Switch 2転売の攻防戦から見るECの未来。任天堂の神対策から学ぶ3つの教訓

ECサイトにおける悪質な転売行為に、頭を悩ませていませんか?人気商品が発売されるたびに買い占められ、本当に製品を届けたいお客様からのクレームに疲弊している…。そんなEC事業者様も少なくないでしょう。

本記事では、2025年最大の話題となった「Nintendo Switch 2」を巡る転売問題を、専門家の視点で徹底解説。任天堂が仕掛けた前例のない対策は、単なるゲーム業界の出来事ではありません。こちらを読み終える頃には、EC事業者が自社のブランド価値と顧客を守るために今すぐ応用できる、具体的な3つの教訓を学べるはずです。

この記事の執筆者

山本 達巳
つきみ株式会社

静岡市出身、関西学院大学卒。地元医療系の企業で修行後、父親の経営する医療介護系企業に入社。経営とバックオフィス業務を学ぶ傍ら、留学がきっかけで以前から関心が高かった輸入品雑貨のネット販売事業を開始。令和元年に独立し、複数の海外メーカー取引きの経験を経て、自社アウトドアブランドを展開。

その後、自社ブランドを伸ばしていきたい事業者を応援したいという思いから、令和6年につきみ株式会社を設立。商品ページ作りや広告運用、SNSなどECに関係する領域を幅広く対応しつつ、商品ブランディング支援を行っている。

つきみ株式会社
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前例なき転売対策。Nintendo Switch 2で何が起きたのか?

出典:「Nintendo Switch 2」を2025年6月5日に発売|任天堂

2025年6月5日、ゲームファンが待ち望んだ任天堂の新型ゲーム機「Nintendo Switch 2」が発売されました。この一大イベントは、しかし、単なる新製品のローンチではありません。長年、多くのメーカーと消費者を苦しめてきた高額転売問題に対する、任天堂の固い決意が示された「宣戦布告」でもあったのです。(出典:「Nintendo Switch 2」を2025年6月5日に発売|任天堂

この問題を語る上で、過去の事例は悪夢として記憶されています。例えば、2020年に発売されたPlayStation 5は、深刻な品薄が長期化。希望小売価格が約5万円であったにもかかわらず、転売市場での初値は10万円を超える異常事態となりました。

同様に、2021年発売のNintendo Switch(有機ELモデル)も、定価約3万8千円に対して5万円を超える価格で取引され、多くの純粋なファンが涙をのみました。

こうした過去の苦い経験から、多くの消費者はSwitch 2の発売に期待と同時に「また買えないのではないか」という強い不安を抱いていました。しかし、任天堂が今回取った戦略は、これまでの後手に回った「事後対応」とは全く異なる、「事前抑止」を目的とした画期的なものだったのです。

出典:Nintendo Switch 2本体・周辺機器|任天堂

その象徴が、公式オンラインストア「マイニンテンドーストア」で課された厳格な抽選販売条件です。単にアカウントを登録するだけでは応募できず、過去のソフトのプレイ時間や、有料サービスへの加入期間といった、本当のファンでなければ満たせない条件が加えられました。(出典:【抽選条件】Nintendo Switch 2の抽選方法がわからない?これを見れば自分が参加可能かわかる! | zack-it

さらに、国際的な転売組織を遮断するため、海外発行のクレジットカード決済を停止するという大胆な策にも踏み切っています。(出典:「Switch 2」転売対策か、本人確認義務化への対応か? 任天堂、公式ストアで海外クレカなど取り扱いを終了 - ITmedia NEWS

極め付きは、製品から物理的な保証書をなくし、購入者の情報が記載された納品書を保証の証明とする「デジタル保証書」の導入です。これは、転売品が「保証のない商品」になることを意味し、その価値を根本から毀損させる極めて巧妙な一手でした。(出典:【最新版】ニンテンドースイッチ2 転売ヤー対策|エコリング

これらの多層的な対策は、まさに転売というビジネスモデルそのものを崩壊させるための「包囲網」であり、EC業界全体が注目すべき事例となったのです。

Switch 2転売問題の原因分析。品薄を煽る市場心理と組織化する転売ヤー

なぜ、これほどまでに対策を講じても、転売問題は後を絶たないのでしょうか。その背景には、単純な「品不足」という言葉だけでは片付けられない、2つの根深い原因が存在します。それは「消費者の市場心理」と「転売ヤーの高度な組織化」です。

第一の原因は、需要と供給のアンバランスが生み出す「品薄になるかもしれない」という市場心理です。Switch 2は、7.9インチに拡大されたディスプレイや新機能など、消費者の強い購買意欲を掻き立てる魅力的なスペックを備えていました。(出典:「Nintendo Switch 2」を2025年6月5日に発売|任天堂

出典:「Nintendo Switch 2」を2025年6月5日に発売|任天堂

ここに、過去のPS5争奪戦の記憶が重なります。この記憶は消費者の心に一種のトラウマとして刻まれており、「定価で買えないかもしれない」という機会損失への恐怖(FOMO:Fear Of Missing Out)を煽ります。この心理が「少々高くても今のうちに確保したい」という行動に繋がり、結果として転売ヤーに利益の機会を与え、彼らの買い占めを正当化してしまうのです。

メディアが品薄の兆候を報じるたびに、この心理的な連鎖は強化され、品薄の“認識”が現実の品薄を作り出すという自己実現的な予言が完成します。

第二の原因は、転売ヤーの進化です。彼らは生身の人間の手では到底太刀打ちできない速度で商品を自動購入する「bot」を駆使したり、抽選販売を突破するために何千ものアカウントを自動生成するなど高度に専門化しています。(出典:Selenium使用自動購入作成方法 - Toolify

その実態は、さらに深刻です。SNS上の「闇バイト」を通じて実行役を募る「トクリュウ」と呼ばれる匿名・流動型の犯罪グループや、国境を越えて暗躍する中国系の転売組織の存在も報告されています。(出典:闇バイトに潜む危険性~匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)の関与とその影響| 株式会社エス・ピー・ネットワーク

彼らはメーカーから小売店、そして消費者へと流れる正規のサプライチェーンに割り込み、商品を不当に買い占め、フリマアプリなどを通じて法外な利益を乗せて再流通させる「寄生的な並行サプライチェーン」を構築しています。これは消費者に金銭的な負担を強いるだけでなく、需要データを歪め、メーカーや小売店の経営判断を誤らせるという、より深刻な影響を及ぼすのです。

任天堂Switch2の転売対策からEC事業者が学ぶべきこと

この任天堂と転売ヤーの壮絶な攻防戦は、決して対岸の火事ではありません。ここには、私たちEC事業者が自社のビジネスを守り、成長させるための重要なヒントが詰まっています。具体的な3つの教訓として整理してみましょう。

ブランド価値を毀損させない「仕組み」の構築

最も学ぶべきは、任天堂が導入した「デジタル保証書」の考え方です。これは単なる転売対策ではなく、製品の価値そのものをコントロールする優れたブランド戦略です。

転売品は「保証が受けられないかもしれない」というリスクを負うため、新品としての価値が大きく毀損します。私たちEC事業者もこの視点を応用できます。例えば、保証やアフターサービス、限定コンテンツの提供などを、公式サイトでの製品登録や正規購入者アカウントと完全に紐付けるのです。これにより、転売品を購入するメリットは薄れ、顧客は自然と正規ルートでの購入を選ぶようになります。(出典:【最新版】ニンテンドースイッチ2 転売ヤー対策|エコリング

転売を禁止するルール作りだけでなく、正規購入の「付加価値」を高める仕組み作りが、ブランド防衛の鍵となります。

ファンを優遇するCRMとしての顧客戦略

マイニンテンドーストアが「過去のプレイ時間」を抽選条件に加えたことや、ヨドバシカメラが過去の購入履歴を重視したことは、優れた顧客関係管理(CRM)戦略です。(出典:【抽選条件】Nintendo Switch 2の抽選方法がわからない?これを見れば自分が参加可能かわかる! | zack-it) (出典:【Switch2】抽選・予約情報まとめ。Amazon、ヨドバシ、ビックカメラ、楽天ブックスなど(6月12日更新) | ファミ通.com)

これは、日頃からブランドを愛し、お金と時間を費やしてくれている「本当のファン」を明確に優遇する姿勢の表れです。EC事業者は、単に購入金額の多い顧客をVIPとするだけでなく、購入頻度、レビュー投稿、SNSでの発信といった多様な指標で「ファン度」を可視化し、彼らにこそ優先的に商品が届くような仕組みを検討すべきです。

ロイヤルティの高い顧客を大切にすることが、結果として最も強固な転売対策となるのです。

攻略コストを増大させる「機会の断片化」

Amazonの「招待制」や、各小売店が設定したバラバラの抽選条件・決済方法。これらは一見すると消費者を混乱させるだけに見えますが、実は転売組織に対する強力な防御壁として機能しました。(出典:アマゾン(Amazon)、招待制購入システム導入で悪質転売ヤー駆逐作戦開始 | J-grab

なぜなら、botを開発する側にとって、それぞれのサイトに合わせた複雑なプログラムを個別に用意しなければならず、オペレーションコストが跳ね上がるからです。この「機会の断片化」が、結果的に大規模な自動買い占めを困難にしました。

中小規模のEC事業者は、この考え方を応用できます。画一的な販売方法だけでなく、例えば「メルマガ会員限定で、特定の合言葉を入力した人のみ購入可能」といった、少し手間のかかるユニークな販売ルールを設けることで、botによる攻撃のリスクを低減させ、人間味のある販売体験を提供できる可能性があるのです。

まとめ:Switch2転売問題から考える、これからのブランド防衛策

Nintendo Switch 2の転売問題は、単なる迷惑行為への対処ではなく、企業が自社のブランド価値を守り、本当に商品を求めるファンへ公正に届けるための「攻めのブランド戦略」であることを示しました。

これからのEC事業者は、売り方そのものが問われます。この事例を、自社のブランドと大切な顧客を守るための防衛策を見直す絶好の機会として、ぜひご活用ください。

つきみ株式会社 https://tsukimi.ne.jp/

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