
持丸さん(写真左)・ 大藤さん(写真右)
株式会社土屋鞄製造所(以下、土屋鞄)は、ECサイトのカートシステムをShopifyに変えるタイミングで、それまで外部に委託していたWeb制作を内製化したそうです。内製化に至った理由やその過程について、同社のWeb制作を行っているクリエイティブセンターデザイン3課の大藤さんと持丸さんに話を伺いました。
この記事の目次
ECを利用する顧客の増加に伴い、Web制作を徐々に内製化
――ECサイトをはじめ、Web制作は外部の制作会社に依頼していたとのことですが、内製化されたきっかけや、どのようにして行ったのかお聞かせいただけないでしょうか。
大藤さん:もともとカタログなどの紙媒体は社内で制作をしており、Web制作に関しては外部に依頼していました。当時は社内にWebに明るい人材がいないというのもありますが、ECを利用されるお客様が少なく、制作自体多くなかったことが理由です。
その後、スマートフォンが普及し始めてからECを利用するお客様が増えるにつれ、Webの業務は増加し、制作会社への依頼も多くなっていきます。その際、サイトの文言の編集やスタイルのちょっとした修正でも制作会社へ依頼していたため反映まで時間がかかってしまうことにもどかしさを感じていました。また、状況が刻々と変わるため、デザインが決まって、HTMLが納品されてから追加の要望や修正の依頼をさせていただくこともあり、制作会社にご迷惑をおかけしていたかもしれません。
当時は、何が簡単で、何が難しいのかわかっていなかったというのもありますが、制作フローを理解していなかったため、要件定義が曖昧だったり、納期の間近で要件変更をお願いしていたりと、今思えば無理な要求をしていたかと思います。
このような課題は弊社に限らず、他社でもあるようでして、業務を円滑に進められるように、制作会社のほうでWeb制作に関する研修を行うから参加しないかとご案内いただきました。研修では、Webの仕組みやHTML、CSSなどの基礎的なことから、人間中心設計、UI/UXなどを教えていただきました。どのようなロジックに基づいてECサイトを設計するかを週1で半年間かけて学んでいきましたね。
内製化を目的とした研修ではなかったのですが、せっかくなので学んだことを実務で活かそうと、ECサイトのちょっとした編集や改修は自分たちで行うようにしたのです。小さなところから社内でコツコツ制作、改修を進めていくうちにWeb系のタスクが増えていきました。
ECの売上も増えていき、もっと社内で対応できる人材が増えると良いのではと会社として考えるようになります。そこで、私が外部の研修で受けた内容を元にして同じ課のメンバーに社内研修をしたり、ECやWeb制作には専門用語が多いので社内で目線を合わせられるよう共通言語化を行ったりし、ECサイトを編集できるメンバーを育成しました。
その後、ECの拡大に伴い、Shopifyへリプレイスするプロジェクトを進めることになります。このプロジェクトが内製化の第一歩となり、以降は制作会社さんへ依頼する量は減りましたが、事業戦略や採用や教育といった人材戦略などで引き続き協力いただいているほか、グループ内の他ブランドでの制作でお世話になることもあります。

Web制作だけでなく、事業部への提案やWebリテラシー向上の取り組みも
内製化して良かったこと
――ECやWeb業界では専門用語が非常に多いため、共通言語化はコミュニケーションを円滑にするためにも良い取り組みだと感じました。内製化したことで、良かったことは何でしょうか。
持丸さん:制作や修正のスピードが上がったことが良かったと思います。ちょっとした修正であれば、今まで制作会社へ依頼するのにかかる時間で対応できてしまうこともあります。
制作会社に依頼していた際に課題になっていた制作フローも、内製化を進める上で、「デザインを決定してから構築を依頼する」「修正内容は1度にまとめて伝え、変更は基本行わない」など見直しを行いました。最初のうちは急な変更があっても対応していましたが、次第に新しいフローにも慣れ、今ではかなり円滑に進行することができています。
また、機能の仕組みをすべて把握できる点も良いですね。外部の企業に依頼するとどうしても仕組みのところはブラックボックス化してしまいます。弊社はランドセルをはじめ、さまざまな種類のブランドに応じてECサイトを分けて運用しています。制作会社さんに依頼していた頃は、同じような機能であっても、ブランドごとに別々に制作会社さんに依頼していたため、コストもリソースもその分だけかかっていました。内製化したことで、各ブランドの知見を共有し、あるブランドでうまくいった機能などをコストやリソースを抑えて、他ブランドに展開しやすくなったと思います。
Web制作時に意識している点
――さまざまなブランドに携わっていると思いますが、Web制作を行っているクリエイティブセンターデザイン3課として意識されていることは何でしょうか。
大藤さん:各ブランドにディレクターがおり、計測やデータからの洗い出しを行っています。私たちの部署では、上がってきた要件定義に対してサポートをしたり、売上につながる施策なのかの目利きを行ったりしています。ブランドによっては、Webの知識に差があるため、苦手とする部署には、知見を共有したり、担当者が少ない新規のブランドには制作チームから提案を行ったりしていますね。
意識しているのは、納品した後にはほとんどの場合、運用が発生するため、できるだけ運用チームが手を動かさなくていいように綿密に設計することです。例えば、「売り切れ」の文言をまとめて表示できるようにするなど、効率化や自動化ができるところは積極的に手を入れています。
また、販促用のページ作成の依頼も多くありますが、どのようなユーザーが、どこから流入し、ページの役割はなにか、ゴールはなにかなどをヒアリングし、一連の体験を考えて制作しています。持丸は鞄ブランドの事業部にいたのですが、Web制作の内製化に伴い現在はクリエイティブセンターデザイン3課も兼任しています。事業部とWeb制作の両方の視点から考えられるので、本当に助かりますし、貴重な存在ですね。
今後、改善したいこと、取り組みたいこと
――Webの制作だけでなく、事業部への提案やWebの知識向上の取り組みも行っているのですね。今後、改善したいことがあれば教えていただければと思います。
持丸さん:現状ほとんどのページや機能改修を社内で行っているのですが、リソースがかなり圧迫してきているので社内で要件定義から運用を考慮した設計までを行い、外部の制作会社には形にするまでをお願いして、社内リソースの重きをしかるべき場所に置けるようにしたいと考えています。
せっかく内製化したのに、また外注するのかと思われるかもしれませんが、社内でECサイトの仕組みを熟知できているからこそ、より精度の高い要件定義を行うことができるため余計な出し戻しをせずに、自社で管理運用しやすい形で依頼することができるのではないでしょうか。
制作会社からすると要求値が高いかと思われてしまうかもしれませんが、お互いに意見を出し合い、より良い形で実現へと挑戦していける関係性を築いていけたらと思っています。
チームができ、管理するブランドも増えてきたので、今後は人員を増やしたり、メンバーを育成したりして、事業の思考力を高めていきたいです。チームはRPGのようなものだと思っているので、パーティ編成とメンバーの個性を生かして、いかに効率的で生産性の高いチームを作るのかに取り組めたらと思います。

インタビューを通して:投げっぱなしから当事者意識を持って挑戦をする重要性
ECサイト制作の現場には、フロントエンド、UI/UXデザイン、マーケター、ディレクターなどさまざまなスキルを持つメンバーがおり、それぞれの職種の中でスキルアップを図っていくのが一般的です。
一方で、事業の成長には、お客様のことから運用、機能開発の費用対効果などと、事業を俯瞰して考える力を持つ人が必要になります。土屋鞄のWeb制作チームは、肩書に特化せずに広い視点でECブランドサイトの制作に関わることができるため、結果として制作の知見だけでなく、チームが事業そのものを高い解像度で見る力を養えているのです。
土屋鞄では、お付き合いしている制作会社から勉強会に招待してもらったことをきっかけに内製化に至りましたが、学びの機会は自分から掴みに行くことで見つけられるはずです。自社に知見がないことを理由に外部のパートナー企業に業務を依頼することは多いかと思いますが、経験したことのない業務に挑戦することが、自分自身のスキルアップや、外部パートナーとのコミュニケーションや依頼の質を向上させられることにつながるのではないでしょうか。
内製化により社内に知見が溜まったことで、横断的にブランドサイトへと良い点を活かせるようになった土屋鞄のサイトからは、それぞれのブランドの特徴を活かしながら共通する点が見られます。この記事をご覧いただいた事業者様はぜひ土屋鞄のサイトを参考にしてみてはいかがでしょうか。
▼土屋鞄製造所 オンラインストア
https://tsuchiya-kaban.jp/
▼TSUCHIYA RANDOSERU オンラインストア
https://tsuchiya-randoseru.jp/
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