
経済産業省は、2021年7月30日に「令和 2 年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)」を実施し、日本の電子商取引市場の実態などについて調査し取りまとめたことを発表しました。その内容をもとに、物販系BtoC ECにおける市場規模をカテゴリーごとに解説し、企業の動向をまとめましたので、参考にしていただけたらと思います。
この記事の目次
2020年における物販系分野のBtoC-ECの市場規模

物販系分野のBtoC-EC市場規模は、2020年は12兆2,333億円と2019年よりも2兆円以上増加しました。新型コロナウイルスの影響による巣ごもり消費の影響が大きな理由です。通常のペースであれば、市場規模は最大でも11兆円だと推測されていたため、少なくとも巣ごもり消費により1.2兆円は底上げされた計算になります。EC化率も2019年の6.76%に対し、2020年は8.08%と大きく増えています。


物販系分野の商品カテゴリーごとにおけるEC市場規模及びEC化率は上記の通りです。市場規模は大きい順に、「生活家電・AV 機器・PC・周辺機器等」、「衣類・服装雑貨等」、「食品、飲料、酒類」、「生活雑貨、家具、インテリア」、「書籍、映像・音楽ソフト」「化粧品、医薬品」「自転車、自動二輪車、パーツ等」となっています。そのうちの上位6つのカテゴリーについて、詳しく見ていきたいと思います。
生活家電、AV 機器、PC・周辺機器など

「生活家電、AV 機器、PC・周辺機器等」分野におけるBtoC-ECの市場規模は 2兆3,489億円となり、対前年比で 28.79%と他の商品カテゴリーと比べて最も上昇しました。EC化率も37.45%で、「書籍、映像・音楽ソフト」に続いて、高いカテゴリーとなっています。
要因としては、自宅で過ごす時間が多くなったことで、AV機器の買い替えやゲーム機の購入が増えたことや、在宅勤務によるパソコンの購入増が考えられます。他にも新型コロナウイルス感染症拡大対策による需要拡大として、空気清浄機の売上が伸びたという統計データもあります。
生活家電、AV 機器、PCといった製品は、食品やアパレルと違って、製品の仕様が明確です。そのため、インターネットやSNSなどで検索して、製品の内容や特徴を理解できるので、ECで購入しやすいといった背景があります。そのような理由から新型コロナウイルス感染症拡大下において、ECでの販売が最も伸長したのではないでしょうか。
各企業の動向
大手家電量販店の多くは実店舗をショールーミングの役割として活用しています。例えば、店内にWi-Fi 環境を整備し、ECでの購入を促しているのです。三密を回避するために都心の店舗よりも都市近郊部の家電量販店が利用される傾向が強かったといわれています。
購入後に短時間で配送を実現するために、多くの大手家電量販店が配送網と物流センターの整備に力を入れているのもECの市場規模拡大に寄与していると考えられるでしょう。
衣類、服装雑貨など

「衣類、服装雑貨」分野におけるBtoC-ECの市場規模は2兆2,203億円となり、対前年比で16.25%上昇、EC化率は19.44%でした。2019年においては物販系分野の中で市場規模の額が最も大きかったですが、2020年は「生活家電、AV 機器、PC・周辺機器等」に次ぐ2位という結果になりました。
「衣類、服装雑貨」分野は、ステイホームによる衣類、服飾雑貨等の購入機会の減少や、在宅勤務の浸透などにより、多くのアパレル企業が販売不振に陥り、在庫処分に苦しんだことが決算発表からわかります。総務省統計局家計調査によれば、2020年の1世帯あたりの「衣類、服装雑貨」の年間平均支出は116,008円と、前年比でマイナス18.1%と大幅減でした。そのような状況にも関わらず、BtoC-ECの市場規模が拡大したのは、販売の主戦場をECに移行したからでしょう。
各企業の動向
ECの場合は掲載商品のSKU数に制約はありません。そのため、アウター、シャツ、パンツ、スカートといったカテゴリー毎に商品を整理して視認性を高め、売れ筋、価格比較、カラーバリエーション、在庫の有無を即時に把握できるようユーザビリティを意識したサイトが多いです。また、できるだけ質感を視覚的に捉えられるように、拡大表示といった工夫も見られます。
新型コロナウイルス感染症拡大の状況下において消費者が足を運ぶ機会が減少した結果、実店舗の役割に変化が生じています。例えば、スマートフォンの専用アプリを使用したオンライン接客が挙げられます。オンライン接客では、スタッフが実店舗と同じようにリモートで消費者に接客することができるため、消費者にとって便利である他、接客技術を有する販売員に活躍の場を与えることができます。
また、新型コロナウイルス感染症拡大下におけるECへの移行を前提に、ショールーミングに特化した実店舗が増加しています。一方、商品の質感やサイズ感が購入の決め手となる衣類は、実店舗で商品を確認したいという消費者ニーズもあります。そこでショールーミングの逆であるウェブルーミング用の対応として、実店舗の在庫状況をインターネット上で公開するといったサービスも見られます。このように、アパレル業界では実店舗の役割が変化してきているのです。
食品、飲料、酒類

「食品、飲料、酒類」分野におけるBtoC-ECの市場規模は2兆2,086億円となり、対前年比で21.13%と上昇しました。ステイホームにより、外食を控える家庭での食事回数が増加したことが一番の理由です。特にネットスーパーや、ミールキットに代表されるサブスクリプション型の宅配サービスは大きく売上を伸ばしました。また、運動不足からくる生活習慣 病予防、ダイエット、免疫力向上といったニーズから、健康食品におけるECの売上も拡大しています。
一方、実店舗のスーパーの売上はどうなったのでしょうか。実は統計データを見る限り、大きく落ち込んでいるわけではないのです。2020年の飲食料品小売業の売上は45兆1,440 億円と前年比マイナス0.6%に留まっています。新型コロナウイルス感染症拡大下においても消費者の多くが依然として実店舗を重要視していることがわかるのではないでしょうか。EC化率が3.31%と他のカテゴリー比べると低い理由も頷けるかと思います。
各企業の動向
ネットスーパーの配送方法は大きく2種類に分かれます。1つは、実店舗の陳列品または在庫の中からピッキングを行い消費者の自宅まで配送する「店舗出荷型」です。そしてもう1つは、在庫を集約させた配送センターから消費者へ届ける「センター出荷型」になります。店舗出荷型は通常の店舗営業に加えてネットからの注文に対してピッキング業務を行う必要があるため、作業負荷が高いと言われています。また、店舗出荷型は自社店舗から配送することになり、配送コスト負担増に加え、配送エリアも限定的にならざるを得ません。
このようなことから、小売事業者が営むネットスーパーは「店舗出荷型」を基本とするも、経営規模が大きな小売事業者には「店舗出荷型」と「センター出荷型」を併用した配送形態を採用するケースも見られ、コストバランスに配慮した取り組みを実践しています。
食料品は小売のための仕入原価が比較的高いともいわれており、ネットスーパー事業を進めるにあたっては、トータルの運営コスト負担の解決が重要となっています。そのため、業務効率化や適正な在庫管理、物流の効率化が必要といわれています。需要の予測が容易ではない食品も多く、課題解決は容易ではありません。店舗受け取りによって物流コストを削減するなど、地道な取り組みをしている企業が多いです。
生活雑貨、家具、インテリア

2020年のBtoC-ECの市場規模は2兆1,322億円となり、対前年比で22.35%と大幅に上昇しました。EC化率は26.03%となっています。内訳は、約7割が家事雑貨、家事用消耗品、残りの約3割が一般家具、インテリア、寝具類です。
普段使いの日用品や雑貨に関しては、新型コロナウイルスの影響で、外出を控える人が増えたため、ネットでの購入が大きく増加しています。家具、インテリアは、在宅勤務の定着化によって机や椅子の購入が増えたことが理由の一つでしょう。また、家庭で過ごす時間が長くなったことから、模様替えや新しい家具の購入が行われたと考えられます。実際に家具販売の大手企業の決算発表資料からも、ECの販売が好調であったことがわかります。
各企業の動向
普段使いの日用品や雑貨は個々の商品単価が安価であるため、事業者としては送料との兼ね合いから単価の低い日用品のまとめ買いや、他の商品の購入に伴う「ついで買い」を促すような工夫をされています。また、購入頻度の高い消耗品についてはサブスクリプションを導入している企業も多いです。
家具、インテリアに関しては、拡張現実(AR)の技術を使い、家具やインテリア商品を自宅の部屋に置いたイメージをスマートフォンで確認できる機能を提供する事業者が増えています。購入前に実店舗で実物を確認したいといった需要がある家具やインテリア商品について、部屋の広さや雰囲気に適しているかを把握しやすくなり、ECでの購入の抵抗を薄める一助となっているでしょう。
書籍、映像・音楽ソフト(オンラインコンテンツを除く)

2020年のBtoC-ECの市場規模は1兆6,238億円という推計結果でした。対前年比で24.77%と大きく上昇し、EC化率は42.97%となっています。
紙の出版市場規模は減少傾向に対し、書籍BtoC-EC市場は緩やかな拡大してきましたが、新型コロナウイルス感染症拡大下のステイホームによって、2020年の市場規模は大きく拡大しました。特に『鬼滅の刃』のヒットが市場を押し上げましたが、他にも学校の一斉休校などにより、学習参考書、児童書が大きく伸びています。
映像・音楽ソフト(オンラインコンテンツを除く)についても、2020年のBtoC-ECの市場規模は拡大しています。
各企業の動向
紙の書籍は、電子出版(電子書籍、電子雑誌)に市場のシェアを奪われ続けていますが、2020年は下げ止まり感がありました。公益社団法人全国出版協会によれば、2020年の紙の書籍の市場規模は1兆2,237億円で、対前年比でマイナス1.0%だそうです。また外出先か、自宅かなど、書籍を読む場所やジャンルによって、紙の書籍と電子書籍を使い分けているといったこともあり、そのニーズに合わせて対応することが求められています。
映像・音楽ソフトに関しても、一般社団法人日本映像ソフト協会の発表によれば、同協会に加盟するソフトメーカーの2020年のビデオソフト(DVD、ブルーレイ)の出荷実績は前年割れとなっているそうです。近年それぞれのオンラインコンテンツである動画配信、音楽配信が伸びていることが影響しています。
化粧品、医薬品

「化粧品、医薬品」分野におけるBtoC-ECの市場規模は7,787億円となり、対前年比で 17.79%上昇する結果となり、EC化率は6.72%でした。総務省統計局家計調査によれば、新型コロナウイルス感染症拡大下において2020年の1世帯あたりの「化粧品、医薬品」の年間平均支出は117,768円と、前年比で3.9%増です。
化粧品は、ファンデーションや口紅といった化粧品類の支出が減少しましたが、浴用・洗顔石けんが増加しました。マスク着用による肌荒れのため、スキンケア商品へのニーズが高まっていると思われます。化粧品は実際に試してみないとわからないため、ドラッグストアなどの店頭販売が充実しており、実店舗で購入するケースも多いです。そのため、他のカテゴリーよりもEC化率が低いと思われます。
医薬品に関しては、金額的な大きな変化は見られませんでしたが、マスクや消毒液といった衛生商品の需要が大きかったです。
各企業の動向
2020年は新型コロナウイルス感染症拡大の影響で実店舗での化粧品販売が不振でした。特に百貨店での化粧品販売は、ステイホームに加えて、訪日外国人観光客の激減という二重苦によって大きな打撃を受けます。
一方で、BtoC-EC市場規模は前年比で17.79%伸長している通り、新型コロナウイルス感 染症拡大下において他のカテゴリー同様にECでの支出が増加した一年でした。新型コロナウイルス感染症の拡大で化粧品メーカー各社がECでの販売に大きく力を注いだ結果といえるでしょう。一部の化粧品メーカーは中国で定着化しているライブコマースの形式を日本でも新たに取り入れ、消費者の需要を捉えようとしています。
アパレルでみられるオンライン接客について、化粧品でも大手化粧品メーカーを中心に、専門のスタッフによるカウンセリングなど同様の取り組みを積極的に推進する動きも見られます。LINEやチャットで消費者とコミュニケーションをとる企業が増えているのです。
またARの技術を活用し、サイト上で自身の写真や動画を用いてバーチャルに化粧品を試すことで、購入前の化粧品のシミュレーションを可能にし、購入の後押しをする企業も見られます。
医薬品のネット販売に関しては、薬事法の改正によってインターネット上でほとんどの一般用医薬品の販売が可能になりました。これにより市場規模はまだ小さいものの、医薬品 のECでの売上が右肩上がりで伸びています。また、2020年度には厚生労働省が医薬品医療機器法を改正し、オンライン指導を介した「ネット処方薬」が解禁となりました。これにより一般用医薬品の消費者の心理的ハードルが下がることで、さらなる市場拡大が進む可能性があります。
まとめ:企業努力で逆境をはねのけた小売業
ECに関しては上記の結果となりましたが、小売業全体の商業販売額はどうでしょうか。2019年の総額が145兆2,080億円に対し、2020年は146兆4,570億円となり、0.9%微増しています。新型コロナウイルス感染症拡大の状況下にも関わらず、小売業全体の商業販売額は減少していないのです。

カテゴリー別でみると、飲食料品と織物・衣類・身の回り品は、マイナス0.6%とマイナス19.2%と減少していますが、医薬品・化粧品は29.3%、機械器具に関しては44.8%も増加しています。小売業全体の商業販売額はほとんど変化していませんが、内訳が大きく変化していることがわかるかと思います。
個人の商品動向の面からもみても、2020年は153.7万円と前年比よりも0.6万円と微増しています。カテゴリー別でみると、衣類・服飾雑貨はマイナス18.1%に対し、それ以外は増加しているのです。

新型コロナウイルスにより小売業の業績不振が心配される中、全体でみると売上は前年比よりも増えています。
2020年における年間での実質GDP成長率はマイナス4.8%であり、リーマンショックがあった 2009 年以来の大きな落ち込みです。そのような逆境にも関わらず、小売業においてこのような結果となったのは、ひとえに企業努力の賜物ではないでしょうか。
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