
多くの企業から「人手が足りていないが、受け持っている仕事の量が多く手が回らない」という声が上がっています。この人手不足は業績の発展を妨げる要因となっており、未だ日本全体の社会的問題として認識されています。特に2025年には「団塊の世代」の大半が75歳以上になり、「団塊ジュニア」の多くも50歳を超えるため、さらなる労働力の不足が懸念されています。このような状況の中、業務の効率化と生産性向上は企業運営において極めて重要な要素となり、DXを含む省人化への迅速な対応が求められています。
帝国データバンクは、企業の「人手不足」の現状に関する調査・分析を実施しました。

この記事の目次
調査結果の概要
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正社員の不足を感じている企業の割合は51.7%で、前回調査と比較しても依然5割を超えています。業種別で見ると、ITエンジニアの不足が顕著な「情報サービス」業界が70.2%で最も高く、技術者の不足や高齢化が指摘されている「メンテナンス・警備・検査」(69.7%)も高い水準を維持しています。
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非正社員に関しては、人手不足を感じる企業の割合は29.5%で、前年同月比で1.4ポイントの減少が見られました。「飲食店」や「旅館・ホテル」においては、人手不足感が緩和されつつあります。
■調査期間は2024年10月18日から10月31日まで。調査対象は全国の27,008社で、有効回答数は11,133社(回答率41.2%)です。
なお、雇用過不足に関する調査は2006年5月以来毎月実施されており、今回は2024年10月結果に基づいています。
正社員の人手不足は51.7%、非正社員は29.5%でやや緩和傾向
2024年10月時点で、全業種において正社員の人手不足を感じる企業が51.7%に達しました。前年同月に比べての減少は2カ月連続ですが、その幅は小さく、依然として5割を超える状況が続いています。

非正社員では、29.5%と結果が出ました。前年同月から1.4ポイント下がり、13カ月連続して前月を下回る結果となり、非正社員の人手不足感が緩和されつつあることが伺えます。
業種別の正社員不足状況:ITエンジニアがトップ
正社員の人手不足を業種ごとに分析したところ、「情報サービス」が70.2%でトップとなります。前年同月から2.7ポイントの減少が見られましたが、業種として唯一7割を超える結果となり、開発案件の増加と人手不足の深刻化が見受けられます。
次に「メンテナンス・警備・検査」が69.7%、続くのは「建設」(69.6%)や「運輸・倉庫」(65.8%)、デジタル技術へのリスキリングが求められている「金融」(67.1%)などが注視されています。これら5つの業種は全て6割の水準を上回っており、人手不足の実態が浮き彫りとなっています。

業種別の非正社員不足状況:飲食店が最も高い
非正社員の人手不足状況を分析すると、「飲食店」が64.3%という結果に。続いて「旅館・ホテル」が60.9%と、こちらも高い水準で推移しています。
また、「人材派遣・紹介」(55.2%)や「メンテナンス・警備・検査」(54.1%)も5割以上の人手不足を示しており、「各種商品小売」(48.9%)も依然として高水準にあります。しかし、上位10業種の9業種は前年同月と比較して低下する結果が見受けられます。
飲食業界や旅館業界はアフターコロナの影響から人手不足が続いており、特に非正社員部門での厳しさが長引いています。旅館業界では2022年12月から正社員と非正社員それぞれで8割を超える人手不足が深刻に影響していますが、2024年に入ってからは穏やかな改善の兆しが見れます。

今後の展望:人手不足による影響と解決策
正社員での人手不足の割合は51.7%、非正社員は29.5%との結果が出ています。正社員の人手不足は依然として5割を超える高水準が続いており、非正社員はやや緩やかな改善の方向に進んでいます。

人手不足は企業に与える影響が年々深刻化しており、2024年の「人手不足による倒産」は287件に達し、2023年の260件を上回る結果となりました。特に建設や物流業界の厳しい状況が際立っており、10人未満の従業員を抱える企業が多いことが特徴です。今後も賃上げが主に大企業で進む一方、小規模事業者は人手の確保や定着に苦しむことが予想されます。
政府は2030年代の半ばまでに全国平均最低賃金を1500円に引き上げる意向を示していますが、人件費の増加が企業にもたらす影響は免れません。この影響が人手不足の加速要因となる懸念がされており、今後の状況において重要な視点となるでしょう。
また、「103万円の壁」と呼ばれる制度の見直しにより、労働時間の増加が期待されています。この制度が見直されれば非正社員の労働環境が改善され、人手不足の解消につながる可能性が考えられています。ただし、最低賃金の上昇に伴って控除限度の見直しが行われる可能性もあり、期待した効果が薄れるかもしれません。したがって、控除限度が賃金の上昇を上回る調整が望ましいと言えるでしょう。

出典元:帝国データバンク