
この記事の目次
越境ECと海外進出の違いと定義
前回のコラムでは越境EC最前線というお題で、中国、東南アジア、アメリカへの越境EC並びに海外進出について寄稿をさせていただきました。今回はアマゾンを活用したアメリカ進出の現状について寄稿させていただきます。
本文の前に、言葉の定義をしておきたいと思います。アマゾンを活用したアメリカ進出することをアマゾン越境EC、アマゾン海外進出、他にはアマゾン輸出など、いろいろな呼び方がありますが、このコラム上では便宜上、下記で統一させていただきます。
アマゾン越境EC:在庫は日本にあり、アマゾンアメリカで販売。商品が売れたら日本から商品を出荷(輸出)する。送料は購入者負担。
アマゾン海外進出:在庫をアメリカに置き、アマゾンアメリカで販売。商品が売れたら、現地の倉庫から商品を出荷する。なお、主にアマゾンFBA倉庫を利用しているケースが多い。
受注時に在庫がどこにあるのかが大きな違いですね。
まず、この2つのビジネスモデルで比較したとき、アマゾン越境ECで売上を大きく上げているケースはあまり見たことがありません。
アマゾン越境ECが困難な理由は、アマゾンアメリカと日本のアマゾンとの機能の違いもあるのですが、アマゾン越境ECをされている販売者様の多くを見ていると、アメリカでの商標権を取得せずにアメリカで商品を販売するケースが少なくありません。コストとのバランスもあるのですが、アマゾンアメリカにおいては、商標権を取得し、ブランドレジストリー(ブランド登録)をしていないと、利用できない機能が非常に多いです。例えば、A+の作成、スポンサーブランド広告、ブランドストアの構築ができないなど、集客寄りの機能の多くが利用できないので、あまりうまくいかないケースが多いのです。
当社としては、通常アマゾン海外進出を基本路線とし、最低限アメリカで商標権を取得し、アマゾンにブランドレジストリーをした上で、FBA倉庫に在庫を納品した状態で販売するビジネスモデルを推奨させていただいております。

数十年前までハードルが高いといわれていたアメリカ進出ですが、昨今はアマゾンを活用したアメリカ進出も敷居が低いといわれ始めています。ここ数年で日本では中国向け越境ECが盛り上がり、同時に中国からアマゾンアメリカへの進出をして大成功を収めているメーカーの出現などを背景に、2番目に大きなアメリカ市場も注目を浴び始めているのです。それによって、周囲の環境が変化し、国内ブランドがアメリカ進出をする環境が整ったというのが最大の要因かと思います。
特に、ここ数年で大きく環境が整ってきた項目としては以下が挙げられます。
- 現地法人を持たずとも、現地のアマゾンに出品可能
- アマゾンFBAへの納品をサポートする専門業者とImport Of Record代行業者の存在
- 現地に銀行口座を持たずとも、アマゾンの売上の受け取りが可能
- アマゾンFBAが提供するCSと返品受付サポート
- 英字ラベル作成並びにFDA登録の代行業社
- アマゾンジャパンによる海外進出の後押し
- 海外向けのアカウント運用代行、コンサルティング会社
これから上記の7つの項目を順番に解説していきます。
現地法人を持たずとも、現地のアマゾンに出品可能
アメリカに法人を持たなくても日本の販売者が直接アマゾンアメリカに在庫を置き、商品を販売できます。
また、日本の企業はアメリカでは税登録が必要なく、アメリカでの売上に対しての税金は、アマゾンが売上税の課税・徴税・納税を行ってくれます(※詳しくは税理士に確認及びマーケットプレイスファシリテーター法などをご確認ください)。
上記を背景として、ここ数年はアメリカ以外からアメリカへの出品が活発になってきているのですが、これはもちろん日本だけではなく、中国からも、韓国からも、ヨーロッパからも同様です。最近ですと、特に中国から直接アマゾンへの出品が活性化しています。eコマースインテリジェンス企業Marketplace Pulseのレポートでは、2022年1月にアマゾンアメリカに新規参入したセラーのうち、中国を拠点とするセラーは75%を占めており、前年の47%から大幅に増加しているとのことです。
アマゾンジャパンでも同様に海外セラーが出品してきていることもあるので、みなさんも体感しているかとは思いますが、アマゾンアメリカはそれがもっと活性化している状況であるといえます。

アマゾンFBAへの納品をサポートする専門業者とImport Of Record代行業者の存在
アマゾンアメリカで商品を販売するということは、商品を輸出するということになりますが、アマゾンFBA向けを中心とした輸出サポートはかなり充実してきています。
有名どころでいうと、グローバルブランド社やアラウンド・ザ・ワールド社といったアマゾンFBA倉庫への納品に特化した専門の輸出サポート企業があり、小ロットからでもFBA倉庫に納品をすることを可能にしています。また、海外のUPS社やDHL社もサービスの一つとしてAmazonに特化した輸出サポートの提供をされており、DHL社は一回の輸出が1,000 USD未満であれば、次に記述するIOR(Import Of Record)の役割を担ってくれるサービスもあるのです。
また、グローバルブランド社も、アラウンド・ザ・ワールド社も、日本から現地のFBA倉庫へ入れるサービスだけではなく、通関時のIORの役割も担ってくれます。また、前述の通り、DHL社も条件付きではありますが、IORの役割を担ってくれます。
IOR(記録輸入者)とは、外国からその国に輸入された製品の責任者です。IORは、輸入製品に関する関税、税金、手数料の支払い、および税関やその他の政府機関の規制の遵守について法的責任を負います。 また、IORは製造物責任についても責任を負います。
これまで、IORの役割を担うために、自社で現地法人を立ち上げたり、もしくは個別に現地のサポート企業を探したりする必要がありました。今では、これらの企業が代行サービスを提供してくれることによって、日本の倉庫からの出荷~輸出~通関~アマゾン倉庫への着荷までを簡単にできるようになっているのです。
現地に銀行口座を持たずとも、アマゾンの売上の受け取りが可能
アマゾンアメリカで商品が売れると売上が発生しますが、その売上は、現地に銀行口座を持たなくても、受け取りが可能になっています。
アマゾンの場合は、Amazon海外口座送金サービス(ACCS)というサービスがあり、アマゾンが日本の指定の銀行口座に、非常に安い手数料で直接振込をしてくれます。
また、アマゾン以外にもPayoneerなどが、現地の銀行に口座開設しなくとも、バーチャルな口座のような形で、現地でアマゾンからの支払いを受け取ることを可能としており、希望があれば現地で受け取った売上を、日本に送金してもらうことができるのです。

アマゾンFBAが提供するCSと返品受付サポート
アマゾンが提供するFBAサービスを利用すれば、CSも返品受付も貴社の代わりにアマゾンが対応してくれます。CSに関してアマゾンのビジネスで購入者から膨大な連絡が来るケースはあまりないのですが、アメリカにおいてはアマゾンが返品処理・受取対応を代行してくれるのは非常に大きいです。
アメリカでは一度購入した商品でも、気に入らなかった場合は返品するというのが一般的です。当社のクライアントでも、日本と比較するとかなりの返品率になっており、肌感でいうと約5%が返品されているかと思います。つまり1,000個販売すれば50個は返品されてくるわけです。それらの受付や対応をアマゾンが行ってくれるというのは、出品者にとっては非常にメリットの大きいサービスではないでしょうか。
アマゾン倉庫に戻ってきた返品は、現地に戻す住所があれば、そちらの住所へ送ってもらえますし、希望すればアマゾンが破棄もしてくれます。なお、アマゾンから日本への返送対応サービスはございません。
FDA登録並びに英字ラベル作成の代行業者の充実
アメリカで商品を販売するためには、英語で使用方法や成分を印字したラベルを、必ずパッケージの背面に貼らなければなりません。以前はこのラベルを貼らなくてもアマゾンで商品の販売をすることができてしまっていたのですが、アメリカではこれは違法行為にあたることもあり、裁判になるなどの問題になることが増えてきたため、現地での取締も強化されています。
同時に、食品や化粧品はFDAの認証を受けることが必要となります。化粧品に関していえば、一般化粧品と、OTCと2つのグループがあり、それぞれ異なるFDAの認証が必要であるなど、非常に複雑かつ厳しいガイドラインがあり、アメリカで商品を販売するブロッカーになっていました。しかしながら、この点についても、昨今ではGlobizz社やCosme Hunt社といった、これらを専門に支援する企業が増えてきており、サポートが充実してきています。
なお、余談ではありますが、Amazon.comを見ていると、日本の日焼け止めなどをメーカーに無断で販売しているケースが多く見られます。日焼け止めはOTCにあたるので、非常に厳しい審査を通過しないとアメリカでは販売できず、メーカーもアメリカでは販売をしていません。しかしながら、それを知らない方々が無断でアメリカのアマゾンに出品している状態です。
メーカーには製造者責任があり、かつアマゾンにもプラットフォーマーとしての信頼の維持が必要なので、この辺りは近いウチにメスが入るとは思いますが、そもそも違法行為をされており、現地での裁判リスクが非常に高いので、この記事をお読みになられている方で心当たりがある方は、早急に止めることをおススメします。

アマゾンジャパンによる海外進出の後押し
本体であるアマゾンジャパンもアマゾンを活用したアメリカ進出の後押しをしています。数年前に一度解散したアマゾングローバルセリングチームが再度アマゾンジャパン内に構築され、日本メーカーの海外進出のサポートをしています。また、一昨年にJETROとの共同プログラムとしてアマゾンアメリカに「JAPAN STORE」を立ち上げ、日本ブランドの現地でのビジネス拡大をサポートしています。
現在は約800社がこのプログラムに参加しているといわれていますが、このプログラムに参加した日本のブランドは、アマゾンアメリカ内にあるJAPAN STOREのページに自動的に掲載されるのです。また、4万円の有料プランに申し込まれた企業は、1,000ドル分(約14万円分)の広告費を付与してもらえるので、初月の広告費などは、これらのサポートで運用できるような仕組みになっています。
なお、私自身もこのアマゾンとJETROとの共同プログラムに関しては、「米国Amazon販売に関わるSEO対策、広告の基礎」並びに「第5回米国Amazon販売に関わる広告運用」の講師として、2022年8月~9月に複数回登壇をさせていただく予定です。
アカウント運用代行、コンサルティング会社の出現
そして最近では当社のようにグローバルでのアマゾンアカウント運用の代行をする企業も増えてきています。2018年には上場企業であるいつも社、元アマゾン社員である田中謙伍氏のGROOVE社、ジェイグラブ社も長い間この領域をサポートしています。当社株式会社Picaroも日本と海外のアカウントを同時に管理することで、グローバル全体の売上の最大化のサポートをさせていただいております。
アマゾンアメリカで商品を販売するとなると、
- アカウントマネジメント
- コンテンツライター
- SEO管理者
- クリエイティブ作成(画像と動画)
- アマゾン広告運用
- SCM
- アマゾン外部広告(オプション)
- 米国法務
- 米国税務
と、非常に多くのリソースが必要となります。
また、アマゾンジャパンで商品と販売することと、アマゾンアメリカで商品を販売することは、同じアマゾンというプラットフォームではあるものの、共通する箇所と、一切共通することのない箇所、効果の高い施策、低い施策など、それぞれ特徴があり、それらを自社で管理する必要が出てくるでしょう。初めてアメリカ進出する場合など、まだ自社でのノウハウが蓄積されていない場合は、これらの運用代行業者に依頼することをおススメしております。
なお、個人的な意見ではありますが、日本以外に海外のアマゾンでも展開される場合は、作業の効率化と売上の最大化という観点から1社に全てを依頼されることをおススメしています。例えばアマゾンアメリカには日本では利用できない機能が多数ありますが、その機能を利用して取得されたデータや知見は、日本のアマゾンアカウント運用でも活用ができます。
また、ASINが一緒であれば、カスタマーレビューはグローバルでシェアされつつも、国ごとに画像やA+を変えることが可能となっていたり、複数ヶ国に跨るブランド登録のマネジメントなど、国同士の横連携において代理店が代わってしまうと、対応が非常に困難になることが理由として挙げられるでしょう。
このように、アマゾンを中心に、日本からアメリカへの進出は数年前と比較すると各段に敷居が下がってきており、アマゾンジャパンで商品を販売している企業様であれば、やろうと思えば数週間でアメリカ進出が実現することが可能になっています。
日本のアマゾンだけでなく、アマゾンアメリカでも自社商品を販売することにご興味がございましたら、気軽にご相談いただければと思います。
合わせて読みたい