【海外ニュース】AI活用の定着、TikTokの物流統合、低価格越境ECの拡大──欧州EC市場で進む構造変化

欧州EC市場では、消費者の購買前行動、プラットフォームの機能拡張、越境取引を巡る制度環境が同時に変化しています。AIは商品選定を支える存在として定着し、TikTokは物流と販促を統合した新たなECモデルを提示しています。一方で、低価格越境ECの拡大は市場の歪みを顕在化させ、Temuの急成長は越境ECの勢力図を塗り替えつつあります。本記事では、欧州ECの最新動向を4つのニュースから整理し、日本企業にとっての示唆を読み解きます。

AIは「購入エージェント」ではなく、商品調査を支える存在へ

商品探索チャネルは分散、マーケットプレイスは依然主流

ChannelEngineが発表した「Marketplace Shopping Behavior Report 2026」によると、商品探索の起点として最も多く利用されているのはマーケットプレイスで、全体の37%を占めています。検索エンジンやブランド公式サイトを上回る結果ではあるものの、前年の47%からは10ポイント低下しており、消費者の接触チャネルが分散している実態が明らかになりました。

SNSや比較サイトに加え、AIアシスタントの利用が拡大していることから、消費者は単一チャネルに依存せず、複数の接点を行き来しながら商品を検討する行動へと移行しています。

AI利用は過半数、ただし購入完結には慎重

同調査では、商品を調べる際にAIツールを利用する消費者が58%に達しました。また、3分の1以上が「AIを起点に購買検討を始めた経験がある」と回答しています。一方で、AI上でそのまま購入を完結することに抵抗がないと答えた層は17%にとどまりました。

この結果から、AIは現時点では「購入を代行する存在」ではなく、価格比較、仕様確認、レビュー要約といった調査工程を効率化するアシスタントとして認識されていることがわかります。最終的な購入判断や決済は、依然としてECサイトやマーケットプレイスが担っています。

AI時代の基盤は「情報の整合性」

日本のEC市場でも、生成AIを活用した商品比較や情報収集は急速に一般化しています。EC事業者にとって重要なのは、AI上で直接購入させる仕組みを急ぐことではなく、AIが参照する商品情報やレビューの正確性・一貫性を高めることです。チャネルごとに表記が異なる状態では、AIによる要約や比較の精度が下がります。SEOやモール最適化の延長として、情報設計の統一を進めることが、AI時代の購買導線を支える基盤になるといえるでしょう。

参照:58% of consumers use AI tools to research products

TikTok Shop、欧州で物流と販促を一体化したECモデルを加速

欧州向けフルフィルメントを本格展開

TikTok Shopは、欧州においてアジア圏セラー向けのフルフィルメントサービスを拡大しています。ドイツ、フランス、イタリア、スペインに展開する現地倉庫を活用し、在庫保管から配送、返品対応までをTikTok側が担う仕組みです。

これにより、販売者は各国ごとに物流体制を構築する必要がなくなり、欧州市場への参入ハードルが大きく下がりました。TikTokはECプラットフォームであると同時に、物流インフラ提供者としての性格を強めています。

インフルエンサー連携を前提とした設計

今回の取り組みの特徴は、物流支援に加えて、欧州のインフルエンサーや制作会社とのマッチングを標準機能として提供している点です。現地倉庫の在庫を活用することで、サンプル提供や動画制作を迅速に行うことができ、コンテンツ起点の販売を前提とした設計となっています。

需要創出から販売、配送までを一気通貫で設計することで、TikTokは従来型ECモールとの差別化を明確にしています。

物流を含めた「販売体験設計」が鍵

日本でもTikTok Shopが始動していますが、欧州の動きは「物流と販促を切り離さない」重要性を示しています。特に中小ブランドにとっては、配送品質や返品対応が参入障壁になりがちです。

プラットフォーム側が物流を吸収することで、事業者は商品力やコンテンツ制作に集中できる環境が整います。今後、日本市場でも同様の支援がどこまで整備されるかが、TikTok Shop定着の分かれ目となりそうです。

参照:TikTok offers European fulfillment for Asian sellers

EUに流入する低価格越境EC、小口輸入の急増が制度の限界を露呈

EUに流入する低価格小包は年間58億個

EU域外から流入する150ユーロ以下の低価格EC小包は、前年から26%増加し、年間58億個に達しました。これはEU市民一人あたり、月に約1個の越境EC小包を受け取っている計算になります。

特に中国発の小包が大半を占めており、Temu、Shein、AliExpressなどの成長が背景にあります。国際小包の総量は2022年比で4倍以上に拡大しており、低価格越境ECが消費行動として定着しつつあることがわかります。

税関・安全基準が追いつかない現実

欧州委員会は、急増する小包に対し、税関当局の検査体制が追いついていない点を問題視しています。その結果、安全基準を満たさない商品が市場に流通するリスクが高まっています。

さらに、小包の約3分の2が関税やVAT(付加価値税)を回避する目的で過小申告されているとの推計もあり、EU域内事業者との間で不公平な競争環境が生じています。これに対し、EUではVAT免除の廃止前倒しや、商品1点あたり3ユーロの固定手数料導入など、制度対応が進められています。

制度対応力が競争力になる

日本市場でも低価格越境ECは拡大を続けており、将来的には同様に制度や表示、安全基準を巡る議論が強まる可能性があります。国内EC事業者にとって重要なのは、価格競争に陥ることではなく、品質保証やアフターサポートといった「制度対応力」を価値として打ち出すことです。欧州の動きは、その重要性を先取りして示しています。

参照:EU import of cheap parcels rises 26%

Temu、越境ECでAmazonと並ぶ存在に

越境ECでTemuとAmazonが並ぶ構図に

国際郵便事業者団体IPCの調査によると、直近の越境EC購入先としてTemuを選んだ消費者は24%に達しました。この数値はAmazonと同率であり、Temuが短期間で越境EC市場の中核的存在に浮上したことを示しています。

調査は37か国・約30,970人を対象に実施されており、欧州主要国も含まれています。

3年で1%から24%へ拡大した成長モデル

Temuは2022年にサービスを開始し、2023年から欧州展開を本格化しました。2022年時点での越境ECシェアは1%にすぎませんでしたが、わずか3年で24%まで拡大しています。一方、Sheinは9%で横ばい、AliExpressは微減となっており、Temuがシェアを奪う形で成長している構図が明確です。

ただし、このシェアは購買件数ベースであり、平均客単価はAmazonより低いとみられます。Temuは「安く、早く、失敗しても痛くない」購買体験を大量に生み出すことで、利用頻度を高めてきました。

どの市場で戦うかを選ぶ時代へ

Temuの台頭は、日本のEC事業者にとってすべてが脅威になるわけではありません。価格志向市場と品質・信頼志向市場の分断が進む中で、自社がどの領域で戦うのかを明確にすることが重要です。
低価格モデルと正面から競うのではなく、ブランド価値や体験価値で差別化する戦略が、より一層求められる局面に入っています。

参照:‘Temu matches Amazon in cross-border sales’

あわせて読みたい

コマースピックLINE公式アカウント

コマースピックメルマガ