宝酒造オンラインショップにおけるファン作りの道のり
宝酒造株式会社 商品第三部 第一課 専任課長 中村 貴子(写真左)
同第一課 黒澤 大吾(写真右)

コロナ禍を通して、ECの運用を新しく始められた方や、ECの競合が増えたことにより自社のブランディングに悩まれている方、まさに今オンラインショップを構築真っ只中の方など、さまざまな悩みを抱える事業者様が多くいらっしゃると思います。宝酒造株式会社は、オンラインショップを始めて、今年で22年目を迎えました。

今回は、構築段階の施策を始め、自社商品を長く愛していただくためのファン作りや持続可能な運用方法について、実例を交えてお話しします。当社の取り組みが、少しでも事業者様のお役に立てれば幸いです。

■コラム執筆者

中村 貴子/ECサイト担当歴22年/ECカート5種を経験
宝酒造株式会社 商品第三部 第一課 専任課長
店頭では購入できない、体験できないことを通販を通じていかにファンになっていただくかを模索中。

宝酒造オンラインショップ
https://shop.takara.co.jp/

カート(システム)リプレイスや社内体制見直しなど、コロナ禍直前に取った施策

私自身、もともと20年前からECのシステム担当をしていたのですが、3年前から現在の商品第三部で、ECおよび商品運用・マーケティングを担当しています。まずは、宝酒造ECの長い歴史の中でも、コロナ禍直前に行った3つの施策をご紹介します。

1. EC店舗を自社EC1本に絞ったこと

当時は、楽天市場・Yahoo!ショッピング・自社ECの3店舗で幅広く商品を販売していました。ただ、3店舗の管理は運用リソースや費用対効果が合わないところがありました。そこで、楽天市場とYahoo!ショッピングを退店し、自社ECのみに絞ります。

2. 運用に携わる担当をスリム化したこと

従来、ECの運用は複数部署・協力会社に渡って管理していました。分業で負担を分散できることはよいのですが、複数の関係者が関わると、管理の仕方も複雑でかえってお互いの意思疎通に時間を要し非効率でもあります。業務フローを簡略化するため、管理・協力会社など、運用関係者をスリム化しました。

3. カートをリプレイスしたこと

店舗数や運用体制を見直すタイミングで、ECカートをMakeShopに変更しました。複数のカートをフラットな目線で比較し、価格、熨斗の名入れなど、商品特性やお客様に応じた細かな気配りに対応できる点でカートを選びました。

ECだからできる、ファン作り戦略

運用の土台の次は、ブランドの強みを活かしたファン作りに臨んでいきたいと考えております。通販専用の高付加価値商品の販売を中心に、EC独自のブランディング施策とは何か。当時、グループ企業の大平印刷株式会社の担当者からの紹介で名前が上がったのが、京都のWEB制作会社の株式会社ブリッジコーポレーションさんで、パートナーとして幅広く相談に乗っていただきました。その中で取った施策は、次の2つです。

1. 商品点数の厳選

まず、当初商品点数を従来の500点近くから150点ほどに絞りました。事業者様の中には、商品を絞ると売り上げが減ると懸念して踏み出せない方もおられると思います。当社は酒類(焼酎・チューハイ・日本酒・洋酒など)や調味料といった幅広い商品カテゴリーを展開しておりますので、多数のブランドを持ち、商品ごとの容量・容器もさまざまです。それら多くの種類を扱うためには、多くのリソースが必要でした。当社は敢えて、ECで取り扱う商品を高付加価値のある商品に厳選し、商品数を絞りました。結果として、運用のリソースに余裕ができ、確保した時間で、新たな商品企画・アンケート調査やキャンペーンなどに着手することができたのです。

2. EC限定のプレミア感と高級路線でファン化につなげる

着目したのは、ECだから提供できて体験できる特別感。施策の中でも代表的なものを、2つご紹介します。

1つめは、本格焼酎の代表商品の芋100%にこだわった“全量芋焼酎「一刻者」の共同「甕オーナー」”です。2021年に発売20周年を迎えることを記念して、“全量芋焼酎「一刻者」<宮崎朝掘芋> 石蔵甕貯蔵「甕オーナー」”を、EC限定で募集しました。

全量芋焼酎「一刻者」の共同「甕オーナー」募集ページ
全量芋焼酎「一刻者」の共同「甕オーナー」募集ページ

この商品は、原料である芋の鮮度に極限までこだわり、貯蔵に最適な「石蔵」において熟成がすすむ「甕」で1年間貯蔵した、特別な逸品です。オーナー様には、石蔵甕貯蔵開始から約90日・180日・1年後の「一刻者」を3回に渡ってお届けし、時間の経過と共に洗練されていく味わいの変化を体験していただきました。200口の募集に対し、予約開始18日で完売しました。今年2022年は、さらにオーナー様名入りラベルなど「甕オーナー」だけが体験できる特典をご用意しています。

2つめは、2022年10 月より受注を開始した現代の技術と伝統の技が融合した「松竹梅白壁蔵」の「蔵出直送」チルド便氷点下貯蔵酒3回定期便です。この清酒は、日本古来の伝統製法「生酛造り」でつくられ、四季を通じて-5度前後の氷点下の「氷室蔵」で貯蔵し、原料米の異なる「全量五百万石」「全量山田錦」と、華やかな香味が際立つ貯蔵酒をブレンドした「Blended」を、3回に分けてお届けします。こちらもEC限定予約で、高価格ではありますが、ここだけで味わえる特別な商品であり、壜(瓶)詰め後すぐの商品が数日以内にチルド便で工場から直送される特別感をご提供したいと考えております。

業務を属人化させないための持続可能な運用工夫

EC運用担当者にとって、管理の属人化や、業務範囲が幅広いことが、大きな悩みの1つだと思います。当社の場合、カートリプレイス後、全ての運用の指示は私が担当していたのですが、今から1年前に、当時新入社員の黒澤が新たな戦力として加わりました。

彼に実務を引き継ぐに際し、徹底して行ったのは運用マニュアルの作成です。毎日のルーティン作業を始め、受注処理の手順やカートの操作方法まで、事細かにアウトプットしました。リプレイスのタイミングで関係者を絞り、運用体制を一本化していたことも功を奏し、スムーズに引き継ぐことができました。現在は彼が実務を主に担当し、受注処理から運用業務まで一気通貫して担当しています。

また、日々の心がけとして、出社後すぐに受注状況を確認するようにしています。16時までに受注処理を完了できればよいことではありますが、受注内容の確認や受注時のエラー、お客様からの問い合わせなど、不測の事態に備えて必ずチェックします。小さな工夫かもしれませんが、これらの積み重ねが、結果的に無理のない持続可能な運用につながっているのです。時間に余裕が生まれたことで、LINE広告やメールマガジンなどの販促活動、新商品開発のための情報分析など、付加価値を生み出すための有益な活動ができてきています。

業務を属人化させないための持続可能な運用工夫

業務を属人化させないための持続可能な運用工夫

さらなるファン化を目指して、今後取り組みたいこと

今後は、ECを通してお客様の声をキャッチアップし、商品企画やリピーター施策に活かしていきたいと思っています。MakeShopの機能でアンケートフォームを自由に作ることができるので、フォームのURLをメールマガジンに貼付して、お客様の感想や要望を収集したいです。

また、当社のECで扱う高付加価値商品は、作り手の想いをストーリーで感じられるものが多く、それがリピーターやファン化につながっていると思います。最高の技術によって作られた品質とこだわりの味を、一人でも多くの方に届けたいですね。そして、宝酒造のECだけではなく、宝酒造そのもののファンになっていただけることを目指します。

最後に・・・

ここまで宝酒造のECサイト構築時に取った施策(カートリプレイス・運用体制見直し)と、ECの強みを活かしたファン作り、持続可能な運用のための工夫、そしてこれから私たちがチャレンジしたいことをお話しいたしました。お客様に自社と自社商品を愛してもらえるために、ECでできることは何か。当社の取り組みが、EC事業者のみなさまのお悩み解決の一助になりましたら幸いです。

宝酒造株式会社 商品第三部 第一課 専任課長 中村 貴子  同第一課 黒澤 大吾

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