株式会社アダストリア(本部:東京都渋谷区、代表取締役社長:木村 治)が、株式会社バロックジャパンリミテッド(本社:東京都目黒区、代表取締役社長 兼 最高経営責任者:村井 博之)、株式会社TSIホールディングス(本社:東京都港区、代表取締役社長 CEO:下地 毅)、株式会社ユナイテッドアローズ(本社:東京都渋谷区、代表取締役 社長執行役員 CEO:松崎 善則)と共同で「アパレル物流研究会」を発足したことを発表しました。
この研究会では、各社の課題共有と議論を通じて業界として共通の物流課題を明確にし、ファッション業界におけるロジスティクスの効率化とサステナビリティの実現を目指していくとのことです。
この記事の目次
研究会発足の背景と目的
近年、物流・運送業界では人手不足、配送費の増加、環境負荷低減への対応など、多様な課題を抱えています。特に2024年4月からのトラックドライバーの時間外労働時間上限規制に伴う「2024年問題」や、国民の5人に1人が後期高齢者(75歳以上)となる超高齢化社会を迎えることで生じる労働力不足や社会保障費用の増大等が懸念される「2025年問題」は、ファッション業界においてもコスト上昇や輸配送日数の長期化など、事業に対して深刻な影響を及ぼすことが予想されています。
他業界ではすでに部分的な物流の共同化などの対策が始まっていますが、ファッション業界においてはまだ具体的な成功例が少ないのが現状です。アパレルという商材の特性上、生産・仕入れから販売までの流通経路が多岐にわたることに加え、ファッション業界は中小規模の事業者が多数を占め、輸配送においては物流会社への依存度が高く、各社単体での改善やリスクコントロールには限界があることが課題となっています。
こうした業界における共通課題を明確にするとともに、企業横断での課題解決に取り組むべく、4社は「アパレル物流研究会」を2023年10月に発足させたとのことです。
研究会の目的は、以下の3点となっています。
- 各社の課題を共有しあい、ファッション業界として共通の物流課題を明確にする
- 将来的な物流インフラの一部共通化に向けた協働・協業を視野に、議論・実験・検証・仕組化を行う
- 参加企業の拡大により、業界全体へメリットをシェアしていく
これまでの活動と今後の展望
研究会ではこれまで、国内における店舗向け共同配送や、ECモール向け共同配送、海外からの調達領域における共同輸送など、さまざまなPoC(概念実証)を実施してきたことが報告されています。
【PoCの一例:ECモール向け共同配送(2025年6月~実施中)】

複数のPoCを通じて明らかになったのは、一般的に共同輸配送における課題とされる集荷・配送の時間調整やトラック・コンテナの積載率の確保について、出荷元(各社物流拠点)や配送先(各社出店施設・物流拠点)ごとの荷量を十分に確保することで、輸送効率の改善が期待できるという点です。物流拠点の地域、商材の種類、納品形態等の共通のニーズをもつ企業が集まることで、新しいルートやメニューを開拓する可能性が広がることが見えてきたとのことです。
また、場合によっては、より上流(海外調達の場合は生産地)から合流するメリットも見えてきたと発表されています。このように視野を広げていくと、さまざまな可能性と多くの選択肢があることも明らかになってきました。
上記を踏まえ、参加企業が増えることでより良い成果が得られるという仮説のもと、今後は仲間を増やしながら、業界の課題解決に向けて、引き続き足並みを揃えて取り組んでいくとしています。
「アパレル物流研究会」概要
設立:2023年10月
参加企業(2025年8月現在)
*記載はアルファベット順
株式会社アダストリア

アダストリアグループは、45以上のアパレル・雑貨・飲食などのブランドを展開する「株式会社アダストリア」「株式会社エレメントルール」、モール&メディア事業などを展開する「株式会社アンドエスティ」、グループの物流を担う「株式会社アダストリア・ロジスティクス」などを持つマルチカンパニーです。様々なステークホルダーとのつながりを強化し、ファッションのワクワクを国内外に広げる"Play fashion!プラットフォーマー"となることを目指しています。※2025年9月1日付で「株式会社アンドエスティHD」に商号変更予定。
株式会社バロックジャパンリミテッド

株式会社バロックジャパンリミテッドは、「MOUSSY(マウジー)」「SLY(スライ)」「rienda (リエンダ)」「RODEO CROWNS WIDE BOWL(ロデオクラウンズ ワイドボウル)」「AZUL BY MOUSSY(アズール バイ マウジー)」「ENFÖLD(エンフォルド)」などのファッションブランドを国内外に350店舗以上展開するSPA(製造小売会社)です。
株式会社TSIホールディングス

株式会社TSIホールディングスは、レディス・メンズアパレルをはじめ、スポーツ、ストリートカジュアル、アウトドアなどの幅広いカテゴリーの個性のある、50を超えるブランド群を国内外で展開しています。社会へのバリュー(提供価値)を企業成長に繋げながら、ファッションがもたらすエンターテインメント(楽しさ)で、プロダクト提供には限らない、独創的な提供価値を創出します。
株式会社ユナイテッドアローズ

1989年創業。独自のセンスで国内外から調達したデザイナーズブランドとオリジナル企画の紳士服・婦人服および雑貨等の商品をミックスし販売するセレクトショップを運営しています。「ユナイテッドアローズ」「ビューティー&ユース ユナイテッドアローズ」「ユナイテッドアローズ グリーンレーベル リラクシング」等のブランドやレーベルを展開しています。
ファッション業界における物流課題と共同対応の意義
ファッション業界においては、季節ごとの商品入れ替えや多品種少量生産、店舗とECの在庫連携など、他業種と比較しても複雑な物流オペレーションを要求されるケースが多くあります。このような状況下で、各社が個別に物流システムを構築・維持することは、コスト面でも環境負荷の面でも非効率である可能性が高いといえます。
今回発足した「アパレル物流研究会」の取り組みは、業界大手4社がそれぞれの知見や経験を持ち寄り、共通の課題解決に向けて協業することで、個社では解決困難な構造的問題に対応しようとする試みとして注目されます。また、研究会の活動を通じて得られた知見や成果を業界全体で共有していくことで、ファッション業界全体の持続可能性向上に貢献することが期待されています。
2024年問題と2025年問題への対応
特に「2024年問題」と呼ばれるトラックドライバーの時間外労働規制は、すでに様々な業界で対応が始まっていますが、多数の店舗を全国展開するアパレル業界にとっては特に大きな影響が予想されます。従来の物流体制のままでは、配送コストの上昇や納品リードタイムの長期化などが避けられない状況です。
また「2025年問題」による労働力人口の減少は、物流業界の人手不足をさらに深刻化させる要因となります。こうした社会構造の変化に対応するためには、個社の努力だけでなく、業界としての共同対応が不可欠です。
研究会が実施してきたPoCの成果からは、共同物流によるスケールメリットを活かすことで、これらの課題に効果的に対応できる可能性が示されています。特に物流拠点が近接している企業間での共同配送や、ECモールへの納品の共同化などは、比較的早期に効果が見込める取り組みとして注目されています。
サステナビリティへの貢献
物流の効率化は、単にコスト削減や人手不足への対応だけでなく、環境負荷の低減にも直結する取り組みです。トラックの積載率向上や配送ルートの最適化によって、CO2排出量の削減が期待できます。また、各社が個別に物流センターを運営するよりも、一部機能を共通化することで、エネルギー消費や資源利用の効率化も図れます。
アパレル業界は生産過程での環境負荷も大きいことから、サプライチェーン全体での持続可能性向上が求められています。今回の研究会の取り組みは、そうした業界全体の環境対応の一環としても重要な意味を持っています。
今後の展開と業界への影響
研究会では、現在進行中のPoCをさらに発展させるとともに、参加企業の拡大を目指していく方針です。特に、中小規模のアパレル企業にとっては、大手との共同物流の仕組みに参加することで、単独では実現困難な物流効率化のメリットを享受できる可能性があります。
今後、この研究会の活動が成功事例として確立されれば、他の業界においても同様の取り組みが広がる可能性もあります。業界の垣根を越えた物流の共同化や標準化が進めば、日本全体の物流システムの最適化にもつながることが期待されます。
出典元: 株式会社アダストリア プレスリリース