株式会社帝国データバンクは、全国2万6,237社を対象に、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)に関する企業の見解についてアンケート調査を実施しています。本調査は2020年以降毎年実施されており、今回で6回目となります。
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SDGsに積極的な企業の割合が初めて低下
調査結果によると、『SDGsに積極的』な企業の割合は前年比1.2ポイント減の53.3%となり、調査開始以来初めて低下したことが報告されています。内訳を見ると、「意味および重要性を理解し、取り組んでいる」企業は同0.5ポイント増の30.2%と過去最高となった一方、「意味もしくは重要性を理解し、取り組みたいと思っている」企業が同1.7ポイント減の23.1%に低下したことが影響しているようです。
SDGsの項目に取り組む企業の69.9%がその効果を実感しており、効果として「企業イメージの向上」「従業員のモチベーションの向上」が上位に挙げられています。

調査期間は2025年6月17日~6月30日(インターネット調査)で、全国2万6,237社が対象となり、有効回答企業数は1万435社(回答率39.8%)でした。
取り組みたいと思っていた企業の意欲低下が顕著に
「言葉は知っていて意味もしくは重要性を理解できるが、取り組んでいない」企業は33.8%、「言葉は知っているが、意味もしくは重要性を理解できない」企業は8.0%で、合計すると、『SDGsを認知しつつも取り組んでいない』企業は同0.9ポイント増の41.8%となっています。
前年の調査でSDGsについて「意味もしくは重要性を理解し、取り組みたいと思っている」と回答した企業のうち、今年の調査でSDGsに取り組んでいると回答した企業は23.7%に留まったとのことです。一方で、『SDGsを認知しつつも取り組んでいない』企業は28.4%と、一部の企業でSDGsへの取り組みが消極的になった傾向が見られています。
前年時点ではSDGsに取り組む意欲があったものの、今回消極的になった企業からは「現状では、当社には取り組む余裕がない」(農・林・水産、小規模企業)のように、余裕のなさやハードルの高さを挙げるコメントが見られたそうです。
また、前年の調査で『SDGsを認知しつつも取り組んでいない』とした企業のうち、7割以上が今年の調査でも同じ回答をしていました。企業からは「取り組むことによる明確なメリットが不明。助成金活用を盛り込んだ政府団体のサポートが不可欠である」(メンテナンス・警備・検査、大企業)や「理念ばかりが先走りしすぎているし、日本に昔からある考え・習慣ばかりと感じる」(繊維・繊維製品・服飾品小売、小規模企業)といった意見が寄せられています。
一方で、『SDGsに積極的』な企業からは「不確実性の高い現代において"持続可能"は非常に大事になっていくと考える」(電気機械製造、中小企業)や「幅が広く難しいとは思うが一つずつ順番に取り組んでいきたい」(飲食料品・飼料製造、中小企業)といった前向きな声も聞かれています。
企業規模によるSDGsへの取り組み差が顕著
企業規模別に見ると、「大企業」ではSDGsに積極的な企業が71.1%と、全体(53.3%)を大幅に上回っています。「中小企業」では50.2%、うち「小規模企業」では40.8%となり、規模が小さいほどSDGsに積極的な企業の割合が低くなる傾向が続いているようです。

中小企業からは「目標はどれも取り組むべき内容だと思うが、小規模事業者では取り組む時間や予算に限りがある」(建設、小規模企業)といった厳しい声が聞かれています。一方で「当社は中小企業のため、できることに限界はあるが、地道に進めるつもりである」(人材派遣・紹介、中小企業)のように、厳しさを感じながらも意欲を示すコメントも見られるとのことです。
SDGsに積極的な企業を業界別に見ると、『農・林・水産』が64.2%で最も高く、『製造』が62.7%で続いています。企業からは「SDGsの考え方に沿った植栽材料を生産しているが、この分野の売り上げは順調に伸びている」(農・林・水産、小規模企業)や「パートナーシップ構築宣言を申請して、サプライチェーンの強化や下請法の遵守を行っている」(飲食料品・飼料製造)といった声が寄せられています。
「働きがいも経済成長も」が最も注力されているSDGs項目
SDGs17の目標の中で、現在力を入れている項目としては、働き方改革や労働者の能力向上などを含む「働きがいも経済成長も」が34.1%で最も高い結果となっています(複数回答)。次いで、カーボンニュートラル製品の使用などを含む「気候変動に具体的な対策を」(24.3%)、再生可能エネルギーの利用などを含む「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」(24.2%)、リサイクル活動などを含む「つくる責任つかう責任」(22.9%)が続いています。

総じて、いずれかのSDGs目標に力を入れている企業は前年(72.8%)から0.4ポイント増の73.2%となり、SDGsに「取り組んでいない」などと回答した企業でも、実際にはSDGsに関連する活動に取り組んでいる企業が多数見られるとのことです。
今後取り組みたい項目も「働きがいも経済成長も」がトップ
今後、最も取り組みたい項目についても、現在力を入れている項目と同様に「働きがいも経済成長も」が11.2%でトップとなり、全項目の中で唯一1割を超える結果となっています。次いで、「パートナーシップで目標を達成しよう」(7.0%)や「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」(6.7%)が上位に並んでいます。

企業の7割がSDGsの効果を実感
現在SDGs各目標に力を入れている企業に取り組みによる効果を尋ねたところ、『効果を実感』している企業の割合は前年(69.5%)から0.4ポイント増の69.9%となったことがわかりました。
具体的な効果としては、「企業イメージの向上」が40.5%でトップとなっています(複数回答)。次いで、「従業員のモチベーションの向上」(32.1%)、「経営方針等の明確化」(17.3%)、「採用活動におけるプラスの効果」(17.0%)が続いています。
また、「取引の拡大(新規開拓含む)」(11.8%)と「売り上げの増加」(11.7%)などが1割台となり、SDGsへの取り組みが社会課題の解決に貢献するだけでなく、ビジネスチャンスの獲得や業績の向上にもつながる可能性があることが示されています。

企業からは「福祉を考慮し、車いすでも買い物ができるように売り場の拡張を行った結果、実際に車いすでのご利用があり、売り上げ向上につながった」(専門商品小売、小規模企業)や「再生可能エネルギー(太陽光発電)と蓄電池を使って自家消費を行い、CO2削減だけでなく会社の光熱費の削減にもつながっている」(出版・印刷、中小企業)といった声が寄せられています。
一方で「社会動向や重要性については理解しているが、効果がみえにくく今後の持続性(社会全般を含む)のためにはもう一工夫が必要と考える」(化学品製造、中小企業)や「企業イメージ向上のメリットがあることは理解するが、BtoB取引がメインの会社にとって掛けたコストに見合う見返りは期待しにくい」(化学品製造、中小企業)といった厳しい意見も見られるとのことです。
SDGsの今後の展望と課題
本調査の結果から、『SDGsに積極的』な企業の割合が53.3%となり、初めて低下したことが明らかになっています。内訳としては、SDGsの意味等を理解し実際に取り組んでいる企業が前年より0.5ポイント上昇し調査開始以降で最高の30.2%となったものの、取り組みたいと考える企業の割合が1.7ポイント低下し、全体ではマイナスとなっています。
一方で、『SDGsを認知しつつも取り組んでいない』企業の割合は微増の41.8%でした。依然として『SDGsに積極的』な企業を10ポイント以上下回ったものの、初めて増加傾向に転じています。時間的余裕のなさやハードルの高さなどが阻害要因となり、特に中小企業からは「費用面・人材面が厳しい」のほか、「どのように取り組めば良いか分からない」といった声も多く寄せられています。
また「以前に比べてSDGs(特に環境問題)について聞く機会が少なくなってきている。トランプ大統領の影響なのか、一時の流行で終わってしまうような気もしている」(輸送用機械・器具製造、中小企業)のように、諸外国におけるSDGsへの姿勢の変化を懸念する声も見られています。
しかし、SDGsの項目に取り組む企業のうち約7割が取り組みの効果を実感していることも明らかになっています。具体的には、「企業イメージの向上」や「従業員のモチベーションの向上」など非財務面での企業価値の向上に関する効果が上位に並んでいます。また、取引拡大や売上増を実現した企業もあり、SDGsを通じた社会課題の解決と企業の発展が両立可能であることが示唆されています。
企業からの声 - SDGsに積極的な企業
SDGsに積極的な企業からは、以下のような声が寄せられています。
- 「当社のような中小零細企業では費用・人員面で取り組みが困難であるので、日々の企業活動のなかで取り組めることを模索したい」(建設、小規模企業)
- 「SDGs宣言や取り組みを活用した融資・債券制度を活用し、長期安定資金を調達した」(建設、大企業)
- 「平均気温の上昇は待ったなしの状況にあり、世界的に取り組む必要を感じている。ただ現在の世界の政治では温暖化対策に逆行しそうな勢力が強まりつつあることに懸念を感じている」(建設、小規模企業)
- 「SDGsを求めてくる企業はまだ少ないが、企業イメージや売り上げの向上につながるような取引は今後増えると考える」(飲食料品・飼料製造、小規模企業)
- 「材料を無駄にしないという自分たちでできることから取り組んでいるが、原価低減にもつながっており、良い効果がみられている」(鉄鋼・非鉄・鉱業、中小企業)
- 「当社はものづくり企業であるが、SDGsは単なるボランティアではなく、ビジネスにつながるものと考えている」(機械製造、中小企業)
- 「今まで通常行ってきたことがSDGsにつながっていたという事実を知ったとき、改めてやりがいを感じた」(運輸・倉庫、中小企業)
企業からの声 - SDGsを認知しつつも取り組んでいない企業
一方、SDGsを認知しつつも取り組んでいない企業からは、以下のような声が寄せられています。
- 「子供たちの未来のために必要な取り組みだとは思うが、小さい企業では時間、コスト、人員面で厳しい。取り組んでいることが当たり前になると、取り組めない企業はマイナスなイメージが付いてしまうため、行政には実践するための支援を充実してほしい」(農・林・水産、小規模企業)
- 「人材不足と目の前の仕事量に追われて未だ取り組みができていない」(建設、小規模企業)
- 「何をどのように取り組んだらいいのか、専門的知識を有する者が社内にいない。また、そちらに注力する時間的な余裕もない」(飲食料品・飼料製造、中小企業)
- 「取り組む理由や理念は理解できるが、正直モチベーションはない。中小零細は環境が厳しいなかでこれ以上の負担を負うことはできない」(飲食料品小売、小規模企業)
- 「必要性は理解しているものの、具体的にどう取り組めるかを考えるとそのハードルはかなり高いものがある」(広告関連、小規模企業)
現在、経済大国のアメリカがSDGsや環境問題などに対して消極的な姿勢を示しているほか、世界的な物価高騰や地政学的リスクなどの諸問題により、SDGsへの関心が薄れる懸念があります。しかし、環境や人権、多様性に対する人々の意識は高まり続けており、SDGsへの取り組みが企業の競争力向上や商品の購入意欲、採用活動の促進につながるケースは増えていくと考えられます。
特に資金や人的余裕がない中小企業はSDGsを"身近なことから"少しずつ取り組んでいくことが一策であり、それを後押しする国や自治体による具体的な取り組み事例とメリットの共有や相談窓口・補助金制度の充実など、支援策の強化が求められています。
出典元:株式会社帝国データバンク「SDGsに関する企業の意識調査(2025年)」プレスリリース