
株式会社博報堂(本社:東京都港区、代表取締役社長:名倉健司氏)と顧客エンゲージメントプラットフォームのリーダー企業であるBraze株式会社が推進する共同研究プロジェクト「カウテックプロジェクト」は、同一の生活者3,590名を対象として時期を変えて合計3回、購買意識の変動を追跡する大規模な調査を実施したことを発表しました。
企業が展開するマーケティング施策が生活者の「欲しいタイミングで届いていない」という課題に対応するため、博報堂のシンクタンクである「博報堂買物研究所」のナレッジを活用した分析が実施されました。その結果、同一の生活者・同一の業態であっても、購買する際に重視するポイントはそのタイミングごとに入れ替わることが明らかとなりました。さらに、重視点には「常に重視される項目」と「タイミングによって重視されやすさが変動する項目」が存在することも確認されています。
本調査の結果は、過去の属性データや行動データから「誰に何を届けるか」を最適化するアプローチだけでは、生活者のその時々の買物状態を十分に捉えることができない可能性を示唆しています。同プロジェクトでは、「誰に」という視点に加えて「いつ・何を届けるか」を捉え、生活者の"今この瞬間"にメッセージを同期させる「シンクロナイズ」への転換が提言されています。
調査結果のサマリー
購買における企業の情報提供への評価:「欲しいタイミング」でメッセージが届いていない現実
企業の案内や広告について「欲しいタイミングで届く(21.5%)」、「自分向きのものが届くことが多い(26.9%)」と評価した人は4人に1人程度にとどまっています。
その時々で変化する購買時重視点:3~4割の生活者が、同じ商品カテゴリでも購買時の「重視点」を入れ替えている
同一生活者への3回にわたる追跡調査により、同じ業態を利用する生活者に限定した場合でも、コスパや味、着心地など購買時に重視する項目について、3〜4割の人が「重視する/しない」の評価を入れ替えていることが判明しました。
購買時重視点の入れ替わりやすさの違い:「味・コスパ」は堅牢、「限定性・なじみ」は変動しやすい
「味やコスパ」など3回の調査を通じて購入・利用時に常に重視される項目が存在する一方で、「店への馴染みの有無」や「限定性」など、評価が入れ替わりやすい項目があることが明らかになりました。
重視点の入れ替わり数と生活者属性の関係:「年代」より「企業からの情報評価」の方が入れ替わりの数に違いがある
3回の追跡調査で重視するか否かが入れ替わった項目数は、1人あたり平均6〜7項目でした。いずれの消費カテゴリでも「5〜8項目の入れ替わり」が最も多く、一部の生活者だけに起きている現象ではないことが明らかになっています。特に、年代属性よりも企業からの情報をどう評価するかによって、変化した重視点の数に違いが見られました。
調査結果の詳細
購買における企業の情報提供への評価
スマートフォンやPCを使用しているときに企業から届く案内やクーポン、広告について、「受け取りやすい方法で届くことが多い」と感じる人は45.5%でした。一方で、「自分向きのものが届くことが多い」は26.9%、「欲しいタイミングで届くことが多い」は21.5%にとどまっています。
企業と生活者をつなぐ「届け方」の整備が進む一方で、「いつ・何を届けるか」には、まだ改善の余地があることがうかがえます。
その時々で変化する購買時重視点

同一の生活者に時期をずらして3回調査が実施され、購買時に重視する項目について「重視する/しない」の回答がどのように変化するかが追跡されました。調査対象の消費カテゴリは、ファッション、外食・テイクアウト、食品・日用品の3つです。例えば、ある人が1回目の調査では服を買うときに「着心地の良さ」を重視すると答え、2回目では重視しないと答え、3回目では再び重視すると答える、といった具合です。同じ人・同じ項目でも、このような入れ替わりが起こります。今回の調査では、この入れ替わりが「どの項目で」「どれだけの人に」起きているかが測定されました。
1人の回答者は、各項目について次の3つのパターンに分類されます。3回すべてで「重視する」と答えた人、回によって「重視する/しない」が入れ替わった人、3回すべてで「重視しない」と答えた人です。このうち、3回すべてで「重視する」と答えた人の割合が「常時重視率」(3回の調査でいずれも重視した人÷回答対象者)、回によって入れ替わった人の割合が「重視点スイッチ率」(調査回によって重視有無がスイッチした人÷回答対象者)として定義され、分析に用いられています。
実際の分布
実際の生活者たちの「常時重視率」「重視点スイッチ率」の分布が公開されました。以下のグラフは、生活者ごとの重視点スイッチ率を可視化したものです。どの程度の人が、購買判断の基準を変えているのかがわかります。

まず、購入・利用先を各消費カテゴリで1つの業態に限定している生活者に絞って確認されました。利用する店舗が限定されれば、購買時の重視点も定まりやすいと考えられるため、ファッションを「ファストファッションのみ」、外食・テイクアウトを「ファストフードのみ」、食品・日用品を「スーパーのみ」で購入・利用している生活者に焦点が当てられました。
1回目の調査で、ファストファッションのみ利用者が最も重視していたのは「コスパのよさ」「着心地の良さ」「丈夫さや長持ちする」の3項目でした。この3項目について3回を通じた評価を確認すると、常時重視率はそれぞれ55.1%、53.3%、50.7%であり、完全に定まっていないことがわかりました。
さらに、これらの項目への評価がどれくらい揺らいでいるかを確認するために、重視点スイッチ率が算出されました。その結果、「コスパのよさ」で31.1%、「着心地の良さ」で33.3%、「丈夫さや長持ちする」で35.1%の重視点スイッチ率となりました。
なお、ファストフードのみ利用者、スーパーのみ利用者についても、購入・利用対象の商品カテゴリが変わっても、購買時に重視する上位3項目の重視点スイッチ率が3〜4割であることが確認されました。この結果から、普段利用する業態が一つであっても、生活者が購入・利用時に重視することはその時々で変化することが示唆されました。
カテゴリ別の購買時重視点の入れ替わりやすさの違い

次に、普段利用する業態に絞らず、各消費カテゴリの利用者全体で、項目ごとに3回を通じた評価が集計されました。その結果、重視点には大きく2つの異なる性質があることが明らかになりました。
1つ目の性質:一貫して重視され続ける項目
1つ目の性質は、多くの生活者が一貫して重視し続ける項目です。常時重視率を計算すると、ファッションの「着心地の良さ」は67.0%、外食・テイクアウトの「料理の味がおいしい」は74.3%、食品・日用品の「コスパのよさ」は62.2%でした。いずれの消費カテゴリでも、利用者の約6割から7割が常に重視し続ける項目が存在します。
これらの項目では、訴求が届く可能性のある相手がほぼ固定されており、タイミングを問わず発信できるメッセージの土台として活用可能な項目だといえます。

2つ目の性質:タイミングによって変わる項目
2つ目は、重視するかどうかが回によって入れ替わる項目です。重視点スイッチ率が最も高かったのは外食・テイクアウトの「量や形状的にどこでも快適に食べられる」で45.9%でした。食品・日用品の「デザインや色・見た目の良さ」が43.0%、ファッションの「サイズ展開の豊富さ」が39.8%と続きます。いずれも4割前後が、3回の間に「重視する/しない」の評価を入れ替えていました。
これらは、誰からも重視されていない項目ではありません。例えば、食品・日用品で、「デザインや色・見た目の良さ」の常時重視率は26.0%ですが、3回の調査のうち一度でも重視すると回答した生活者まで含めると69.0%にのぼります。つまり、タイミングを捉えて訴求すれば、内容が届く可能性のある相手の幅は2.7倍に拡大することがわかります。
重視点スイッチ率の高い項目については、タイミングを見計らった訴求の効果が大きいことが示唆されます。マーケティング・オートメーションツール(MAツール)やアプリ等を活用して、購買時のその時々の状況や心理状態の変化を捉えメッセージを出し分けていくことで、より多くの生活者にリーチできる可能性があります。
重視点の入れ替わりの大きさと生活者属性の関係

次に1人の生活者の中で何項目の評価がスイッチしたかが確認されました。3回の追跡調査を通じて、各生活者が「重視する/しない」の評価をスイッチした項目数が集計されました。
その結果、平均では、ファッションで6.4項目、外食・テイクアウトで6.9項目、食品・日用品で6.5項目に関して重視するか否かの評価がスイッチしていました。これらは、1人の生活者が購買・利用時の心理状態の変化に伴って、約6〜7項目の重視点を入れ替えていることを示しています。
変化の分布を見ると、3カテゴリすべてで「5〜8項目スイッチした人」が最も多く、ファッション41.2%、外食・テイクアウト37.3%、食品・日用品41.0%を占めました。一方で、1項目もスイッチしなかった人は1割に満たず、9割以上の生活者で何らかの重視点がスイッチしていました。重視点のスイッチは、ごく一部の生活者に限定された現象ではなく、調査対象全体で広く見られる現象であることが確認されました。

重視点のスイッチが、どのような生活者特性と関連しているかを確認するために、年代別に分析されました。ファッションでは各年代平均で6.0〜7.0項目、外食・テイクアウトでは6.7〜7.1項目、食品・日用品では6.3〜6.6項目の重視点が変動していましたが、年代による大きな違いは見られませんでした。この結果から、重視点の変化は年代などのデモグラフィック属性だけでは説明されない可能性が示唆されます。
一方で、企業から届く情報をどの程度参考にしているかという別の軸で生活者を比較したところ、企業からの情報を「とても参考になる」と回答した人の平均スイッチ項目数は、ファッション4.7項目、外食・テイクアウト3.6項目、食品・日用品3.6項目となり、全体平均を下回る結果となりました。
調査結果への所見・示唆
生活者へのアプローチは、「パーソナライズ」に加えて「シンクロナイズ」も
今回の調査では、企業からの情報が「欲しいタイミングで届いている」と感じる生活者は21.5%にとどまりました。その背景の一つとして見えてきたのが、同じ生活者の中でも、買物で重視するポイントがその時々で変化していることです。普段利用する業態を限定しても、コスパや味、着心地といった主要な重視点で3〜4割の人が「重視する/しない」の評価を入れ替えていました。企業から見れば「同じ顧客」であっても、その時に求めているものは一定ではありません。
さらに、すべての重視点が同じようにスイッチするわけではありません。味やコスパ、品質や鮮度の良さといった常に生活者から重視されやすいものがある一方で、いつもよりちょっといい商品が手に入ったり、限定性があることなどは、その時々によって重視されるかどうかが大きく入れ替わります。こうした項目では、常に重視している人だけでなく、「状況に応じて重視する人」まで捉えることで、訴求が届きうる生活者の幅が大きく広がります。
なお、重視点のスイッチを年代の属性で見ても差は小さく、「どんな人か」だけでは捉えきれません。また、企業からの情報を「とても参考になる」と回答した層では、重視点のスイッチした項目数が全体より少ない傾向が見られました。企業の発信する情報が生活者の意思決定に役立っている状態と、購買時の重視点が比較的安定している状態には関係がある可能性があります。
過去の属性データや購入履歴をもとに、どれほど細かく顧客をセグメンテーションしても、刻々と変わる「今の状態」を常に正確に捉えることは難しいという課題が示唆されます。過去のデータから「この人にはこれが響く」と判断して同じ訴求を続ければ、その時の重視点とずれ、的外れな情報となり、わずらわしさや不快感につながる可能性もあります。それを受けてカウテックプロジェクトでは、一人の生活者を一つの人格に固定する従来のパーソナライズを、「誰に」という対象者の特定に加えて「いつ」を捉えるシンクロナイズへ進化させることが提言されています。
今後の展望:共同実証実験(PoC)の開始
カウテックプロジェクトでは、博報堂買物研究所が長年培ってきた生活者研究のナレッジと、Brazeのリアルタイムなカスタマーエンゲージメント基盤を掛け合わせ、この「シンクロナイズ」の概念を次世代のマーケティング手法として確立すべく、共同実証実験(PoC)が開始されます。
具体的には、Brazeが強みとするストリーミングデータ処理とAIによるリアルタイム判定を活用し、アプリ内の行動シグナルから生活者の「今の状況・状態」を捉え、ポップアップやクーポン、レコメンドの表示をその瞬間に最適化する仕組みが検証されます。本調査で得られた知見を、確度の高いマーケティング手法として社会へ実装することを目指し、具体的な取り組みが推進されるということです。
調査概要
調査手法:インターネット調査(同一対象者へ時期をずらして計3回実施)
調査地域:全国
対象者条件:15〜69歳の男女
サンプルサイズ:3回目まで回答完了者 3,590名(性別×年代×エリアの人口構成比に準拠して回収)/各カテゴリ分析対象は普段利用者(ファッション:2,891/外食:3,027/食品・日用品:3,460)
※分析対象者は、同居家族モニター属性とアンケート回答(1~3回)が一致した人のみ
調査ボリューム:各回20問
調査時期:2026年3月6日(金)~3月17日(火)
調査主体:博報堂・Braze
調査実施機関:株式会社インテージ
出典元:株式会社博報堂、Braze株式会社

















