記事の概要

楽天市場・Amazonなどネットショップ運営代行をはじめ、モール通販を中心にECサポート・ECコンサルティングを行っているサヴァリ株式会社が運営するYouTubeチャンネル『ECの未来』では、ECに関わるさまざまな方をお呼びして、その方たちの得意ジャンルのお話をMCである株式会社柳田織物の柳田敏正さんと対談形式でお届けしています。

今回は、有限会社宮川洋蘭の代表取締役である宮川将人さんに、「テクノロジー×地域課題」をテーマにお話いただく回をご紹介いたします。

【ゲストスピーカー】
宮川 将人さん
有限会社宮川洋蘭 代表取締役
洋蘭専門店「森水木のラン屋さん

【チャンネルMC】
柳田 敏正さん
株式会社柳田織物 代表取締役
ワイシャツ専門店「ozie(オジエ)

テクノロジーで挑む地域課題への取り組み

柳田さん:宮川さんは楽天市場の「ショップ・オブ・ザ・イヤー」を受賞されていますよね。その経緯を教えていただけますか。

宮川さん:2017年に「ショップ・オブ・ザ・イヤー」のCSR賞を受賞しました。

柳田さん:CSRということは、社会貢献活動が評価されたということですね。どのような取り組みだったのでしょうか。

宮川さん:受賞理由は「イノシシ対策」です。街中にイノシシが出没したというニュースを耳にしたことがあるかと思います。イノシシは農作物を荒らすだけでなく、車との衝突事故などさまざまな問題を引き起こします。日本の自治体の約90%が鳥獣被害に悩まされているというデータもあるほどです。

私の暮らす熊本県天草市は、もともとイノシシの多い地域ではありませんでしたが、2016年頃から急激に増加しました。その年、知り合いの農家の方が「イノシシにデコポンを食べられてしまい、農業をやめようと思う」と話されたのです。被害の深刻さを実感し、調べてみると、この20年でイノシシは3倍に増えた一方、ハンターの数は半減していました。

柳田さん:昔はハンターが多かったからバランスが取れていたのですね。

宮川さん:そうなんです。今のままでは自然に解決するのは難しい。農作物の味を覚えたイノシシは山に戻れません。もともと1日8時間かけて木の根や小動物を食べていたのが、さつまいもやみかんを数分で満腹になるまで食べられる。しかも栄養も豊富ですから多産化が進み、暖冬の影響で子どもも越冬しやすくなり、激増につながっています。

私は34歳のときに大きな事故を経験したことで、「自分の得意分野で地域の役に立ちたい」と強く思うようになりました。若手農家の仲間がいて、私はECやITが得意。そこで「農家×サイバー×ハンター」で取り組む『農家ハンター猪(イノ)ベーション』を立ち上げました。

柳田さん:「イノベーション」の「イノ」は「猪」のことですか?

宮川さん:そうです。イノ(猪)ベーションです。真面目な名前にするより、クスッと笑えて活動のイメージが伝わるほうが大事だと思いました。そこで「農家ハンター猪ベーションやろうぜ」と呼びかけ、ECの知見を活かしてテクノロジーを導入したのです。

柳田さん:具体的にはどのようなテクノロジーを活用されたのですか? ハンターというと鉄砲のイメージがありますが……。

宮川さん:私は、鉄砲は使いません。農作物を狙うイノシシだけを捕獲するため、餌で誘い込み大きなカゴで捕まえる「箱罠猟」を採用しました。ただ、これは毎日の見回りが大変で、従来は1日2〜3時間かかっていました。そこでICTを活用し、罠に変化があった際にスマートフォンに通知が届く仕組みを導入したのです。また、GPSで罠の位置も正確に把握できるようにしています。

しかし当初はカラスやタヌキ、人の動きなども検知してしまい、通知が多すぎるという課題がありました。そこで楽天技術研究所が協力してくれ、約4,000枚の画像を使ってAIがイノシシを判別する仕組みを開発してくれたのです。

柳田さん:それはすごい技術ですね。

宮川さん:ええ。本当に助かりました。私たち地方の農家の困りごとに、楽天さんが力を貸してくれたことに感謝しています。

捕獲からジビエまで。獣対策が生む地域経済の循環

宮川さん:鳥獣対策をきっかけに、2019年に株式会社イノPを立ち上げました。現場で培った「守る・捕まえる・ジビエにする」までのノウハウを市町村向けに提供しています。AIを使ったカメラや発信器などをパッケージ化し、「住民自身で立ち上がろう」というメッセージを行政に代わって伝える役割も担っています。

柳田さん:導入は進んでいるのでしょうか。

宮川さん:まずは熊本県内で取り組み、来年(2022年収録)から九州全体へ拡大したいと考えています。現場で進める中で、電波が届かない山間部では3G・4Gの通知システムが使えず、自分たちで電波塔を設置するなどの課題もありました。

柳田さん:罠に入るのはイノシシだけではないと思いますが、別の動物にも応用できそうですね。

宮川さん:はい。例えば保護猫カフェ「ネコリパブリック」を運営する河瀬さんから、避妊が必要な猫を捕まえる際に活用できないかと依頼を受けています。猫がパニックになる前に通知が届く仕組みを開発中です。

柳田さん:なるほど。イノシシは大きくて動きも速く、確かに対策が大変そうです。

宮川さん:イノシシは別格ですが、より深刻なのはシカです。イノシシが実を食べるのに対し、シカは一年中葉を食べ続け、九州山脈では山が禿げてしまう被害も出ています。被害状況を把握するには赤外線ドローンを飛ばし、防除ネットの破損箇所やシカの位置を確認する必要があります。

柳田さん:まさに“サイバー”な取り組みですね。

宮川さん:農業も狩猟も、これまでイノベーターが不在だった一次産業です。そこにテクノロジーを持ち込み、イノベーションを起こしたいと考えています。

柳田さん:赤外線ドローンに加えて、鴨の対策も進めていると伺いました。

宮川さん:鴨の話は面白いですよ。もともと害獣ではありませんでしたが、八代平野や諫早干拓地など広大な畑を一晩で食い尽くすほどの被害を出しています。熊本県ではイノシシに次ぐ農業被害をもたらす存在です。

柳田さん:鴨も農作物の味を覚えてしまったのですね。

宮川さん:そうです。植えたばかりのブロッコリーや米、レタス、キャベツ、レンコンまで食べ尽くしてしまいます。熊本県から依頼を受け、捕獲方法を開発しました。夜間に赤外線カメラで監視し、群れが集まったタイミングでスマホアプリを操作すると、横18メートルのネットが立ち上がり、上から覆いかぶさって捕獲します。捕まえた鴨は私たちのジビエ加工施設で食材に生まれ変わります。この仕組みを作るのに、鴨の生態を研究して半年かかりました。完成したのは今年(2022年)4月で、運用は11〜12月からの予定です。

宮川さん:ちなみに柳田さん、鴨を召し上がったことはありますか。

柳田さん:もちろんあります。

宮川さん:では、野生の鴨は?

柳田さん:それはありませんね。

宮川さん:多くの方が食べているのは合鴨の成鳥やタイ産の養殖鴨です。私たちが扱うのは、数千キロを飛来してくる完全な野生の鴨で、旨みがまったく違います。こうした野生鴨のジビエは、すでに多くのミシュランレストランから引き合いがあります。

テクノロジー×鳥獣対策×サステナブルが生む一次産業の可能性

柳田さん:捕獲したイノシシがその後どうなっているのか気になります。

宮川さん:私たちのジビエはすべてトレーサブルです。誰がいつどこで捕獲し、何時何分に搬入され、誰が加工したのか、外傷や病気の有無まで確認できます。また、当社スタッフが全頭食味を行っています。ジビエは「一期一会」と言われることもありますが、食べる側にとっては安定して安心できる品質が望ましい。私たちは常に「美味しいジビエ」を提供することを重視しています。

柳田さん:個体によって味はそんなに違うのですか。

宮川さん:養殖ではないので、差は大きいです。オスとメスでも違いがあり、メスのほうが人気です。年間1,000頭を捕獲していますが、ジビエとして提供できるのは最上位の200頭のみです。残りはペットフードや、動物園でホッキョクグマやライオンに提供されます。動物園にとっては自然食であり、アニマルウェルフェアの観点から大学と共同研究も進めています。

さらに、堆肥化の機械を導入しました。これまでは土に埋めていましたが、例えば90kgのイノシシでも約5時間でサラサラの堆肥になります。その堆肥を耕作放棄地に入れてさつまいもを栽培したり、地域に開放したりしています。時代はサステナブルですから、仕組みをしっかり構築しようと数年間取り組んできました。

柳田さん:花の話から始まり、デコポン、ICT、ジビエと大きく広がりましたが、まさに「イノ(猪)ベーション」ですね。

宮川さん:地域の役に立ちながら、美味しいものを提供し、みんながハッピーになる。これからは「美味しいビジネス」にもしていきたいと思っています。例えば鴨はふるさと納税での展開を考えています。市町村と売上を分け合い、鴨対策が広がれば地域にもプラスになる。さらに、耕作放棄地でネギを育てて「鴨ネギセット」として販売する構想もあります。

良いストーリーができあがれば、多くの人に共感してもらえます。「ハンターって面白い」と思ってもらいたい。しかめっ面で鳥獣対策をするのではなく、明るく楽しく元気よく。それが私のテーマの一つです。その姿を情報発信し、応援団に届けるために、メルマガでは写真を多く入れ、私たちの取り組みやこれから挑戦したいことを発信しています。

柳田さん:地域貢献もでき、自分も楽しめて、周りも喜ぶ。そういう取り組みは長続きしますね。

宮川さん:2007年に「サイバー農家」として活動を始めて以来、ECの力が一次産業にも大きな役割を果たせると実感しています。ネットショップ運営だけでなく、社会の課題解決にもつながる。だからECに出会えてよかったし、その力を信じています。

おわりに:地域課題に挑み、未来をつなぐイノ(猪)ベーション

宮川さんの取り組みには、テクノロジーを駆使して地域課題に立ち向かい、命を無駄にせず循環させる“持続可能な仕組み”を育てる姿勢がありました。単に鳥獣被害を防ぐのではなく、ジビエや堆肥といった形で地域資源へと再生し、楽しさや共感も広げていく。その挑戦は、地方で活動する人々や一次産業に携わるすべての人にとって、大きな示唆を与えてくれるはずです。

EC市場の真の発展に貢献をという想いで、「ECの未来」を運営しているサヴァリ株式会社は楽天市場・Amazonなどネットショップ運営代行をはじめ、モール通販を中心にECサポート・ECコンサルティングを行っています。EC運営に不安を抱えている事業者様は問い合わせてみてはいかがでしょうか。

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