
この連載コラムでは、EC事業の転換期に入ったこのタイミングで、ブランドEC事業の成長戦略を再定義し、事業を加速させるプロセスにおいて活用いただける「ブランドEC成長戦略フレームワーク」を提示しながら活用ポイントを解説していきたいと思います。第2回目となる今回は、再定義する上で当社が作成し最初に活用推奨しているECの成長戦略・戦術を整理するフレームワークの提示と解説をします。
立川 哲夫
株式会社 久(きゅう)
ブランドEC成長支援室 室長 兼 EC経営コンサルタント
リテール業界に10年従事後、15年以上にわたるECビジネス推進およびECマーケティング支援経験を持つコンサルタント。
主な経歴として、大手EC総合支援企業において、10年以上にわたり経営幹部としてEC事業コンサルティングに関わりながら、企業のブランディング・マーケティング統括を担当。執行役員として東証グロース市場への上場も経験。その後、外資系コンサルティングファームにてECビジネスの変革支援にも関わる。
5冊のECマーケティング関連書籍の執筆・編集に関わり、EC事業戦略・売上アップの法則を凝縮し、知見の普及にも貢献。その他、日経クロストレンド・月刊ネット販売・日本ネット経済新聞などの業界メディアへの寄稿実績も多数。
■久(HP)
https://www.qinc.co.jp/
この記事の目次
5つの戦略と7つの戦術項目で再定義する
事業成長に向けた計画の策定・実行には、「戦略・戦術」を整理するフレーム活用が有効です。
戦略(Strategy)は目的達成のための大枠の方針・方向性を示し、通常は1年〜3年先を見据えた項目になります。
一方、戦術(Tactics)は戦略を実現するための具体的な手段であり、3か月〜1年程度で実行可能な項目を指します。戦略と戦術が取り違えられると、最適な実行を行っても期待する成果が得られないリスクが高まります。
【戦略・戦術項目設定フレームワーク】


この戦略と戦術の立案・運用で最も重要なのは「優先順位を間違えないこと」です。本コラムでは、ECビジネスおよびECマーケティングにおける変革と成長を実現するための『5つの戦略と7つの戦術』について、立案時のポイントをフレームワークに沿って解説します。
解説する項目は、公式ECサイトを起点に売上拡大とファン獲得を目指すうえで、重要度・影響度が高い順に並べています。これを参考に優先度を定め、実行計画の落とし込みにご活用ください。
1年~3年で実現する「戦略」項目
ブランドEC成長へ向けた「戦略」を重要度が高い順に並べると次のようになります。
- ブランディング設計
- 販売チャネルの設定
- CRM・ファン育成設計
- システム選定・データ基盤構築
- フルフィルメント設計
1.ブランディング設計
まず、最上位で設定する項目は「1.ブランディング設計」です。
一般的に「ブランディング設計」の要素としては、下記があります。商品販売を通してブランド力が高まりファンを増やしていく設計をしていきます。この項目は中長期視点を持ち、EC事業の領域にとどまらずに企業全体の取組みと連動させていくことが重要となります。
①ブランドの核(コア)を定義する
- ブランド・パーパス(存在意義):なぜこのブランドは存在するのか?
- ブランド・バリュー(価値観):どんな価値を提供するのか?
- ブランド・ビジョン/ミッション:どこを目指すのか?何を成し遂げたいのか?
②ターゲットとポジショニングの明確化
- 誰に向けたブランドか?(ターゲット顧客)
- 競合とどう差別化するか?(ポジショニング)
③ブランド・アイデンティティの設計
- ロゴ、カラー、フォントなどの視覚的要素
- ブランド・ストーリー(背景や創業ストーリー)
上記を踏まえて、公式ECサイトを起点に、企業や商品の認知拡大とファン化を図るために、目指す姿と重点管理指標(KPI)を明確に設定していきます。
2.販売チャネルの設定
次に重要となる項目は、「2.販売チャネルの設定」です。
リアル店舗で言えば「立地」に相当します。立地は売上に大きく影響するため、商圏人口や交通量などの条件を踏まえ、単独店舗で出店するのか、ショッピングモールや商業施設内のテナントとして出店するのかを慎重に判断します。ECの販売チャネル(=立地)も同様に売上への影響が大きく、短期間での変更が難しい場合もあります。したがって戦略的視点で設定することが重要です。
これからEC事業を再定義する方向性は、ブランドとして自社で顧客情報を保有し、独自施策を打ちやすい公式ECサイトを中核に据え、長期的に育成していくことが基本となります。一方で、多くの顧客が集まる楽天市場やAmazonなどのモール系、TikTok ShopなどのSNS系も重要な流入チャネルとなります。各チャネルの役割を定義し、競合店舗の調査や差別化要素の確認を行ったうえで、投資配分・売上・利益・販促の目標を設定してください。
3.CRM・ファン育成設計
次に重要となる項目は、「3.CRM・ファン育成設計」です。
ブランド公式ECを起点に、新規購入から2回目・3回目購入、継続購入へとつなげるための「ファン育成ロードマップ」を設計します。各購入接点ごとに管理指標(KPI)を設定し、進捗を可視化することが重要です。近年は、ファンがSNSでシェアや投稿を行ってくれること(コメント、写真、レビューなど)が新たな認知・信頼獲得につながるため、これらを増やすための施策も育成設計に組み込む必要があります。
4.システム選定・データ基盤構築
次に重要となる項目は、「4.システム選定・データ基盤構築」です。
ECカートをはじめとする運営システムの選定・リプレイスや、各種システム・ツールとの連携を通じて、顧客育成と業務効率を高める設計・構築を行います。具体的には、流入から購入に至るデータの収集、店舗とECの在庫・顧客データの統合を行い、マーケティング施策に活用可能なデータ基盤とダッシュボードによる一元管理を実現します。
なお、1つのシステムやツールで完結することは稀であり、3年〜5年後を見据えた選定・リプレイス計画が必要です。市場や施策の変化に柔軟に対応するため、データ連携ツールやAPIを適切に活用し、コストと業務の最適化を図ることも重要になります。
5.フルフィルメント設計
最後の戦略項目は、「5.フルフィルメント設計」です。
公式オンラインショップを中心に、上述したモール系から、SNS系まで複数チャネルで受注が発生するのが現代のECの特徴です。そのため、顧客・受注・在庫の連携や倉庫・出荷・配送の業務効率化、コスト最適化の設計が不可欠です。さらに、ファンを増やす視点での顧客別の同梱対応やギフト対応などのオペレーション設計も検討すべきポイントです。
いずれにしても、ECチャネル最大の特徴は「ネット経由で受けた注文を直接消費者に届ける」仕組みにあります。この特徴を基盤に再定義することが、EC事業の成長とファン獲得の土台となります。
3か月~1年で実現する「戦術」項目
ブランドEC成長へ向けた「戦術」を重要度が高い順に並べると次のようになります。
- 人材育成・外注活用
- 品揃え
- 売場作り
- 認知・集客
- AI活用
- 接客・サービス
- 分析・改善
1.人材育成・外注活用
戦略項目を踏まえ、ECを起点にファンを増やし売上・利益を確保する施策を実行する上で、最初に重要なのは「1.人材育成・外注活用」です。
ブランドECの成長に必要な人材育成プログラムを策定し、EC運営のみならずブランドマーケティングやデジタルマーケティングの視点を持つ人材を短期で育成します。AI技術を積極的に活用し、実行した施策はナレッジとして蓄積・再現可能なノウハウに落とし込みます。社内の知見やリソースが不足する場合は、外注パートナーを活用して施策のスピードを落とさないことも重要です。
2.品揃え
次に重要となる項目は、「2.品揃え」です。
ECで購入される理由を考慮し、「新規獲得商品」「2回目購入商品」「ブランド体験を高めるヒーロー商品」「ギフト商品」「ECチャネル限定商品」など、公式ECの成長ステップに応じた役割分類を行った上で商品開発・品揃えを進めます。EC専用の品揃え表(MD表)と年間販売計画に落とし込み、管理していきます。
3.売場作り
次に重要となる項目は、「3.売場作り」です。
品揃えが決まったら、来訪者のブランド理解と購入体験を高め、ファン化につなげるためのUI/UX設計、ランディングページ(LP)やコンテンツ設計を行います。訪問回数や滞在時間を増やす導線・ページデザイン・コンテンツ追加を実施し、ECが得意とするデータ分析から改善点を抽出して継続的に改善します。
4.認知・集客
次に重要となる項目は、「4.認知・集客」です。
品揃え・売場作りが整った状態で、自然検索(Googleなど)、AI検索への最適化、SNS、Web広告などのオンライン施策に加え、実店舗販促、イベント、紙媒体、交通広告などのオフライン施策も含めて全方位で認知・集客を行います。軸は「ブランド指名」「代表商品の指名」とし、販促費用やリソース配分、効果測定指標を定めて実行します。
5.AI活用
次に重要となる項目は、「5.AI活用」です。
有料AIツールや各社のAI実装ツールは既に多くの企業で導入が進んでおり、単に導入するだけでは圧倒的な差別化要素になりにくくなっています。したがって、EC運営や顧客対応のどの業務に優先的に導入するかを決定し、業務改善によるコスト削減や施策精度の向上を通じて売上拡大に貢献させることが重要です。
6.接客・サービス
次に重要となる項目は、「6.接客・サービス」です。
比較的短期間で企画・実行できる項目です。リアル店舗で言えば店頭スタッフの提案力や接客力に相当する領域になります。ECサイト運営では、戦略項目でも整理したCX(カスタマーエクスペリエンス)向上とファン醸成の観点から、購入からお届け・利用までの導線を設計し、感動体験を生むための顧客対応や販促企画を実行します。
7.分析・改善
戦術の最後の項目は、「7.分析・改善」です。
戦略で構築したデータ基盤と「ダッシュボード」をベースに、運営に関わる複数のメンバーが共通の視点で分析を行います。AIを活用して社内ナレッジ化した施策を、月次で検証・改善し、再現性ある成果に結び付けていきます。
まとめ
以上が『5つの戦略と7つの戦術による立案フレームワーク』項目を再定義していくポイントです。本フレームワークを使うと、すぐに埋まる項目と埋まりにくい項目が出てくるはずです。その差分(濃淡)こそが、活用によって得られる重要な気付きとなります。
ブランドマーケティングやECサイト運営には多数の関係者が関わります。今後、第1回目のコラム『ECの未来を予測する7つのキーワード』でも提言しております、「売るための場」から「ブランディングの中心的役割」へとシフトしていくことが想定されます。
転換期で不確定要素が多い今こそ、経営や戦略立案の骨格となるこのフレームワークを活用し、限られたリソースを有効に配分してブランド公式ECサイトの成長戦略の再定義に役立ててください。
■久(HP)
https://www.qinc.co.jp
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