
アイデンティティ管理サービスのOkta Japan株式会社(代表取締役社長: 渡邉 崇)が、世界9カ国の消費者を対象に実施した調査「Customer Identity Trends Report 2025」の結果を発表したことが明らかになりました。この調査では、ログイン体験や認証手段、AIエージェントに対する消費者の意識と行動について詳細な分析が行われています。
本調査はStatisticaの協力のもと、2025年2月にオンラインで実施され、日本、米国、英国、ドイツ、フランス、オランダ、カナダ、インド、オーストラリアの9カ国から各750名、合計6,750名の消費者を対象にデータが収集されました。
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ログイン体験に強い不満を持ちながらも、サービスを継続する日本のユーザー
調査結果によると、世界中の消費者がサインアップやログイン時の手間に強い不満を抱いていることが明らかになっています。世界平均では62%の消費者が「長いサインアップ/ログインフォームへの入力」を最大の不満要因として挙げています。特に日本では、この割合が71%と調査対象9カ国の中で最も高い数値を示しています。
日本の消費者は他の項目についても世界平均を大きく上回る不満を示しています。
- 「パスワードの要件を満たすこと」:日本61%(世界平均46%)
- 「アカウント作成やログインにかかる時間」:日本60%(世界平均47%)
- 「ワンタイムパスワードによるアカウント認証」:日本54%(世界平均39%)
興味深いことに、「サインアップ/ログインの問題でオンライン購入を断念したことがある」と回答した日本の消費者は17%で、世界平均(23%)よりも低い結果となっています。これは、日本の消費者がログイン体験に不満を感じていても、サービスを利用し続ける傾向があることを示しています。
ログイン認証手段の「利便性」と「安全性」評価も世界平均を下回る日本
調査では、日本の消費者が主要なログイン認証手段の「利便性」と「安全性」について、世界平均を下回る評価をしていることも判明しています。
利便性の評価において、パスワードは世界では73%が「便利」と評価しているのに対し、日本では56%にとどまっています。その他の認証手段についても同様の傾向が見られます。
- 指紋認証:日本48%(世界平均62%)
- 顔認証:日本37%(世界平均55%)
- 政府発行の身分証明:日本16%(世界平均34%)

安全性の評価についても、日本の消費者の評価は世界平均を下回る結果となっています。
- 顔認証:日本43%(世界平均62%)
- 認証アプリ:日本45%(世界平均58%)
- パスワード:日本37%(世界平均57%)
- 政府発行の身分証明:日本30%(世界平均54%)
- パスキー:日本41%(世界平均54%)
唯一例外的なのが「指紋認証」で、日本でも65%が「安全」と評価しており、世界平均(71%)との差が最も小さい結果となっています。

一方で、日本のZ世代(若年層)に限って見ると、他の世代と対照的に、多くの認証手段に対して「利便性」と「安全性」を感じている傾向が見られています:
- 「便利」と評価する認証要素:指紋認証(63%)、顔認証(64%)、パスキー(57%)
- 「安全」と評価する認証要素:指紋認証(69%)、顔認証(65%)、認証アプリ(62%)
これらの数値は世界平均とほぼ同水準かそれ以上であり、日本においてはZ世代が例外的にポジティブな評価をする層であることがわかります。
パスワード再利用が常態化、特にZ世代はリスクが高い
調査によると、世界の消費者の68%が何らかの形でパスワードを再利用していることが明らかになっています。具体的には、17%が「すべての個人アカウントで同じパスワードを使用」し、51%が「少数のパスワードを使い回している」と回答しています。
日本ではこの傾向がさらに強く、パスワードの再利用率は71%に達しています。「すべての個人アカウントで同じパスワードを使用している」と回答した割合は13%と世界平均よりやや低いものの、「少数のパスワードを使い回している」と答えた割合は58%と世界平均を上回っています。

世代別に見ると、特に注目すべきは日本のZ世代で、31%が「すべての個人アカウントで同じパスワードを使っている」と回答しており、世界平均(17%)を大きく上回っています。これは、セキュリティリスクの高さを示す懸念すべき傾向です。
AIエージェントを信頼するための要素
AIエージェントを信頼するために必要な要素についても調査が行われました。世界の消費者が最も重視するのは「AIエージェントの決定を確認・承認するための人間による監督」(38%)でした。次いで多かったのは「AIエージェントの判断の仕組みや使用データに関する透明性」です。
日本では、「公平性/プライバシー/セキュリティを守るための倫理的ガイドライン」を重視する回答が37%で最多となりました。特に日本のZ世代は41%がこの項目を支持しており、倫理的な側面を重視する傾向が顕著です。

AIエージェントに任せたいタスクの傾向
AIエージェントに任せたいタスクについて、世界では「言語翻訳」(38%)、「調査・情報収集」(34%)、「文章作成支援」(31%)、「データ分析」(26%)といったタスクへの期待が高く、効率化を目的とした活用が進んでいることがわかります。
一方、日本では「言語翻訳」(30%)以外のタスクはすべて20%前後にとどまり、特に「文章作成支援」は12%と世界平均(31%)を大きく下回りました。また、「AIエージェントは使わない」と回答した割合が37%で世界平均(23%)を上回っており、日本の消費者がAIエージェント活用に対して慎重な姿勢を持っていることがうかがえます。

消費者がAIエージェントを使わない理由
「AIエージェントは使わない」と回答した消費者にその理由を尋ねたところ、世界全体では「個人データを預けるのが不安である」(44%)が最多で、次いで「信頼性に不安がある」(35%)という回答が多く見られました。
興味深いことに、日本ではこれらの理由を挙げた割合がそれぞれ20%、23%と世界平均を大きく下回り、「全くあてはまらない」と回答した人が40%を超えています。これは、日本の消費者がAIに対して持つ懸念が、プライバシーやデータセキュリティとは異なる側面にある可能性を示唆しています。

調査結果のまとめと意義
本調査により、日本の消費者はログイン体験に対して強い不満を感じながらも、実際には離脱せずにサービスを使い続ける傾向があることが明らかになっています。また、ログイン認証手段に対する「利便性」と「安全性」の評価が世界平均を下回っているにもかかわらず、パスワードの再利用が常態化しているという潜在的なリスクも存在しています。
これらの結果は、企業にとってユーザー体験の再設計を検討する重要な機会を提供しているといえます。特に、利便性と安全性を兼ね備えたパスワードレス認証や、利用者の行動や環境の変化に応じて必要なときだけ追加認証を行う仕組みの導入により、顧客満足度を高めることが可能です。
AIエージェントに関しては、日本の消費者の多くが慎重な姿勢を示していることが判明しています。また、Z世代を中心に「公平性/プライバシー/セキュリティを守る倫理的ガイドライン」が人間による監督以上に重視される傾向があることも特徴的です。
今後は、AIエージェントに対しても適切なアイデンティティ管理とアクセス制御を適用し、人間の許可なくAIエージェントが機密性の高いデータにアクセスすることを防ぐ必要があるでしょう。「人間とAIの共存」を前提とした、安心・安全な利用体験の設計が求められています。
Oktaについて
Oktaは、The World's Identity Company™として、アイデンティティを保護することですべての人があらゆるテクノロジーを安全に利用できる環境づくりに取り組んでいる企業です。同社のカスタマーソリューションとワークフォースソリューションは、ビジネスと開発者がアイデンティティの力を活用してセキュリティ、効率性、成功を推進できるようにし、同時にユーザー、従業員、パートナーを保護するものとなっています。
出典元: Okta Japan株式会社 プレスリリース