる可能性があります。Prime会員はドイツ国内で約1,500万人にのぼるとされ、返金総額は数億ユーロ規模に達する見込みです。
Amazon側は、「判決内容を精査し、上告を検討する」とコメントしていますが、欧州におけるブランドイメージへの影響は避けられません。特にドイツ市場は、Amazonにとって英国に次ぐ重要拠点であり、今回の判決は欧州ビジネス全体の料金設定モデルを見直す契機になるとみられます。
欧州の“サブスク透明化”の流れが加速
今回の件は、EUが進める消費者保護・透明性強化の潮流とも合致しています。近年、EUでは「ダークパターン(意図的に誤解を招くUI)」や「自動更新の不明確化」などを制限する法改正が進んでおり、サブスク型ビジネスの説明責任がより厳格化されています。Amazonのような国際的企業でも、「利用規約による包括同意」ではもはや通用しない時代に入ったといえます。
欧州委員会のデジタル部門は声明で、
「ユーザーが理解しないまま承諾してしまう契約手続きは、信頼を損なうだけでなく市場競争を歪める」と指摘しており、今後の法執行でも透明性が最優先されるとみられます。
サブスク時代の「同意」と「信頼」をめぐる分岐点
今回のドイツ判決は、サブスクリプションモデルが直面する課題を象徴しています。サービス提供者は継続的なコスト変動に対応するため価格改定が避けられませんが、消費者保護の観点からは、利用者がその変更を正確に理解し、意思表示できる仕組みが求められます。
Amazonは、利便性と価格柔軟性を両立させながら、透明性の高いルール設計を迫られています。欧州市場では、こうした「信頼ベースの契約」が競争力を左右する時代が到来しており、Prime値上げをめぐる裁判は、その転換点を象徴する事例といえるでしょう。
参照:German court strikes down Amazon’s unilateral Prime price rise
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